≪綺凛視点≫
「はぁっ・・・はぁっ・・・」
「しぶといねー、綺凛ちゃん」
「感嘆。とても中一とは思えません」
五和さんと六月さんが褒めてくれますが・・・今は喜んでいる余裕などありません。正直、もう身体の限界が近いのです。
チラリと後ろを見ると、七瀬さんがピクリとも動かず横たわっています。意識消失のアナウンスはありませんが・・・
一体どうしてしまったのでしょうか・・・?
「七瀬が気になる?」
「ッ!?」
五和さんの攻撃を、慌てて避ける私。
ですが・・・
「好機。隙ありです」
六月さんが《赫皇剣》を振りかぶっているのが見えます。
「《極皇虚星》」
六月さんが《赫皇剣》を振りぬくと、いくつもの赤い球体が私に襲い掛かってきます。
避け続ける私でしたが・・・
「きゃあっ!?」
最後の一つに当たってしまいました。爆発の衝撃で、後ろへと吹き飛ぶ私。
そこには、《黒皇剣》を構えている五和さんがいました。
「しまっ・・・!?」
「これで終わりだよ・・・《黒皇永獄斬》!」
凄まじい衝撃波が迫ってきます。くらったら、間違いなく私はリタイアです。
時間稼ぎも、ここまでしか出来ませんでしたか・・・
「ゴメンなさい、七瀬さん・・・」
目を閉じ、衝撃が来るのを待っていた私でしたが・・・
感じたのは、誰かに受け止められたような感触でした。
「え・・・?」
目を開けた私の視界に映ったのは・・・
「よく頑張ってくれたな、綺凛」
穏やかな笑みを浮かべた七瀬さんなのでした。
*****
現実世界に戻り、最初に視界に入ったのは・・・
今にもやられそうになっている綺凛の姿だった。
「綺凛っ!?」
急いで立ち上がり、最初の一歩を踏み出した瞬間・・・自分でも信じられないほどのスピードが出た。
吹き飛ぶ綺凛を受け止め、《黒皇永獄斬》の攻撃範囲から抜ける。綺凛の顔を覗き込むと、ちょうど目を開けるところだった。
「え・・・?」
「よく頑張ってくれたな、綺凛」
「な、七瀬さん・・・!」
綺凛の目に、じわりと涙が滲む。
『な、何ということだーっ!?戦闘不能と思われた七瀬選手が立ち上がったーっ!?』
『しかも何スか今のスピード!?自分も目で追えなかったッスよ!?』
会場中がざわつく中、五和姉がニヤリと笑う。
「へぇ・・・復活したんだね」
「おかげさまでな」
綺凛を下ろし、俺は五和姉を睨んだ。
「俺の可愛い後輩を散々痛ぶってくれたんだ・・・覚悟は出来てんだろうな?」
「ッ!?」
五和姉が、少し怯んだような様子を見せる。
どうしたんだ・・・?
【威圧されたんですよ】
俺の頭の中で声が響く。
「七海?ってか、こっち戻っても会話って出来んの?」
【出来ますよ。私とマスターが心を通わせたことで、それが可能になりました】
得意げな様子の七海。
【マスターが力が欲しいと強く願ったあの時・・・私とマスターのシンクロ率が最大になったんです。あれがキッカケだったんですよ】
「マジか。ってか、威圧って?」
【私がマスターに力を返したことで、マスターの力はより強力になりましたから。五和さんもそれを感じたんでしょうね】
「なるほどなー」
「・・・質問。七瀬、誰と喋っているのですか?」
おずおずと話しかけてくる六月姉。
「んー、何ていうか・・・俺の相棒?」
「は?」
「まぁ細かいことは気にしないで。ってか、六月姉は《赫皇剣》から精神干渉とか受けてないの?」
「回答。《赫皇剣》は《黒皇剣》ほど我の強い純星煌式武装ではありません。従って、受ける精神干渉も比較的軽いです。今のところは、ですが」
「ふーん・・・そこまでして力を手に入れたかったの?」
「・・・回答。その通りです」
淡々と答える六月姉。
「六月達は、前回の《獅鷲星武祭》で悔しい思いをしました。だからこそ力を手に入れたかったのです」
「・・・そんな淡々と嘘ついて、辛くないの?」
「ッ!?」
息を呑む六月姉。いつも無表情の六月姉が、表情を歪ませているのが何よりの証拠だ。
「大方、五和姉が力を求めて純星煌式武装に手を出したんだろ?六月姉は反対だったけど、結局は五和姉に従ったってところかな。ったく、六月姉は昔から五和姉に甘いんだから」
「し、質問・・・どうしてそんなことが・・・」
