「・・・ここは?」
俺は今、真っ暗な場所に立っていた。辺りを見渡しても、あるのは暗闇だけだ。
「アナタの精神世界の中ですよ」
「うおっ!?」
いつの間にか、すぐ側に同い年くらいの女性が立っていた。薄緑色のロングヘアで、何故かメイド服を着ている。
「・・・誰?」
「初めまして、というべきでしょうか・・・ようやくお会いできました」
にこやかに微笑む女性。
「私は・・・アナタが《神の拳》と呼んでいる存在です」
「は・・・?」
キョトンとしてしまう俺。ん・・・?
「え、ちょっと待って・・・《神の拳》?アンタが?」
「えぇ。正確に言うと、《神の拳》の元となったウルム=マナダイトに宿りし者・・・といったところでしょうか」
「・・・つまり純星煌式武装に意思があるのは、アンタみたいにウルム=マナダイトに宿った奴らがいるからってこと?」
「そういうことです」
頷く女性。俺は微笑むと・・・
女性の頭に拳骨を落とした。
「痛っ!?な、何をするんですか!?」
「何をするじゃねーわ!アンタのせいで人がどんだけ暴走したと思ってんの!?百発ぐらい殴らせろチクショー!」
「落ち着いて下さい!アナタが暴走したのは、アナタが私の力に呑まれたからです!」
「それはアンタが精神干渉してきたせいだろうが!」
「いや、それは・・・アナタと私は一心同体のようなものでして・・・私とアナタの感情がシンクロすると、アナタの感情が増幅されるという仕組みなんです」
少し申し訳なさそうな女性。
えーっと、つまり・・・
「要は増幅っていうか・・・アンタの分の感情がプラスされるってこと?」
「そういうことです」
「やっぱりアンタのせいじゃねーか!」
「スミマセン!でも仕方のないことなんです!」
必死に釈明する女性。
「そもそも私は、アナタの力によって生まれたようなものなんですから!」
「・・・は?」
コイツ・・・何言ってんの?
「だってアンタ、ウルム=マナダイトに宿ってんだろ?俺の力とか関係無くね?」
「それはそうなんですが・・・他のウルム=マナダイトに宿りし者達は、自我はあってもこんな風に所有者とお喋りなんて出来ないんですよ」
「・・・確かに」
純星煌式武装は自分の意思で所有者を振り回すことはあっても、所有者とコミュニケーションを取るなんて聞いたことないしな・・・
「じゃあ、何でアンタは俺と会話出来るんだ?ってか、そもそも俺の力によって生まれたってどういうことだ?」
「話すと長くなるんですが・・・」
おずおずと話し始める女性。
「そもそも私、というか《神の拳》は・・・アナタの為に作られたものなんです」
「・・・え?」
俺の為に作られた・・・?純星煌式武装が・・・?
「アナタが持って生まれた星辰力の量は、通常の《星脈世代》を遥かに凌駕するものでした。その上アナタには、もう一つの力があった」
「もう一つの力・・・?」
「えぇ・・・《魔術師》の力です」
「ッ!?」
《魔術師》!?俺が!?
「その力の大きさは、アナタの身体に負担をかけてしまうほどでした。ただでさえ尋常じゃないほどの星辰力を持っていて、そこに《魔術師》の力まで加わってしまうとなると・・・幼かったアナタの身体には負担が大きすぎて、命を落とす危険性が高い。そう判断したアナタのご両親は、《魔術師》の力を封印することにしたんです」
「封印?どうやって?」
「私を使ったんです」
自分自身を指差す女性。
「ウルム=マナダイトに、アナタの力を封じ込めたんですよ」
「・・・そんなこと可能なのか?」
「普通は無理ですが・・・アナタのお母様の力が、それを可能にしました」
「・・・なるほどな」
そういや、母さんの能力を忘れてたな・・・アレなら、そういったことも可能なのか。
「そしてアナタの力を封じたウルム=マナダイトで、アナタのお父様が純星煌式武装を作りました。それこそが・・・」
「《神の拳》ってわけか・・・」
統合企業財体が所有してない純星煌式武装なんて、ずいぶん珍しいと思ったけど・・・
製作者が父さんだったとはな・・・
「私がこうして言葉を話せるようになったのは、アナタの力を取り込んだからです。アナタの力が私の中に入ったことによって、人の姿を持って話せるようになりました。どういう原理なのかは、私にもよく分かりませんが・・・」
「・・・ちなみに、何でその姿なの?」
「純星煌式武装にされている途中、アナタのお父様の脳内イメージが流れ込んできたんですが・・・メイドさんで妄想されていることが多くて。気付いたらこんな格好になっていました」
「純星煌式武装作ってる時に何考えてんだあああああっ!?」
そっかー、父さんはメイドさんが好きなのかー・・・
って、知りたくもなかったわ!
