学戦都市アスタリスク ~六花の星野七瀬~   作:ムッティ

50 / 149
早く夏終わらないかな・・・


和解

 「あー・・・もうダメ・・・」

 

 「疲れましたぁ・・・」

 

 控え室のソファに、ぐでーんとうつ伏せに寝る俺と綺凛。何とか勝利を収め、長い勝利者インタビューを乗り切り、俺と綺凛はクタクタだった。

 

 「ってか、身体中が痛いんだけど。五和姉から受けたダメージとは違うんだけど」

 

 【マスターの雷の影響ですね】

 

 七海が教えてくれる。

 

 【要は雷による身体強化を行ったわけですからね・・・マスターは力を使い慣れていないので、反動で全身筋肉痛になってしまったのでしょう】

 

 「マジかぁ・・・早く使いこなせるようにしよう・・・」

 

 「・・・そうやって喋ってると、独りでブツブツ言ってる怪しい人みたいですよ」

 

 苦笑している綺凛。一応綺凛には、七海のことを大まかに説明しておいたのだ。

 

 「だってさ、七海。綺凛にも声が聞こえるように出来ない?」

 

 【今の私では無理ですね。ようやくマスターに私の声が届いた段階ですから】

 

 そんなやり取りをしていると、来訪者を告げるチャイムが鳴った。

 

 空間ウィンドウを見てみると・・・

 

 「三咲姉じゃん。綺凛、開けても良い?」

 

 「勿論です」

 

 ドアのロックを解除すると、三咲姉が飛び込んできた。身体を起こす俺。

 

 「おー、三咲姉。わざわざ来てくれ・・・」

 

 「七瀬っ!」

 

 「へぶっ!?」

 

 三咲姉に抱き締められる俺。

 

 「良かった・・・無事で良かった・・・!」

 

 「いや、大袈裟でしょ。ただの試合なんだから、そりゃ無事だよ」

 

 苦笑しながら三咲姉の頭を撫でる俺。

 

 「大袈裟なんかじゃありません!」

 

 「・・・三咲姉?」

 

 三咲姉は目を真っ赤に腫らし、大粒の涙を流していた。

 

 「あの子達が七瀬を相手に、《二大皇剣》を使うなんて・・・!七瀬が倒れたままピクリとも動かなかった時は、本当に心臓が止まるかと思いました・・・!」

 

 「三咲姉・・・」

 

 「七瀬に何かあったら、私は・・・私は・・・!」

 

 「・・・落ち着いて、三咲姉」

 

 俺は三咲姉の背中を優しく叩いた。

 

 「俺は大丈夫だから。三咲姉の前からいなくなったりしないから」

 

 「・・・本当ですか?」

 

 「勿論。約束する」

 

 三咲姉は、家族に対する愛情が人一倍深い。

 

 星辰力を扱いきれずに孤立していた俺を、一番気にかけてくれていたのも三咲姉だったっけな・・・

 

 「いつも心配かけてゴメン。ありがとう、三咲姉」

 

 「・・・私は、アナタの姉ですから」

 

 俺の胸に顔を埋め、背中に回す手にギュっと力を込める三咲姉。

 

 と、再び来訪者を告げるチャイムが鳴る。空間ウィンドウをチェックする綺凛。

 

 「七瀬さん、ガラードワースの副会長さんです」

 

 「え、レティシア?」

 

 「はい。六月さんもいますね」

 

 「マジか。ロック解除してくれ」

 

 「了解です」

 

 綺凛がドアのロックを解除すると、レティシアと六月姉が入ってくる。

 

 と、その後ろに隠れるようにしてコソコソ入ってきた奴が一人いた。

 

 「・・・五和姉、何してんの?」

 

 「はうっ!?」

 

 慌てて六月姉の後ろに隠れる五和姉。こんな五和姉は初めて見るな・・・

 

 と、レティシアが一歩前に出た。

 

 「ごきげんよう、七瀬・・・お邪魔だったでしょうか?」

 

 俺に抱きついて離れない三咲姉を見るレティシア。

 

 「いや、大丈夫。ほら三咲姉、レティシアが来たぞ」

 

 「・・・レティシアなんてどうでもいいです。今は七瀬に甘えると決めてますので」

 

 離れる気配の無い三咲姉。レティシアが呆れ顔で見ていた。

 

 「三咲のこんな姿、初めて見ましたわ・・・」

 

 「アハハ・・・悪いな、せっかく来てくれたのに」

 

