「あー・・・もうダメ・・・」
「疲れましたぁ・・・」
控え室のソファに、ぐでーんとうつ伏せに寝る俺と綺凛。何とか勝利を収め、長い勝利者インタビューを乗り切り、俺と綺凛はクタクタだった。
「ってか、身体中が痛いんだけど。五和姉から受けたダメージとは違うんだけど」
【マスターの雷の影響ですね】
七海が教えてくれる。
【要は雷による身体強化を行ったわけですからね・・・マスターは力を使い慣れていないので、反動で全身筋肉痛になってしまったのでしょう】
「マジかぁ・・・早く使いこなせるようにしよう・・・」
「・・・そうやって喋ってると、独りでブツブツ言ってる怪しい人みたいですよ」
苦笑している綺凛。一応綺凛には、七海のことを大まかに説明しておいたのだ。
「だってさ、七海。綺凛にも声が聞こえるように出来ない?」
【今の私では無理ですね。ようやくマスターに私の声が届いた段階ですから】
そんなやり取りをしていると、来訪者を告げるチャイムが鳴った。
空間ウィンドウを見てみると・・・
「三咲姉じゃん。綺凛、開けても良い?」
「勿論です」
ドアのロックを解除すると、三咲姉が飛び込んできた。身体を起こす俺。
「おー、三咲姉。わざわざ来てくれ・・・」
「七瀬っ!」
「へぶっ!?」
三咲姉に抱き締められる俺。
「良かった・・・無事で良かった・・・!」
「いや、大袈裟でしょ。ただの試合なんだから、そりゃ無事だよ」
苦笑しながら三咲姉の頭を撫でる俺。
「大袈裟なんかじゃありません!」
「・・・三咲姉?」
三咲姉は目を真っ赤に腫らし、大粒の涙を流していた。
「あの子達が七瀬を相手に、《二大皇剣》を使うなんて・・・!七瀬が倒れたままピクリとも動かなかった時は、本当に心臓が止まるかと思いました・・・!」
「三咲姉・・・」
「七瀬に何かあったら、私は・・・私は・・・!」
「・・・落ち着いて、三咲姉」
俺は三咲姉の背中を優しく叩いた。
「俺は大丈夫だから。三咲姉の前からいなくなったりしないから」
「・・・本当ですか?」
「勿論。約束する」
三咲姉は、家族に対する愛情が人一倍深い。
星辰力を扱いきれずに孤立していた俺を、一番気にかけてくれていたのも三咲姉だったっけな・・・
「いつも心配かけてゴメン。ありがとう、三咲姉」
「・・・私は、アナタの姉ですから」
俺の胸に顔を埋め、背中に回す手にギュっと力を込める三咲姉。
と、再び来訪者を告げるチャイムが鳴る。空間ウィンドウをチェックする綺凛。
「七瀬さん、ガラードワースの副会長さんです」
「え、レティシア?」
「はい。六月さんもいますね」
「マジか。ロック解除してくれ」
「了解です」
綺凛がドアのロックを解除すると、レティシアと六月姉が入ってくる。
と、その後ろに隠れるようにしてコソコソ入ってきた奴が一人いた。
「・・・五和姉、何してんの?」
「はうっ!?」
慌てて六月姉の後ろに隠れる五和姉。こんな五和姉は初めて見るな・・・
と、レティシアが一歩前に出た。
「ごきげんよう、七瀬・・・お邪魔だったでしょうか?」
俺に抱きついて離れない三咲姉を見るレティシア。
「いや、大丈夫。ほら三咲姉、レティシアが来たぞ」
「・・・レティシアなんてどうでもいいです。今は七瀬に甘えると決めてますので」
離れる気配の無い三咲姉。レティシアが呆れ顔で見ていた。
「三咲のこんな姿、初めて見ましたわ・・・」
「アハハ・・・悪いな、せっかく来てくれたのに」
「いえ、構いません。準々決勝進出、おめでとうございます」
「サンキュー。でも・・・それを言いに来たわけじゃないんだろ?」
