学戦都市アスタリスク ~六花の星野七瀬~   作:ムッティ

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甲鉄城のカバネリ、面白かったなー。


それぞれの想い

 「何を考えているのだ!?」

 

 怒鳴るユリス。紗夜を見つけた俺と綾斗は、星導館に帰ってきたのだった。

 

 で、お互いのタッグパートナーに事情を説明した結果・・・今に至る。

 

 「《吸血暴姫》は次の対戦相手なんだぞ!?罠だったらどうするのだ!?」

 

 「じゃ、俺は大丈夫だな。対戦相手じゃないし」

 

 「大丈夫じゃないでしょう。七瀬さんの脳内はお花畑ですか?」

 

 「スミマセンでした」

 

 綺凛が静かにキレていた。怖いよぉ・・・

 

 「この都市には、他人を欺く者など掃いて捨てるほどいる!サイラスもそうだったではないか!」

 

 「お二人とも、簡単に他人を信用しすぎです。もっと警戒心を持って下さい」

 

 「ごもっともです・・・」

 

 綾斗が陥落した。

 

 ハァ・・・仕方ない。

 

 「・・・ユリスと綺凛が怒るのも分かるよ」

 

 俺は静かに切り出した。

 

 「ただ・・・あまりイレーネを悪く言わないでほしい。プリシラもそうだけど、俺の友達なんだよ」

 

 「七瀬・・・何故そこまで《吸血暴姫》を庇うのだ?」

 

 ユリスの問いに、俺はあの日のことを思い出していた。

 

 「ユリス・・・綾斗に街を案内した時のこと、覚えてるか?」

 

 「ん?あぁ、覚えているぞ。あの時、襲撃犯の正体が人形だと分かったのだったな」

 

 「あぁ。あの時、俺はレヴォルフの不良達に襲われて・・・ユリスと綾斗の所へ向かいたかったのに、邪魔された。実はその時、イレーネが助けてくれたんだ」

 

 「《吸血暴姫》が・・・?」

 

 驚いているユリス。話してなかったもんな・・・

 

 「もしイレーネが助けてくれなかったら、ユリス達が上から銃撃されそうになったあの時・・・俺は助けには入れなかった。だからイレーネには、本当に感謝してるんだ。おかげで二人に、ケガを負わせずに済んだからな」

 

 「七瀬・・・」

 

 神妙な表情のユリス。綾斗も綺凛も、黙って俺の話を聞いてくれていた。

 

 「レヴォルフには、俺も良い印象を持ってるわけじゃない。不良は多いし、何より生徒会長がアイツだ。関わりたいとも思わない。でも・・・」

 

 真っ直ぐユリスを見つめる俺。

 

 「レヴォルフにも、良い奴はいると思うんだ。イレーネは助けてくれたし、プリシラは親身になって接してくれた。何よりあの姉妹は、お互いを大切に想い合ってる。だから俺は、二人を信じてるんだ。信じてるからこそ、二人を友達だと思ってるんだよ」

 

 俺の言葉に、ユリスは瞑目した後・・・フッと微笑んだ。

 

 「相変わらずのお人好しだな、お前は。だが・・・私も忘れていたな。ここへ来て、初めて友人になってくれた男は・・・こういう男だった。だからこそ、私も心を開くことが出来たのだったな」

 

 笑うユリス。

 

 「お前がそこまで言うのなら、私も信じよう。お前の心からの言葉を信じられないようでは、お前の友人を名乗ることなど出来ないからな」

 

 「ユリス・・・」

 

 「・・・仕方ありませんね」

 

 綺凛が苦笑している。

 

 「私も信じます。七瀬さんは、私のタッグパートナーですから」

 

 「綺凛・・・」

 

 「私も忘れていたみたいです。私を救ってくれた人は、力になりたいと言ってくれた人は・・・こういう人でした。だからこそ、私も七瀬さんのお側にいたいと思ったんです」

 

 「・・・七瀬、モテモテだね」

 

 「茶化すなよ・・・」

 

 ニヤリと笑う綾斗に対し、肩をすくめる俺。

 

 何か照れくさいな・・・

 

 「ただし!」

 

 ビシッと指を突きつけてくるユリス。

 

 「その席には、私達も同行させてもらうぞ」

 

 「そうですね。信じてはいますが、私達も心配ですから」

 

