《鳳凰星武祭》初日。
「何であんなに人が多いんだ・・・おえっ・・・」
「七瀬さん、大丈夫ですか?」
控え室のソファに、ぐったりと横たわる俺。綺凛が膝枕をしながら、背中を擦ってくれていた。
「全く・・・人混みに酔うなんて情けないですよ?」
呆れているクローディア。
「人が多い所は苦手なんだよ・・・特に《星脈世代》がたくさんいるとさぁ・・・」
「分かります。星辰力の流れに敏感だと、嫌でも感じちゃいますよね」
「刀藤さんもそうなんですか?」
「はい・・・正直私も、人混みは苦手です」
苦笑している綺凛。分かってくれる奴がいたな・・・
「ってかクローディア、ユリス達の控え室に行かなくて良いのか?」
「あちらには、沙々宮さんやマクフェイルくんもいますから。私までお邪魔してしまうと、人が多くなってしまいますし」
「お前にも遠慮ってものがあったのか・・・」
「・・・七瀬は私を何だと思ってるんですか?」
半眼のクローディア。
「まぁお二人は第三試合ですから、まだ時間があります。それまでに体調を回復させて下さいね」
「はいはい、分かってるよ」
と、来訪者を告げるチャイムが鳴った。空間ウィンドウに映っていたのは・・・
「あれ、アーネストじゃん・・・どうぞ~」
身体を起こし、空間コンソールでロックを解除する。
ドアが開き、ガラードワースの生徒会長・・・アーネスト・フェアクロフが入ってくる。華やかな金色の髪を巻いた女性がついてきていた。
「やぁ七瀬。突然すまないね」
「いや、全然大丈夫。六花園会議以来だな」
握手を交わす俺達。と、アーネストが後ろの女性を振り返る。
「あぁ、紹介しよう。レティシア・ブランシャールだ」
「あー、この間話してた副会長さんね」
「お初にお目にかかりますわ。私、レティシア・ブランシャールと申します。以後、お見知りおきを」
「初めまして、星野七瀬です。よろしくお願いします」
お互いお辞儀をする。
「この間は、クッキーをありがとうございました。とても美味しかったですわ」
お礼を言ってくるレティシアさん。あー、アーネストにお土産で渡したアレか。
「いえいえ。レティシアさんのお口に合ったようで何よりです」
「レティシア、で結構ですわ。砕けた口調で構いません」
「そう?じゃあレティシアで。俺のことも七瀬で良いから」
「了解ですわ、七瀬」
何かクローディアと対応が似てるなー。
と・・・
「お久しぶりですね、レティシア」
クローディアが声をかける。忌々しそうに視線を向けるレティシア。
「お久しぶりですわ、クローディア。次の《獅鷲星武祭》では、絶対にあなたのチームに勝ってみせますわよ」
「あら、前回勝利したのはそちらでしょうに」
「私はあなたに校章を破壊されました!これは私のプライドの問題ですわ!」
「・・・とまぁ、こんな調子なんだよ」
呆れているアーネスト。なるほどな・・・
「とりあえず、クローディアとレティシアは仲が良いんだな」
「七瀬!?どうしてその結論になりますの!?」
レティシアのツッコミ。クローディアが笑っていた。
「流石は七瀬、よく分かってらっしゃいますね」
「クローディア!?あなたも否定しなさいな!?」
「私は仲良しだと思っていますから」
「ぐっ・・・!」
悔しそうなレティシア。この様子を見ると、レティシアもクローディアが嫌いなわけじゃないみたいだな。
「あ、そうだ。実はレティシアの他にも、七瀬に会いたいという生徒がいてね。部屋の外にいるんだけど、呼んでも良いかい?」
「マジか。構わないぞ」
再びロックを解除する俺。
と・・・
「七瀬えええええっ!」
いきなり入ってきた女子生徒が、俺の胸に飛び込んで・・・
くる前に避けた。
「へぶっ!?」
後ろの壁に激突する女子生徒。
「ちょ、何で避けるのよ!?」
「ドントタッチミー」
「何で英語!?」
と、急に後ろから抱きつかれた。二つの大きく柔らかな膨らみが、背中に当たる。
「確保。七瀬、お久しぶりです」
「・・・六月姉、気配消して近付くの止めてくんない?」
「拒否。こうでもしないと、七瀬は逃げますから」
「あー!六月ずるい!あたしも七瀬に抱きつくのー!」
正面から抱きついてくる女子生徒。サンドイッチ状態の俺。
「ちょ、五和姉!?」
「騒がしいですよ。五和、六月」
最後に入ってきた女子生徒が、呆れた様子で注意する。
と、俺を見て微笑んだ。
「久しぶりですね、七瀬。元気そうで何よりです」
「三咲姉まで・・・まさかこのタイミングで会いに来るとはな」
ため息をつく俺。綺凛とクローディアが、ポカンとしてしまっている。
「な、七瀬さん・・・こちらの方々は一体・・・?」
「あー・・・俺の姉さん達だよ」
「七瀬のお姉様方・・・!?」
「ヤッホー!」
「挨拶。こんにちは」
「お騒がせして申し訳ありません」
それぞれ挨拶する姉さん達なのだった。
*****
「ったく・・・会いに来るなら前もって連絡してくれよ」
「そしたらアンタ逃げるでしょ?」
「当たり前じゃん」
「そこは否定しなさいよ!?」
五和姉のツッコミ。と、綺凛が俺の袖を引っ張る。
「あの、七瀬さん・・・」
「あー、悪いな。ちゃんと紹介するわ」
