『それでは本日の第三試合を始めまーす!』
実況の元気な声が響き渡る。
『姿を現したのは、星導館学園元序列一位の刀藤綺凛選手!そして先ほど《絶剣》、《神速》、《閃光》の三人の弟であることが判明しました・・・序列三位の星野七瀬選手です!』
ステージに上がる綺凛と俺。
「七瀬さん、具合はどうですか?」
「・・・既に疲労困憊だわ」
ぐったりしている俺。
あの後、試合が終わった五和姉と六月姉が再び襲来してきた。今頃俺達の控え室で、皆と一緒にこの試合を見ているだろう。
「あの二人の相手は疲れるんだよ・・・」
「アハハ・・・」
苦笑している綺凛。
「しかも綾斗のせいで、試合開始時間が早まるし・・・」
第二試合では、封印を解除した綾斗が相手を瞬殺した。その為、予定されていたより開始時間が早まったのだ。
「まぁそれを言ったら、第一試合も瞬殺だったからなぁ・・・」
「ずいぶん早く第三試合が始まることになりましたよね」
「それな・・・」
と、相手の界龍のペアが姿を現した。
「えーっと・・・細い方が青龍刀使い、マッチョな方が徒手空拳だっけ?」
「はい。リスト外ですが、かなり腕が立つみたいですね」
「なるほど・・・じゃ、打ち合わせ通りいくか」
「了解です」
拳を合わせる俺達。胸の校章が発光し、機械音声が試合開始を告げる。
『《鳳凰星武祭》Fブロック一回戦一組、試合開始!』
飛び出してくる界龍のペア。作戦通り、俺はマッチョの方へと駆け出す。
「せいっ!」
拳を放ってくるマッチョ。俺はそれを避けて懐に入ると、マッチョの校章を砕いた。
「・・・ッ!」
驚いているマッチョ。悔しそうな表情が浮かぶ。
『しゅ、瞬殺だーっ!七瀬選手、相手の校章を破壊しましたーっ!』
『いやー、良い動きッスねー。OGとしては、是非とも界龍に入って欲しかったッス』
解説の言葉に苦笑する俺。星露にも言われたっけな・・・
綺凛の方を見ると、ちょうど相手の校章を斬ったところだった。
『試合終了!勝者、刀藤綺凛&星野七瀬!』
『何ということでしょう!?第三試合も、あっという間に終わってしまいました!』
『早かったッスねー』
「・・・こうもあっさり負けるとはな」
苦笑しているマッチョ。
「決闘の映像もチェックしていたが・・・やはり強いな、《覇王》」
「アンタも良い拳だったぜ。アンタ達の分まで頑張るよ」
「あぁ。我々の分も、優勝を目指して頑張ってくれ。応援している」
握手を交わす俺達。マッチョは去っていき、細い方も俺に一礼して後に続いた。
「お疲れ様です、七瀬さん!」
綺凛が笑顔で駆け寄ってくる。
「おう、お疲れ。初陣としては上々だな」
「はいっ!」
ハイタッチを交わす。
『五和選手&六月選手、天霧選手&リースフェルト選手、刀藤選手&七瀬選手・・・いずれも強さを見せつけての勝利でしたね!チャムさん、いかがでしたか?』
『いやー、見事ッスねー。この三組の中から優勝ペアが出てもおかしくないッスよ。いずれにせよ、この三組の本戦出場は固いと見て良いんじゃないッスかね』
実況と解説の声をバックに、俺達はステージを後にする。
「この後は勝利者インタビューですね」
「あー、ユリスと綾斗がうんざりしてたやつね」
「五和さんと六月さんは元気でしたよね?」
「あの二人は、注目されるのが好きなタイプだからな・・・ま、適当に流そうぜ」
「ですね」
笑い合う俺達なのだった。
*****
「七瀬えええええっ!」
「感嘆。お見事でした」
抱きついてくる五和姉と六月姉。
俺と綺凛は勝利者インタビューを終え、控え室に戻ってきていた。
「はいはい、ありがとな」
「あ、綺凛ちゃんもお疲れ!凄かったよ!」
「驚嘆。流石は刀藤流です」
「あ、ありがとうございます!」
赤面している綺凛。と、夜吹が嬉々としてカメラのシャッターを切っていた。
「おいコラ、何してんだ夜吹」
「いやー、俺のマスコミ魂が疼いちまってよー」
「あ、夜吹くん!三人の写真もっと撮ってくれる!?」
「請願。後で写真を分けて下さい」
「お安い御用ですとも!」
「・・・何で意気投合してんだよ」