 「・・・了解。イレーネ達に伝えとくよ」

 

 顔を見合わせ、苦笑する俺と綾斗なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「プリシラのパエリア、いつ食べても絶品だわ」

 

 「ホント美味しいね」

 

 「だろ?最高だろ?」

 

 パエリアを頬張る俺と綾斗。イレーネが自慢げな顔をしていた。

 

 「プリシラのパエリアは世界一だぜ?」

 

 「も、もう・・・お姉ちゃんったら・・・」

 

 「うむ、これは美味いな!」

 

 「こんな美味しいお料理が作れるなんて、羨ましいです!」

 

 恥ずかしそうなプリシラを尻目に、凄いペースでパエリアを食べているユリスと綺凛。

 

 あれ、簡単に他人を信用するなって言ってなかったっけ・・・

 

 「あ、おかわり持ってきますね。今日はたくさん作ったので」

 

 「お、サンキュー」

 

 プリシラがキッチンへ向かう。と、イレーネが真剣な表情になった。

 

 「・・・お前らに話がある」

 

 「あぁ、そういやそんなこと言ってたっけ」

 

 恐らく、あまり良くない話だとは思うが・・・

 

 「七瀬、お前には前に話したよな?あたしは今回、ディルクの命令で《鳳凰星武祭》に参加することになったって」

 

 「あぁ、聞いた。あのデブのことだし、ろくでもないことを考えてそうだよな・・・俺を潰してやろう、とか」

 

 『なっ・・・!?』

 

 皆が絶句する。イレーネも驚いていた。

 

 「お前・・・知ってたのか?」

 

 「うちの会長は鋭くてな。すぐにその可能性を教えてくれたよ。あくまでも予想に過ぎなかったけど・・・その反応だと正解みたいだな」

 

 「おい《吸血暴姫》!一体どういうことだ!?」

 

 激昂するユリス。綺凛と綾斗も、鋭い目でイレーネを睨んでいる。

 

 「・・・ディルクの野郎が言うには、七瀬は《戦律の魔女》と関係があるらしい。現に六花園会議じゃ、《戦律の魔女》の代理みたいな形だったんだとよ」

 

 「何だと!?本当か七瀬!?」

 

 「別に代理として指名されたわけじゃない。俺の意見を支持するって、委任状に書かれてあっただけだ」

 

 ため息をつく俺。

 

 「ってことは、あのデブは俺が権力を持つことを警戒してるのか?」

 

 「そういうこった。実際のところ、お前と《戦律の魔女》はどういう関係なんだ?」

 

 「・・・幼馴染だよ。もっとも、アイツがクインヴェールに入ってから会ってないけどな。連絡も取ってないし」

 

 「幼馴染!?あのシルヴィア・リューネハイムさんと!?」

 

 驚愕している綺凛。ユリスと綾斗も、口をポカンと開けている。

 

 「じゃあ何で《戦律の魔女》は、お前の意見を支持するって言ったんだ?」

 

 「さぁ・・・俺がアスタリスクに来てることを知って、懐かしくなったのかもな。元々クインヴェールは、六花園会議で積極的に意見を出してたわけじゃないみたいだし。極端な意見じゃなきゃ、どんな意見でも良かったんじゃないのか?」

 

 「つまり本当に、《戦律の魔女》と繋がっていないと?」

 

 「あぁ、誓っても良い。そもそも俺は権力に興味なんて無いし、アイツもそうだと思うぞ?あのデブに伝えとけ、全部お前の杞憂だってな」

 

 「・・・分かった。ディルクには報告しとく。ただ、命令が取り下げられるとは思えねぇけどな」

 

 「だよなぁ・・・ってか、俺に話して大丈夫か?この前は話してくれなかったけど」

 

 「安心しろ、今回はディルクに言ってきた。筋を通させてもらうってな」

 

 ニヤリと笑うイレーネ。と、今度は綾斗に視線を移した。

 

 「実はな、今回潰せって言われてんのは七瀬と・・・《叢雲》、アンタだ」

 

 「え、俺!?」

 

 「ハァ・・・何となくそんな気がしたわ」

 

 驚く綾斗と、ため息をつく俺。イレーネが不思議そうな顔をする。

 

 「あん?それも知ってたのか?」

 

