生徒会長代理
サイラスが捕まってから一週間後。俺はクローディアに連れられて、六花園会議が行われるというホテルに来ていた。
ってか、予想はしてたけど・・・
「・・・超高級ホテルじゃん」
「えぇ。各国のVIPや著名人が利用するホテルですから」
クローディアが説明してくれる。六花園会議ってこんな場所でやるのかよ・・・
「さて、最上階に行きましょうか」
「最上階!?」
この超高級ホテルの最上階って、どれほど豪華な部屋なんだろうか・・・
わくわくしながら最上階へ上った俺は、着いた途端に唖然としてしまった。
「・・・ここ、ホテルだよな?」
「えぇ、そうですよ」
俺の反応が面白かったのか、クスクス笑っているクローディア。
最上階にあったのは、ドーム型の空中庭園だった。縦横に水路が張り巡らされ、色とりどりの花々が綺麗に咲いている。
何だこの場所は・・・
「おや、皆さん既にお揃いのようですよ」
クローディアが呟く。見ると、庭園の中央部に洋風の四阿があった。六角形のテーブルが備えてあり、六つの椅子のうち四つが埋まっている。つまり、四人の生徒会長が座っていたのだ。
クローディアが微笑む。
「ごきげんよう、皆様。お元気そうで何よりです」
「ようこそ、ミス・エンフィールド。相変わらず時間通りだね」
柔らかな笑顔でクローディアを迎える、金髪の美男子。白を基調とした制服に、光輪の校章・・・ガラードワースの生徒会長か。
と、金髪の美男子が俺を見て微笑む。
「星野七瀬くんだね?聖ガラードワース学園の生徒会長、アーネスト・フェアクロフだ。以後、お見知りおきを」
「初めまして、星野七瀬です。よろしくお願いします、フェアクロフさん」
握手を交わす俺達。
アーネスト・フェアクロフ・・・ガラードワースの序列一位で、生徒会長を務めている。《獅鷲星武祭》を二連覇中のチーム・ランスロットのリーダーでもあり、《獅鷲星武祭》を制覇する上で最大の壁だってクローディアが言ってたな・・・
ちなみに、二つ名は《聖騎士》らしい。カッコいいなオイ。
「アーネストで良いよ。君のことも七瀬と呼んで良いかな?」
「勿論です」
「おー、お主が《覇王》か!」
「うおっ!?」
いつの間にか、俺の隣に目をキラキラと輝かせた童女が立っていた。愛くるしい顔立ちと、蝶の羽のように丸く結わえた黒髪・・・そして胸には、黄龍の校章を付けている。
ということは・・・
「《万有天羅》・・・范星露さんですね?」
「いかにも。気軽に星露と呼ぶが良いぞ、七瀬」
楽しげに笑う童女・・・范星露。九歳にして界龍の序列一位であり、生徒会長を務めている。二つ名は《万有天羅》で、アスタリスク屈指の戦闘力を誇ると言われている。
「よくぞ来てくれた。会いたかったぞ」
「けっ、余計なマネしやがって」
吐き捨てるように言う小太りの青年。色のくすんだ赤髪の持ち主で、胸には双剣の校章を付けている。
あぁ、コイツがレヴォルフの生徒会長か・・・
「初めまして、《悪辣の王》。お招きいただき、ありがとうございます」
「別に好きで呼んだわけじゃねーよ。《万有天羅》たっての希望を断ると、色々と面倒なことになりそうだからな」
そっぽを向く《悪辣の王》・・・ディルク・エーベルヴァイン。俺があまり関わりたくない人物の一人だ。
ということは残りの一人、目の細い黒髪の青年が・・・
「あなたがアルルカントの生徒会長さん・・・?」
「は、はい・・・左近州馬といいます・・・」
恐縮しながら名乗る青年。胸には、アルルカントの昏梟の校章を付けている。
あのアルルカントの生徒会長がこの人か・・・思ってたのと違うな。
「さて、これで全員揃ったね」
アーネストさんが場を仕切る。
「今回、クインヴェールは欠席だ。例によって委任状を預かっているよ。七瀬、悪いけど君はクインヴェールの席・・・ミス・クローディアの隣の席に座ってもらえるかな?」
「了解です」
俺はクローディアの隣の席に座った。
「さて、改めて七瀬・・・よく来てくれたね」
「いや、こっちこそ呼んでもらっちゃって・・・本当に良かったんですか?」