苦笑する俺。
「まずこのやかましい女が、星野五和ね」
「誰がやかましい女よ!?」
橙色の髪を後頭部で結い上げた女性・・・星野五和がギャアギャア騒いでいる。
「次に五和姉の双子の妹で、星野六月」
「反論。五和を姉だと思ったことはありません」
「ちょ、六月!?どういう意味よ!?」
「当然。六月の方が五和よりスタイル抜群ですから」
「なっ!?ちょっと胸が大きいからって調子に乗るなー!」
五和姉と同じ橙色の長い髪を、三つ編みに括った女性・・・星野六月が、五和姉に豊満な胸を見せ付けていた。
悔しそうな五和姉。
「全く・・・本当に子供っぽいんですから・・・」
ため息をつく三咲姉。三咲姉も苦労してるなぁ・・・
「・・・呆れてものも言えない状態の女性が、星野三咲な」
「どんな紹介ですか・・・よろしくお願いします」
長い赤髪を腰まで流した女性・・・星野三咲が、礼儀正しく一礼する。
「で、姉さん達も知ってると思うけど・・・俺のタッグパートナーの刀藤綺凛と、星導館学園生徒会長のクローディア・エンフィールドだ」
「は、初めまして!」
「ごきげんよう」
一礼する綺凛とクローディア。と、五和姉がニヤニヤしていた。
「へぇ・・・七瀬も隅に置けないじゃない」
「やかましい。貧乳に発言権は無いぞ」
「誰が貧乳よ!?皆が大きすぎるのよ!」
しくしく泣いている五和姉。と、アーネストが苦笑していた。
「いやぁ、君達は仲が良いんだね」
「それなりにな。ってかアーネスト、お前最初から知ってたな?俺が三咲姉達の弟だってことを」
「まぁね。最初に七瀬の名前を目にした時、もしやと思って三咲達に確認したんだ。六花園会議では、あえて言わなかったけどね」
「三人も身内がいるのでしたら、七瀬もガラードワースに来たら良かったのでは?」
レティシアの疑問に、俺は苦い顔をした。
「三人も身内がいるから行かなかったんだよ。やり辛くてしょうがないし」
「あぁ、なるほど・・・一理ありますわね」
納得しているレティシア。
「抗議。六月は七瀬のガラードワース入学を希望しました」
「却下したじゃん。五和姉と六月姉のお守りとか嫌だったし」
「え、あたし達がお守りされる側なの!?」
「当たり前じゃん。三咲姉に押し付けられる未来しか見えなかったわ」
「くっ・・・読まれていましたか・・・」
悔しそうな三咲姉。アンタ意外と鬼だよね・・・
「さ、帰った帰った。俺と綺凛はこれから試合なんだから」
「いや、あたし達もこれから試合なんだけど」
「は・・・?」
五和姉の言葉に、ポカンとしてしまう俺。
「試合?誰の?」
「あたしと六月。この会場の第一試合なんだよね」
「説明。六月と五和も《鳳凰星武祭》の出場者です」
「ええええええええええ!?」
マジで!?聞いてないんだけど!?
「七瀬・・・知らなかったのですか?」
呆れている三咲姉。
「全く知らなかった・・・何処のブロック?」
「回答。Aブロックです。従って、予選で七瀬と当たることはありません」
六月姉の言葉にホッとする俺。良かった、面倒なペアと当たらなくて・・・
「あ、そろそろ時間じゃん!じゃあ七瀬、行ってくるね!」
「宣言。瞬殺してきます」
「行ってらっしゃい。頑張れ」
笑いながら手を振って出て行く二人。
「さて、我々は学園に帰るとしようか」
「仕事が残っていますものね・・・」
アーネストの言葉に、ため息をつくレティシア。
と、三咲姉が俺の側に寄ってくる。
「七瀬、頑張って下さいね。今日は無理ですが、いずれ必ず応援に来ますから」
「ありがとう、三咲姉。仕事頑張って」
俺がそう言った瞬間、三咲姉がいきなり俺を抱き締めた。
「ちょ、三咲姉!?」
「フフッ。五和や六月がいた手前、さっきは出来ませんでしたが・・・本当は私も、こうしてあなたを抱き締めたかったのですよ?」
「・・・子供扱いするなよ」
「してませんよ。姉として、弟との久々の再会が嬉しかっただけです。姉様達にも、ちゃんと連絡してあげて下さいね」
「・・・善処するわ」
渋い顔をする俺を見て、三咲姉がクスクス笑う。そして、ゆっくりと俺から離れた。
「刀藤さん、エンフィールドさん、弟をお願いしますね」
「は、はいっ!」
「勿論です」
緊張の面持ちの綺凛と、にこやかに笑うクローディア。三咲姉は満足そうに笑った。
「時間を取らせて済まなかったね。試合、頑張ってくれたまえ」
「陰ながら、あなた方を応援していますわ。勿論うちの生徒の次に、ですけどね」
「では七瀬、また会いに来ますね」
「今度は前もって連絡してくれ・・・」
俺の言葉に、悪戯っぽく笑う三咲姉なのだった。
二話続けての投稿となります。
今回は七瀬のお姉さん達を出しました。
シャノン「モチーフになったキャラがいるんでしょ?」
そうそう。五和と六月は、『デート・ア・ライブ』の耶倶矢と夕弦だよ。
シャノン「モチーフっていうか、ほぼそのままな気もするけどね」
それは言わないで!?
ちなみに三咲は、『トリニティセブン』のリリスです。
シャノン「ななっちには、他にもお姉さんがいるみたいだね?」
まぁねー。後々出てくるから、お楽しみに。
それではまた次回!