ため息をつく俺。
「まぁ、とりあえず初戦突破だ。紗夜とレスターは明日だよな?」
「うん。頑張る」
「予選で躓いてらんねぇしな」
不敵に笑う二人。
「カミラ・パレートには絶対に負けない。自律機動兵器だろうが、絶対に勝ってみせる」
「しかしまぁ、自律機動兵器の代理出場が認められるとはな・・・」
呆れているユリス。
「これで分かっただろ?エルネスタが自信満々だったわけが」
「あぁ。だが、本当に自律機動兵器が《星脈世代》に勝てるのか?」
「さぁな。でも、作ったのがエルネスタなら・・・油断は出来ないぞ」
「確かにな・・・」
険しい顔のユリス。
別の会場でその自律機動兵器が敵を圧倒していたことを、俺達はまだ知らないのだった。
*****
翌日。
「人が多い・・・おえっ」
「・・・本当に人混みが苦手なのだな」
呆れているユリス。
俺・綺凛・ユリス・綾斗は、紗夜とレスターの試合が行われる会場へと移動しているのだが・・・
「なかなか進みませんね・・・」
「うん、間に合うかな・・・」
綺凛と綾斗もげんなりしていた。
何せ炎天下の中、混雑していてろくに進まない。気分も悪くなるというものだ。
「ユリスー、おんぶー」
「子供かっ!男が女におぶってもらおうとするなっ!」
「俺、男女平等がモットーだから」
「こういう場面で使う言葉では無いぞ!?」
「ツレないなー。一緒に夜を過ごした仲じゃん」
「ちょ、七瀬!?」
『えっ!?』
綺凛と綾斗の声がハモった。ユリスが慌てて否定する。
「そ、そういう意味では無いぞ!?同じベッドで寝ただけだ!」
「同じベッドで・・・?」
「寝た・・・?」
「うん、何度ユリスと一緒に寝たことか・・・」
「止めろおおおおおっ!」
「ぐえっ!?」
ユリスに殴られる。痛い・・・
「と、とにかく!早く会場へ向かうぞ!」
「いや、そうは言っても進まないし・・・って、あれ?」
俺はとある方向を見て立ち止まった。
「七瀬?どうしたんだい?」
「いや、あの辺り・・・何か騒がしくないか?」
俺が指差した方向から、人の怒声が聞こえてきた。
ってことは・・・
「揉め事か・・・?」
「行ってみましょうか?」
人垣を掻き分けて、最前列に出てみると・・・
「オラァ!」
「ぐはっ!」
イレーネが不良を殴っていた。
「どうした!?かかってこいやオラァ!」
「テメェ何やってんだあああああっ!」
「ごふっ!?」
イレーネの頭に拳骨をぶちかます。涙目で振り向くイレーネ。
「何しやがんだ・・・って、七瀬じゃねーか。こんなとこで何してんだ?」
「コッチのセリフだ阿婆擦れ女!何こんな所でケンカしてくれちゃってんの!?」
「別にあたしが吹っ掛けたわけじゃねーよ。コイツらが吹っ掛けてきたんだっつーの」
見ると、周りには複数の不良が倒れていた。全員レヴォルフの制服を着ている。
「《星武祭》の期間中にこんなことしたら、参加資格の剥奪も有り得るんだぞ!?」
「んなこと言ったってよぉ」
「・・・七瀬、お前《吸血暴姫》と知り合いなのか?」
イレーネを警戒しているユリス。
「ん?あぁ、まぁな」
「へぇ、《華焔の魔女》に《疾風刃雷》か。それに・・・」
綾斗を見るイレーネの目がギラリと光った。
「アンタが《叢雲》か・・・」
「私のタッグパートナーに何か用か、《吸血暴姫》?」
綾斗の前に立ちはだかるユリス。
「アンタに用はねぇよ、《華焔の魔女》」
一触即発の雰囲気。そんな空気を打ち破ったのは・・・
「こらぁーっ!」
人垣の中から現れた、凄い剣幕の女の子だった。
「お姉ちゃん、また勝手にケンカして!あれほど大人しくしといてって言ったのに!」
「げっ、プリシラ・・・」
顔が引きつるイレーネ。そう、イレーネの妹のプリシラだった。
「おー、プリシラじゃん」
「あ、七瀬さん!昨日の試合見てましたよ!おめでとうございます!」
「サンキュー」
談笑する俺とプリシラ。ポカーンとしているユリス達。
「七瀬さん、そちらの方は・・・?」
「あぁ、プリシラだよ。イレーネの妹」
「初めまして、プリシラ・ウルサイスです!姉がご迷惑をおかけしました!」
