翌日・・・俺と綺凛は、ステージに立っていた。
『《鳳凰星武祭》も、いよいよ本戦に突入しましたぁ!果たして選手達は、どのような戦いを見せてくれるのでしょうか!?実況は私、ABCアナウンサーのナナ・アンデルセンが務めさせていただきまぁす!そして解説にはアルルカントOG、左近千歳さんをお迎えしておりまぁす!』
『どうも~、よろしくお願いします~』
ギャルっぽい喋り方をする女性アナウンサーと、関西弁の女性の声がする。今日はいつもとは違う会場なので、実況者と解説者が違うのだ。
『千歳さんの弟さんは、アルルカントの生徒会長さんだそうですね?』
『そうなんよ~。弟がお世話になってます~』
「え、左近さんのお姉さんなの!?」
思わず驚く俺。マジでか・・・
『さてさてぇ、それでは選手の紹介に移りたいと思いまぁす!まずは星導館学園から、刀藤綺凛選手&星野七瀬選手です!』
『《疾風刃雷》と《覇王》のタッグ・・・優勝候補やし、ホンマ楽しみやなぁ』
「・・・だってよ、綺凛」
「恐れ多いですね・・・ですが、優勝しか目指していないので」
不敵に笑う綺凛。良いねぇ、その調子その調子。
『対しますのは界龍第七学院より、宋然選手&羅坤展選手!界龍の序列二十位と二十三位のペアだぁ!』
『あの《万有天羅》の直弟子やし、楽しませてくれそうやなぁ』
と、辮髪の青年が俺の下へと歩み寄ってきた。
えっと・・・宋の方か。
「君が星野七瀬くんだな?」
「そうだけど・・・どうかした?」
「いや、師父から君のことを聞いていてね。一度戦ってみたいと思っていたんだ」
「師父?」
「《万有天羅》のことだ。弟子は皆、彼女を師父と呼んでいる」
「あぁ、星露か」
アイツ、弟子に何を吹き込んだんだ・・・
「私も羅も、全力で相手をさせてもらうよ。お互い良い試合にしよう」
「おう。負けないぞ」
俺の言葉に笑みを浮かべると、宋は羅の下へ戻っていった。
「・・・メッチャ良い奴だな」
「・・・ですね」
笑みを浮かべつつ、顔を見合わせる俺と綺凛。
良いね、何か燃えてきたわ。
「えーっと・・・宋が徒手空拳で、羅が棍の使い手か」
「えぇ。打ち合わせ通りで大丈夫ですか?」
「あぁ、問題無い。勝とうな」
「はいっ」
拳を軽く合わせる。胸の校章が発光し、機械音声が試合開始を告げた。
『《鳳凰星武祭》四回戦第七試合、試合開始!』
俺は宋へ、綺凛は羅の下へと駆け出した。向こうもそれぞれ向かってくる。
どうやら、同じ考えだったみたいだな。
「ハァッ!」
繰り出される宋の右拳を受け止める。
「・・・ッ!重いな!」
「当然!」
続けて左拳のアッパーが飛んでくるが、身体を反らしてかわす。隙をつき、宋の腹部へ膝蹴りを入れた。
「ぐっ・・・!」
よろめく宋。続けて顔面に、右ストレートをぶち込んだ。
「ぐはっ!」
吹き飛ぶ宋。受身を取ってすぐに起き上がるが・・・
「ハッ!」
間合いを詰めていた俺は、起き上がった宋の顎にアッパーを打ち込む。
更にがら空きの腹部に右ストレートを・・・
「七瀬さん!」
綺凛の叫び声。右から殺気を感じ、咄嗟にジャンプする。俺のいた場所を、羅の棍が通過した。棍の上に着地し、羅の顎に蹴りを入れる。
「がっ・・・!」
呻く羅。今度は宋の拳が飛んできたので、一旦後方に飛び退いて距離をとる。俺の下に綺凛が駆け寄ってきた。
「ス、スミマセン!隙をつかれてそちらへ逃がしてしまいました!」
「大丈夫だよ。一旦仕切り直しといこう」
綺凛の頭を撫でる俺。
『な、何ということだぁっ!七瀬選手が、界龍の二人を体術で圧倒しているぅ!』
『えらいことやで!?宋選手と羅選手は、体術を得意とする《木派》の所属や!その二人を相手に、体術で押しとるやん!』
興奮した様子の実況と解説。
「・・・見事な体術だな」
痛そうに顎を擦る羅。宋も鼻血を拭っていた。
「反応速度も速い。避けられるとは思わなかったぞ」
「アンタも良いタイミングで攻撃してきたな・・・不意をつかれたよ」
「そうは思えない反応だったぞ」
苦笑する羅。
「あそこで攻撃しないと、宋がやられる寸前だったからな。僅かな隙を強引に突破したのだ。宋、大丈夫か?」
「・・・生憎、大丈夫とは言えないな」
宋も苦笑している。
「なるほど・・・師父が賞賛するのも頷ける。界龍に来てくれなかったのが惜しいな」
「それ、星露にも言われたわ」
あと、この前の解説の人も言ってたな・・・チャムさんだっけ?
