学戦都市アスタリスク ~六花の星野七瀬~   作:ムッティ

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ラーメン食べたい・・・


綺凛の本音

 「ほい、紅茶で良かったんだよな?」

 

 「は、はい!ありがとうございます・・・」

 

 恐縮している綺凛。とりあえず立ち話もアレなので、部屋に上がってもらったのだ。

 

 「それにしても、凄く広い部屋にお住まいなんですね」

 

 「二人で住んでも十分すぎる広さだしな。前はクローディア一人で住んでたっていうんだから、贅沢な話だよなぁ」

 

 「生徒会長ですもんね」

 

 他愛も無い会話をする俺達。と、綺凛が俯いた。

 

 「あの・・・昼休みのことなんですが・・・」

 

 「・・・聞いたよ。伯父さんから平手打ちされたんだって?」

 

 「・・・はい。天霧先輩は、そんな私を庇って下さって・・・」

 

 目に涙を浮かべる綺凛。

 

 「ですが、私は伯父様の命令に逆らえなくて・・・天霧先輩と決闘することになってしまって・・・申し訳ないです」

 

 「・・・綺凛はさ、何が目的で伯父さんの命令に従ってるんだ?伯父さんに利用されてることは、お前だって分かってるんだろ?」

 

 俺の問いに、綺凛はこくりと頷いた。

 

 「私は・・・父を助けたいんです」

 

 「お父さんを・・・?」

 

 「はい。私の父は今、罪人として収監されているのです」

 

 悔しそうな表情をする綺凛。

 

 「父は、何も悪いことはしていないんです。ただ私を助けてくれただけで・・・」

 

 「何があったんだ・・・?」

 

 「五年前、私と父がいたお店に強盗が入って・・・人質にされそうになった私を、父は助けてくれたんです。でもその時、不可抗力とはいえ強盗犯を殺めてしまって・・・」

 

 「・・・正当防衛が成立していないところを見ると、その強盗犯は《星脈世代》じゃなかったってことか」

 

 《星脈世代》が常人を傷付けた場合、過剰防衛とされることが多いからな・・・

 

 俺の言葉に、悲しそうに頷く綺凛。

 

 「このままだと、父はあと数十年は出てこられません。そんな時、伯父様が私に声をかけて下さったのです。一つだけ、父を助け出す方法があると」

 

 「《星武祭》で優勝すること・・・それで綺凛はアスタリスクへ来たのか?」

 

 「はい。伯父様に利用されていようとも、それで父を救い出せるのなら構いません」

 

 「綺凛・・・」

 

 そこまでの強い覚悟を持って、ここに来たのか・・・まだ十三歳の女の子が・・・

 

 「・・・あのジジイ、自分の権限を使って綺凛のお父さんを助け出せないのかよ」

 

 「いくら伯父様の権限が強くても、それは無理だと思います。それに・・・例えそれが可能だとしても、伯父様は拒否するでしょう」

 

 「え、何で?」

 

 「伯父様は、父と折り合いが悪いんです。長兄であるにも関わらず刀藤流を継げなかったのは、弟である父が《星脈世代》だからだと考えているようでして・・・ですから伯父様は、《星脈世代》を嫌っていらっしゃるんです」

 

 「そういや、伯父さんは《星脈世代》じゃないんだっけ・・・ってか、刀藤流って?」

 

 「うちの剣術の流派です。剣術にはそれぞれ流派があるんですよ。ちなみに天霧先輩の剣術は、お見受けした感じでは古流のようです」

 

 「あぁ、そういや天霧辰明流とか言ってたな・・・」

 

 俺は剣術には疎いから、流派とかさっぱり分かんないけど。

 

 「まぁ話を元に戻すけど・・・《星武祭》で優勝して、お父さんを助けたいんだよな?ってことは、綺凛も《鳳凰星武祭》にエントリーしてるのか?」

 

 「いえ・・・伯父様は、二年後の《王竜星武祭》で私を優勝させることを考えているようです」

 

 「何で《王竜星武祭》なんだ?」

 

 「今は名前を売る為に、有名な学生と決闘させる時期だと考えているようです。私が《王竜星武祭》を無敗のまま制し、それをサポートした自分を銀河の上層部に評価してもらおうという考えのようで・・・」

 

 「・・・なるほど。《王竜星武祭》なら個人戦だし、誰かと組む必要も無いからな」

 

 あのジジイ、用意周到に計画を練ってるのな・・・

 

 「でもそれだと、お父さんが助かるのは早くても二年後なんじゃ・・・」

 

 俺の言葉に、綺凛は俯いた。

 

 「・・・二年で済むなら、それで良いです。あと数十年も出られないより、遥かにマシですから」

 

