学戦都市アスタリスク ~六花の星野七瀬~   作:ムッティ

44 / 149
カラオケ行きたい・・・




 「イレーネ!プリシラ!無事か!?」

 

 治療院に着いた俺は、二人の病室へと駆け込んだ。

 

 「七瀬!?何でここに!?」

 

 イレーネが驚いている。

 

 「いや、お前らが搬送されたって聞いたから。それより、大丈夫なのか?」

 

 「安心しな。二人とも大丈夫だ」

 

 「ご心配おかけしました」

 

 申し訳なさそうな顔のプリシラ。良かった・・・

 

 「ハァ・・・イレーネが暴走したって聞いた時は、マジで焦ったわ」

 

 「情けねぇことに、《覇潰の血鎌》に呑まれちまってな・・・プリシラの血を吸いすぎたせいで、プリシラを危険な目に遭わせちまった」

 

 俯くイレーネ。

 

 「天霧が《覇潰の血鎌》を破壊してくれたから、最悪の事態は免れたが・・・あたしは何てことを・・・」

 

 「お姉ちゃん・・・」

 

 落ち込むイレーネを、心配そうに見つめるプリシラ。

 

 やれやれ・・・

 

 「せいっ!」

 

 「ぐはっ!?」

 

 イレーネの頭に拳骨を落とす。頭を押さえるイレーネ。

 

 「な、何しやがる!?」

 

 「むしゃくしゃしてやりました。反省はしていません」

 

 「ふてぶてしいなオイ!?ってか、男が女を殴るってどうなんだよ!?」

 

 「男女平等だ」

 

 「この場面で使う言葉か!?」

 

 「ぷっ・・・あははっ!」

 

 堪えきれず、プリシラが笑い出す。

 

 「ちょ、プリシラ!?何で笑うんだよ!?」

 

 「だって、何か面白くて・・・ぷっ」

 

 「わ、笑うなー!」

 

 うんうん、イレーネはこうでないとな。

 

 「イレーネ」

 

 イレーネを真っ直ぐ見つめる俺。

 

 「プリシラの手、絶対に離すなよ。離したら、一生後悔することになるぞ」

 

 「七瀬・・・」

 

 「大切な人の声が聞こえなくなったら、もう取り返しがつかなくなるからな。大切なものは、両手でしっかり掴んどけ。経験者からの有り難いアドバイスだ」

 

 「・・・あぁ。絶対に離さねぇよ」

 

 プリシラの手を握るイレーネ。

 

 「もう《覇潰の血鎌》には頼らねぇ。自分の手で、大切なものを守ってみせる」

 

 「それで良し。ところで、《覇潰の血鎌》はマジで壊れたのか?」

 

 「あぁ、粉々にな。ま、コアのウルム=マナダイトは回収できたみたいだぜ」

 

 「・・・《悪辣の王》の反応は?」

 

 「それがビックリ、お咎め無しだとよ。まぁ命令は遂行出来なかったから、借金は減らないけどな」

 

 肩をすくめるイレーネ。何にせよ、お咎め無しで良かったわ。

 

 と・・・

 

 「・・・お姉ちゃん」

 

 イレーネを見つめるプリシラ。

 

 「私、強くなりたい。お姉ちゃんが戦うなら、私も一緒に戦いたい。守られてるだけじゃなくて、お姉ちゃんの隣に立ちたいの」

 

 「プリシラ・・・」

 

 驚くイレーネ。

 

 「本気なのか・・・?」

 

 「勿論。絶対にお姉ちゃんより強くなるんだから」

 

 プリシラの言葉に、呆然とするイレーネ。やがてフッと笑った。

 

 「・・・そっか。楽しみにしてるぜ」

 

 「うん。見ててね」

 

 微笑むプリシラ。この姉妹は、ここから新たなスタートを切るんだろうな。今度は二人で、共に戦う道を歩んでいくんだろう。

 

 良かったな・・・

 

 「じゃ、俺は帰るな。綾斗達のところにも行かないと」

 

 「あ、七瀬!」

 

 俺を呼び止めるイレーネ。

 

 「ん?」

 

 「いや、その・・・ありがとな。わざわざ来てくれて」

 

 照れくさそうに笑うイレーネ。

 

 「おう。《鳳凰星武祭》が終わったら、またゆっくり食事でもしようぜ」

 

 「良いですね!私、また腕を振るっちゃいますよ!」

 

 「マジで!?じゃあパエリア頼むわ!」

 

 「了解です!たくさん作りますね!」

 

 「キターッ!」

 

 「いや、テンション上がりすぎじゃね!?」

 

 イレーネのツッコミ。いや、だってプリシラのパエリア絶品だし!