「さて、お喋りはこれくらいにしよう」
構える宋と羅。そして・・・
「ハァッ!」
「せいッ!」
俺に拳を放つ宋と、綺凛に棍を突き出す羅。俺と綺凛はそれぞれ受け止めた。
「やぁっ!」
腹部への膝蹴りを放ってくる羅。それを受け止め、後ろへ跳躍する。
「逃がさん!」
すかさず間合いを詰めてくる宋だったが・・・狙い通り。
「ハァッ!」
俺と宋の間を、綺凛が駆け抜けた。宋の校章が真っ二つに切れる。
『宋然、校章破損』
「な・・・!?」
敗北を告げられ、驚愕している宋。俺は羅との間合いを詰める。
「くっ・・・!」
突き出された棍を、最低限の動きでかわす。そして懐に入り、校章を拳で割った。
『羅坤展、校章破壊!』
『試合終了!勝者、刀藤綺凛&星野七瀬!』
『み、見事なコンビネーション!刀藤選手と七瀬選手、五回戦進出です!』
『えぇ試合やったな!』
盛り上がっている観客達。俺は刀をしまっている綺凛の下に歩み寄った。
「サンキュー綺凛。狙い通りだったよ」
「上手くいきましたね!」
ハイタッチを交わす俺達。と、宋と羅が歩み寄ってきた。
「参った。我々の完敗だ」
苦笑する宋。
「君が後ろへ跳躍したのは、私に間合いを詰めさせる為・・・詰める寸前で彼女に隙をつかせ、校章を破壊させることが目的だったんだな」
「あぁ。綺凛と羅は、すぐ横で戦ってたからな。綺凛なら隙に気付いて、こっちへ来てくれると思ったんだ。こっちを気にしてくれてるのは、ちゃんと感じてたからな」
綺凛の頭を撫でる俺。綺凛が頬を染め、照れくさそうに笑っている。
「俺がそれに気付いた時、既に彼女は宋のすぐ近くまで接近していた」
悔しそうな羅。
「俺も羅も、君達の相手をするのが精一杯で・・・お互いをフォローしきれなかった。まだまだ修行が足りんな」
「違いない」
頷く宋。と、真剣な表情で俺達を見た。
「《叢雲》と《華焔の魔女》は、君達の友人だそうだな?」
「そうだけど・・・綾斗とユリスがどうかしたのか?」
「あの二人が今日の試合で勝ったら・・・次の相手は、恐らくうちのペアだ。アイツらも今日の試合で、間違いなく勝つだろうからな」
忌々しげに言う宋。
「二人に伝えておくと良い。あの双子には、十分に気をつけろとな」
「・・・ひょっとして、黎沈雲さんと黎沈華さんのことですか?」
「あぁ、そうだ」
綺凛の言葉に頷く羅。
「アイツらは相手の弱点を執拗に攻めることで、相手を嬲って勝つことを目的としている。俺達は、どうしてもアイツらの戦い方が気に入らない」
吐き捨てるように言う羅。俺達も黎兄妹の試合映像は見たが、確かに見てて気持ちの良いもんじゃなかったな・・・
コイツらとは戦いたくないって、綺凛とも話してたし。
「了解、伝えとくよ。アイツらも、今日の試合で勝つだろうしな」
「確か相手は、レヴォルフの《吸血暴姫》だったな・・・大丈夫か?」
「心配無いさ。いくらイレーネでも、一人であの二人を相手にするのは無理だ。それより・・・俺達の心配をしないとな」
「ですね」
険しい表情の綺凛。
「この次の試合で勝ったペアが、私達の次の相手になるわけですが・・・まぁ間違いなく、彼女達でしょうね」
「《神速》と《閃光》・・・君の姉上達だな」
「あぁ。黎兄妹なんかより、遥かに強い相手だ」
羅の言葉に頷く俺。厄介な相手だよな・・・
「まぁどの道、あの二人を倒さなきゃ優勝なんて出来ない。やるしかないだろ」
「ですね。私達は全力で戦うだけです」
微笑む綺凛。宋と羅も笑みを浮かべた。
