「このパエリア・・・絶品ですね」
「だろ?マジで美味いよな」
帰宅したクローディアが、美味しそうにパエリアを頬張っている。
こんな幸せそうな顔したクローディア、久々に見たな・・・
「それにしても、良かったですね。《吸血暴姫》と再会できて」
「あぁ、ホント良かったよ。今度改めてお礼するって約束もしてきたし」
「なるほど・・・デートの取り付け方がお上手ですね」
「デートじゃねーよ!?」
「しかも私が仕事に追われていた頃、七瀬はウルサイス姉妹と食事デートしていたなんて・・・本当に隅に置けませんね」
「そういう捉え方!?だからデートじゃないって!」
「フフッ、冗談ですよ」
面白そうに笑うクローディア。
だが、すぐに真面目な表情になる。
「それで、先ほどのお話ですが・・・私も七瀬と同意見ですね。《悪辣の王》が《吸血暴姫》を動かしたということは、何かろくでもないことを企んでいるんでしょう」
「だよなぁ・・・」
俺はクローディアに、イレーネが言っていたことを話したのだった。
「あのブタ野郎、一体何を企んでいるのやら・・・」
「そうですね。可能性があるとするなら・・・」
クローディアが俺を見た。
「え、何?」
「《悪辣の王》は、七瀬を潰したいのかもしれませんね」
「はい!?」
え、何でそうなるの!?
「あの六花園会議以降、あえてお聞きしなかったんですが・・・」
クローディアが、意を決したように口を開いた。
「七瀬・・・《戦律の魔女》とは、一体どのようなご関係なんですか?」
「・・・ッ!」
そういや、クローディアは全く聞いてこなかったな・・・
「・・・あの時の委任状には、七瀬の意見を支持すると書かれていました。普通に考えて有り得ないことです。生徒会長の意見は、学園全体の意見・・・つまり彼女はそれを、あなたに託したということになります。他学園の生徒であるあなたに、です」
俺を見つめるクローディア。
「よほどの信頼関係が無いと、そんなことは出来ません。何しろどの学園も、それぞれの学園と腹の探り合いをしているのですから。他の学園の生徒に、自分の学園の意見を委ねるなど・・・普通なら絶対に有り得ないんです」
「・・・信頼関係、か」
ため息をつく俺。
「《悪辣の王》が俺を潰したいって話と、一体どう繋がるんだ?」
「恐らく《悪辣の王》も、七瀬と《戦律の魔女》の関係を疑っています。もし七瀬が《戦律の魔女》と組んで、権力を持つようになったら・・・それを警戒しているのかもしれません。二人が組むということは、星導館とクインヴェールが組むことと等しいですから」
「なるほど・・・もしあのブタ野郎がそう考えているのなら、とんだお門違いだな」
鼻で笑う俺。
「俺は権力なんてものに興味は無い。アイツだって、別に俺と組もうだなんて考えちゃいないだろうさ。アイツも権力に興味なんて無いだろうしな」
「やはり《戦律の魔女》と、お知り合いなんですね・・・?」
俺はクローディアの問いに答えることなく、天井を見上げた。
「・・・クローディアには話したよな。俺が《神の拳》を封印した理由を」
「え?はい、話していただきましたけど・・・」
突然の話題転換に、戸惑っているクローディア。
「その話、ちゃんと覚えてるか?」
「え、えぇ・・・七瀬は《神の拳》を手に入れたことで、力に溺れてしまったんですよね?その結果、七瀬を止めようとした女の子を・・・」
そこまで言った時、クローディアがハッとした顔をする。
気付いたか・・・
「まさか・・・その女の子って・・・」
「・・・お察しの通りさ」
力なく笑う俺。
「その女の子こそが、《戦律の魔女》・・・シルヴィア・リューネハイムなんだよ」
*****
重苦しい雰囲気が漂う。クローディアが絶句していた。
「あの《戦律の魔女》を・・・七瀬が・・・?」
「・・・あぁ、殺しかけた」
俯く俺。
「昔の俺は、力加減ってものが出来なくてさ。星辰力をコントロールすることも出来なかった。当然、周りの人を傷付けることになって・・・俺の周りには、誰も近付いてこなかった。俺自身、他人に心を開くことも無かったしな」