 「・・・お前がそれで良いなら、俺は何も言わない。でも、そう簡単に次の《王竜星武祭》を制することが出来るとは思わない方が良いぞ。二連覇中の《孤毒の魔女》や、前回のファイナリスト・・・《戦律の魔女》も出てくる。それに・・・」

 

 俺は綺凛を見つめた。

 

 「次の《王竜星武祭》には、俺も出るつもりだ。お前にどんな事情があろうが、俺も負けるつもりはない」

 

 「・・・そうでしたか。では、七瀬さんともライバルになりますね」

 

 無理矢理作ったような笑顔を見せる綺凛。

 

 あぁ、もう・・・

 

 「何で俺の周りには、こうも不器用な奴しかいないのかなぁ・・・」

 

 「七瀬さん・・・?」

 

 「綺凛、お前は本当にそれで良いのか?」

 

 「え・・・?」

 

 「本当は、今すぐにでもお父さんを助けたいんだろ?」

 

 「・・・ッ!そ、それは・・・」

 

 言葉に詰まる綺凛。あぁ、もうめんどくさいな!

 

 「お前の本心を言え!お前はどうしたいんだ!?自分の本心すら言えずに、いつまでもうじうじしやがって・・・お前マジでガキだな!」

 

 「・・・ッ!」

 

 「あぁそうだよな!お前まだ十三歳のガキだったな!伯父さんの力が無けりゃ何も出来ないクソガキだもんな!」

 

 「あぁそうですよ!ガキですよ私は!」

 

 流石にカチンときたらしく、勢いよく立ち上がる綺凛。

 

 「伯父様の力が無いと何も出来ないんです!剣術しか取り柄のないガキなんですよ!」

 

 「偉そうに言ってんじゃねぇ!自分の本当の気持ちも言えないような弱虫が、いきがってんじゃねぇぞ!」

 

 「酷いです!言って良いことと悪いことがあるでしょう!」

 

 「そんな気を遣う義理はねぇよ!悔しかったら正直な気持ちを話してみろっての!」

 

 「それを話したところで、何が変わるっていうんですか!?」

 

 「口に出さなきゃ、変わるものも変わんねぇだろうが!お前はどうしたいんだ!?俺はお前のくだらない建前じゃなくて、本音を聞いてんだよ!」

 

 「今すぐ父を助けたいに決まってるでしょう!」

 

 綺凛の目から、ボロボロ涙が零れ落ちる。

 

 「二年後なんて待てない・・・今すぐ父を・・・助けてあげたいっ・・・うぅ・・・」

 

 両手で顔を覆い、ソファに座り込む綺凛。やれやれ・・・

 

 「ようやく、お前の本音が聞けたな・・・」

 

 綺凛の隣に座り、頭を撫でてやる。

 

 「・・・伯父さんの前では、あれだけ我慢してるんだ。せめて俺の前でくらい、我慢するのは止めろよ。お父さんを助ける前に、お前の心が壊れたら本末転倒だろ」

 

 「七瀬さん・・・」

 

 涙を流しながら、俺を見上げる綺凛。

 

 「何でも一人で抱え込むなよ。大事な後輩が一人で苦しんでる姿を見るのは、正直こっちも辛い。何でも聞いてやるから、俺にはちゃんと本音を言ってくれ」

 

 俺は綺凛に微笑んだ。

 

 「今までよく一人で頑張った。ここからは、俺が付いてるからな」

 

 「・・・ッ!うぅ・・・うわあああああっ!」

 

 俺の胸に顔を埋め、綺凛は泣き叫んだ。今までずっと我慢していた分、とめどなく涙が溢れている。俺は綺凛を優しく抱き締め、頭を撫でてやった。

 

 それからどれぐらいの時間が経っただろうか・・・綺凛は泣き止み、顔を真っ赤にしていた。

 

 「す、すみません・・・見苦しい姿をお見せして・・・」

 

 「言ったろ?俺の前では我慢するなって」

 

 笑う俺。

 

 「泣きたかったら泣け。お前はすぐに溜め込むから、ちゃんと発散しないとダメだぞ」

 

 「は、はううううう・・・」

 

 恥ずかしそうに俯く綺凛。

 

 「あぁ、それと・・・さっきは色々と酷いこと言ったけど、あれは嘘だからな。俺は綺凛のこと、凄い奴だと思ってる。だから綺凛も、もっと自分を誇って良いんだぞ」

 

 「・・・ッ!あ、ありがとうございます!」

 

 赤面しつつ、嬉しそうに笑う綺凛なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「いっちにー、さーんしっ・・・」

 

 早朝、寮の前でストレッチをしている俺。

 

 六花園会議以来、俺は早朝にランニングすることを日課にしていた。星露の言っていた眠っている力とやらを引き出す為、色々と試しているのだ。

 

