「何と!?このクッキーは七瀬が作ったのかえ!?」
「えぇ。お口に合いました?」
「あぁ、とても美味しいよ」
六花園会議終了後、俺・クローディア・アーネストさん・星露さんはそのままティータイムを楽しんでいた。《悪辣の王》と左近さんは、会議が終わると速攻で帰ってしまった。
「七瀬、先ほどは申し訳なかった」
謝罪してくるアーネストさん。
「《悪辣の王》を牽制することが目的だったんだが、流石にあんなことをすべきではなかった。止めてくれて感謝する」
「良いですって。俺もアイツを殴りたかったぐらいなんで」
あのメタボ野郎・・・やっぱりろくでもない奴だったな。
「ですが七瀬、よろしかったんですか?《吸血暴姫》について何も聞けずじまいでしたが・・・」
「まぁ仕方ないだろ。あの様子じゃ、聞いても教えてくれなかっただろうし」
クローディアの言う通り、結局イレーネについては何も聞けなかった。あのメタボ、結構苛立ってたしな。
ま、イレーネにはそのうち会えるだろう。
「ところで七瀬、先ほどの君の反応は素晴らしかったね。まさか止められるとは思いもしなかったよ」
「見事な反応速度じゃったのう。咄嗟に手に星辰力を集め、煌式武装を掴むとは」
賞賛してくれるアーネストさんと星露さん。俺は苦笑した。
「普通の煌式武装で助かりましたよ。アーネストさんが純星煌式武装を使っていたら、止められなかったでしょうね」
「あぁ、コイツのことかい?」
アーネストさんが発動体を取り出し、純星煌式武装・・・《白濾の魔剣》を起動させる。綾斗が持つ《黒炉の魔剣》と同じく『四色の魔剣』の一振りで、防御不可の武器である。
「あくまでも牽制が目的だったし、コイツは使わないさ。君も普通の煌式武装だと分かったから、躊躇なく掴んだんだろう?」
「勿論ですよ。あれがもし《白濾の魔剣》だったら、あんなマネしません」
「ハハッ、やっぱり君は面白いな」
笑っているアーネストさん。やがて席から立ち上がった。
「さて、そろそろ行くよ。レティシアに仕事を任せてしまっているんでね」
「レティシア・・・?」
「うちの副会長さ。レティシア・ブランシャール・・・序列二位で、《光翼の魔女》という二つ名が付いている」
「彼女はお変わりありませんか?」
クローディアの問いに、肩をすくめるアーネストさん。
「あぁ、相変わらずだよ。君のことをライバル視している。次の《獅鷲星武祭》では、絶対に勝つと意気込んでいるよ」
「あらあら。ですが前回私のチームは、そちらのチームに負けてしまったのですよ?」
「そうなんだが・・・彼女は君に校章を破壊されたことを、未だに根に持っているんだよ。次は君を倒すって、かなり気合いが入っているんだ」
「そうですか・・・では、私も負けられませんね」
「クローディア、そのレティシアって人と知り合いなのか?」
「えぇ、幼馴染です」
へぇ、幼馴染かぁ・・・と、アーネストさんが俺を見た。
「七瀬、君は《獅鷲星武祭》には出るのかい?」
「ノーコメントでお願いします」
一応クローディアから誘われているが、ここで言うべきことではないだろう。何せ相手は、クローディアの《獅鷲星武祭》における最大の壁なのだから。
「ハハッ、そう来たか。まぁ個人的には、君がミス・エンフィールドのチームメンバーとして出場してくれることを祈っているよ。君とは是非とも戦ってみたいからね」
「期待しないで待ってて下さい。あ、それと・・・」
俺はクッキーが入った袋を取り出した。
「これ、良かったらどうぞ。レティシアさんと召し上がって下さい」
「良いのかい?ありがとう、レティシアも喜ぶよ。それと・・・」
苦笑するアーネストさん。
「七瀬、君とは対等な関係でいたい。呼び捨てで良いし、敬語を使う必要は無いよ」
「・・・分かったよ、アーネスト」
俺の言葉に、満足げに微笑むアーネスト。
「それじゃ、また会おう」
「あぁ、またな」
アーネストは微笑み、クローディアと星露さんに一礼して帰っていった。
と、星露さんも席を立ち上がる。
「さて、儂も帰るとするかの。弟子達に稽古を付けてやらんといかんのでな」
「あ、星露さんもクッキー持って帰ります?」
「良いのかえ!?」
目がキラキラしている星露さん。俺は星露さんに袋を渡した。
「どうぞどうぞ」
「礼を言うぞ七瀬!」
はしゃぐ星露さん。こうしてみると子供みたいなんだけどなぁ・・・
と、星露さんが俺を見た。
「そうじゃ七瀬、ぬしに一つ忠告しておこう」
「忠告・・・ですか?」
「うむ」
重々しく頷く星露さん。
「今日初めてぬしに会って、感じたことがあるのじゃ」
「と言うと?」
「ぬしの中には・・・何やら力が眠っておる」
「力・・・?」
一体何のことだ・・・?星露さんが話を続ける。
「うむ、とてつもなく大きな力じゃ。この力が目覚めた時、ぬしは今より遥かに強くなれるじゃろう。じゃが・・・」
真剣な顔の星露さん。
「この力に呑まれると、ぬしは暴走してしまうじゃろう。何がきっかけで目覚めるかは分からぬが、力に呑まれるでないぞ。自分で操れぬ力は、大切な者を傷付けるだけじゃ」
星露さんの一言が、深く胸に突き刺さった。
自分で操れない力は、大切な人を傷付けるだけ・・・身に染みて感じたことだ。あの時だって・・・
