学戦都市アスタリスク ~六花の星野七瀬~   作:ムッティ

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映画観に行こうかなぁ・・・


七瀬の怒り

 「あー、眠い・・・午後の授業サボろうかな」

 

 「そんなことをしてみろ。谷津崎女史が黙っていないぞ」

 

 呆れているユリス。俺とユリスは昼食を済ませ、教室に戻る途中だった。

 

 「おっかないよなぁ、あの人。かなり強いだろうしなぁ」

 

 「ほう、分かるのか?」

 

 「だって星辰力が研ぎ澄まされてるし。相当の腕がないと、ああはならないさ」

 

 「相変わらず星辰力に関しては鋭いな・・・確かに谷津崎女史は強いぞ。あの人はレヴォルフのOGだが、レヴォルフで唯一《獅鷲星武祭》を制したチームのリーダーだしな」

 

 「え、あの人レヴォルフのOGなの!?」

 

 「あぁ、二つ名は《釘絶の魔女》だったな。レヴォルフの序列二位だったそうだ」

 

 「・・・そんな人が、何で星導館で教師やってんの?」

 

 「それは私にも分からんが・・・」

 

 謎だな・・・本人には怖くて聞けないし。と・・・

 

 「あれ、何か人だかりが・・・」

 

 「本当だな・・・何の騒ぎだ?」

 

 人垣を掻き分けて前に出ると、そこには・・・

 

 「な、な、な・・・!」

 

 「・・・何してんのアイツら」

 

 綾斗と綺凛が決闘の真っ最中だった。綾斗は《黒炉の魔剣》を使っており、明らかに封印を解除している。

 

 だが綺凛は、そんな綾斗と互角以上・・・いや、明らかに綺凛の方が優勢だ。あの綾斗が劣勢を強いられている。

 

 と、俺はハンディカメラを嬉々として回しているアイツの姿を発見した。

 

 「おい夜吹」

 

 「ん?おー、七瀬とお姫様じゃん」

 

 「何でこんな状況になってんのか、三文字で説明しな」

 

 「無理だわ!三文字で何を説明できんだよ!?」

 

 「えぇい!何でも良いから説明せんか!」

 

 「理不尽じゃね!?」

 

 ツッコミを入れつつ、夜吹が説明を始める。

 

 「きっかけは、あそこにいるオッサンだよ」

 

 「オッサン?」

 

 見ると少し離れたところに、壮年の男性が立っていた。

 

 あれって・・・

 

 「綺凛の伯父さんじゃん」

 

 「あのオッサンが刀藤綺凛に平手打ちしたところに、たまたま俺と天霧が通りかかったのさ。天霧はそれを止めに入った結果、彼女と決闘することになったんだ」

 

 「いや、話が見えないんだけど。綾斗は綺凛を庇ったんだろ?何で綺凛と決闘することになったんだ?」

 

 「オッサンが彼女に命令したんだよ、天霧と戦えって。もし天霧が勝ったら、もう二度と彼女には暴力をふるわないっていう約束なんだ」

 

 「・・・あのジジイ、マジでクズだな」

 

 話には聞いていたが、これほどとはな・・・

 

 「おい夜吹、決闘が始まってどれくらい経つ!?」

 

 「えーっと、もう五分くらいになるけど・・・どうかしたのか?」

 

 ユリスの顔が青ざめた。

 

 綾斗が封印を解除できる時間には制限があるしな・・・ここで綾斗の実力がバレてしまったのは痛いが、タイムリミットがあることまでバレたらマジで最悪の状況だよな・・・

 

 と、その時だった。

 

 『決闘決着!勝者、刀藤綺凛!』

 

 機械音声が流れる。見ると、綾斗の校章がぱっくり断ち切られていた。当の綾斗はキョトンとしている。

 

 「天霧の奴、校章の厚みを忘れてたみたいだな。自分の身体感覚だけでかわそうとしてるから、ああやって校章を切られるんだよ」

 

 苦笑している夜吹。

 

 「ここでの決闘に慣れてなくて、よそで戦い慣れてる奴ほどやらかすんだよなぁ」

 

 「なるほどな・・・」

 

 俺も気を付けよう・・・

 

 「ってか夜吹、お前よく目で追えたな」

 

 「新聞部として、決闘はいくつも見てきたからな。これでも目は良いんだぜ?」

 

 夜吹はそう言って笑っているが、周りのギャラリー達はついていけてないようだった。

 

 コイツ、恐らく目が良いだけじゃないな・・・

 

 「ふん、終わったか・・・行くぞ」

 

 くるりと背を向けて歩き出す綺凛の伯父さん。綺凛は綾斗にぺこりと一礼した。

 

 「そ、その・・・ごめんなさいですっ」

 

 伯父さんの後を追いかけようとした時、俺と目が合った。が、悲しげな表情をして目を逸らす。そのまま伯父さんの後を小走りで追いかけていった。

 

 「ま、待ってよ刀藤さん!」

 

 追いかけようとする綾斗の肩を、俺は掴んだ。

 

 「止めとけ綾斗。追いかけても無駄だ」

 

 「七瀬!でも刀藤さんは・・・!」

 

 「冷たいことを言うようだけどな・・・負けたお前に何も言う資格は無い」

 

 「・・・ッ!」

 

 唇を噛み、俯く綾斗。

 

 「七瀬、それは酷いぞ!」

 

 怒っているユリス。

 

