学戦都市アスタリスク ~六花の星野七瀬~   作:ムッティ

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休みが終わってしまった・・・


代償

 「ふぅ・・・ん?」

 

 部屋に帰ってきた俺は、玄関にクローディアの靴が置いてあることに気付いた。

 

 「帰ってきたのか・・・?」

 

 いつもより早いな・・・まぁここ最近が遅すぎたんだけど。

 

 《鳳凰星武祭》の期間中も、色々と仕事があるみたいだしな。

 

 「ただいま・・・あれ?」

 

 リビングの明かりは点いていなかったが、開きっ放しの空間ウィンドウがいくつか浮かんでいた。その明かりが、テーブルに突っ伏して寝ているクローディアの寝顔を照らしている。

 

 やれやれ・・・

 

 「帰ってきてまで仕事とは・・・恐れ入るわ」

 

 苦笑する俺だったが、クローディアの表情が険しいことに気付いた。苦しそうに喘いでいる。

 

 悪い夢でも見てるのか・・・?

 

 「・・・とりあえず起こすか」

 

 クローディアの肩に触れようとした瞬間だった。

 

 「・・・ッ!」

 

 殺気を感じ、咄嗟に後ろへ跳んだ。俺の目の前を、二本の剣先が通過していく。

 

 危なかった・・・

 

 「クローディア、何のつもり・・・」

 

 文句を言う為にクローディアを見た途端、俺はゾッとした。ゆらりと立ち上がったクローディアは、だらりと垂らした両手に双剣を握っていた。

 

 あれは・・・

 

 「《パン=ドラ》・・・」

 

 呟く俺。クローディアの純星煌式武装・・・初めて見たな。

 

 クローディアは俯いている為、表情は読み取れないが・・・恐らく、無意識状態なんだろう。

 

 「クローディア、目を覚ませ!」

 

 叫ぶ俺。クローディアはふっと動くと、次の瞬間には俺の間合いに入っていた。

 

 「・・・ッ!」

 

 攻撃を回避する俺だったが、かわしたはずの剣が目の前に迫っていた。

 

 「うおっ!?」

 

 身体をひねって避ける。だが、クローディアの攻撃は流れるように続く。

 

 「チッ・・・未来予知か!」

 

 俺の動きを予期しているかのような攻撃・・・厄介だな。

 

 「来い、《神の拳》!」

 

 俺の両手に、金色の純星煌式武装が装着される。迫ってきた《パン=ドラ》を、両手で掴む。

 

 そのまま、クローディアの額に頭突きをかました。

 

 「・・・ッ!」

 

 クローディアの動きがピタリと止まった。

 

 「クローディア!?俺が分かるか!?」

 

 「七・・・瀬・・・?」

 

 呆然と俺を見つめるクローディア。と、ハッとした顔をする。

 

 「七瀬!?も、申し訳ありません!」

 

 「戻ったのな・・・」

 

 力が抜け、《パン=ドラ》を離す俺。《神の拳》の装着も解除する。クローディアも、慌てて《パン=ドラ》を待機状態に戻した。

 

 「マジで焦ったわぁ・・・」

 

 「ほ、本当に申し訳ありません!私、何てことを・・・!」

 

 泣きそうなクローディア。俺はそっとクローディアを抱き寄せた。

 

 「落ち着け。俺は大丈夫だから」

 

 「ですが、私は・・・!」

 

 「それより、額は大丈夫か?」

 

 「え・・・痛っ!」

 

 顔をしかめ、額を押さえるクローディア。

 

 「お前を止める為とはいえ、乱暴なマネはしたくなかったんだけど・・・ゴメンな」

 

 「何でこんな時まで私の心配なんて・・・!」

 

 「何でって・・・お前が大事だからに決まってんじゃん」

 

 「・・・ッ!」

 

 瞳を潤ませるクローディア。そのまま、俺の胸に顔を埋める。

 

 「・・・スミマセン、少しこのままでいさせて下さい」

 

 「・・・おう」

 

 優しくクローディアを抱き締める俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「落ち着いたか?」

 

 「えぇ、もう大丈夫です」

 

 微笑むクローディア。俺達は、リビングのソファに並んで座っていた。

 

 「七瀬・・・先ほどは、本当に申し訳ありませんでした」

 

 「もう良いって。ケガも無かったんだし、気にすんなよ」

 

 苦笑しながらクローディアの頭を撫でる俺。

 

 「でも・・・一体どうしたんだ?あんなクローディア、初めて見たぞ?」

 

 俺の問いに、クローディアは俯いた。

 

 「・・・七瀬は以前、こう仰いましたよね?能力が強い純星煌式武装ほど、求められる代償も高くなると」

 

 「・・・あぁ、言った」

 

 頷く俺。

 

 ってか、今のセリフで何となく分かった気がする・・・

 

 「さっきのは、《パン=ドラ》の代償の影響ってことか・・・」

 

 「ご名答です」

 

 頷くクローディア。

 

 「・・・七瀬は、死んだ経験はおありですか?」

 

 「え?いや・・・無いけど。普通に生きてるし」

 

 「ですよね」

 

 クスクス笑うクローディア。

 

 「ですが私は・・・もう千二百回以上の死を体験しています」

 

 「いや、何を言って・・・」

 