 「いえ、構いません。準々決勝進出、おめでとうございます」

 

 「サンキュー。でも・・・それを言いに来たわけじゃないんだろ?」

 

 「・・・やはり分かっていましたか」

 

 苦笑するレティシア。

 

 「お察しの通り、《二大皇剣》を破壊した件についてお話があって参りました」

 

 「っ!?ちょっと待ってよレティシア!七瀬に責任なんて無いでしょ!?」

 

 「抗議。戦いの最中に壊れてしまっただけです。七瀬は悪くありません」

 

 「それを決めるのはアナタ達ではなく、会長・・・アーネストです」

 

 五和姉と六月姉の抗議に、淡々と返すレティシア。

 

 「七瀬、アーネストと通話が繋がっていますわ」

 

 空間ウィンドウを開くレティシア。そこには、アーネストの顔が映っていた。

 

 『やぁ七瀬、直接会いに行けなくてすまないね』

 

 「構わないさ。そっちだって忙しいだろうしな。で・・・俺に責任を求めるつもりか?まぁ壊したのは事実だし、覚悟はしてるけど」

 

 「七瀬!?」

 

 慌てる五和姉。アーネストが苦笑している。

 

 『まさか。君に責任があるなんて思っちゃいないさ。コアとなったウルム=マナダイトは回収できたし、君に壊した責任を求めたりはしないよ。それを君に伝えようと思って、こうして連絡させてもらったわけさ』

 

 「・・・大丈夫か?そっちの運営母体が、何かうるさく言ってきたりしないか?」

 

 『あぁ、EPかい?それは大丈夫だろう。ウルム=マナダイトが回収できた以上、とやかく言ってきたりしないと思うよ』

 

 「なら良いけど」

 

 良かった・・・俺個人ならともかく、星導館に迷惑はかけたくないしな。

 

 『それにしても、五和と六月を破るとはね・・・ウチの優勝候補筆頭だったんだけど』

 

 「まぁ何とかな。これでガラードワースで残ってるのは、《輝剣》と《鎧装の魔術師》のタッグだけか」

 

 『あぁ。あの二人に頑張ってもらうしかないね』

 

 溜め息をつくアーネスト。

 

 『《鳳凰星武祭》では、星導館に差を付けられてしまったね。七瀬とミス・刀藤のタッグを含め、ベスト八に三つのタッグが残っているのだから』

 

 紗夜とレスターは順調に勝利を収め、準々決勝進出を決めたそうだ。綾斗とユリスも、界龍の黎兄妹を相手に何とか勝利したらしい。

 

 「《鳳凰星武祭》は星導館の十八番だからな。どのタッグが勝つにしても、優勝は星導館がいただくぞ」

 

 『ハハッ、我々も負けていられないな』

 

 笑うアーネスト。

 

 『まぁそんなわけで、話は以上だ。試合で疲れているところ、すまないね』

 

 「いや、元々俺が《二大皇剣》を壊したからだ。悪かったな」

 

 『気にすることは無いさ。むしろ暴走気味だった五和を止めてくれて、感謝してるよ』

 

 アーネストは五和姉に視線を向ける。

 

 『五和、七瀬とちゃんと話をしてくるんだよ?』

 

 「・・・うん」

 

 力なく頷く五和姉。アーネストは、再び俺に視線を向けた。

 

 『それでは七瀬、また会おう』

 

 「あぁ、またな」

 

 空間ウィンドウが閉じ、アーネストとの通話が切れる。

 

 「ありがとな、レティシア。わざわざ来てくれて」

 

 「これも仕事ですので」

 

 微笑むレティシア。

 

 「さて・・・三咲、そろそろ行きますわよ。まだ仕事が残っているのですから」

 

 「・・・そんなもの、レティシアに全部あげます」

 

 「要りませんわよ!?私を殺す気ですの!?」

 

 「三咲姉、レティシアが困ってるから」

 

 俺の言葉に、名残惜しそうに俺から離れる三咲姉。

 

 「・・・納得いきませんわ。何故七瀬の言うことは素直に聞きますの?」

 

 「回答。三咲姉様がブラコンだからです」

 

 「・・・重症ですわね」

 

 六月姉の答えに、げんなりしているレティシア。

 

 「さて、私と三咲は仕事に戻ります。五和と六月はゆっくり休みなさい。アーネストへの報告は、私がしておきますわ」

 

 「ありがと、レティシア」

 

 「感謝。ありがとうございます」

 