 「綾斗は彼女を救おうとして・・・」

 

 「・・・黙れユリス」

 

 「・・・ッ!」

 

 息を呑むユリス。恐らく俺の身体からは、抑えきれない殺気が滲んでいることだろう。見ると、綾斗も固まっていた。

 

 「な、七瀬・・・」

 

 「こっちは腸が煮えくり返ってんだ。頼むから黙っててくれ。でないと、マジでお前に八つ当たりしかねない」

 

 あのジジイ、マジで許さねぇぞ・・・

 

 「綺凛にあんな顔させるなんて・・・ふざけやがって」

 

 「七瀬、ひょっとして彼女と知り合いなの・・・?」

 

 「・・・後で説明してやるよ。その前に別の場所へ移動するぞ。綾斗のリミットまでもう時間が無い」

 

 「・・・ゴメン」

 

 「綾斗は悪くないさ。とにかく、さっさとここを離れるぞ」

 

 怒りをどうにか堪え、綾斗とユリスと共に移動する俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「なるほど・・・序列一位なら、あの強さも納得だね」

 

 床に伸びている綾斗がため息をつく。何とか人目につかないところを探した結果、俺達は俺専用のトレーニングルームへと駆け込んだのだった。

 

 ユリス専用のトレーニングルームは、昨日紗夜が壁を壊したからな・・・《冒頭の十二人》の特権が、こんなところで役に立つとは・・・

 

 「しかも刀藤さんは、伯父さんの出世の為に利用されているのか・・・でも彼女には何らかの目的があって、利用されていることを承知の上で命令に従っていると・・・」

 

 「クローディアの話によると、どうやらそうらしい」

 

 綾斗の言葉に頷く俺。

 

 「正直、あのジジイを今すぐぶん殴りたいところだが・・・綺凛に目的がある以上、アイツの邪魔はしたくないんだよな」

 

 「でも、あんな扱いをされてるなんて・・・あまりにも酷すぎるよ」

 

 「分かってるさ。ただ、まずは綺凛と話をしてみないとな。アイツの目的が何なのかを知りたいし・・・って、どうしたユリス?さっきからずっと黙ってるけど」

 

 そう、ユリスはここに来るまでずっと無言だった。俺が説明している時も黙ってたし、どうしたんだろう・・・

 

 と、俯いていたユリスが顔を上げた。目から涙が零れ落ちる。

 

 「え、何で泣いてんの!?」

 

 「な、七瀬がっ・・・だ、黙ってろって・・・」

 

 「それで今まで黙ってたの!?」

 

 「だ、だって・・・だって七瀬がっ・・・」

 

 「真面目かお前!?ゴメンゴメン!もう喋って良いから!」

 

 「うぅ・・・七瀬ぇ・・・」

 

 俺に抱きつき、泣きじゃくるユリス。慌てて抱き締める俺。

 

 「ちょっと待て!?ユリスってこんなキャラだったっけ!?」

 

 「完全に幼児退行化してるね・・・」

 

 「うえええええん・・・」

 

 「・・・綾斗、どうしたら良いと思う?」

 

 「いや、俺に聞かれても・・・」

 

 結局、ユリスは泣き止むまで幼児退行化していたのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「い、良いな!?昼休みのことは忘れろ!」

 

 「はいはい、分かってるって」

 

 顔を真っ赤にして詰め寄ってくるユリスに、俺は苦笑する。

 

 放課後、俺達は寮への帰り道を歩いていた。元に戻ってから、ユリスはずっとこの調子である。

 

 「でも、あの時のユリスは可愛かったなぁ」

 

 「忘れろ!今すぐ記憶から消し去れ!」

 

 「永久保存させていただきます」

 

 「止めろおおおおおっ!」

 

 両手で顔を覆うユリス。俺はユリスの頭に手を置いた。

 

 「・・・ゴメンな、ユリス」

 

 「え・・・?」

 

 「あの時、俺がキツい口調で『黙れ』なんて言ったから・・・傷付いたよな」

 

 「そ、そんなことは・・・まぁ、傷付いたことは認める」

 

 俯くユリス。

 

 「だが・・・私も分かっているつもりだ。あの時の七瀬は、今までにないほど怒っていた。悪気があったわけではないのだから、もう気にするな」

 

 「いや、でも・・・」

 

 言いかけた俺の口を、ユリスが手で塞いだ。

 

 「以前、お前は私にこう言ったな。自分が気にしていないのだから、お前が気にする必要は無いと。その言葉、そっくりそのまま返してやろう」

 

 「・・・一本取られたわ」

 

 苦笑する俺。ユリスも笑っている。

 

 やがて寮に着き、俺はユリスに手を振った。

 

 「じゃ、また明日な」

 

 「うむ、また明日だ」

 

 ユリスと別れて自分の部屋・・・もといクローディアの部屋へと向かう。

 

 と、部屋の前に誰かが立っていた。あれって・・・

 

 「あ、七瀬さん・・・」

 

 「綺凛・・・?」

 

 ぺこりと一礼する綺凛なのだった。

 




こんにちは、ムッティです。

シャノン「作者っち、珍しく連日投稿してるね?」

ようやく色々と一段落したからねー。

シャノン「ストックは大丈夫なの?」

大丈夫、まだあるから。

シャノン「ふーん・・・で、続きは書けてるの?」

・・・そ、それではまた次回!

シャノン「あ、書けてないパターンだ・・・」


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