 「お前と広場で会った時、お前綾斗に用があるって感じだったじゃん。《悪辣の王》の命令で動いてるのは知ってたし、もしやと思ったわけよ」

 

 「へぇ・・・なかなかの洞察力だな」

 

 感心しているイレーネ。一方、ユリスは再び激昂していた。

 

 「どういうことだ!?何故綾斗まで狙われるのだ!?」

 

 「ディルクの野郎は、《黒炉の魔剣》を危険視してんだよ。だから使い手の《叢雲》を、今のうちに潰しておきたいんだとさ」

 

 「《黒炉の魔剣》を?」

 

 首を傾げる綾斗。

 

 「そこまで危険視しているのかい?潰したいくらいに?」

 

 「あぁ、あたしも異常だとは思うが・・・アイツの口ぶりから察するに、どうやら以前にも《黒炉の魔剣》の使い手を見たことがあるらしい」

 

 「・・・ッ!」

 

 息を呑む綾斗。俺はユリスや綺凛と顔を見合わせた。

 

 その使い手って・・・

 

 「おかしいよな。公開されている過去の貸与記録を見たが、ここ数十年《黒炉の魔剣》の使い手は現れていないはずだ。なのにディルクの野郎は、一体どこで見たのか・・・どうやら、心当たりがあるみたいだな」

 

 「・・・まぁね。とにかくありがとう」

 

 お礼を言う綾斗の顔には、動揺が浮かんでいた。

 

 無理もないだろう。お姉さんを探す手掛かりが、思わぬところで見つかったわけだしな・・・

 

 「ま、これであたしも筋を通した。明日は思う存分叩きのめしてやる。それが嫌なら、さっさとギブアップするんだな」

 

 「・・・お手柔らかに頼むよ」

 

 苦笑する綾斗。イレーネが俺を見た。

 

 「その次はお前だ、七瀬。ダチだからって容赦しねぇぞ」

 

 「そのセリフは、明日ユリスと綾斗に勝ってから言うんだな」

 

 「その通りです」

 

 イレーネを睨む綺凛。

 

 「仮に戦うことになったとしても、七瀬さんは絶対に傷付けさせません」

 

 「へぇ・・・良い目してんじゃねぇか」

 

 笑うイレーネ。

 

 「悪いが、あたしも命令に背くわけにはいかねぇ。全力でいかせてもらうぜ」

 

 火花を散らす綺凛とイレーネなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「すっかりご馳走になっちゃって、悪かったな」

 

 「いえ、とっても楽しかったです」

 

 俺の言葉に、ニッコリ笑うプリシラ。マンションの前まで、わざわざ見送りに出てきてくれたのだ。

 

 「それより、お姉ちゃんが何か失礼なことを言いませんでしたか?」

 

 「ん?何で?」

 

 「リースフェルトさんの怒鳴り声が聞こえたもので・・・」

 

 「うぐっ・・・」

 

 渋い顔をするユリス。

 

 「安心しろ。ユリスはいつもあんな感じだから」

 

 「七瀬!?」

 

 「そうだね、いつもあんな感じだね」

 

 「いつも通りでしたね」

 

 「お前ら!?」

 

 綾斗と綺凛も同調してくれる。クスクス笑うプリシラ。

 

 「皆さん、仲が良いんですね」

 

 「お前とイレーネもな」

 

 「姉妹ですから」

 

 苦笑するプリシラ。

 

 「・・・私は、お姉ちゃんに守られてるだけなんです。私がお姉ちゃんの役に立てることは、お食事を作ったりすることと・・・血を分けてあげることくらいですから」

 

 「再生能力者とはいえ、その・・・生き血を吸われても良いのかい?」

 

 綾斗がおずおずと尋ねる。

 

 「私は構いません。それでお姉ちゃんの役に立てますから。ただ・・・」

 

 「ただ・・・?」

 

 「・・・《覇潰の血鎌》を使っている時のお姉ちゃんは、ちょっと怖いです。あれを使っている時のお姉ちゃんは、人が変わったように凶暴っていうか・・・」

 

 消え入りそうな声のプリシラ。と、ハッとした顔をする。

 

 「ご、ごめんなさい!私ったら変なことを・・・」

 

 「・・・プリシラは、イレーネが心配なんだな」

 

 プリシラの頭を撫でる俺。

 

