学戦都市アスタリスク ~六花の星野七瀬~   作:ムッティ

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今日で2016年も終わるんだなぁ・・・


過去の過ち

 ≪エルネスタ視点≫ 

 

 「嘘・・・だろう・・・?」

 

 隣でモニターを見ていたカミラが絶句している。あたしもすぐには言葉が出なかった。

 

 あの巨大な竜が、拳一つで一瞬にして消し飛ぶなんて・・・

 

 「・・・なるほどね」

 

 あたしは、ようやく言葉を絞り出すことに成功した。

 

 「七瀬くんがどんな時でも素手で戦い続けたのは、あの純星煌式武装を使いたくなかったから・・・つまり、本気を出してなかったってことか」

 

 「あの純星煌式武装で、他にどんな技が繰り出せるのかは分からないが・・・序列一位になることなど容易いだろうな」

 

 「だろうね。《疾風刃雷》がいかに速くても、あれで攻撃されたらひとたまりもないでしょ。もう化け物レベルじゃん、あれ」

 

 正直、予想を遥かに超えていた。データうんぬんどころの話じゃない。

 

 でも・・・

 

 「・・・優しいね、七瀬くんは」

 

 「・・・だな」

 

 カミラが頷く。

 

 「あの純星煌式武装は、必要以上に相手を傷付けてしまう・・・だからこそ七瀬は、使わないという選択肢を選び続けたんだろう」

 

 「まぁ今回は、《疾風刃雷》を守る為に使わざるを得なかったようだけど・・・仕方ない状況だったよね」

 

 「あぁ。だが・・・」

 

 「どうしたの?」

 

 言葉に詰まるカミラの顔を覗き込む。

 

 「あれを目の当たりにした《疾風刃雷》が、七瀬のことをどう思うだろうと思ってな。七瀬から離れるようなことになったら、焚き付けた側としては申し訳ないなと・・・」

 

 「なーんだ、そんなことか」

 

 「そんなことって、お前な・・・」

 

 非難するような目であたしを見るカミラ。あたしはニッコリ笑った。

 

 「心配しなくても大丈夫。《疾風刃雷》は、七瀬くんから離れたりしないよ」

 

 あたしには確信があったのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「・・・助け、早く来ないかな」

 

 「・・・ですね」

 

 お互い下着姿で座り込んでいる俺達。濡れた服を着たままだと冷えるので、脱いで乾かすことにしたのだ。

 

 重苦しい雰囲気が漂う。

 

 「・・・ずっと疑問でした」

 

 綺凛が口を開いた。

 

 「どうして七瀬さんは、煌式武装を使わないんだろうって。あれだけの星辰力量があるなら、煌式武装を最大限に生かせるのに・・・」

 

 「いや、むしろ逆だよ」

 

 「逆・・・?」

 

 「星辰力量が多すぎて、普通の煌式武装じゃ耐えられないんだ。煌式武装が力を発揮する前に壊れる。生かす以前の問題だよ」

 

 苦笑する俺。

 

 「純星煌式武装なら、俺の星辰力量でも問題無く耐えてくれる。でも・・・」

 

 「あの純星煌式武装・・・《神の拳》を使いたくないんですね?」

 

 綺凛の言葉に、力なく頷く俺。

 

 「確かに強力な純星煌式武装だと思いますが・・・それを言うなら、天霧先輩の《黒炉の魔剣》だって危険な代物じゃないですか。リースフェルト先輩の炎だって、普通の人が食らったら・・・」

 

 「・・・そういう問題じゃないんだよ」

 

 俺はため息をついた。

 

 「俺は《神の拳》で・・・大切な人を殺しかけたんだ」

 

 「・・・ッ!」

 

 息を呑む綺凛。

 

 そう、忘れもしない・・・五年前のことだ。

 

 「当時《神の拳》を手に入れた俺は、その力に溺れた。自分こそが最強だと自惚れ、歯向かってくる奴には容赦なく力を振るった。そんな時、俺を止めようとしてくれた女の子がいたんだ。その子は俺にとって、恩人でもあって・・・凄く大切な人だった」

 

 当時のアイツは、必死で俺を止めようとしてくれたっけ・・・自分が勝ったら言うことを聞いてくれって、泣きながら勝負を申し込んできたんだ。

 

 「俺はその子と戦うことになった。今まで何度も戦ったことがあったけど、俺は一度も勝てたことがなくてさ」

 

 「七瀬さんが・・・一度も・・・?」

 

 唖然としている綺凛。アイツ、強かったもんなぁ・・・

 

 「《神の拳》を手にした以上、もう負けたりしないって思ってたんだけど・・・予想以上に苦戦を強いられてさ。段々と歯止めがきかなくなった結果、決して人に使ってはいけない禁断の技・・・《断罪の一撃》を、その子に使ってしまったんだ」

 

 「・・・ッ!そ、それで・・・その方は一体・・・」

 

