「よし、ここなら良いかな」
綺凛とランニングをすること三十分。俺達は空き地へとやってきていた。
「ここなら手合わせしても、周りに迷惑はかからないだろ」
「すみません、急にこんなお願いをしてしまって・・・」
「良いって。序列一位と手合わせ出来るなんて、俺としても貴重な機会だしな」
綺凛は伯父さんから、他の生徒と訓練しないように言われているらしい。不用意に手の内を見せないようにする為だそうだ。
なので一人で訓練しているらしいのだが、当然一人では組み太刀などが出来ない。そこで、俺と手合わせをしてほしいんだそうだ。
「・・・私、七瀬さんの前では素直になることにしました。伯父様の言いつけを破ることになりますが、それでも七瀬さんと手合わせしたかったんです。あの時から・・・」
「あの時・・・?」
「天霧先輩とリースフェルト先輩の決闘の時です。あの時、七瀬さんは私を助けてくれました。あの時から私、七瀬さんと手合わせしてみたかったんですよ」
微笑む綺凛。
「星辰力だけで爆風を防ぐなんて、初めて見ました。あの時から七瀬さんに興味を持って、ネットに流れていた決闘の映像も拝見させていただいて・・・」
「・・・ネットって怖いわぁ」
星露もネットで決闘の映像を見て、俺に興味を持ったとかいう話だったもんな・・・
「ですから、手合わせしていただけるなんて光栄です。よろしくお願いします」
「期待してるとこ悪いが、俺は綾斗より弱いぞ」
「それは私が見極めさせていただきます」
日本刀を構える綺凛。俺も手刀を構えた。
そして・・・
「やぁっ!」
「はぁっ!」
同時に地面を蹴り接近。日本刀と手刀がぶつかる。
「これが星辰力を纏った手刀・・・すごく固いですね」
「え、下ネタ?」
「違いますよ!?」
緊張感の無いやりとりをしつつ、打ち合う俺と綺凛。
「流石は《疾風刃雷》、剣速が尋常じゃないな!」
「それに完全に付いてきてる七瀬さんも尋常じゃないですよ!」
綺凛はそう言ってくれるが、俺は両手を使ってるから二刀流なんだよな・・・だからこそ、何とか綺凛と打ち合えているだけだ。
しかも綺凛の攻撃は、一撃一撃の繋ぎ目が恐ろしく滑らかすぎる。反撃の余地が全く無く、俺は防戦一方だった。
「くっ・・・」
俺は右足に星辰力を集中させ、綺凛の脇腹に蹴りを放つ。綺凛がジャンプしてかわしたところで、拳を放つ。
当然刀でガードしてくるが、構わず力で押し切った。
「はぁっ!」
「ぐっ・・・」
そのまま後ろに吹き飛ぶ綺凛。空中で一回転し、華麗に着地を決める。
「身軽だなぁ・・・」
感心している俺。綺凛は苦笑していた。
「まさか力技で『連鶴』から逃れられるとは思いませんでした」
「『連鶴』?」
「刀藤流の奥義です。刀藤流には四十九に及ぶ繋ぎ手の型があり、それを組み合わせることで完全なる連続攻撃を成す技・・・それが『連鶴』です」
「・・・なるほど、道理で滑らかな攻撃だと思ったよ」
完全なる連続攻撃なら、そりゃ反撃の余地も無いわな。
「私の『連鶴』から逃れられたのは、七瀬さんが初めてです」
「おー、俺が綺凛の初めてをもらっちゃったわけだ」
「その言い方は誤解を招くので止めて下さい!」
顔を真っ赤にして叫ぶ綺凛。
「おやぁ?綺凛は何を想像してるのかなぁ?」
「絶対わざとですよね!?分かってやってますよね!?」
「ちょっと何言ってるか分かんない」
「何でですか!?」
綺凛は面白いなー。と、その時だった。
『・・・ッ!』
二人同時に、何かの気配に気付く。これは・・・
「・・・七瀬さん、何か変じゃありませんか?」
「だな・・・恐らく人じゃない」
四・・・いや、五つの何かがこちらに近付いてくる。身構える俺達の前に、霧の中から姿を現したのは・・・
「・・・何これ」
見たことも無い生き物だった。大型のネコ科動物のような体躯でありながら、外皮は硬い鱗で覆われている。顔は爬虫類のようで、口から鋭い牙が覗いていた。
五匹とも、明らかに俺達へ敵意を向けている。
「何か翼の無い竜っぽいな・・・綺凛、ペットの趣味が悪いぞ」