 

 「じゃ、楽しみにしてるわ」

 

 「おう。天霧達にもよろしく言っといてくれ」

 

 「今度改めてお礼をしたいと伝えてもらえますか?」

 

 「了解、伝えとくよ。またな」

 

 二人に手を振り、病室を出る俺。と・・・

 

 「良かったね、七瀬」

 

 不意に女性の声が聞こえた。ため息をつく俺。

 

 「・・・盗み聞きなんて、趣味が悪いぞ」

 

 「あれ、驚かないの?」

 

 「この程度で驚いてたら、キャラの濃い姉達の弟は務まらないからな」

 

 「アハハ、それもそっか」

 

 病室のすぐ側に、一人の女性が立っていた。茶髪のロングヘアで、白衣を着ている。

 

 「久しぶり。ちょっと見ない間に、ずいぶん大きくなったね」

 

 「何がちょっとだよ。全然実家に帰ってこないじゃん」

 

 「むぅ・・・だって仕事が忙しいんだもん」

 

 頬を膨らませる女性。やれやれ・・・

 

 「相変わらず仕事人間だな・・・一織姉」

 

 目の前の女性・・・星野一織を見て、ため息をつく俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「仕事中だったんじゃないの?」

 

 「休憩してくるって言ってきたから平気。こっちは休日返上で働いてるんだから、これぐらいしてもバチは当たらないでしょ」

 

 笑いながら運転する一織姉。俺は一織姉の車で、星導館に向かっていた。

 

 先ほど綺凛から、綾斗達と共に学園へ帰るという連絡があったのだ。

 

 「休日返上って・・・そんなに忙しいんだ?」

 

 「《星武祭》の開催期間中は特にね。試合でケガして搬送されてくる学生も多いし」

 

 「・・・なるほど。治癒能力者も大変だね」

 

 「まったくだわ・・・」

 

 ため息をつく一織姉。

 

 そう、一織姉は治癒能力者なのだ。治癒系の能力者は極めて少なく、協定によってアスタリスク直轄の治療院に集められている。

 

 学生時代はバリバリ戦っていた一織姉も、今では治療院で働いているのだ。

 

 「治療院に行く以上、一織姉と会うリスクも考えたんだけど・・・」

 

 「え、今リスクって言った?言ったよね?」

 

 「会っちゃったなぁ・・・残念だわ」

 

 「何が残念なの!?私って避けられてるの!?」

 

 「勿論」

 

 「何でよおおおおおっ!?」

 

 叫ぶ一織姉。相変わらず愉快な人だな・・・

 

 「これで会ってないのは四糸乃姉だけか・・・会いたいな」

 

 「七瀬は四糸乃に懐いてたもんねぇ」

 

 「懐いてたっていうか、唯一まともな姉さんだったからな」

 

 「私は!?」

 

 「二葉姉以上、三咲姉以下だな」

 

 「納得しちゃってる自分が怖い!」

 

 納得しちゃうんだ・・・いや、事実なんだけどね。

 

 「でも、四糸乃姉は忙しいもんなぁ・・・ま、来年の《獅鷲星武祭》には出てくるだろうけど」

 

 「七瀬は出ないの?」

 

 「チームへの勧誘は受けてるよ。今のところ、返事は保留してるけど」

 

 「あら、迷ってるの?」

 

 「・・・意味の無い戦いはしたくないからな。《鳳凰星武祭》だって、綺凛の願いを叶えてやりたくて出てるだけだし」

 

 「・・・そう。七瀬がそう決めているなら、私は何も言わないわ」

 

 ため息をつく一織姉。

 

 「でも、七瀬がシルヴィの件を引きずっているなら・・・」

 

 「一織姉」

 

 一織姉の言葉を遮る俺。

 

 「俺はもう、大切な人を傷つけたくない。自分の為に戦うのは、もう止めたんだ」

 

 「・・・そっか」

 

 一織姉はそれだけ呟くと、後は何も言わなかった。

 

 やがて星導館の正門前に着く。車から降りる俺達。

 

 「懐かしいなぁ・・・」

 

 「卒業してから来てないの?」

 

 「来てないわよ。仕事も忙しいし」

 

 苦笑する一織姉。と・・・

 

 「七瀬さん!」

 

 綺凛が駆け寄ってくる。

 

 「あれ、綺凛?綾斗達は?」

 

 「今、リースフェルト先輩のトレーニングルームにいます。私はそろそろ七瀬さんが来る頃だと思ったので、ちょうど出てきたところです」

 

 「そっか。ありがとな」

 

 綺凛の頭を撫でる俺。

 

 「じゃ、私は戻るね」

 

