「お姉さんが星猟警備隊に・・・?」
「お前の姉貴達、凄すぎねぇか・・・?」
呆然としている紗夜とレスター。
何とか試合には間に合い、結果は二人の圧勝だった。試合終了後、俺達は二人の控え室で事情を説明していたのだった。
「星野二葉・・・彼女も有名人だな」
ため息をつくユリス。
「星導館のOGで、当時の序列二位・・・《鳳凰星武祭》を制した人物だったな?」
「あぁ。今は星猟警備隊で、一等警備正をやってる」
「私達の先輩じゃないですか!」
俺達の説明に驚いている綺凛。
「しかも《鳳凰星武祭》を制覇しているなんて・・お強いんですね」
「あぁ。だが、それでも序列二位・・・彼女より上がいたんだ」
綺凛の言葉に苦笑するユリス。
「当時の序列一位は、彼女の一つ上の姉だ。つまり七瀬、お前の姉でもあるな?」
「あぁ、星野一織だよ」
一織姉はマジで強いからなー。
「《鳳凰星武祭》は、一織姉と二葉姉のタッグで優勝してるんだ。一織姉は、《王竜星武祭》も制してるよ」
「二冠じゃないか!」
驚く綾斗。
「そこまで行ったら、三冠も目指せたんじゃ・・・?」
「勿論《獅鷲星武祭》にも出場したさ。同じチームには二葉姉もいた。で、その時の予選で当たったのが・・・三咲姉のいるチーム・ランスロットだったんだ」
「あ、優勝チーム・・・」
「そういうこと」
苦笑する俺。
結果として、あの時は予選で敗退になったんだよな・・・
「でも凄いね・・・星導館って、最近は成績が低迷してるんじゃなかったの?」
「正しく言うと、二人が卒業してから低迷しているのだ」
ユリスが説明してくれる。
「まぁもっとも、総合成績一位の座からは遠ざかっているがな。星野一織も《王竜星武祭》を制したのが高一、《鳳凰星武祭》を制したのが高二の時だ。つまり・・・」
「シーズンが違うってことか・・・」
レスターが呟く。
「《鳳凰星武祭》・《獅鷲星武祭》・《王竜星武祭》の順に開催して、《王竜星武祭》終了時に総合成績が確定するもんな」
「そういうことだ」
頷くユリス。
「星野一織が同じシーズンで二冠を取っていたら、星導館は一位を取れたかもしれん」
「でも、七瀬の二番目のお姉さんがいたはず」
手を挙げる紗夜。
「一番上のお姉さんと一緒に、《鳳凰星武祭》と《獅鷲星武祭》に出たのなら・・・その次の《王竜星武祭》には出なかったのか?その成績次第で、総合成績一位も狙えたはず」
「いや、出たよ。ただ・・・」
「ただ・・・?」
「・・・予選で《孤毒の魔女》と当たったんだ」
「・・・なるほど。《孤毒の魔女》が初めて出てきた時か」
俺の答えに、紗夜が顔をしかめる。
何せ現在《王竜星武祭》二連覇中、レヴォルフの序列一位で史上最強とも言われる《魔女》・・・あのオーフェリア・ランドルーフェンだ。
二葉姉は強いが、相手が悪かったとしか言いようがない。
「このシーズンは《鳳凰星武祭》こそ制したけど《獅鷲星武祭》と《王竜星武祭》は芳しくない成績で・・・結局、星導館は一位を取れなかったんだ」
「《孤毒の魔女》さえいなかったら、二葉さんが《王竜星武祭》を制していたかもしれないですね・・・そしたら、星導館が一位を取れたかもしれません」
「ま、今さら言っても仕方ないさ。星導館は総合成績一位を取れていない・・・これが現実だ。一織姉も二葉姉も、悔しがってたけどな」
苦笑する俺。と、ユリスが険しい顔をしていた。
「ユリス?どうした?」
「あ、いや・・・何でもない」
慌てて誤魔化すユリスに、首を傾げる俺なのだった。
*****
《鳳凰星武祭》五日目。
「・・・疲れた」
ため息をつく俺。今日は二回戦があり、順調に勝利を収めたのだが・・・
問題はその後に、マスコミ連中のしつこい質問攻めを受けたことだった。
「アイツら、引き際ってものを知らないのかな・・・」
「まぁ、あの人達もお仕事ですから」
苦笑する綺凛。と・・・
「あ、ななっちー!綺凛ちゃーん!」
聞き覚えのある声がする。
見ると、俺達の控え室の前でシャノンが手を振っていた。隣には、青髪の活発そうな女子が立っている。
「おー、シャノンと凛香じゃん」