ま、自業自得だよな・・・全て俺が未熟だったせいだ。
「そんな時に出会ったのがアイツ・・・シルヴィア・リューネハイムだ。何を思ったのか、やたらと俺に絡んできてさ。近寄るな、関わるなって・・・何度も突き放した。それでもアイツは、毎日のように俺のところにきたんだ」
当時はホントしつこかったよなぁ・・・マジでイラッときたし。
「そんな日が続いて、俺もいい加減キレたんだ。俺の側にいるとお前が傷付くだけだ、もう俺のところに来るなって・・・泣きながら叫んだ。アイツは俺の言葉を、ずっと黙って聞いててさ・・・泣いてる俺に近づいてきて、抱き締めてくれたんだ。『君はもっと、人の温かさに触れるべきだよ』って言ってくれてさ」
最初に出会った時のユリスは、ホントあの時の俺に似てたよなぁ・・・
まさかあのセリフを、俺が人に言うことになるなんて・・・あの時の俺じゃ、想像も出来なかったな。
「それ以来、俺はアイツに心を開くようになった。それから、毎日のように模擬戦をするようになったんだけど・・・アイツは当時から俺より強くて、全力で戦っても一度も勝てなかった。でもアイツとの戦いを重ねていくうちに、俺は力加減や星辰力のコントロール方法を覚えたんだ。ついでに、体術や戦い方もな」
「・・・なるほど。七瀬が素手でも強い理由が分かりました」
何処か呆れた様子のクローディア。俺は苦笑した。
「ま、煌式武装なんて使ったこと無かったしな。あの純星煌式武装・・・《神の拳》を手に入れるまでは」
アレを手に入れたことで、俺は変わってしまったんだ・・・
「クローディアも知ってると思うけど、純星煌式武装を使用するには代償が伴う。能力が強力なほど、求められる代償も高くなる傾向があることも知ってるよな?」
「・・・えぇ。《神の拳》には、どのような代償が?」
「二つあってな。一つは、大量の星辰力を消費することだ。並の《星脈世代》なら、あっという間に枯渇してしまうほどのな。まぁこの代償は、綾斗の持つ《黒炉の魔剣》にも言えることか」
「ですね。それで、二つ目の代償とは?」
「・・・精神への干渉だ」
「・・・ッ!」
息を呑むクローディア。
「まぁそうは言っても、身体を乗っ取られるわけじゃない。簡単に言うと、使い手の感情を増幅させるって感じだな」
「感情を増幅させる・・・?」
「例を挙げると・・・どうしても許せない相手には、怒りが増幅する。その相手に殺意を覚えていたら、その殺意も増幅するってことさ。当然、いつもより歯止めが効かなくなる」
「・・・とんでもないことじゃないですか」
「あぁ。俺は力に溺れたと言ったけど・・・正しく言うなら、力に呑まれたんだ」
そう、俺は《神の拳》に呑まれてしまった・・・
「・・・当時、俺のことを化け物だと中傷してくる奴らがいてさ。ある日《神の拳》を使って訓練していた時、ソイツらがやってきたんだ。俺への中傷はいつものことだったから、無視してたんだけど・・・ソイツら、シルヴィアのことまで侮辱したんだ。そこで俺の怒りは、自分じゃ抑えられないほどになって・・・我に返った時には、ソイツらを半殺しにしてた」
顔が青ざめているクローディア。ま、そうなるよな・・・
「そこからは、復讐劇の始まりだったよ。俺を中傷する奴らをボコボコにして、シルヴィアを侮辱する奴にも容赦なく力を振るった。シルヴィアが途中で止めに入ってくれなかったら・・・マジで殺してただろうな」
あの頃、だんだん歯止めが効かなくなってたもんな・・・
「シルヴィアも、流石に耐え切れなくなったみたいでさ。俺に決闘を申し込んできた。自分が勝ったら、もう《神の拳》を手放してほしいって言ってきたんだ。で、決闘することになった俺は・・・シルヴィアを殺しかけたってわけだ」
「・・・七瀬にとって、彼女は大切な存在だったんでしょう?どうしてそんな・・・」
「・・・さっきも言ったけど、《神の拳》は使い手の想いを増幅させる。どうしても勝ちたい相手には、勝利への執念が増幅するわけだ。そうなると・・・勝つ為の手段を問わなくなるんだよ」