「応援している。我々の分も頑張ってくれ」
「あぁ、ありがとう」
二人とガッチリ握手を交わす、俺と綺凛なのだった。
*****
「あぁもう、アイツらマジでしつこいわ・・・」
俺達は勝利者インタビューを終え、控え室への通路を歩いていた。
あのマスゴミ連中め・・・ホントうんざりだわ・・・
「アハハ・・・」
苦笑している綺凛。控え室の前までやってくると・・・
「七瀬えええええっ!」
「おわっ!?」
五和姉が叫びながら飛びついてきた。後ろには六月姉もいる。
「ナイスファイト!これで五回戦に進出だね!」
「はいはい、ありがと」
「でも・・・」
不敵な笑みを浮かべる五和姉。
「次の相手、私達だよ?」
「それはこの後の試合に勝ってから言いなさい」
「うきゅっ!?」
五和姉にデコピンをお見舞いする。額を擦る五和姉。
「うぅ・・・七瀬が冷たい・・・」
「当然。五和は気が早すぎます」
六月姉が呆れたように言う。
「注意。試合では何が起きるか分かりません。負けるつもりなど毛頭ありませんが、気を引き締めて臨むべきです」
と、六月姉が俺を見た。
「質問。七瀬、あなたは知っていたのですか?」
「ん?何を?」
「回答。《叢雲》・・・天霧綾斗が力を制限されていることを、です。本来の力は、五分ほどしか維持出来ないのでしょう?」
『なっ!?』
驚愕する俺と綺凛。
「何でそれを・・・」
「回答。先ほど空間スクリーンで、別会場で行われていた彼と《華焔の魔女》の試合を拝見しました。試合には見事勝利したのですが・・・試合の途中で、相手の《吸血暴姫》が暴走してしまいまして」
「イレーネが!?」
暴走って、まさか・・・!
「恐らく、《覇潰の血鎌》に意識を乗っ取られたんだろうね」
真面目な表情の五和姉。
「綾斗くんが《黒炉の魔剣》で《覇潰の血鎌》を壊したから、《吸血暴姫》も無事だったみたいだけど・・・綾斗くんの力が封印される瞬間を、皆が目撃しちゃったんだよ」
「・・・ッ!リミットか・・・!」
遂に綾斗の弱点が、公になっちまったな・・・
「それで、綾斗とユリスは?」
「ユリスちゃんが綾斗くんを抱えて、急いで奥へ引っ込んだよ。多分、控え室に行ったんだと思う。あの様子だと、綾斗くんは動けなさそうだったし」
「補足。ちなみにウルサイス姉妹は、医療院へ搬送されました」
「え、プリシラも!?」
「首肯。妹の方は、暴走した姉に血を吸われすぎたようです」
「七瀬さん、どうしましょう!?」
オロオロしている綺凛。今にも泣き出しそうだ。
「とりあえず、俺は医療院に行ってくる。綺凛は綾斗とユリスのところへ行ってこい」
「わ、分かりました!後で連絡します!」
慌てて駆けていく綺凛。俺は二人を見た。
「ゴメンな二人とも。二人の試合を見させてもらおうと思ったけど・・・」
「気にしないの。それより、早く行った方が良いよ」
「同意。六月達は必ず勝ちますので、ご心配なく」
笑う五和姉と、親指を立てる六月姉。
「教えてくれてありがとな!行ってくる!」
「気をつけてね!」
「請願。お大事にとお伝え下さい」
俺は二人に手を振り、医療院へと向かったのだった。
二話続けての投稿となります。
シャノン「あ、正気に戻ったんだね」
え、何の話?
シャノン「覚えてないの!?」
うん、休みが終わったことを嘆いてなんかいないよ?
シャノン「覚えてんじゃん!?」
ハハハ、もうどうにでもなってしまえー!
シャノン「正気に戻ってなかったーっ!?」
それではまた次回・・・あるかな。
シャノン「不吉なこと言わないで!?」