 「おう。送ってくれてありがとな」

 

 一織姉が綺凛を見る。

 

 「刀藤さん、七瀬をよろしくね」

 

 「ふぇっ?あ、はい!」

 

 一織姉は微笑むと、車で治療院に帰っていったのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「えぇっ!?七瀬さんのお姉様だったんですか!?」

 

 「あぁ、一織姉だよ」

 

 俺と綺凛は、ユリスのトレーニングルームで皆と合流していた。

 

 「ど、どうして言ってくれなかったんですか!?」

 

 「いや、紹介する前に帰るって言うから」

 

 「それにしても、治療院で働いているとはな・・・」

 

 驚いているユリス。

 

 「まさか治癒能力者とは・・・知らなかったぞ」

 

 「一織姉は高等部卒業後、星猟警備隊に入ったんだ。そこで治癒系の能力に目覚めて、治療院で働くことになったんだよ」

 

 「フフッ、警備隊長殿が嘆いていらっしゃいましたよ。優秀な人材を奪われたと」

 

 笑うクローディア。

 

 「ま、しょうがないだろ。治癒能力者は希少なんだから。ところで・・・」

 

 俺は床に寝そべる綾斗を見た。

 

 「綾斗、お前大丈夫なのか?」

 

 「・・・正直、大丈夫じゃないね」

 

 苦笑する綾斗。見るからにしんどそうだ。

 

 「レッドラインの五分を、かなりオーバーしちゃったからね・・・この分だと、明日の試合で封印を破るのは無理かな・・・」

 

 「封印状態であの双子の相手か・・・厳しいな」

 

 険しい顔のレスター。まぁ確かに厳しいわな・・・

 

 「それより、七瀬達は大丈夫なのか?」

 

 紗夜が尋ねてくる。

 

 「明日の五回戦、相手は七瀬のお姉さん達に決まったと聞いた」

 

 「あぁ。今日の試合も勝ったみたいだしな」

 

 あの二人なら勝ち進んでくると思ったが、案の定だったな・・・

 

 「ま、何とかするさ。ここで負けるわけにはいかないしな」

 

 「ですね。私も頑張ります」

 

 笑顔の綺凛。何この子、天使ですか?

 

 「ところで七瀬、イレーネとプリシラさんは・・・」

 

 「安心しろ、二人とも元気だ。今度改めてお礼させてほしいってよ」

 

 「そっか・・・良かった」

 

 ホッと息をつく綾斗。

 

 「ありがとな、二人を救ってくれて」

 

 「放っておけなかったからね。助けられて良かったよ」

 

 「こっちは全然良くないぞ」

 

 不機嫌なユリス。

 

 「お前は無茶し過ぎだ。明日の試合、どうするつもりだ?」

 

 「・・・頑張ります」

 

 それしか言えない綾斗。ドンマイ。

 

 「ま、そこはユリスがフォローするしかないだろ。その為のペアなんだから」

 

 「無論そのつもりだが・・・相手が相手だ。私もフォローしきれないかもしれん」

 

 「だよな・・・今日俺達が戦った宋と羅が、あの双子には気をつけろって忠告してくれたよ。相手の弱点を突いて、嬲って勝つことが目的みたいだしな。となると・・・」

 

 「今の綾斗は格好の餌食だな・・・」

 

 「・・・ゴメン」

 

 ため息をつくユリスに謝る綾斗。

 

 「まぁ、それはどうにかしよう。ここで負けてはいられないからな。明日の五回戦で双子に勝った場合、我々の準々決勝の相手は・・・」

 

 「・・・俺と綺凛のペア、もしくは五和姉と六月姉のペアになるな」

 

 ユリスと綾斗を見る俺。

 

 「俺と綺凛は、必ず明日の試合で勝つ。だからお前らも勝て」

 

 「準々決勝で戦いましょう」

 

 俺と綺凛の言葉に、ニヤリと笑うユリスと綾斗。

 

 「綾斗、明日は負けられないな」

 

 「あぁ。何が何でも勝ちにいこう」

 

 「綺凛、俺達も勝つぞ」

 

 「はいっ!」

 

 気合いを入れる俺達なのだった。

 




三話続けての投稿となります。

七瀬の姉、一織が出てきましたね。

シャノン「モチーフは?」

『ソードアート・オンライン』のアスナだよ。

シャノン「ビッチ先生のお姉さんがアスナって・・・」

それは言わないで!?

あと、また投稿間隔が空いてしまいそうです。

シャノン「もうお馴染みだよね」

ホントすいません・・・

それではまた次回・・・あるかな。

シャノン「だから不吉なこと言わないでよ!?」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。