「勿論だとも。我々も君には興味があったし、何より《万有天羅》の希望だからね」
微笑むアーネストさん。と、星露さんがこっちをガン見していた。
「んー、そそられるのう・・・」
「・・・アーネストさん、星露さんの目がキラキラし過ぎてて怖いんですけど」
「・・・気にしない方が良い。彼女はお気に入りを見つけるとああなるんだ」
アーネストさんも苦笑している。と、《悪辣の王》が両足を机の上に放り投げた。
うわ、態度悪いなコイツ・・・
「それにしても、クインヴェールの小娘はこれで何度目の欠席だ?クソの役にも立ってねぇよ」
「君は本当に口が悪いな・・・侮辱するような発言は止めたまえよ」
アーネストさんが注意するが、《悪辣の王》は尚も言葉を続ける。
「ま、見た目だけで選出された愚図共の代表だもんな。いなくて清々する・・・」
そこまで言った瞬間、アーネストさんが剣の煌式武装を起動させる。そのまま剣を《悪辣の王》の喉元に突きつけようとしたところで、俺はその切っ先を掴んだ。
「・・・ッ!」
「その辺にしておきましょう、アーネストさん」
驚いているアーネストさんに対し、微笑みかける俺。
「寸止めのつもりだったとは思いますが、万が一という場合もありますし」
「・・・そうだね。すまない、七瀬」
剣をしまうアーネストさん。と、《悪辣の王》が嘲笑を浮かべていた。
「ハッ、あの《聖騎士》殿が攻撃を止められるとはな。腕が落ちたんじゃねぇのか?まぁ、所詮はこの程度・・・」
「・・・おい、黙れよブタ」
俺の言葉に、その場の空気が凍った。
「俺はお前を庇ったわけじゃない。お前如きのせいで、アーネストさんが処罰されるような事態を避ける為に止めたんだ。他人を侮辱することしか出来ないクズは黙ってろ」
「テ、テメェ・・・」
睨んでくる《悪辣の王》だが、俺が睨み返すと大人しく引き下がった。
「さて、会議を始めましょうか?」
「あ、あぁ。そうだね」
気圧されていた感じのアーネストさんが、慌てて仕切り直した。
「それじゃ、今日の案件だけど・・・」
「あ、あのぉ・・・」
おずおずと手を挙げたのは、左近さんだった。
「急な話になりますが、今回の議題に上げさせていただきたい案件がありまして」
「ほうほう、何事じゃ?」
興味津々の星露さん。
「今回皆さんに提案させていただきたいのは、人工知能の取り扱い及びその権利についてです」
「人工知能・・・ですか?」
クローディアが首を傾げる。
「はい。落星工学が発展したことで、人間に近い自我を持った人工知能の誕生は間違いありません。ですが《星脈世代》がそうであったように、人工知能に対する法整備は難航することでしょう。そこでまずは我々が、モデルケースのような形で人工知能を受け入れる態勢を作れたらと・・・」
「・・・それはつまり、アスタリスクの学生として受け入れるということかい?」
呆れた表情のアーネストさん。
「えぇ。《星武祭》にも参加を・・・」
「アホか。論外だ」
《悪辣の王》が左近さんの意見を切り捨てる。
「アルルカントが機械を学生扱いしようと勝手だが、《星武祭》に出そうってんなら話は別だぞ」
「そうですね、いくら何でも無理のある提案だと思います」
「星武憲章の年齢規定に、自我の有無の判定・・・少し考えただけでも問題が多すぎるね。反対せざるを得ないな」
クローディアとアーネストさんも反対する。星露さんだけが不満そうにしていた。
「なんじゃ、ぬしらは皆反対か。つまらんのう」
「星露さんは賛成なんですか?」
「無論じゃ。その方が面白そうじゃからの」
俺の質問に笑う星露さん。この人、マジで自由人だな・・・
「さて七瀬、君の意見はどうだい?」
俺に話を振ってくるアーネストさん。いやいやいや・・・
「俺は生徒会長でもないですし、個人的な発言は出来ませんよ」
「構わないさ。というより、してくれないと困るんだよ」
苦笑するアーネストさん。
「何しろ君は今、クインヴェール生徒会長の代理なんだからね」
『は・・・?』
アーネストさん以外の全員が、ポカンと口を開けている。え、今何て言った?