 「だったら・・・ちゃんとイレーネの側にいてやった方が良い。イレーネが道を踏み外しそうになった時、それを止めてやれるように」

 

 「七瀬さん・・・」

 

 「道を踏み外してしまった奴には、大切な人の言葉すら届かない。だからその前に、ちゃんと止めてやるんだぞ」

 

 「・・・はいっ!」

 

 頷くプリシラ。よし、良い返事だ。

 

 「じゃ、今日は色々とありがとな」

 

 「また明日ね」

 

 「手加減はしないからな」

 

 「ご馳走様でした」

 

 「皆さんお気を付けて」

 

 手を振ってくれるプリシラに手を振り返し、俺達は帰路に着いた。

 

 「・・・どう思う?」

 

 真剣な表情の綾斗。

 

 「どうって?」

 

 「プリシラさんが言ってたじゃないか。《覇潰の血鎌》を使っている時のイレーネは、まるで人が変わったみたいだって」

 

 「だろうな。《覇潰の血鎌》はそういうタイプだろうし」

 

 「どういうことですか?」

 

 綺凛が尋ねてくる。

 

 「・・・純星煌式武装には意思がある。意思があるということは、それぞれに個性があるということだ。つまり、性格の良い奴と悪い奴に分けられるんだよ」

 

 「・・・つまり《覇潰の血鎌》は、性格が悪い方に分類されるということか?」

 

 「あまり悪く言いたくないけど・・・そうだろうな」

 

 ユリスの問いに、俺は頷いた。

 

 「イレーネがプリシラの血を吸う時、大きな犬歯が二本生えていたのを見た。あれは恐らく、《覇潰の血鎌》がイレーネの肉体に干渉した結果だ」

 

 「まさか・・・使い手の肉体を変化させたというのか!?」

 

 「でなきゃ、あんな吸血鬼みたいな犬歯は生えてこないだろうよ。血を吸いやすくする為の変化なんだろうな」

 

 俺の推測に、言葉を失うユリス。

 

 「つまり《覇潰の血鎌》は、かなり我の強い奴なんだと思う。そういうタイプの奴は、使い手の意識や性格も自分好みに変えようとするんだよ。長く使った分だけ、それは顕著になっていく。《覇潰の血鎌》を使っている時のイレーネが凶暴化するのは、《覇潰の血鎌》に干渉されているからだろうな」

 

 「危険じゃないか!」

 

 慌てている綾斗。

 

 「今すぐにでも放棄させないと・・・!」

 

 「無理だよ。イレーネは《悪辣の王》の命令に従わざるを得ない。その為には《覇潰の血鎌》が必要だろうし、手放したりしないだろ」

 

 「そんな・・・」

 

 「それに純星煌式武装を使う以上、アイツも分かってるはずだ。能力が強いほど、求められる代償は高いってな。《黒炉の魔剣》や《神の拳》だって、普通の星脈世代なら一瞬で枯渇するほどの星辰力が求められるわけだし」

 

 「・・・ずいぶん詳しいな」

 

 驚いているユリス。俺は苦笑した。

 

 「一度《神の拳》の力に呑まれたからな。純星煌式武装については色々と勉強したんだよ。同じ過ちを繰り返さない為にも」

 

 自分の手を見つめる俺。

 

 「道を踏み外してしまった奴には、大切な人の言葉すら届かない・・・経験者として、アイツらには辛い思いをしてほしくないんだけどな」

 

 「七瀬さん・・・」

 

 心配そうな顔で俺を見つめる綺凛。

 

 「・・・綺凛、ユリス、綾斗」

 

 俺は三人を真っ直ぐ見た。

 

 「もし俺が、道を踏み外すようなことがあったら・・・その時は・・・」

 

 俺の告げた言葉に、三人は目を見開いたのだった。

 




二話続けての投稿となります・・・

シャノン「作者っち?何か元気なくない?」

・・・ストックが少なくなってきた。

シャノン「だから執筆活動しろって言ったでしょうが!」

すみませんでした・・・時間がある時にやります・・・

シャノン「全く・・・明日から忙しくなるんだっけ?」

そうなんだよねー。休みが終わってしまったぜ・・・

シャノン「ま、頑張りなよ」

うっす。

また投稿が遅れるかもしれませんが、何卒ご容赦下さい。

それではまた次回!

シャノン「またね~!」

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