「七瀬・・・?」
ハッと気が付くと、クローディアが心配そうな顔で俺を見ていた。
「大丈夫ですか・・・?」
「あぁ、大丈夫。星露さん、ご忠告どうもです。肝に銘じておきます」
「うむ、そうするが良い」
あどけない笑みを浮かべる星露さん。
「それともう一つ。その力を目覚めさせたいのなら、戦ってみると良いかもしれぬ」
「戦ってみる・・・?」
「うむ。誰しも強者との戦いを経験することで、新たな力に目覚めたりするものじゃ」
強者との戦い・・・か。
「分かりました。アドバイスありがとうございます」
「気にするでない。それと、儂のことも呼び捨てで構わん。敬語も不要じゃ」
「・・・了解。色々とありがとな、星露」
「なに、クッキーの礼じゃ。では、またの」
星露さんはウインクし、そのまま帰っていった。
「さて、俺達も帰るとするか」
「そうですね」
クローディアと並んで歩き出す。
「・・・七瀬」
「ん?」
「七瀬は・・・目覚めさせたいですか?眠っている力とやらを・・・」
「んー、そうだなぁ・・・」
俺は上を見上げた。
「今より強くなれるなら・・・目覚めさせたいかな」
「今のままでも、十分強いと思いますよ?」
「いや・・・今の俺じゃクローディアや、封印解除状態の綾斗には勝てないさ。ましてや、俺が戦いたい奴には絶対に勝てない」
「《王竜星武祭》で戦いたいとおっしゃっていた方ですか?」
「あぁ。アイツに勝つには、今の実力じゃ届かないんだよ」
だからこそ、俺に眠っている力があるなら目覚めさせたい。強くなりたい。
だが・・・
『自分で操れぬ力は、大切な者を傷付けるだけじゃ』
星露の一言が、頭から離れない俺なのだった。
*****
「とてつもなく大きな力ねぇ・・・」
一人呟き、考えながら歩く俺。ユリスと綾斗のいるトレーニングルームに向かいつつ、考え事に耽る。
六花園会議から一週間、ずっと考えているのだが・・・
「・・・分からん」
一体どんな力なんだろうか・・・中庭を抜け、渡り廊下を横切ろうとした時だった。
「きゃっ!?」
「うおっ!?」
思いっきり誰かとぶつかった。ヤバい、全然見てなかった・・・
「ゴ、ゴメン!大丈夫!?」
「あ、はい・・・大丈夫です」
ぺたんと地面に座り込んでいる女の子・・・あれ?
「え、綺凛・・・?」
「あ、七瀬さん!」
銀色の髪を二つに結び、背中に流している女の子・・・間違いなく刀藤綺凛だった。
「久しぶり・・・って、そうでもないか」
「天霧先輩とリースフェルト先輩の決闘の時以来ですもんね」
笑う綺凛。そうそう、あの時は大変だったな・・・って、思い出してる場合じゃない。
「大丈夫か?ゴメンな、ちょっと考え事してて」
「いえ、私の方こそごめんなさいです。音を立てずに歩く癖が抜けなくて・・・」
「・・・あ、そういや足音しなかったな」
それで気付かなかったのか・・・と、俺はあることに気付いた。
「・・・綺凛」
「何でしょう?」
「・・・見えてるぞ」
「え・・・?」
首を傾げる綺凛。綺凛が膝を立てて座っている為、思いっきりスカートがめくれてしまっていた。つまりパンツ丸見えの状態なのだ。
俺が下を指差すと、綺凛もようやく事態に気付いたらしい。
「はうっ!?」
慌ててスカートを直し、縮こまるように両手でぎゅっと自分の身体を抱き締める。涙目で怯える様子は、まるで小動物のようなのだが・・・
「・・・それだと、胸が強調されるぞ」
「はうっ!?」
綺凛の豊満な胸が、一段と強調されていた。中一でこの大きさ・・・恐るべし。
「も、もうっ!七瀬さんのバカ!エッチですぅ!」
「ゴメンゴメン、ほら」
手を差し出すと、綺凛がその手を掴む。そのまま引っ張り上げて立たせた。
「ケガ無いか?」
「あ、はい・・・何ともありません」
「良かった・・・って、髪になんか付いてるぞ」
「ふぇっ!?ど、何処ですか!?」
「取ってやるから動くなって」
手を伸ばし、綺凛の髪についていた小枝を取ってやる。
「ほい、これで大丈夫」
「あ、ありがとうです・・・」
顔を赤くしている綺凛。その時、大きな声が響き渡った。
「綺凛!そんな所で何をやっている!」
体格の良い壮年の男性が、離れたところで立っていた。
「ご、ごめんなさいです伯父様!すぐに参ります!」
ビクッと身をすくませる綺凛。慌てて俺に一礼した。
「で、では七瀬さん!私はこれで失礼します!」
「おう。またな」
「はいっ!」
綺凛は軽く会釈すると、小走りで男性の下へ向かった。
あれが綺凛の伯父さん・・・?星辰力の流れを感じないし、《星脈世代》ではないだろう。例え親族といえど、ここには簡単には入れないはずだが・・・
と、そこでクローディアの顔が思い浮かんだ。
「ひょっとして、学園の関係者か・・・?」
クローディアの両親は銀河の上役だというし、あの人もそうなのかもしれない。
ただ、綺凛の怯えたような姿が気になった俺なのだった。
二話続けての投稿となります。
そういえば、昨日はクリスマスでしたね。
皆さんはどう過ごされましたか?
作者は部屋の大掃除をしてました。
『リア充滅びろ』という負のオーラを放ちながら、要らない物を片っ端からバンバン捨ててましたww
今年は必要な物以外は全て捨てようと思います。
それではまた次回!