「そりゃ分かるよ」
溜め息をつく俺。
「だって俺達・・・家族なんだから」
「・・・っ」
六月姉の目から、涙が零れ落ちた。と・・・
「・・・いつまで喋ってんのさ?」
五和姉が苛立ったように俺を睨んでいた。
「さっきから黙って聞いてりゃ、知ったような口きいてくれるじゃん・・・私がどんだけ悔しい思いをしたか、七瀬には分かんないでしょ」
「それは分からん。六月姉に辛い思いさせてる五和姉の気持ちなんて、分かりたくもない」
「ッ!ふざけんなッ!」
五和姉が《黒皇剣》を振り下ろしてくるが、俺は右手で受け止めた。
「なっ!?片手で!?」
「・・・ふざけんな?そりゃこっちのセリフだ」
右手に力を込める。《黒皇剣》に、徐々にヒビが入っていく。
「こんなもんに頼ってないで・・・もっと自分自身の力を磨けよ」
フルパワーで《黒皇剣》を握る。耐え切れなくなったのか、《黒皇剣》は砕け散った。
「そ、そんな・・・私の《黒皇剣》が・・・」
呆然としている五和姉。俺は拳を握った。
「失せろバカ姉ッ!」
「ぐあっ!?」
五和姉の顔面を、渾身の力で殴る。五和姉はそのまま吹き飛び、フィールドの壁に叩きつけられた。
『星野五和、意識消失』
機械音声が流れ、五和姉のリタイアを告げた。
『い、一撃だーっ!?《黒皇剣》を破壊した上、五和選手を一撃K.O.しましたっー!』
『先ほど六月選手がもろに拳をくらってたッスけど・・・今ほどの威力じゃなかったッスよね?何だか七瀬選手、パワーアップしてないッスか?』
会場が沸く中、俺は六月姉に向き直った。驚愕している六月姉。
「・・・質問。七瀬、今のは一体・・・」
「細かい説明は後でな。それより・・・戦おうぜ、六月姉」
俺の言葉に、六月姉は呆然とした後・・・フッと笑みを浮かべた。
「同意。遠慮なくやらせていただきます」
「そうこなくちゃな。綺凛、悪いけど一対一でやらせてくれ」
「・・・もう、仕方ないですね」
苦笑している綺凛。
「その代わり、何があったのか後で説明して下さいよ?」
「了解」
俺は笑うと、六月姉に向かって拳を構えた。そして、新たな力を試すことにした。
「七海、頼んだ」
【了解です。マスター】
その瞬間・・・俺の身体に、激しい雷が迸った。
「なっ!?」
「嘘っ!?」
息を呑む六月姉と綺凛。
『い、雷!?チャムさん、これってまさか!?』
『・・・《魔術師》の力ッスね』
解説のチャムさんの、唖然とした声が聞こえる。
『先ほど七瀬選手がとんでもないスピードを出したのも、瞬間的に雷を使ったんだと思うッス。《黒皇剣》を砕いたのも、五和選手を一撃で倒したのも、この力を使ったと考えると納得がいくッス。それにしても・・・凄い威力の雷ッスね』
なるほど、そういうことだったのか・・・
【マスター、特に何も考えてませんでしたよね・・・】
七海が呆れたような声で言う。
「まぁな。お前がフォローしてくれてたんだろ?ありがとな」
【フォローするって約束しましたから】
苦笑している七海。俺は改めて六月姉を見た。
「さて・・・勝負だな、六月姉」
「・・・驚愕。七瀬には本当に驚かされますね」
笑みを浮かべながら、《赫皇剣》を構える六月姉。
そして・・・
「はああああああああああっ!」
「やああああああああああっ!」
拳を振りぬく俺と、剣の突きを放つ六月姉。激しくぶつかり合った瞬間・・・
《赫皇剣》が粉々に砕けた。静寂が辺りを包む。
と、六月姉が微笑んだ。
「・・・参りました」
両手を上にあげ、降参の意思を示す。俺は六月姉に笑いかけた。
「・・・ナイスファイト」
六月姉の校章を拳で叩いて割る。機械音声が流れ、試合終了を告げるのだった。
『星野六月、校章破壊!』
『試合終了!勝者、刀藤綺凛&星野七瀬!』
二話連続での投稿となります。
シャノン「ななっちの力が覚醒したねー」
ねー。雷って良いよねー。
シャノン「私も≪魔女≫になりたいなぁ・・・」
ホグワーツにでも行ってきなよ。
シャノン「そっちの魔女じゃないよ!?」
スリザリンで元気にやるんだよ。
シャノン「しかもスリザリン確定!?私そんな性格悪そうに見える!?」
それではまた次回!
シャノン「あ、逃げるなーっ!」