「さて、今日の夕飯は何にしようかなぁ・・・」
放課後・・・買い物をする為、商業エリアまでやってきた俺。
迷うなぁ・・・
「クローディアも疲れてるだろうし、栄養価の高いものが良いよなぁ・・・」
考えながら歩いていた俺は、反対側から歩いてきた人とぶつかってしまった。
「あ、すいません!」
「いえ、大丈夫ですよ」
にこやかに笑う三つ編みの女の子。
あれ、何かイレーネに似てるな・・・髪の色も一緒だし・・・
と、俺はイレーネに妹がいたことを思い出した。
「あの、人違いなら申し訳ないんですが・・・プリシラ・ウルサイスさんですか?」
「はい、そうですけど・・・どちら様でしょう?」
首を傾げる女の子。やっぱり・・・
「星導館学園の、星野七瀬っていいます。あなたのお姉さん・・・イレーネさんに、前に助けてもらったことがあって」
「え、お姉ちゃんが人助けを!?」
驚いているプリシラさん。そういや、クローディアも驚いてたっけな・・・
「そんな驚きます?」
「す、すみません!お姉ちゃん、基本的にそういうことしない人なので・・・」
マジか・・・レアな体験だったんだな。
「いや、ホントに助かったんですよ。おかげで友達の危機に間に合いました」
「そうだったんですか・・・お姉ちゃん、お役に立てたんですね」
どこか嬉しそうなプリシラさん。
「でもそれ以来、イレーネさんとは会えてなくて・・・まだお礼ができてないんです。イレーネさんに、お礼は必ずするからと伝えてもらえますか?」
「あ、それでしたら・・・星野さん、この後ってお時間ありますか?」
「え?はい、大丈夫ですけど・・・」
俺の返事に、ニッコリ笑うプリシラさん。
「でしたら、これからお姉ちゃんのところへ行きませんか?」
「・・・はい?」
ポカンとしてしまう俺なのだった。
*****
「ここがイレーネの・・・?」
「はい、お姉ちゃんが使ってるマンションです」
やってきたのは、居住区にある洒落た感じのマンションだった。
「アスタリスクの学生って、原則として市街地で暮らしちゃいけないんじゃ・・・?」
「レヴォルフの《冒頭の十二人》の特典だそうですよ。表立っては言えない特典らしいですけど」
マジかよ・・・流石は悪名高きレヴォルフといったところか・・・
「プリシラもここに?」
「いえ、私はレヴォルフの寮で生活してますよ。お掃除やお料理の為に、ここにはよく来てますけどね」
マンションの中へ入っていき、一つの部屋の前で立ち止まるプリシラ。ポケットから鍵を取り出し、ドアを開ける。
「七瀬さん、どうぞ」
「お邪魔しまーす」
部屋に入る俺。プリシラに先導されてリビングへ入った瞬間・・・
「プリシラーっ!」
イレーネがプリシラに飛びついてきた。
「きゃっ!お姉ちゃん!?」
「会いたかったぜ、プリシラ!」
「もうっ!懲罰教室に入れられるようなことするからでしょ?」
「カジノで暴れただけじゃんかよー。何でぶち込まれなきゃなんねーんだ」
「自業自得でしょ?それより、お客様だよ」
「は?客?」
と、ようやくここで俺の存在に気付いたイレーネ。
「な、七瀬ええええええええええ!?」
「おう、イレーネ。元気?」
「元気?じゃねーわ!何でここにいんだよ!?」
「いやー、商業エリアで偶然プリシラに会ってさー。イレーネに助けてもらったって話をしたら、ここまで連れてきてくれたんだよ」
「おいテメェ!人の可愛い妹を呼び捨てとはどういう了見だゴラァ!」
「いや、プリシラに良いって言われたし」
ここに来る途中、さん付けと敬語は要らないと言われたのだ。
「ちょっとお姉ちゃん!七瀬さんに失礼だよ?」
「プリシラ!?お前も下の名前で呼んでんのか!?」
「お姉ちゃんだって呼んでるでしょ?七瀬さんがそう呼んでって言ってくれたの」
「七瀬!?まさかプリシラに手ぇ出したんじゃねぇだろうな!?」
「してないしてない。さっき初めて会ったんだぞ?」
コイツ、どんだけシスコンなんだ・・・
「ほら、馬鹿なこと言ってないで夕飯にするよ?七瀬さん、すぐに準備するので待ってて下さいね」