「こんにちは」
「ヤッホー!二回戦突破おめでとう!」
火原凛香・・・俺達のクラスメイトだ。シャノンと二人でタッグを組み、今回の《鳳凰星武祭》に出場している。
タッグ同士でよく模擬戦をやったので、綺凛とも顔馴染みだ。
「七瀬も綺凛も、調子良さそうじゃん!」
「まぁな。お前らは次の試合だよな?」
「うん、かなり強い相手だよ」
苦笑するシャノン。
「何せレヴォルフの序列三位・・・あの《吸血暴姫》のタッグだからね」
そう、二人の次の相手はアイツら・・・イレーネとプリシラなのだ。シャノンと凛香も序列入りしてはいるが・・・正直、イレーネとの力量差は歴然だ。
特にイレーネには純星煌式武装・・・《覇潰の血鎌》があるからな。かなり厳しい戦いになるだろう。
「正直、勝てる自信なんて全く無いけどね・・・」
「だね・・・とにかく頑張らないと・・・」
険しい顔をしている二人。やれやれ・・・
「お前ら・・・そんな難しい顔してると、いつまで経っても胸が大きくならないぞ?」
「いや、関係ないじゃん!?」
「何で胸の話!?」
二人のツッコミ。俺は綺凛の肩に手を置いた。
「頭が高いぞ貴様ら!この豊かな胸が目に入らぬか!」
「え、七瀬さん!?」
『ははあっ!』
「お二人まで!?」
土下座する二人に、綺凛が赤面しながら叫ぶ。
「いやー、中一でそれだけ大きいとさぁ・・・」
「先輩のプライドがボロボロだよねぇ・・・」
「ふぇっ!?そ、そんなこと言われましても!」
落ち込むフリをする二人。そんな二人を見て、綺凛がオロオロしている。
「・・・ぷっ」
と、ここで笑いを堪えきれなくなる俺。シャノンと凛香も笑い出す。
「アハハ!もー、ななっち笑わないでよー!」
「我慢できなくなったじゃんかー!」
「あっ!からかってたんですか!?」
ようやく気付いた綺凛が、顔を真っ赤にしている。
「いやー、面白かったなぁ」
「ゴメンねぇ、綺凛ちゃん」
「もうっ!酷いですぅ!」
涙目で頬を膨らませる綺凛。俺は綺凛の頭を撫でつつ、シャノンと凛香を見た。
「あれほどの強敵と戦える、折角の機会なんだ。難しい顔してないで、思いっきり楽しんでこいよ」
「ななっち・・・うん、そうだね!」
「よっしゃ!何か燃えてきた!」
笑みを浮かべるシャノンと凛香。うんうん、その意気だよ。
「正々堂々とぶつかってこい!」
「お二人とも、頑張って下さい!」
「うん、ありがとう!」
「思いっきり戦ってくるよ!」
俺や綺凛とハイタッチを交わし、シャノンと凛香はステージへ向かったのだった。
*****
≪イレーネ視点≫
「ったく、どいつもこいつも・・・同じような戦法だな」
あたしは呆れていた。今回の試合は星導館のペアとだが・・・
赤髪も青髪も、二人してステージを駆け回っている。
「確かに《覇潰の血鎌》の重力は、座標に対して効果を発揮するけどよ・・・」
だからといって、同じ場所に留まらずに移動すりゃ良いってもんでもない。
「そんなの、多少広く範囲を指定すりゃ良い話だ」
《覇潰の血鎌》を片手で振るうと、ステージに紫の輝きが広がっていく。
と、赤髪が懐から何かを取り出した。あれは・・・
「拳銃!?」
放たれた銃弾を、慌てて《覇潰の血鎌》で防ぐ。だが、紫の輝きは消滅してしまった。
「チッ、小賢しいマネを・・・」
思わず舌打ちする。どうやら、ちゃんと対策を考えてきたらしい。
と・・・
「ハァッ!」
「せいっ!」
右から赤髪が剣で、左から青髪が拳で攻撃してきた。《覇潰の血鎌》で受け止める。
「・・・ッ!へぇ、やるじゃねぇか。拳銃は想定外だったよ」
「あたし達に飛び道具は無いと思っただろ?」
「これでも、一通りの武器は扱えるようにしてきたんだよ!」
戦いの最中だというのに、二人とも楽しそうに笑っていた。良いねぇ・・・
「予選で本気出すつもりは無かったが・・・アンタ達に失礼だったなっ!」
「きゃっ!?」
「うわっ!?」
思いっきり鎌を振るう。吹き飛ぶ二人。あたしは後ろのプリシラの下へ向かった。
「お姉ちゃん・・・」
「悪いな、プリシラ。少しもらうぞ」