「私のペットじゃないですよ!?でも・・・ちょっと可愛いかも」
「・・・お前の感性を疑うわ」
呆れている俺に、竜もどきが襲い掛かってくる。手刀で竜もどきの首を斬る俺。
「ハウス!」
「いや、家じゃなくてあの世に帰っちゃいましたけど!?」
綺凛が上手いことを言っていた。
だがその時、竜もどきの身体がスライム状に溶けた。そしてゆっくりと盛り上がっていき、十秒ほどで元通りの姿へと戻る。
「生まれ変わるの早くね?」
「いや、違うでしょう!?」
綺凛のツッコミ。竜もどき達に囲まれ、背中合わせになる俺と綺凛。
「・・・星辰力の流れから察するに、どうやらコイツらには核があるみたいだ」
「ですね・・・恐らく、核を壊さないと倒せないんでしょう」
「ってか今さらだけど、お前星辰力の流れに敏感だな。核の存在が分かるなんて」
「七瀬さんこそ。まぁ、あれだけの星辰力を扱えるなら納得ですが」
と、再び竜もどき達が襲い掛かってくる。俺は核の位置を読み取った。
そして・・・
「はぁっ!」
両手の手刀で、二体の核を貫いた。二体がスライム状に溶けるが、今度は再生しない。綺凛の方を見ると、見事に三体を仕留めていた。
「ふぅ、終わったな」
「えぇ。ですが、この子達は一体・・・」
地面に転がっていた核の残骸を拾い上げる俺。それは明らかに人工物だった。
「・・・ってことは、やっぱりアルルカントだな」
「アルルカント?」
「説明すると長くなるんだけど・・・」
俺が説明しようとした時、突然爆発音がした。地面が揺れ、俺と綺凛の立っている地面に亀裂が入った。
まさかさっきの爆発って・・・
「地下か・・・ッ!」
気付いた時には遅く、俺と綺凛の立っていた地面が陥没した。そのまま二人で地下へと落ちていく。
「きゃあああああっ!?」
「綺凛!」
悲鳴を上げる綺凛。俺は綺凛の肩を掴み、庇うように抱き寄せた。
次の瞬間、衝撃と冷たさを感じる。もしかして・・・水?
「ぷはぁっ!」
綺凛を抱きかかえたまま、水面から顔を出す。
「綺凛、大丈夫か!?」
「けほっ・・・!こほっ・・・!な、何とか大丈夫ですぅ・・・」
半泣きの表情で返事をする綺凛。
「た、助かりました・・・ありがとうございます」
「無事で良かったよ」
ホッとする俺だったが、綺凛が必死に俺にしがみついていることに気付いた。
あれ、ひょっとして・・・
「もしかして綺凛・・・泳げないのか?」
「はうっ!?」
恥ずかしそうに俯く綺凛。どうやら図星らしい。
「ご、ごめんなさいです・・・」
「いや、謝ることじゃないって。身体能力の高い綺凛が、泳げないっていうのが意外だったからさ」
「昔から、泳ぎだけはどうにも苦手で・・・」
「へぇ・・・ま、人には得手不得手があるもんだよ」
綺凛を励ます俺。それにしても・・・
「ここ、どこ?」
恐ろしく巨大な空間を見渡す俺。アスタリスクの地下にこんな場所があったとは・・・
「恐らく、バラストエリアではないでしょうか」
「何それ?」
「アスタリスクはメガフロートですから、バランスを取る為の重りとして水を利用しているんだと思います。その水を貯めている場所が・・・」
「ここ・・・バラストエリアってわけか」
綺凛の説明に納得する俺。
「ってことは、何処かに点検用の出入り口があるんじゃないか?」
「恐らくあると思います。それを探しましょう」
「よし、とりあえず綺凛が泳いで探してくれ」
「さっき泳げないって言いましたよねぇ!?」
「冗談だって」
涙目で抗議してくる綺凛の頭を、笑いながらポンポン叩く俺。
と、その時だった。
『・・・ッ!』
またしても、何かの気配を察知する俺達。少し離れた水面から、巨大な何かが浮上してきた。
それは・・・
「おいおい、嘘だろ・・・」
「何ですかアレ・・・」
絶句してしまう俺達。目の前で、巨大な竜が鎌首をもたげていた。水面に出ているだけで十メートルはあるから、全長は少なくとも十五メートル以上はあるだろう。
「・・・あれは竜もどきじゃなくて、完全に竜だな」
「ですね・・・」
その時、竜の口から火球が放たれた。マズい・・・!