「あ、俺も手伝うよ。最近料理する機会が増えたから、少しは役に立てると思うし」
「良いんですか?じゃあお言葉に甘えて、手伝ってもらおうかな」
「おう、任せとけ」
二人でキッチンへ向かおうとすると、慌ててイレーネが飛んできた。
「あ、あたしも手伝う!」
「お姉ちゃんは料理できないでしょ?」
「あ、あたしだって・・・!」
「言っとくけど、カップラーメンは料理とは言わないよ?」
「うぐっ・・・」
言葉に詰まるイレーネ。どうやら、マジで料理は苦手らしい。
「じゃあ七瀬さん、お手伝いお願いします」
「了解。何を作るんだ?」
「んー、色々ありますけど・・・メインディッシュはパエリアにしようかなって」
「おー、栄養豊富そうだな。作り方とか教えてもらえるか?」
「勿論です。誰か作ってあげたい人でもいるんですか?」
「同じ部屋に住んでる奴が、最近かなり疲れ気味でさー。少しでも栄養価の高いものを食べさせたくて・・・」
「あ、あたしを除け者にするなあああああっ!」
イレーネの叫びが響き渡るのだった。
*****
「美味っ!このパエリア美味っ!」
「だろ?プリシラのパエリアは絶品なんだよ」
胸を張るイレーネの隣で、プリシラが照れくさそうに笑っていた。
いや、これはマジで美味い。店で出しても良いレベルだわ。
「プリシラは将来、間違いなく良い嫁になるな」
「よ、嫁って・・・」
赤面するプリシラ。イレーネが俺を睨んだ。
「おい七瀬!?テメェにプリシラは渡さねーぞ!?」
「安心しろ。そもそも俺みたいな男、プリシラの眼中に無いって」
「そ、そんなことありません!七瀬さんは素敵な男性だと思います!」
「プリシラ!?」
焦るイレーネ。イレーネってマジでシスコン・・・いや、妹想いと言うべきか。
「ホント仲の良い姉妹だよな。羨ましいよ」
「あ?七瀬は家族と仲悪いのか?」
「お、お姉ちゃん!?」
「別に悪くはないぞ?なかなか会えないけどな」
「ま、ここに来るとそうなるわな」
お茶をすするイレーネ。
あ、そうだ・・・
「そういや、お礼を言うのが遅れたな・・・あの時は助かった。おかげで友達のピンチに間に合ったよ」
「そうかい、そりゃ良かった。ま、あたしが気まぐれでやったことだ。恩を感じる必要なんざねぇよ」
「お姉ちゃんが人助けなんて珍しいよね。明日アスタリスクが崩壊したりして?」
「いや、人を何だと思ってんだ」
半眼のイレーネ。俺は思わず笑った。
「とにかく、ちゃんとお礼はさせてもらうから。それだけのことをしてもらったし」
「・・・そうかい。じゃ、焼肉でも奢れ。プリシラとご馳走になってやるよ」
「え、私も!?」
「了解。じゃ、今度三人で焼肉行こうか」
「良いんですか!?」
「勿論」
「よし、決まりだな。やったなプリシラ、タダ飯が食えるぞ」
「もう、お姉ちゃんったら・・・」
呆れているプリシラ。と、何かを思い出したような顔をする。
「あ、そうだ!デザートを用意してるんだった!今持ってきますね!」
「お、マジか!やったぜ!」
嬉しそうなイレーネ。プリシラがパタパタとキッチンへ向かう。
「・・・なぁ、イレーネ」
「ん?どうした?」
「イレーネはプリシラとタッグを組んで、《鳳凰星武祭》に出るんだよな?大丈夫か?」
「何が?」
「・・・見たところ、プリシラは特に鍛えられたような感じがしない。ひょっとして、戦った経験とか無いんじゃないのか?」
「へぇ・・・よく分かるな。ご名答だ」
あっさり答えるイレーネ。いや、ご名答って・・・
「お前が強いのは知ってるけど・・・戦った経験の無いプリシラと組んで、優勝出来るとは到底思えない。プリシラを危険な目に遭わせるだけなんじゃ・・・」
「・・・言われなくても分かってるさ」
俯くイレーネ。
「・・・あたしはな、七瀬。昔ディルク・エーベルヴァインに、莫大な金を借りた。既に望みは叶えてもらったんだ。今はアイツの命令に従うことで、借りた金を少しずつ清算してる。簡単に言うと、あたしはアイツの手駒なんだよ」
「・・・つまり今回の《鳳凰星武祭》出場は、《悪辣の王》の命令ってことか?」