「・・・ッ!つまり、どんな手を使ってでも勝ちたくなる・・・ということですか?」
「あぁ。だからこそ俺は、シルヴィアに《断罪の一撃》を使ってしまったんだ。シルヴィアがどうなるかなんて、考えもせずにな」
ホントバカだよな・・・あんなもの人に撃ったら、どうなるかなんて明白なのに。
「・・・後は話した通りだ。シルヴィアは何とか一命を取り留め、俺のことを許してくれたけど・・・俺は自分自身を許すことが出来なかった。シルヴィアの側にいる資格は無いと思って距離を置き、《神の拳》も封印した。で、今に至るというわけさ」
俺の言葉に、黙り込んでしまうクローディア。
流石に話が重すぎたよな・・・
「まぁ幸いなことに、《神の拳》を使っていない時に精神への干渉を受けることは無いけど・・・試合で使ったりする時は、少なからず受けることになると思う。昔より精神は安定してると思うし、歯止めが効かなくなることはないと思うけどな」
それにもう二度と、あんなことを繰り返すわけにはいかないんだ・・・
「それより・・・ゴメンな、クローディア。お前と一緒に生活する以上、きちんと話すべきだとは思ってたんだけど・・・」
「・・・良いんですよ」
俺の隣に移動してくるクローディア。腰を下ろし、そのまま俺に寄りかかってくる。
「誰にだって、話したくないことがあるものです。私にもありますし・・・七瀬は、それを聞きたいと思いますか?」
「・・・いや。話したくないことを、無理に聞こうとは思わないかな」
「でしょう?私も同じ気持ちですよ」
笑うクローディア。
「本当は、《戦律の魔女》との関係も聞くつもりはありませんでした。七瀬が言わないということは、言いたくないことなんだと思ったからです。ですが、《悪辣の王》が七瀬を狙っているかもしれない以上・・・聞かざるを得ませんでした。申し訳ありません・・・」
「良いさ。俺も話すきっかけができて良かったよ。それより・・・クローディアは、俺が怖くないか?」
「どうしてですか?」
「どうしてって・・・さっきの話を聞いたら、普通に考えて怖いと思うのが自然だと思うんだけど」
「では、私は普通ではありませんね」
クスクス笑うクローディア。
「私は七瀬を信頼していますので。それに以前も申し上げましたが、私が七瀬から離れるなんて有り得ませんから」
「クローディア・・・」
「・・・それより、一つ伺ってもよろしいですか?」
「ん?どうした?」
「七瀬は以前、《王竜星武祭》で戦いたい方がいると仰っていましたが・・・それってもしかして・・・」
「・・・あぁ、シルヴィアだよ」
頷く俺。
「俺がアスタリスクに来たのは、もう一度シルヴィアと戦う為だ。もう一度アイツと、胸を張れる戦いをしたいんだよ。あの決闘が最後じゃ・・・俺は前に進めないからな」
「そうですか・・・では、彼女とやり直すおつもりは?」
「ない」
俺はきっぱりと言い切った。
「さっきも言ったけど、俺にシルヴィアの側にいる資格は無い。《王竜星武祭》で戦うことが出来たら・・・俺はもう、アイツと会うつもりは無いよ」
「・・・そうですか。七瀬がそう決めた以上、私は何も申し上げません。ですが、彼女はそんなつもりは無いみたいですよ?」
「どういうことだ?」
「あら、以前にも申し上げませんでしたか?」
俺を見るクローディア。
「彼女は前回の六花園会議を欠席した時、七瀬に会いたかったと悔しがっていたんですよ?しかも委任状には、七瀬の意見を支持すると書いてありました。彼女の七瀬への想いは、変わっていないということでは?」
「・・・仮にそうだったとしても、俺は・・・」
言葉に詰まる俺なのだった。
こんにちは、ムッティです。
箱根駅伝を見て、盛り上がっています。
シャノン「作者っちも中学時代は陸上部だったんでしょ?」
まぁねー。最近は全然走ってないけどねー。
シャノン「あー・・・それでちょっとメタb・・・」
それではまた次回!
シャノン「あー!逃げるなー!」