 「構いませんわ。それでは七瀬、またお会いしましょう」

 

 「七瀬、また会いに来ますからね」

 

 「おう。レティシアも三咲姉も、色々とありがとな」

 

 レティシアと三咲姉が控え室から出て行く。残ったのは俺、綺凛、五和姉、六月姉の四人だけだ。

 

 六月姉はともかく、五和姉とは気まずいなぁ・・・

 

 「七瀬・・・ゴメン」

 

 頭を下げる五和姉。

 

 「いくら精神干渉を受けてたとはいえ・・・七瀬に酷いこと言った。本当にゴメン」

 

 「・・・あれってさ、全部五和姉が思ってたことなの?」

 

 「・・・ほとんどそうだよ」

 

 俯く五和姉。

 

 「七瀬には早くシルヴィと仲直りしてほしかったし、中々シルヴィに会おうとしない七瀬に・・・正直、イラッとしたこともあったよ」

 

 「五和姉・・・」

 

 「でも・・・最後のは違うよ」

 

 五和姉が、俺を真っ直ぐ見つめる。

 

 「あの時から成長してないとか、シルヴィはこんな奴の何処が良いんだとか・・・それは本当に思ってない。精神干渉を受けて、つい心にもない言葉を言っちゃったの。と言っても、信じてもらえないかもしれないけど・・・」

 

 「・・・ま、正直事実だよな」

 

 自嘲気味に笑う俺。

 

 「俺はあの時から成長してないんだって、思い知ったよ。何でシルヴィアが俺を想ってくれてるのか、俺もよく分かんないし」

 

 「そんなことない!」

 

 叫ぶ五和姉。

 

 「七瀬は成長したよ!シルヴィと向き合う為に一歩踏み出して、アスタリスクまで来たじゃん!向き合うって決めたじゃん!」

 

 「同意。五和の言う通りですよ。七瀬は成長しましたし、シルヴィが七瀬を想う理由も分かります」

 

 「理由・・・?」

 

 「回答。七瀬の優しさを知っているから、ですよ」

 

 微笑む六月姉。

 

 「自分のことを卑下しないで下さい。七瀬は六月達の、自慢の弟なのですから。七瀬には良いところがたくさんあるのです」

 

 「そうだよ!だからもっと自信持ちなよ!」

 

 「・・・俺のことボロクソに言ってた人に言われてもな」

 

 「うっ・・・」

 

 泣きそうな表情の五和姉。俺は苦笑し、五和姉の頭を撫でた。

 

 「冗談だって。五和姉は、俺のこと心配してくれてたんだよな・・・ありがとう」

 

 「・・・っ!七瀬っ・・・!」

 

 俺に抱きつき、泣き出す五和姉。

 

 「ゴメンね・・・酷いこと言って、ホントゴメンね・・・!」

 

 「俺も・・・心配かけてゴメンな・・・」

 

 目から涙が零れ落ちる。俺と五和姉を包み込むように、六月姉が抱き締めてきた。

 

 「・・・嘆息。二人とも泣き虫ですね」

 

 「・・・六月姉だって泣いてんじゃん」

 

 「・・・反論。これは汗です」

 

 そう言う六月姉だが・・・目が真っ赤なので誤魔化しようがない。

 

 「六月もゴメンね・・・私のせいで、六月を苦しめちゃったよね・・・」

 

 「反論。最終的に同意した六月が悪いのです。五和が謝ることではありません」

 

 「いや、でも・・・」

 

 何か言いたそうな五和姉を、抱き締める力を強くして黙らせる六月姉。

 

 「良いのです・・・もう・・・良いのですっ・・・ひっぐ・・・」

 

 堪えきれなくなったのか、嗚咽を漏らす六月姉。それをきっかけに、五和姉は声を上げて号泣し始めた。

 

 俺は二人の温もりを感じながら、ただ静かに涙を流したのだった。

 




三話続けての投稿になります。

次の投稿は、日曜日か月曜日になりそうかな。

シャノン「そういえば、そろそろアスタリスクの新巻出るんじゃない?」

そうそう、25日の金曜日らしいよ。

前回メッチャ気になるところで終わったから、早く続き読みたいなー。

あ、その前に『ロクでなし魔術講師と禁忌教典』の新巻も買わなきゃ!

『天使の3P!』も原作買おうかなぁ・・・

シャノン「メッチャ目移りしてるし・・・それではまた次回!」

いやー、迷っちゃうなー!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。