「あ、あの・・・どういうことでしょう?七瀬は星導館の生徒のはずですが・・・」
「あぁ、僕も驚いたんだけどね・・・」
戸惑った表情のクローディアに、同じく戸惑った表情で返すアーネストさん。
「預かった委任状には、こう書かれていたんだよ。『クインヴェール女学園・生徒会長の名の下に、シルヴィア・リューネハイムは《覇王》星野七瀬の意見を支持するものとする』ってね。つまり七瀬の意見が、ミス・リューネハイムの意見・・・ひいてはクインヴェールの意見そのものということだ。これを代理と言わずして何と言うんだい?」
アーネストさんの言葉に、誰も何も言えなかった。おいおいマジかよ・・・
「・・・おい、《覇王》」
俺を睨んでくる《悪辣の王》。
「テメェ、あの小娘とどういう関係だ?」
「ちっちゃいことは気にすんな!それワカチコワカチコ~♪」
「ちっちゃくねぇし気にするわ!あとネタが古いんだよ!」
「まぁまぁディルクっち、クッキーでも食べようぜ」
「誰がディルクっちだ!ってか、そのクッキー何処から取り出したんだ!?」
「んー、美味いのう」
「何でテメェは食ってんだクソガキ!」
クッキーを頬張る星露さんにキレる《悪辣の王》。
「七瀬、茶化さないで下さい」
クローディアがたしなめてくる。そうは言ってもなぁ・・・
「どういうつもりなのか、俺にも分からないんだよ。本人に直接聞いてくれ」
「ふざけんな!そんな言い訳が通用するとでも・・・」
「別に良いではないか」
《悪辣の王》の言葉を、クッキーを食べていた星露さんが遮る。
「二人がどんな関係であったとしても、それはプライベートなことじゃ。ここで問い質すのは野暮というものよ」
「そうはいくか!そのプライベートな関係を、この場にまで持ち出されてんだぞ!?他学園の生徒を代理にしやがって!」
「はて?話を聞く限り、代理とは一言も言っておらんかったぞ?あくまでも支持すると言っておっただけじゃ」
「同じだろうが!コイツの意見がクインヴェールの意見ってことだぞ!?そんなの認められるわけ・・・」
「・・・くどいぞ、小僧」
星露さんの今までより低い声に、途中で黙る《悪辣の王》。何だこの威圧感・・・
「クインヴェールの生徒会長が、『七瀬の意見を支持する』と言っておるのじゃ。なら七瀬に聞くべきは、この案件に対する七瀬の意見じゃろうが。くだらん詮索などよさんか、バカモノめ」
あまりの威圧感に、誰も口を開くことが出来なかった。
なるほど、流石は界龍の序列一位にして生徒会長・・・恐ろしいなんてもんじゃないな。
「それで七瀬、ぬしは賛成か?それとも反対か?」
星露さんが尋ねてくる。俺は素直な意見を言うことにした。
「そもそも、この多数決に意味なんてありませんよ」
「どういう意味だい・・・?」
訝しげなアーネストさん。俺は左近さんを見た。
「だってこの時点で、完全に左近さんの掌の上で踊らされてますし」
「・・・ッ!?」
驚愕している左近さん。やっぱりか・・・
「おい、どういうことだ!?」
「踊らされている・・・とは?」
どうやら、皆分かっていないようだ。
「この提案が蹴られることは、左近さんも分かってるんですよ。左近さんの目的は、皆さんにこの提案を否定させることなんですから」
「何故否定させる必要があるのじゃ?」
首を傾げる星露さん。
「皆さんに散々否定させた後で、こう言う為ですよ。『自我の有無に関わらず、あくまでも武器として扱うということでよろしいですか?』ってね」
『・・・ッ!』
その場の全員が息を呑んだ。ようやく分かったか・・・
「つまり《星武祭》に自立機動兵器をどれだけ持ち込もうが、それらはあくまでも武器として扱われるということです。星武憲章には、武器武装の形状を制限する項目はありませんからね。人工知能を学生扱いすることに反対したとはいえ、皆さんはこれを受け入れるわけにはいかない・・・これは皆さんに本腰を入れて話し合ってもらう為の、左近さんの作戦なんですよ。ね、左近さん?」
「・・・まさか読まれていたとは。流石ですね・・・」
感嘆のため息をつく左近さん。
「まぁそういうわけなんで、本腰を入れて話し合ってみてはどうでしょう?って言うのが俺の意見です」
「んー、七瀬はやっぱり面白いのう!」
また目がキラキラしている星露さん。
「七瀬、今からでも界龍に来る気はないかの!?」
「ダメですよ、七瀬は渡しません」
微笑むクローディア。
「まぁ七瀬の言う通り、本腰を入れて話し合う必要がありそうですね」
「そうせざるを得ないね。それがクインヴェールの意見でもあるんだから」
苦笑しているアーネストさん。
「チッ・・・仕方ねぇな」
《悪辣の王》も舌打ちしつつ同意した。笑みを浮かべる左近さん。
「ありがとうございます。これで僕も怒られずに済みそうですよ」
怒られずに済む、か・・・つまりこの提案は、左近さんのものではないということだ。
一体誰のものなのか、気になる俺なのだった。
こんにちは、ムッティです。
二週間ぶりですね!
・・・はい、スイマセン。
相変わらずドタバタしておりました。
引き続き、頑張って投稿していきたいと思います。
それではまた次回!