「イレーネ!プリシラ!無事か!?」
治療院に着いた俺は、二人の病室へと駆け込んだ。
「七瀬!?何でここに!?」
イレーネが驚いている。
「いや、お前らが搬送されたって聞いたから。それより、大丈夫なのか?」
「安心しな。二人とも大丈夫だ」
「ご心配おかけしました」
申し訳なさそうな顔のプリシラ。良かった・・・
「ハァ・・・イレーネが暴走したって聞いた時は、マジで焦ったわ」
「情けねぇことに、《覇潰の血鎌》に呑まれちまってな・・・プリシラの血を吸いすぎたせいで、プリシラを危険な目に遭わせちまった」
俯くイレーネ。
「天霧が《覇潰の血鎌》を破壊してくれたから、最悪の事態は免れたが・・・あたしは何てことを・・・」
「お姉ちゃん・・・」
落ち込むイレーネを、心配そうに見つめるプリシラ。
やれやれ・・・
「せいっ!」
「ぐはっ!?」
イレーネの頭に拳骨を落とす。頭を押さえるイレーネ。
「な、何しやがる!?」
「むしゃくしゃしてやりました。反省はしていません」
「ふてぶてしいなオイ!?ってか、男が女を殴るってどうなんだよ!?」
「男女平等だ」
「この場面で使う言葉か!?」
「ぷっ・・・あははっ!」
堪えきれず、プリシラが笑い出す。
「ちょ、プリシラ!?何で笑うんだよ!?」
「だって、何か面白くて・・・ぷっ」
「わ、笑うなー!」
うんうん、イレーネはこうでないとな。
「イレーネ」
イレーネを真っ直ぐ見つめる俺。
「プリシラの手、絶対に離すなよ。離したら、一生後悔することになるぞ」
「七瀬・・・」
「大切な人の声が聞こえなくなったら、もう取り返しがつかなくなるからな。大切なものは、両手でしっかり掴んどけ。経験者からの有り難いアドバイスだ」
「・・・あぁ。絶対に離さねぇよ」
プリシラの手を握るイレーネ。
「もう《覇潰の血鎌》には頼らねぇ。自分の手で、大切なものを守ってみせる」
「それで良し。ところで、《覇潰の血鎌》はマジで壊れたのか?」
「あぁ、粉々にな。ま、コアのウルム=マナダイトは回収できたみたいだぜ」
「・・・《悪辣の王》の反応は?」
「それがビックリ、お咎め無しだとよ。まぁ命令は遂行出来なかったから、借金は減らないけどな」
肩をすくめるイレーネ。何にせよ、お咎め無しで良かったわ。
と・・・
「・・・お姉ちゃん」
イレーネを見つめるプリシラ。
「私、強くなりたい。お姉ちゃんが戦うなら、私も一緒に戦いたい。守られてるだけじゃなくて、お姉ちゃんの隣に立ちたいの」
「プリシラ・・・」
驚くイレーネ。
「本気なのか・・・?」
「勿論。絶対にお姉ちゃんより強くなるんだから」
プリシラの言葉に、呆然とするイレーネ。やがてフッと笑った。
「・・・そっか。楽しみにしてるぜ」
「うん。見ててね」
微笑むプリシラ。この姉妹は、ここから新たなスタートを切るんだろうな。今度は二人で、共に戦う道を歩んでいくんだろう。
良かったな・・・
「じゃ、俺は帰るな。綾斗達のところにも行かないと」
「あ、七瀬!」
俺を呼び止めるイレーネ。
「ん?」
「いや、その・・・ありがとな。わざわざ来てくれて」
照れくさそうに笑うイレーネ。
「おう。《鳳凰星武祭》が終わったら、またゆっくり食事でもしようぜ」
「良いですね!私、また腕を振るっちゃいますよ!」
「マジで!?じゃあパエリア頼むわ!」
「了解です!たくさん作りますね!」
「キターッ!」
「いや、テンション上がりすぎじゃね!?」
イレーネのツッコミ。いや、だってプリシラのパエリア絶品だし!