 「・・・幸い、一命は取り留めたよ。咄嗟に全ての星辰力を、防御に回したんだ。それが無かったら・・・間違いなく死んでただろうな」

 

 あの時ほど、自分の愚かさを後悔した日は無い。

 

 自惚れていた自分を、必死で止めようとしてくれたアイツを殺しかけた自分を・・・殺したくなるほど後悔した。

 

 「何よりも辛かったのは・・・アイツが俺を許してくれたことだった。回復して面会が出来るようになって、ただ謝ることしか出来なかった俺に・・・アイツは笑顔を向けてくれた。『私が気にしてないんだから、君が気にする必要は無いんだよ』って・・・」

 

 自分を殺しかけた相手に、何でそんなセリフが言えるのか・・・俺には理解することが出来なかった。

 

 「俺には、この子の隣にいる資格なんて無い・・・そう思った俺は、その日からその子とは距離を置いた。そして・・・《神の拳》も封印した。さっきは五年ぶりに使ったけど」

 

 「・・・ごめんなさいです」

 

 俯いている綺凛。目には涙が滲んでいる。

 

 「私に力が無かったから・・・七瀬さんに、《神の拳》を使わせてしまいました。ごめんなさいです・・・ごめんなさいです・・・」

 

 泣きじゃくる綺凛。俺は綺凛の頭を撫でた。

 

 「・・・さっきの綺凛を見てたら、アイツのことを思い出してさ」

 

 「え・・・?」

 

 「アイツも、最後まで諦めない奴だったから。日本刀を構える綺凛を見て、何かアイツの姿と重なったんだ。綺凛を死なせたくない、守りたい・・・そう思った」

 

 「七瀬さん・・・」

 

 俺は綺凛の涙を、指でそっと拭った。

 

 「・・・アイツに言われたんだ。『君の力は、人を傷付ける為にあるわけじゃない。大切な人を守る為にあるんだよ』って・・・俺はお前を守る為に力を使ったし、後悔なんてしてない。だから、謝ることなんて何もないよ」

 

 俺は俯いた。

 

 「それより、俺が謝らないと・・・ゴメンな、怖い思いさせて。こんな化け物みたいな奴が側にいるなんて、恐怖でしかないよな。側にいたくないよな・・・」

 

 そこまで言った瞬間、俺の頬に強烈な痛みが走った。綺凛が俺の頬を引っぱたいたのだ。

 

 「き、綺凛・・・?」

 

 「どうしてそんなこと言うんですか・・・ッ!」

 

 俺を睨みつける綺凛。

 

 「自分のことを化け物だなんて・・・七瀬さんを侮辱する発言は、私が絶対に許しません!それが例え、七瀬さん本人であってもです!」

 

 綺凛の目から、再び涙が零れ落ちる。

 

 「私、そんな薄情な女に見えますか!?こんなことで七瀬さんから離れていくような、そんな女に見えるんですか!?だとしたら心外です!凄く不愉快です!」

 

 「綺凛・・・」

 

 「七瀬さん、私に言いましたよね!?自分の前では、我慢しないで素直になれって!あの言葉、凄く嬉しかったんですよ!?我慢しなくても良いんだって!七瀬さんには本音を聞いてもらえるんだって!凄く救われる思いでした!それなのに・・・」

 

 ボロボロと涙を零す綺凛。そのまま、俺の胸に顔を埋めてくる。

 

 「なんでそんな悲しいこと言うんですか・・・七瀬さんに恐怖なんて、感じるわけないでしょう・・・」

 

 「・・・ゴメン」

 

 綺凛、そんな風に思ってくれてたんだな・・・と、綺凛が俺を見上げた。

 

 「私・・・七瀬さんのお側にいたいです。ダメですか・・・?」

 

 「・・・本当に良いのか?」

 

 「勿論です。天霧先輩やリースフェルト先輩、会長だってそう思うはずです」

 

 「綺凛・・・ありがとな。これからもよろしく頼むよ」

 

 「はいっ」

 

 笑みを浮かべる綺凛なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「全く・・・どれだけ心配をかけたら気が済むんですか?」

 

 「すいませんでした・・・」

 

 頬を膨らませて怒るクローディアに、平謝りしている俺。

 

 あの後、俺と綺凛は無事に助け出された。事情聴取や念の為に精密検査を受けた後、昼過ぎにようやく寮の部屋に戻ってきたのだが・・・

 

 待っていたのは、激おこぷんぷん丸状態のクローディアだった。

 

 「ってか、学校はどうしたんだ?」

 

 「サボりました」

 

 「生徒会長なのに!?仕事あるよね!?」

 

 「下っ端の生徒会役員に押し付けました」

 

 「何してんの!?最低かお前!?」

 

 「誰のせいだと思ってるんですか?」

 

 「返す言葉もございません・・・」

 

 何も言えねぇ・・・

 

 と、クローディアがため息をついた。

 