「・・・やはり分かっていましたか」
苦笑するレティシア。
「お察しの通り、《二大皇剣》を破壊した件についてお話があって参りました」
「っ!?ちょっと待ってよレティシア!七瀬に責任なんて無いでしょ!?」
「抗議。戦いの最中に壊れてしまっただけです。七瀬は悪くありません」
「それを決めるのはアナタ達ではなく、会長・・・アーネストです」
五和姉と六月姉の抗議に、淡々と返すレティシア。
「七瀬、アーネストと通話が繋がっていますわ」
空間ウィンドウを開くレティシア。そこには、アーネストの顔が映っていた。
『やぁ七瀬、直接会いに行けなくてすまないね』
「構わないさ。そっちだって忙しいだろうしな。で・・・俺に責任を求めるつもりか?まぁ壊したのは事実だし、覚悟はしてるけど」
「七瀬!?」
慌てる五和姉。アーネストが苦笑している。
『まさか。君に責任があるなんて思っちゃいないさ。コアとなったウルム=マナダイトは回収できたし、君に壊した責任を求めたりはしないよ。それを君に伝えようと思って、こうして連絡させてもらったわけさ』
「・・・大丈夫か?そっちの運営母体が、何かうるさく言ってきたりしないか?」
『あぁ、EPかい?それは大丈夫だろう。ウルム=マナダイトが回収できた以上、とやかく言ってきたりしないと思うよ』
「なら良いけど」
良かった・・・俺個人ならともかく、星導館に迷惑はかけたくないしな。
『それにしても、五和と六月を破るとはね・・・ウチの優勝候補筆頭だったんだけど』
「まぁ何とかな。これでガラードワースで残ってるのは、《輝剣》と《鎧装の魔術師》のタッグだけか」
『あぁ。あの二人に頑張ってもらうしかないね』
溜め息をつくアーネスト。
『《鳳凰星武祭》では、星導館に差を付けられてしまったね。七瀬とミス・刀藤のタッグを含め、ベスト八に三つのタッグが残っているのだから』
紗夜とレスターは順調に勝利を収め、準々決勝進出を決めたそうだ。綾斗とユリスも、界龍の黎兄妹を相手に何とか勝利したらしい。
「《鳳凰星武祭》は星導館の十八番だからな。どのタッグが勝つにしても、優勝は星導館がいただくぞ」
『ハハッ、我々も負けていられないな』
笑うアーネスト。
『まぁそんなわけで、話は以上だ。試合で疲れているところ、すまないね』
「いや、元々俺が《二大皇剣》を壊したからだ。悪かったな」
『気にすることは無いさ。むしろ暴走気味だった五和を止めてくれて、感謝してるよ』
アーネストは五和姉に視線を向ける。
『五和、七瀬とちゃんと話をしてくるんだよ?』
「・・・うん」
力なく頷く五和姉。アーネストは、再び俺に視線を向けた。
『それでは七瀬、また会おう』
「あぁ、またな」
空間ウィンドウが閉じ、アーネストとの通話が切れる。
「ありがとな、レティシア。わざわざ来てくれて」
「これも仕事ですので」
微笑むレティシア。
「さて・・・三咲、そろそろ行きますわよ。まだ仕事が残っているのですから」
「・・・そんなもの、レティシアに全部あげます」
「要りませんわよ!?私を殺す気ですの!?」
「三咲姉、レティシアが困ってるから」
俺の言葉に、名残惜しそうに俺から離れる三咲姉。
「・・・納得いきませんわ。何故七瀬の言うことは素直に聞きますの?」
「回答。三咲姉様がブラコンだからです」
「・・・重症ですわね」
六月姉の答えに、げんなりしているレティシア。
「さて、私と三咲は仕事に戻ります。五和と六月はゆっくり休みなさい。アーネストへの報告は、私がしておきますわ」
「ありがと、レティシア」
「感謝。ありがとうございます」
「構いませんわ。それでは七瀬、またお会いしましょう」