「じゃ、楽しみにしてるわ」
「おう。天霧達にもよろしく言っといてくれ」
「今度改めてお礼をしたいと伝えてもらえますか?」
「了解、伝えとくよ。またな」
二人に手を振り、病室を出る俺。と・・・
「良かったね、七瀬」
不意に女性の声が聞こえた。ため息をつく俺。
「・・・盗み聞きなんて、趣味が悪いぞ」
「あれ、驚かないの?」
「この程度で驚いてたら、キャラの濃い姉達の弟は務まらないからな」
「アハハ、それもそっか」
病室のすぐ側に、一人の女性が立っていた。茶髪のロングヘアで、白衣を着ている。
「久しぶり。ちょっと見ない間に、ずいぶん大きくなったね」
「何がちょっとだよ。全然実家に帰ってこないじゃん」
「むぅ・・・だって仕事が忙しいんだもん」
頬を膨らませる女性。やれやれ・・・
「相変わらず仕事人間だな・・・一織姉」
目の前の女性・・・星野一織を見て、ため息をつく俺なのだった。
*****
「仕事中だったんじゃないの?」
「休憩してくるって言ってきたから平気。こっちは休日返上で働いてるんだから、これぐらいしてもバチは当たらないでしょ」
笑いながら運転する一織姉。俺は一織姉の車で、星導館に向かっていた。
先ほど綺凛から、綾斗達と共に学園へ帰るという連絡があったのだ。
「休日返上って・・・そんなに忙しいんだ?」
「《星武祭》の開催期間中は特にね。試合でケガして搬送されてくる学生も多いし」
「・・・なるほど。治癒能力者も大変だね」
「まったくだわ・・・」
ため息をつく一織姉。
そう、一織姉は治癒能力者なのだ。治癒系の能力者は極めて少なく、協定によってアスタリスク直轄の治療院に集められている。
学生時代はバリバリ戦っていた一織姉も、今では治療院で働いているのだ。
「治療院に行く以上、一織姉と会うリスクも考えたんだけど・・・」
「え、今リスクって言った?言ったよね?」
「会っちゃったなぁ・・・残念だわ」
「何が残念なの!?私って避けられてるの!?」
「勿論」
「何でよおおおおおっ!?」
叫ぶ一織姉。相変わらず愉快な人だな・・・
「これで会ってないのは四糸乃姉だけか・・・会いたいな」
「七瀬は四糸乃に懐いてたもんねぇ」
「懐いてたっていうか、唯一まともな姉さんだったからな」
「私は!?」
「二葉姉以上、三咲姉以下だな」
「納得しちゃってる自分が怖い!」
納得しちゃうんだ・・・いや、事実なんだけどね。
「でも、四糸乃姉は忙しいもんなぁ・・・ま、来年の《獅鷲星武祭》には出てくるだろうけど」
「七瀬は出ないの?」
「チームへの勧誘は受けてるよ。今のところ、返事は保留してるけど」
「あら、迷ってるの?」
「・・・意味の無い戦いはしたくないからな。《鳳凰星武祭》だって、綺凛の願いを叶えてやりたくて出てるだけだし」
「・・・そう。七瀬がそう決めているなら、私は何も言わないわ」
ため息をつく一織姉。
「でも、七瀬がシルヴィの件を引きずっているなら・・・」
「一織姉」
一織姉の言葉を遮る俺。
「俺はもう、大切な人を傷つけたくない。自分の為に戦うのは、もう止めたんだ」
「・・・そっか」
一織姉はそれだけ呟くと、後は何も言わなかった。
やがて星導館の正門前に着く。車から降りる俺達。
「懐かしいなぁ・・・」
「卒業してから来てないの?」
「来てないわよ。仕事も忙しいし」
苦笑する一織姉。と・・・
「七瀬さん!」
綺凛が駆け寄ってくる。
「あれ、綺凛?綾斗達は?」
「今、リースフェルト先輩のトレーニングルームにいます。私はそろそろ七瀬さんが来る頃だと思ったので、ちょうど出てきたところです」
「そっか。ありがとな」
綺凛の頭を撫でる俺。
「じゃ、私は戻るね」
「おう。送ってくれてありがとな」