 それにしても・・・

 

 「今朝はやけに霧が深いなぁ・・・」

 

 アスタリスクが浮かぶ湖と大気の温度差から、ここでは霧が発生しやすい。今日は特に温度差があるらしく、いつにも増して深かった。

 

 と・・・

 

 「あれ、七瀬さん?」

 

 ふいに声をかけられる。振り向くと、トレーニングウェア姿の綺凛が立っていた。

 

 「おー、綺凛。おはよう」

 

 「おはようございます。昨日はその・・・色々とありがとうございました」

 

 「気にすんなって」

 

 赤面している綺凛に対し、笑う俺。

 

 あの後、一緒に綾斗のところにも行った。謝る綺凛に対し、綾斗も気にしていないと笑ってたっけな。

 

 「それより、今からトレーニングか?」

 

 「は、はい。早朝のランニングが日課でして・・・」

 

 「お、一緒じゃん。俺も今からランニングだし、良かったら一緒に走ろうぜ」

 

 「い、良いんですか?」

 

 「勿論」

 

 俺の言葉に、嬉しそうに笑う綺凛。

 

 「では、そうさせていただきます。よろしくお願いします」

 

 「おう。とりあえず学園の外に出て、アスタリスクの外周を回る感じでいこうか?」

 

 「はいっ」

 

 と、ここで綺凛が上目遣いに俺を見た。

 

 「あ、あの・・・七瀬さんにお願いがあるんですが・・・」

 

 「ん?どうした?」

 

 「わ、私と・・・手合わせしていただけませんか?」

 

 「・・・は?」

 

 キョトンとする俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 ≪エルネスタ視点≫

 

 「《超人派》の奴らが動いたって?」

 

 「あぁ、お前の作戦通りだ」

 

 カミラからの報告を聞き、あたしはガッツポーズをした。

 

 「よし!焚き付けた甲斐があったってもんだね!」

 

 サイラスくんの一件が、アルルカントに損害を与えたってうるさかったからねー。

 

 あたしが失敗した原因を連中が排除することに成功したら、連中はあたしより優れた研究結果を出したってことになる。

 

 そこを狙って焚き付けたんだけど・・・上手くいったね♪

 

 「本当に良かったのか?お前が失敗した原因は、天霧綾斗だろう?だが、連中のターゲットは・・・」

 

 「七瀬くん、でしょ?」

 

 そう、あたしの狙いは七瀬くん・・・正確には、七瀬くんのデータを取ることだ。

 

 「剣士くんのデータは、人形ちゃん達との戦いで十分取れたもん。でも七瀬くんのデータは、全く取れなかった。だからあたしは、七瀬くんのデータが欲しいの」

 

 「それで連中を焚き付けたのか・・・自分が失敗した原因は、七瀬だと吹聴して」

 

 「実際、あたしは七瀬くんが原因だったと思ってる。彼がいなかったら、サイラスくんも《華焔の魔女》の闇討ちに成功してただろうしね」

 

 「まぁ確かにな・・・」

 

 確かに、剣士くんの強さは凄かった。でもそれ以上に、あたしは七瀬くんが気になっていた。

 

 どんな時でも素手で戦う姿勢、度重なる闇討ちから《華焔の魔女》を救った実力、サイラスくんの企みを見抜いた観察眼・・・剣士くん以上に厄介な存在だ。

 

 だからこそ、七瀬くんのデータが欲しいんだよねー。

 

 「で、どのあたりまで釣れたのかにゃ?《大博士》を引っ張りだせたりした?」

 

 「あいつが出てくるわけないだろう。この件に関わっているのはその下、《超人派》の副会長までだ」

 

 「用心深いわねー。ま、いっか。これで予定より長く連中を押さえておけそうだし」

 

 「・・・お前は本当に賭けが好きだな。危ない橋を渡りすぎだぞ」

 

 呆れたように言うカミラに、あたしはニヤリと笑った。

 

 「にゃははっ、その方が面白いんだから仕方ないのよん」

 

 さて・・・楽しませてよね、七瀬くん♪

 




二話続けての投稿となります。

シャノン「作者っち、年末だけど大掃除は良いの?」

部屋の大掃除は終わったよ。

シャノン「マジで!?早くない!?」

クリスマスに一人で大掃除してたからねぇ・・・フフフ・・・

シャノン「さ、作者っち?」

リア充共を恨みながら、要らない物をバンバン捨てて・・・ハハハ・・・

シャノン「さ、作者っちが壊れたー!?」

色々とスッキリしたなー!アハハハハ!

シャノン「そ、それではまた次回!作者っち、正気に戻ってよー!?」

アハハハハー!

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