あたしは大きく口を開くと、鋭く伸びた犬歯をプリシラの首筋に突き立てた。
「なっ!?」
「嘘だろ!?」
驚愕している二人。あたしは構わずプリシラの血を飲み続けた。
そして・・・
「・・・ふぅ」
飲み終わって口を離すと、プリシラの首筋の傷跡があっという間に塞がる。
ったく、相変わらずすげぇな・・・
「まさか・・・再生能力者!?」
「おー、よく知ってんな」
あたしは赤髪の言葉に笑った。
「《覇潰の血鎌》は能力の代償として、血液を要求してくるのさ。普通に使ってたんじゃ、あっという間に干乾びちまうんだよ。だからこうして、プリシラから血液を分けてもらってんだ」
「・・・なるほど。文字通り吸血鬼ってわけか」
苦い表情の青髪。
「そういうこった。これで能力を思う存分使える」
あたしが鎌を振るうと、球状の物体が三つ浮いた。すかさず赤髪が拳銃を撃とうとするが・・・
「ぐっ・・・!」
「これは・・・!」
顔をしかめる二人。ステージ全体に、強い重力をかけたからな・・・赤髪も、銃を持つ手を動かせずにいる。
「行け、《三重壊》!」
球状の物体が、高速で二人に襲い掛かる。
そして・・・
「きゃあっ!」
「ぐはっ!」
直撃し、吹き飛んで倒れる二人。ボロボロになりながら、それでも懸命に立ち上がろうとしている・・・
良い根性してんな。だが・・・
「・・・悪いな」
より強い重力を二人にかける。二人は踏ん張っていたが・・・やがて倒れこんだ。
意識を失ったか・・・
《試合終了!勝者、イレーネ・ウルサイス&プリシラ・ウルサイス!》
機械音声が、試合の終了を告げる。
「・・・ナイスファイト」
それだけ言い残すと、あたしは二人に背を向けたのだった。
*****
『試合終了!見事に勝利を収めたのは、ウルサイス姉妹です!』
『やはりイレーネ選手の《覇潰の血鎌》は強いッスねー。しかも今回、プリシラ選手が再生能力者であることも判明したッス。とんでもない隠し玉ッスよ』
実況と解説の声を聞きつつ、俺はスクリーンに見入っていた。倒れているシャノンと凛香は、担架に乗せられていた。
思わず拳を握る俺・・・と、綺凛がその拳に手を置いた。
「・・・お二人とも、ナイスファイトでした。途中までは、あの《吸血暴姫》を相手に善戦してました」
「あぁ。でも・・・イレーネが強すぎたな」
「えぇ。やはり《覇潰の血鎌》の能力は強いですね。それと・・・」
「・・・プリシラだな」
俺の言葉に頷く綺凛。まさか再生能力者とはな・・・
「再生能力者といってもピンきりですが、プリシラさんはかなりのものだと思います。傷の修復どころか、失った血液まで再生できるとなると・・・恐らく、欠損部位の再生も可能でしょうね」
「自分の傷を修復できるとはな・・・他人の傷を治す治癒能力者ほどじゃないにしろ、かなり珍しい部類の能力だぞ」
あのプリシラが・・・全く想像もしていなかった。
「《覇潰の血鎌》の代償を、ああいう形でカバーしてくるとは・・・」
「えぇ。これでイレーネさんは、能力を思う存分使うことが出来ますし・・・かなり厄介な相手だと思います」
綺凛も険しい顔をしている・・・って、ダメダメ。
「・・・こんな顔してたら、アイツらに怒られるな」
「え・・・?」
「俺、アイツらに思いっきり楽しんでこいって言っちゃったからさ。アイツら、戦ってる時も笑ってたじゃん?だから・・・俺達が暗い顔したらダメだなって」
「七瀬さん・・・そうですね。お二人の分も頑張らないといけませんね」
「だな。立派に戦ったアイツらの分も、俺達が頑張って勝とうな」
「はいっ!」
笑顔で力強く返事をしてくれる綺凛なのだった。
こんにちは、ムッティです。
シャノン「作者っちー!」
うおっ!?急に抱きついてきてどうした!?
シャノン「ありがとう作者っち!私の出番が遂にきたよ!」
お、おう・・・良かったな。
シャノン「うん!で、次はいつ出るの?」
・・・・・。
シャノン「ん?作者っち?」
・・・お前のことは忘れない。
シャノン「どういうこと!?」
そ、それではまた次回!
シャノン「ちょ、作者っち!?作者っちいいいいいっ!?」