 「まぁ、そういう事情なら致し方ありませんね・・・まさかアルルカントが、またしても仕掛けてくるとは・・・」

 

 「懲りない連中だよホント・・・まさかとは思うが、またエルネスタが絡んでるんじゃないだろうな・・・」

 

 「彼女が関与しているかは分かりませんが・・・恐らく実行犯は、アルルカントの《超人派》でしょう。あそこは生体改造技術が専門ですから」

 

 「なるほど・・・ま、いずれにしても証拠が無いよな」

 

 「えぇ・・・申し訳ありません」

 

 「クローディアは悪くないだろ」

 

 俺は苦笑しながらクローディアの頭を撫でると、そのまま優しく抱き締めた。

 

 「な、七瀬・・・?」

 

 「・・・心配かけてゴメン。俺は大丈夫だから」

 

 突然のことに驚くクローディアだったが、俺の言葉を聞いて背中に手を回してくる。

 

 「・・・ご無事で何よりです。お帰りなさい」

 

 「ただいま」

 

 笑い合う俺とクローディアなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「そんなことがあったのか・・・災難だったね」

 

 「全くだよ・・・」

 

 苦笑する綾斗に、ため息をつく俺。

 

 学校を休むことになってしまったので、俺は放課後に谷津崎先生の下へ謝罪に訪れた。珍しいことに、先生は俺の身体を気遣ってくれたのだった。

 

 今はユリス専用のトレーニングルームに立ち寄り、トレーニングしていた二人に事情を説明したところである。

 

 「アルルカントの奴らめ・・・許せん」

 

 メラメラ燃えているユリス。

 

 「懲りずに七瀬を襲いおって・・・タダでは済まさんぞ」

 

 「落ち着けユリス」

 

 苦笑する俺。

 

 「サイラスの一件と違って、今回は証拠が無いんだ。何も出来ないさ」

 

 「それは分かっているが・・・!」

 

 悔しそうなユリス。俺はユリスの頬に手を添えた。

 

 「ありがとな、俺の為に怒ってくれて。その気持ちだけで十分嬉しいよ」

 

 「と、当然だ!大切な友人が襲われたのだからな!」

 

 顔を赤くするユリス。

 

 と、チャイムのような音が鳴った。少し遅れて、空間ウィンドウが展開される。そこに映っていたのは・・・

 

 「え、綺凛?」

 

 そう、間違いなく綺凛だった。どうしてこんな所に・・・

 

 「ユリス、入れてもらって良いか?」

 

 「あぁ。構わんぞ」

 

 ユリスが操作すると、トレーニングルームの扉が開いた。そこから綺凛がおずおずと入ってくる。

 

 「し、失礼します・・・」

 

 「おー、綺凛」

 

 手を上げる俺。綺凛がニッコリと笑う。

 

 「どうしてここに?」

 

 「七瀬さんがこちらにいるとお聞きしたので」

 

 「え、誰から?」

 

 「会長です。お部屋に伺ったら、こちらにいるのではないかと」

 

 「・・・アイツエスパーなの?」

 

 何か怖いんだけど・・・

 

 と、綺凛が綾斗とユリスにぺこりと一礼した。

 

 「天霧先輩、リースフェルト先輩、こんにちは」

 

 「やぁ、刀藤さん」

 

 「話は聞いたぞ。災難だったな」

 

 「い、いえ・・・七瀬さんのおかげで助かりました」

 

 苦笑している綺凛。

 

 「ところで、何かあったのか?」

 

 「はい。七瀬さんにご報告がありまして」

 

 「報告?」

 

 「私・・・もう伯父様の言いなりになるのはやめました」

 

 覚悟を決めた表情の綺凛。

 

 「先ほど、伯父様にもお話させていただきました。これからは、私のやり方でここで戦っていくと」

 

 「マジか・・・で、伯父さんは何て?」

 

 「怒ってらっしゃいましたが・・・無視してきました」

 

 「・・・そっか」

 

 笑う俺。

 

 あのジジイはさぞ怒り狂っているだろうが・・・これは綺凛が決めた道だ。あのジジイがとやかく文句を言う資格など無い。

 

 「・・・刀藤さん、どういう心境の変化だい?」

 

 驚いている綾斗。綺凛が微笑む。

 

 「伯父様の言いなりになっていたら、いつかきっと後悔する・・・そう思ったんです」

 

 「綺凛・・・」

 

 「私は私のやり方で戦います。父に対して、胸を張れる自分でいたいんです」

 

 言い切る綺凛。うん、良い表情だ。

 

 「よし、一緒に頑張ろうな」

 

 「はいっ」

 

 笑顔で頷く綺凛なのだった。

 




こんにちは、ムッティです。

シャノン「作者っち、今日で2016年も終わりだねー」

ねー。もう2017年になるねー。

シャノン「来年こそ私の出番を・・・」

それではまた次回!

シャノン「ちょ、無視するなー!」

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