「七瀬、また会いに来ますからね」
「おう。レティシアも三咲姉も、色々とありがとな」
レティシアと三咲姉が控え室から出て行く。残ったのは俺、綺凛、五和姉、六月姉の四人だけだ。
六月姉はともかく、五和姉とは気まずいなぁ・・・
「七瀬・・・ゴメン」
頭を下げる五和姉。
「いくら精神干渉を受けてたとはいえ・・・七瀬に酷いこと言った。本当にゴメン」
「・・・あれってさ、全部五和姉が思ってたことなの?」
「・・・ほとんどそうだよ」
俯く五和姉。
「七瀬には早くシルヴィと仲直りしてほしかったし、中々シルヴィに会おうとしない七瀬に・・・正直、イラッとしたこともあったよ」
「五和姉・・・」
「でも・・・最後のは違うよ」
五和姉が、俺を真っ直ぐ見つめる。
「あの時から成長してないとか、シルヴィはこんな奴の何処が良いんだとか・・・それは本当に思ってない。精神干渉を受けて、つい心にもない言葉を言っちゃったの。と言っても、信じてもらえないかもしれないけど・・・」
「・・・ま、正直事実だよな」
自嘲気味に笑う俺。
「俺はあの時から成長してないんだって、思い知ったよ。何でシルヴィアが俺を想ってくれてるのか、俺もよく分かんないし」
「そんなことない!」
叫ぶ五和姉。
「七瀬は成長したよ!シルヴィと向き合う為に一歩踏み出して、アスタリスクまで来たじゃん!向き合うって決めたじゃん!」
「同意。五和の言う通りですよ。七瀬は成長しましたし、シルヴィが七瀬を想う理由も分かります」
「理由・・・?」
「回答。七瀬の優しさを知っているから、ですよ」
微笑む六月姉。
「自分のことを卑下しないで下さい。七瀬は六月達の、自慢の弟なのですから。七瀬には良いところがたくさんあるのです」
「そうだよ!だからもっと自信持ちなよ!」
「・・・俺のことボロクソに言ってた人に言われてもな」
「うっ・・・」
泣きそうな表情の五和姉。俺は苦笑し、五和姉の頭を撫でた。
「冗談だって。五和姉は、俺のこと心配してくれてたんだよな・・・ありがとう」
「・・・っ!七瀬っ・・・!」
俺に抱きつき、泣き出す五和姉。
「ゴメンね・・・酷いこと言って、ホントゴメンね・・・!」
「俺も・・・心配かけてゴメンな・・・」
目から涙が零れ落ちる。俺と五和姉を包み込むように、六月姉が抱き締めてきた。
「・・・嘆息。二人とも泣き虫ですね」
「・・・六月姉だって泣いてんじゃん」
「・・・反論。これは汗です」
そう言う六月姉だが・・・目が真っ赤なので誤魔化しようがない。
「六月もゴメンね・・・私のせいで、六月を苦しめちゃったよね・・・」
「反論。最終的に同意した六月が悪いのです。五和が謝ることではありません」
「いや、でも・・・」
何か言いたそうな五和姉を、抱き締める力を強くして黙らせる六月姉。
「良いのです・・・もう・・・良いのですっ・・・ひっぐ・・・」
堪えきれなくなったのか、嗚咽を漏らす六月姉。それをきっかけに、五和姉は声を上げて号泣し始めた。
俺は二人の温もりを感じながら、ただ静かに涙を流したのだった。
三話続けての投稿になります。
次の投稿は、日曜日か月曜日になりそうかな。
シャノン「そういえば、そろそろアスタリスクの新巻出るんじゃない?」
そうそう、25日の金曜日らしいよ。
前回メッチャ気になるところで終わったから、早く続き読みたいなー。
あ、その前に『ロクでなし魔術講師と禁忌教典』の新巻も買わなきゃ!
『天使の3P!』も原作買おうかなぁ・・・
シャノン「メッチャ目移りしてるし・・・それではまた次回!」
いやー、迷っちゃうなー!