 そこまで言いかけた瞬間、俺はハッとした。さっきクローディアが寝ていた時、とても苦しそうな表情だったことを思い出したのだ。

 

 まさか・・・

 

 「・・・夢の中で、か?」

 

 「流石は七瀬ですね」

 

 笑うクローディア。

 

 「《パン=ドラ》が使い手に求める代償は、自分の死を味わうことです。私は眠る度に夢の中で、いつか来る自分の死の瞬間を体験しているのですよ」

 

 言葉を失う俺。とんでもない拷問だろそれ・・・

 

 「この子の嫌らしいところは、一度として同じ死を見せてこないところです。いずれの死も、いつか私が迎える可能性のある死なんです。先ほどもちょうど殺されそうになっていまして、夢現で襲い掛かってしまったようで・・・本当に申し訳ありません」

 

 深々と頭を下げるクローディア。

 

 「・・・ずっと疑問に思ってはいたんだ。未来視なんていう破格の能力の代償は、どれほど高いものなんだろうって。でも・・・」

 

 クローディアを見つめる俺。

 

 「クローディア・・・お前大丈夫なのか・・・?」

 

 「えぇ、意外と慣れるものですよ」

 

 微笑むクローディア。

 

 「目が覚めると、夢の内容は消えてしまうんです。残るのは断片的な記憶と、死の間際の恐怖と苦痛・・・そして倦怠感といったところでしょうか。この子を手にした方々は三日と耐えられず、まともに使いこなせたのは私が初めてだそうです」

 

 「・・・ゴメン。一緒に暮らしてるのに、一切気付かなかった・・・」

 

 謝る俺の手を、クローディアがそっと握った。

 

 「・・・私、七瀬には救われているんですよ?今までは目覚めても私一人でしたが、今は七瀬がいてくれますから。目が覚めて七瀬の笑顔を見ると、凄くホッとするんです。恐怖、苦痛、倦怠感・・・全てを忘れさせてくれるんですよ。本当に感謝しています」

 

 「クローディア・・・」

 

 「・・・私には、叶えたい望みがあります。その為には、どうしてもこの子が必要なんです。ですから、代償を受け入れてでもこの子を手元に置いておく必要があるんです」

 

 「そこまでして叶えたい望みって・・・?」

 

 「フフッ、それはまだ秘密です」

 

 ウインクするクローディア。

 

 「私は大丈夫です。心配してくださって、ありがとうございます」

 

 「・・・クローディアがそう決めてるなら、俺は何も言わないよ。でも、何か力になれることがあるなら言ってほしい。俺に出来ることは、何だってするから」

 

 「七瀬・・・」

 

 嬉しそうに微笑むクローディア。

 

 「では・・・一つお願いがあるのですが」

 

 「何?」

 

 「今晩から、私と一緒に寝てください」

 

 「ハァッ!?」

 

 え、今この子何て言った!?

 

 「何で!?」

 

 「七瀬が一緒なら、安心して眠れそうですし」

 

 「いやいやいや!流石に不味いだろ!?」

 

 「あら、ユリスとは一緒に寝たんでしょう?」

 

 「いや、それはワンルームだったから!仕方なかったんだよ!」

 

 「ユリスは良くて私はダメなんですね・・・」

 

 「いや、そうじゃなくて!」

 

 「何だってするって言ってくださったのに・・・」

 

 「人の話聞いてる!?あぁもう!分かったよ!一緒に寝るから!」

 

 「フフッ、その答えをお待ちしていました」

 

 笑うクローディア。

 

 チクショウ、受け入れるしかないのか・・・

 

 「ハァ・・・俺の理性が試されるな・・・」

 

 「あら、襲ってくださっても構いませんよ?」

 

 「止めろ!自分の身体は大切にしなさい!」

 

 クスクス笑うクローディア。全くコイツは・・・

 

 「では、今晩から私の寝室で一緒に寝ましょう。ベッドは一つだけですので、同じベッドで寝ることになりますね」

 

 「・・・だろうな」

 

 そんなことだろうと思ったよ・・・まぁ良いけど。

 

 「あら、意外とあっさり受け入れてくださいましたね?」

 

 「いや、お前が言い出したことじゃん」

 

 「そうですが・・・先ほどのこともありましたので・・・」

 

 歯切れの悪いクローディア。

 

 やれやれ、まだ気にしてるのか・・・

 

 「・・・前に言ってくれたよな。『私が七瀬から離れるなんて有り得ない』って。そのセリフ、そっくりそのまま返してやるよ。俺がクローディアから離れるなんて有り得ない。だから安心しろ」

 

 「七瀬・・・ありがとうございます」

 

 頬を赤く染め、照れくさそうに笑うクローディアなのだった。

 




こんにちは、ムッティです・・・

シャノン「あれ、また元気ないじゃん」

だって休み終わっちゃったしさぁ・・・

シャノン「ほらほら、気合い入れていこうよ」

気合いがあれば何でも出来る・・・

そう思っていた時期が私にもありました・・・

気合いだけで何とかなったら苦労しないんだよおおおおおっ!

シャノン「重症だーっ!?ここに重症者がいるーっ!?」

それではまた次回いいいいい!うわあああああ!

シャノン「正気に戻ってえええええっ!」

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