「綺凛!息を止めろ!」
叫んですぐに、綺凛を抱えたまま水中に潜る。そのまま水中を泳ぎ、少し離れたところから再び顔を出した。
「ぷはぁっ!綺凛、大丈夫か!?」
「だ、大丈夫です!」
再び竜が俺達の方を向く。どうしたものか・・・
と、ここであることに気付いた。
「なぁ綺凛、あの柱って一本ぐらい壊れても大丈夫だと思う?」
「はい?」
首を傾げる綺凛。そう、この空間には所々に分厚い柱が立っているのだ。恐らく、この空間を支えているのだろう。
「・・・恐らく大丈夫だと思います。これだけ柱があるなら、一本壊れても他の柱でどうにか支えられるでしょうし」
「決まりだな」
俺は綺凛を抱え、柱の側に近付く。その時、竜が火球を放った。
「七瀬さん!」
「分かってる!」
俺はすぐに水中へ潜った。火球は柱に衝突し、柱に大きなクレーターができた。よし、作戦成功だな。
「綺凛、クレーターに上がるぞ」
「は、はいっ」
二人でクレーターに上がる。これで何とか足場を確保できたが・・・
「さて・・・あの竜をどうしようか」
恐らく地面が陥没したのは、あの竜が火球を爆発させたからだろうが・・・アスタリスクの地盤が、あの程度で破壊できるとは思えない。
となると、人為的に壊れやすくしておいたってことか・・・
「七瀬さん、あの子の核ですけど・・・」
「あぁ、体内を動き回っているな」
綺凛の言葉に頷く俺。と、竜が猛スピードでこちらに突進してきた。こちらに逃げ場など無いので、このままだともろにタックルを食らうことになる。
「くっ・・・!」
日本刀を構える綺凛。日本刀では太刀打ち出来ないと分かっていて、それでも諦めずに立ち向かおうとしている。
何だか似てるな、アイツに・・・
『君の力は、人を傷付ける為にあるわけじゃない。大切な人を守る為にあるんだよ』
・・・怖気づいてる場合じゃないよな。
「・・・綺凛、下がれ」
「え・・・?」
驚いている綺凛。俺は綺凛の前に立つと、深く息を吸った。
そして・・・
「・・・来い。《神の拳》」
俺が呟くと、俺の両手に金色の拳型煌式武装が装着される。
「・・・ッ!煌式武装!?」
驚愕している綺凛。俺は右手で拳を作り、星辰力を集中させる。拳に星辰力が集まり、光り輝いた。
そして、竜が目と鼻の先まで接近した瞬間・・・
「《断罪の一撃》ッ!」
拳を勢いよく繰り出した。拳がぶつかった瞬間、竜の身体が眩い光に呑まれる。
次の瞬間、竜の身体は跡形も無く消え去っていた。凄まじい衝撃波で、竜がいた水面から極太の水柱が吹き上がる。
「えっ・・・」
水飛沫を大量に浴びながら、訳が分からないといった顔をしている綺凛。
「な、何が・・・」
「・・・消し飛んだのさ」
淡々と答える俺。
「《断罪の一撃》は、その名の通り一撃で相手を葬り去ることの出来る技だ。普通の人間や、星辰力の少ない《星脈世代》がまともに食らったら・・・今の竜みたく、塵すら残さず消し飛ぶ」
俺の言葉に、顔が青ざめる綺凛。
「じゃ、じゃあ・・・星辰力がそれなりにある《星脈世代》が食らったら・・・?」
「・・・消し飛びはしないだろうけど、大ケガは免れないな。最悪、命を落としてもおかしくはない」
絶句してしまう綺凛。
「そ、その煌式武装は一体・・・」
俺は金色に輝く煌式武装を見下ろした。
「綾斗の持つ《黒炉の魔剣》と同じ・・・って言ったら分かるか?」
「・・・ッ!まさか・・・純星煌式武装!?」
「正解」
驚愕している綺凛に対し、力なく笑う俺。
「正式名称は《神の拳》・・・人が持つには、あまりに出過ぎた代物さ」
こんにちは、ムッティです。
シャノン「あ、正気に戻ったんだね?」
ゴメンゴメン、リア充に対する憎しみが強すぎて・・・
シャノン「過去に何があったの!?」
・・・聞きたい?
シャノン「いや大丈夫!話さなくて良いから!」
あれは俺が中学生の時・・・
シャノン「わーっ!?そ、それではまた次回!」
あ、無理矢理締められた・・・