一織姉が綺凛を見る。
「刀藤さん、七瀬をよろしくね」
「ふぇっ?あ、はい!」
一織姉は微笑むと、車で治療院に帰っていったのだった。
*****
「えぇっ!?七瀬さんのお姉様だったんですか!?」
「あぁ、一織姉だよ」
俺と綺凛は、ユリスのトレーニングルームで皆と合流していた。
「ど、どうして言ってくれなかったんですか!?」
「いや、紹介する前に帰るって言うから」
「それにしても、治療院で働いているとはな・・・」
驚いているユリス。
「まさか治癒能力者とは・・・知らなかったぞ」
「一織姉は高等部卒業後、星猟警備隊に入ったんだ。そこで治癒系の能力に目覚めて、治療院で働くことになったんだよ」
「フフッ、警備隊長殿が嘆いていらっしゃいましたよ。優秀な人材を奪われたと」
笑うクローディア。
「ま、しょうがないだろ。治癒能力者は希少なんだから。ところで・・・」
俺は床に寝そべる綾斗を見た。
「綾斗、お前大丈夫なのか?」
「・・・正直、大丈夫じゃないね」
苦笑する綾斗。見るからにしんどそうだ。
「レッドラインの五分を、かなりオーバーしちゃったからね・・・この分だと、明日の試合で封印を破るのは無理かな・・・」
「封印状態であの双子の相手か・・・厳しいな」
険しい顔のレスター。まぁ確かに厳しいわな・・・
「それより、七瀬達は大丈夫なのか?」
紗夜が尋ねてくる。
「明日の五回戦、相手は七瀬のお姉さん達に決まったと聞いた」
「あぁ。今日の試合も勝ったみたいだしな」
あの二人なら勝ち進んでくると思ったが、案の定だったな・・・
「ま、何とかするさ。ここで負けるわけにはいかないしな」
「ですね。私も頑張ります」
笑顔の綺凛。何この子、天使ですか?
「ところで七瀬、イレーネとプリシラさんは・・・」
「安心しろ、二人とも元気だ。今度改めてお礼させてほしいってよ」
「そっか・・・良かった」
ホッと息をつく綾斗。
「ありがとな、二人を救ってくれて」
「放っておけなかったからね。助けられて良かったよ」
「こっちは全然良くないぞ」
不機嫌なユリス。
「お前は無茶し過ぎだ。明日の試合、どうするつもりだ?」
「・・・頑張ります」
それしか言えない綾斗。ドンマイ。
「ま、そこはユリスがフォローするしかないだろ。その為のペアなんだから」
「無論そのつもりだが・・・相手が相手だ。私もフォローしきれないかもしれん」
「だよな・・・今日俺達が戦った宋と羅が、あの双子には気をつけろって忠告してくれたよ。相手の弱点を突いて、嬲って勝つことが目的みたいだしな。となると・・・」
「今の綾斗は格好の餌食だな・・・」
「・・・ゴメン」
ため息をつくユリスに謝る綾斗。
「まぁ、それはどうにかしよう。ここで負けてはいられないからな。明日の五回戦で双子に勝った場合、我々の準々決勝の相手は・・・」
「・・・俺と綺凛のペア、もしくは五和姉と六月姉のペアになるな」
ユリスと綾斗を見る俺。
「俺と綺凛は、必ず明日の試合で勝つ。だからお前らも勝て」
「準々決勝で戦いましょう」
俺と綺凛の言葉に、ニヤリと笑うユリスと綾斗。
「綾斗、明日は負けられないな」
「あぁ。何が何でも勝ちにいこう」
「綺凛、俺達も勝つぞ」
「はいっ!」
気合いを入れる俺達なのだった。
三話続けての投稿となります。
七瀬の姉、一織が出てきましたね。
シャノン「モチーフは?」
『ソードアート・オンライン』のアスナだよ。
シャノン「ビッチ先生のお姉さんがアスナって・・・」
それは言わないで!?
あと、また投稿間隔が空いてしまいそうです。
シャノン「もうお馴染みだよね」
ホントすいません・・・
それではまた次回・・・あるかな。
シャノン「だから不吉なこと言わないでよ!?」