頭を下げるプリシラ。
「ほら、お姉ちゃん行くよ!」
「そ、そんな引っ張るなって!」
「七瀬さん、また今度ご飯食べに来て下さいね!」
「おう。また料理教えてくれ」
「はいっ!それでは失礼します!」
「いてて!痛いってプリシラ!」
人垣の中へ消えていく二人。
「・・・何だったのだ?」
「あの姉妹、いつもあんな感じだから」
苦笑する俺。
「ところで綾斗・・・お前、イレーネと面識は?」
「え?無いけど?」
「・・・やはり七瀬も引っかかったか」
「ってことは、ユリスも?」
「あぁ」
険しい顔をしているユリス。キョトンとしている綾斗と綺凛。
「え、どういうこと?」
「お前の前に立った私に、アイツはこう言った。『アンタに用はねぇよ』とな・・・つまり綾斗、お前には用があったということだ」
「俺に?でも、本当に会ったことないんだけど・・・」
困惑する綾斗。
イレーネは《悪辣の王》の命令で動いているはず・・・綾斗に用があるってことは・・・
「まさか・・・」
「七瀬さん?」
首を傾げる綺凛。と、またしても辺りが騒がしくなった。
「今度は何だ・・・っと、マズい!警備隊だ!」
こちらにやってくる女性を見て、しかめっ面になるユリス。
アスタリスクにおける治安維持組織・・・星猟警備隊か。当事者のイレーネもいないし、説明とか面倒・・・
あれ・・・?
「げっ・・・」
「七瀬?どうしたんだい?」
「そこの君達!」
警備隊の女性が声をかけてきた。金髪の長い髪を、ポニーテールに結っている。
「詳しい事情を聞かせて・・・え?」
俺を見てポカーンとしている女性。
そして・・・
「や~ん!七瀬じゃな~い!」
「げふっ!」
抱きついてくる女性。頬を寄せてスリスリしてくる。
「久しぶり~!会いたかったわ~!」
「ちょ・・・二葉姉・・・やめっ・・・」
「七瀬~っ!」
呆気に取られているユリス達。
「あ、あのー・・・」
綺凛が話しかけると、女性はようやく止まった。
「あら、七瀬のタッグパートナーの《疾風刃雷》ちゃん!?しかも《華焔の魔女》ちゃんに《叢雲》くんまでいるじゃない!初めまして~!」
「は、初めまして・・・」
「七瀬、彼女は一体・・・?」
「・・・俺の姉さんだ。名前は星野二葉。星猟警備隊に所属してる」
「よろしくね~!」
ウインクする二葉姉なのだった。
*****
「・・・事情は分かったわ」
俺達から事情を聞き、ため息をつく二葉姉。
「全く・・・《吸血暴姫》にも困ったものね・・・」
「まぁ自分から吹っ掛けたわけじゃないみたいだし、大目に見てやってよ」
「・・・七瀬が言うなら、仕方ないか」
渋々頷く二葉姉。
「あたしも《吸血暴姫》を擁護しとくけど・・・ま、厳重注意ってとこかしら。参加資格は剥奪されないと思うわ」
「サンキュー。十分だよ」
「・・・おい、七瀬の言葉で処分が軽くなったぞ」
「凄いね、七瀬・・・」
「見てはいけないものを見てしまったような・・・」
唖然としているユリス達。
「その代わり、これはアンタへの貸しにしとくわよ?」
「了解。ありがとな、二葉姉」
「構わないわよ。可愛い弟の頼みだもの」
ウインクする二葉姉。
「それより・・・皆揃って、こんな所で何をしていたの?」
「これから友達の試合を・・・あっ!」
慌てて時計を見ると、試合開始時間が迫っていた。
「ちょ、ヤバい!もうすぐ始まるぞ!?」
「あ、ホントだ!マズいよ!?」
「じゃ、二葉姉!俺達もう行くわ!」
「ハイハイ、慌てないの」
俺の肩を掴む二葉姉。
「車で送るわ。空いてる道も知ってるし、こっちの方が早いわよ」
「二葉姉マジ愛してる!」
二葉姉に抱きつく俺なのだった。
こんにちは、ムッティです。
今回も七瀬のお姉さんが登場しました。
シャノン「モチーフは誰なの?」
『暗殺教室』のビッチ先生だよ。
死神との死闘を終えて、雰囲気が柔らかくなったバージョンの方ね。
シャノン「そこに拘るんだね・・・」
いやー、あれからビッチ先生が凄く好きになったわ。
具体的には・・・
シャノン「それではまた次回!」
ちょ、勝手に締めないで!?