「そういうこった。あたしもプリシラを危険な目に遭わせたくねぇけど・・・アイツの命令に対する拒否権はねぇからな。従うしかねぇのさ」
「・・・《悪辣の王》は、何でお前らを《鳳凰星武祭》に?」
「・・・悪いが、これ以上は言えねぇ。何処で誰が見張ってるか、分かんねぇしな」
「デザート持ってきましたぁ!」
プリシラがデザートを運んできたので、そこで話は終わってしまったのだった。
*****
「今日はすっかりご馳走になっちゃって・・・ありがとな」
「こちらこそ、楽しかったです」
屈託の無い笑顔を見せるプリシラ。
イレーネとプリシラは、わざわざマンションの前まで見送りにきてくれたのだった。
「それと、これ・・・マジで助かるわ」
紙袋を持ち上げる俺。パエリアやサラダなど、今日の夕飯を色々とおすそ分けしてもらったのだ。
ホントありがたいわ・・・
「いえいえ、作りすぎちゃったので」
「味わって食えって、同居人にも伝えとけよ」
「了解。クローディアの奴、喜ぶだろうなぁ」
俺の一言に、イレーネが驚いたような顔をする。
「クローディアって・・・まさか《千見の盟主》か!?」
「ん?あぁ、そうだよ」
「お姉ちゃん、知ってるの?」
「お前知らねぇのか!?星導館の序列二位・・・生徒会長だぞ!?」
「ええええええええええ!?」
驚くプリシラ。
「え、ちょっと待って・・・星導館の生徒会長さんって、確か女性だよね!?」
「七瀬、お前《千見の盟主》とデキてんのか!?」
「違うわ。事情があってだな・・・」
簡単に事情を話す俺。イレーネとプリシラが、哀れみの目を向けてくる。
「男子寮に部屋が無いとか・・・」
「苦労してますね、七瀬さん・・・」
「ま、今の生活も楽しいけどな」
苦笑する俺。
「クローディアには、色々と世話になってるからな。《鳳凰星武祭》が近付いて仕事も大変だろうし、一緒に生活してる以上は力になりたいんだ」
「・・・やっぱり七瀬さんは、素敵な男性ですね」
そう言ってくれるプリシラ。
「ま、ディルクよりは良い男だな」
「アイツと比べるの止めてくんない?」
あんなのと比べられたくないわ・・・
「まぁ頑張れ、序列三位の《覇王》さんよ」
「え、七瀬さんって序列三位なの!?」
「・・・プリシラ、後で勉強タイムだな」
ため息をつくイレーネ。どうやらプリシラは、そういった情報に疎いようだ。
「あぁ、頑張るさ。それと・・・《鳳凰星武祭》で負けるつもりも無いからな」
「言ってくれるじゃねぇか。お前のパートナーは、《疾風刃雷》だったよな?」
「あぁ。綺凛は俺より強いから、覚悟しておくんだな」
「ったく、厄介なタッグだぜ」
「お、お姉ちゃん・・・大丈夫なの?」
「大丈夫じゃねぇけど、やるしかねぇだろうよ」
プリシラの頭を撫でるイレーネ。
「心配しなくても、お前のことはあたしが守ってやるよ」
「お姉ちゃん・・・」
心配そうな顔をしているプリシラ。
《悪辣の王》の奴、この二人を《鳳凰星武祭》に出してどうするつもりなんだ・・・?
「今日トーナメント表を見たが、あたし達とお前らは予選じゃ当たらねぇ。当たるなら本戦だな」
「だからって油断して、予選で躓いたりするなよ」
「そのセリフ、そのまま返してやるよ」
不敵に笑うイレーネ。
「じゃ、そろそろ帰るよ。また連絡するから」
「おう、焼肉忘れんなよ」
「お気を付けて!」
二人に手を振り、帰り道を歩く俺。
《鳳凰星武祭》か・・・
「イレーネとプリシラ、大丈夫かな・・・」
あの《悪辣の王》のことだし、ろくでもないことを考えているに違いない。
二人が心配になる俺なのだった。
二話続けての投稿となります。
今回は女神・プリシラちゃんの登場でしたね。
イレーネ「おい作者、テメェプリシラを狙ってんじゃねぇだろうな!?」
出たなシスコン・・・狙ってないから安心しなよ。
イレーネ「本当か?」
本当だって。プリシラちゃんより綺凛ちゃん派だから。
イレーネ「おいテメェ!プリシラ派じゃねぇってどういうことだ!?」
面倒くさっ!?
シャノン「それではまた次回!」
ちょ、シャノン!?勝手に締めないで!?