「何か・・・ゴメン。ウチの父親の妄想で姿が決まっちゃって・・・」
「い、いえ!結構気に入ってますから!」
慌ててフォローしてくれる女性。良い人だなぁ・・・
「で、話を戻しますけど・・・アナタの身体が力を受け入れられる時まで、私はアナタの実家で眠ることになりました。ですが、アナタもご存知の通り・・・」
「・・・まだ成長しきっていない段階で、俺に《神の拳》が渡ってしまった」
その時のことを思い出し、思わず表情が歪む。
「父さんも母さんも、あの段階で俺に渡すつもりなんて無かっただろうな・・・」
「えぇ・・・もっと成長してから渡す予定だったと思います」
女性の表情も、苦渋に満ちていた。
「《魔術師》の力は私が止めていましたが・・・当時のアナタでは、純星煌式武装の力を制御することが出来なかった。結果として、あの事件が起きてしまったわけです」
「シルヴィアか・・・」
溜め息をつく俺。
「俺が幼かった故に起きた事件、か・・・ゴメンな、アンタのせいとか言って」
「いえ・・・私の感情がアナタを振り回したのは事実ですから」
「シンクロか・・・そりゃシンクロするよな。何せアンタは、俺の力を封じてるんだから。それって俺の感情が、アンタの感情に影響を与えるってことだろ?つまりアンタの感情が俺を振り回すんじゃなくて、俺の感情がアンタを振り回してるってことだ」
俺の言葉に、黙り込んでしまう女性。
当たりか・・・
「・・・ゴメン」
改めて謝罪する俺。
「俺、全部アンタのせいにしてた。暴走したのも、シルヴィアを殺しかけたのも、全部《神の拳》のせいだって思ってた。でも・・・違ったな。全部俺が未熟だったせいだ。アンタのこともずいぶんと振り回した・・・ゴメン」
「・・・謝らないで下さい」
静かに首を振る女性。
「私に感情というものを与えてくれたのは、間違いなくアナタです。言葉を話せるようになって、アナタと一緒に一喜一憂して・・・ウルム=マナダイトに宿っているだけの私が、本当の人間みたいだと思えたのは・・・全部アナタのおかげです」
女性がにこやかに微笑む。
「私には、アナタを拒絶することも出来ました。適応率が高くないと、純星煌式武装を使うことは出来ませんからね。ですが私は、アナタと共にいる道を選びました。アナタを見守りたいと思ったので・・・アナタの力を取り込んだせいですかね?」
クスクス笑う女性。
「アンタ・・・」
「まぁそんなわけで、私はこれからもアナタの側にいますよ。アナタが私を拒絶しない限り・・・ですけど」
「・・・しないさ」
俺は女性を真っ直ぐ見つめた。
「俺、《神の拳》と・・・アンタとちゃんと向き合うよ。もう逃げたりしない。だから俺に、力を貸してもらえるか?」
「えぇ、勿論。アナタは私のマスターですから」
笑顔で頷く女性。
「力が欲しいんですよね?でしたら・・・私が今まで封印していたマスターの力、お返ししましょう」
「良いのか?」
「えぇ。ただし、全てではありません。一気に全て返してしまうと、マスターが扱いきれず暴走してしまう危険性がありますから」
「・・・全部じゃないとはいえ、俺に扱いきれるかな」
「私がサポートします。五和さんと六月さんに勝ちたいんでしょう?」
「・・・だな。迷ってる場合じゃないわ」
覚悟を決める俺。ここでやらなきゃ、絶対後悔するからな。
「ありがとな。じゃ、アンタ・・・って、そういや名前聞いてないな」
さっきからずっとアンタって呼んでたしな・・・
俺のことをマスターって呼んでくれたし、俺も名前で呼んであげたいな・・・
「でしたら、マスターが付けて下さい。私、《神の拳》以外の呼び名が無いので」
「え、マジで?じゃあ《神の拳》っていう名前でいく?」
「・・・やっぱり力返すの止めて良いですか?」
「冗談だって!?ちょっと待って!?」
名前かぁ・・・何が良いかなぁ・・・
「じゃあ・・・七海とかどう?七瀬と七海・・・双子っぽくない?」
「語呂の良さで決めただけでは・・・?」
半眼の女性に、サッと顔を背ける俺。バレたか・・・
と、女性がクスッと笑った。
「まぁ良いでしょう。改めてよろしくお願いしますね、マスター」
「あぁ。よろしくな、七海」
と、暗闇に一筋の光が差した。光は段々と強くなり、一気に周りを照らしていく。
「頑張りましょうね、マスター」
笑顔の七海。それと当時に、俺の目の前が真っ白になったのだった。
どうも~、ムッティです。
今回は≪神の拳≫こと七海との対面でしたね。
シャノン「モチーフになったキャラは?」
『トリニティセブン』のイリアかな。
イリア可愛いよねー。
シャノン「作者っちの趣味全開だね・・・」
シャノンだって、可愛いと思ったから出してるんだけど?
シャノン「っ///・・・そ、それではまた次回!」
あ、照れてるな・・・