「やっぱり、あの状態には時間制限があるのか・・・」
「うん。しかもその後は反動で、こんな状態になっちゃうんだよね・・・」
ベッドに横たわり、苦笑する綾斗。
あの後すぐに迎えの人達が来て、綾斗・ユリス・レスター・ランディは病院に運ばれた。俺はクローディアと合流し、四人が運ばれた病院にやってきたのだった。
「ちなみに、どれぐらい持つんだ?」
「数分ってところだね。五分以上持ったのは、今回が初めてだよ」
「厄介な封印だな・・・」
呆れ顔のユリス。撃ち抜かれた太ももは止血され、包帯が巻いてある。幸い軽傷ということで、綾斗と共に明日には退院できるそうだ。
「でも、おかげで助かったよ。これでユリスは、また綾斗に借りができたな」
「うぐっ・・・」
言葉に詰まるユリス。どうやら自覚はあるらしい。
「さて、今度はどうやって借りを返すのかなぁ?」
「うぅ・・・」
「七瀬はユリスを追い詰めるのが上手ですね・・・」
クローディアが失礼なことを言っていた。いや、別に追い詰めてないからね?
「ところでクローディア、サイラスはどうなった?」
「誰かさんがやりすぎたせいで、全身骨折しているそうですよ。普通の人間なら、間違いなく死んでいたでしょうね」
「マジかよ、ユリス最低だな」
「やったのお前だろうが!」
ユリスに頭を叩かれる。いや、お前が加速したせいでもあるからね?
「ま、はっきり言って当然の報いだろ。何人もの生徒にケガを負わせた上、ユリス達を殺そうとしたんだから。命があっただけマシだと思ってほしいもんだ」
「・・・七瀬もなかなかの鬼ですね」
若干引いているクローディア。
「ちなみにマクフェイルくんとフックくんですが、少し入院が必要みたいですね。特にフックくんは重傷で、《鳳凰星武祭》の出場はドクター・ストップがかかりました」
「・・・そっか」
拳を強く握る俺。ランディが出場できないということは、パートナーのレスターも出場できないということだ。
悔しいな・・・
「ゴメンな、クローディア・・・被害者を増やしちまって・・・」
「七瀬が謝ることなど、一つもありませんよ」
俺の手を優しく握り、微笑むクローディア。
「七瀬はユリスを守ってくれました。本当に感謝しています」
「・・・俺は何もしてないさ。綾斗のおかげだよ」
「いやいや、サイラスを倒したのは七瀬じゃないか。俺は大したことはしてないよ」
笑う綾斗。と・・・
「・・・すまない」
か細い声で謝るユリス。
「・・・私が一人で突っ走ったせいで、皆に迷惑をかけた。本当にすまない」
目に涙を浮かべ、頭を下げるユリス。
「助けてくれて、ありがとう・・・」
「・・・もう一人で無茶すんなよ」
ユリスの頭を撫でる俺。
「お前は一人じゃないんだから、自分だけで何とかしようなんて思うな。俺達がいるってこと、忘れんなよ」
「・・・うむ」
服の袖で目をゴシゴシ擦るユリス。クローディアが驚いていた。
「あのユリスが頭を下げるとは・・・アスタリスク崩壊の危機でしょうか・・・」
「どういう意味だ!?」
ユリスのツッコミ。思わず笑う俺と綾斗。
「じゃあユリス、早速だけど借りを返してもらえるかい?」
「綾斗!?」
綾斗がニヤニヤしていた。コイツもユリスの扱いに慣れてきたなぁ。
「お、お前!まさかとは思うが、いかがわしいことを要求するつもりか!?」
「そんなこと要求しないよ」
綾斗は首を横に振りつつ、柔らかく微笑んだ。
「ユリス、俺を《鳳凰星武祭》のパートナーにしてくれないかな?」
「は・・・?」
唖然としているユリス。おー、そうきたか。
「ほ、本気なのか・・・?」
「勿論。ユリスは七瀬に甘えたくないんでしょ?でも締め切りまでの日数を考えると、新しくパートナーを見つけるのは厳しいんじゃない?」
「うぐっ・・・」
「なら、俺で妥協してくれないかな?」
「ど、どうしてそこまで・・・」
「ユリスの戦う理由を聞いて、力になりたいと思ったのが一つ。それに・・・」
真剣な表情になる綾斗。
「・・・失踪した姉さんを探したいんだ。《鳳凰星武祭》で優勝できたら、何でも望みを叶えてもらえるんだろう?俺は姉さん・・・天霧遥の捜索を頼みたいんだよ」
「綾斗・・・」
ユリスも真剣な表情になる。
「・・・良いんだな?厳しい戦いになるぞ?」
「覚悟の上だよ」
綾斗の言葉に、微笑むユリス。
「・・・分かった。よろしく頼むぞ、綾斗」
「こちらこそよろしく、ユリス」
拳をぶつけ合う二人。
「良かったな、ユリス」
「あぁ」
俺の言葉に、笑顔で頷くユリス。
「綾斗、ユリスを頼む」
「了解」
綾斗も笑顔で頷いてくれた。これで俺も一安心できるな・・・
「ユリスのお守りは大変だから、覚悟しとけよ」
「何だと!?」
俺とユリスのやり取りに笑う、綾斗とクローディアなのだった。
*****
「よろしかったんですか?」
「ん?何が?」
俺とクローディアは病院を出て、車で星導館に向かっていた。
「ユリスのパートナーとして、《鳳凰星武祭》に出場したかったのでは?」
「言ったろ?元々《鳳凰星武祭》に出るつもりは無かったって。俺はあくまでも、ユリスがパートナーを見つけられなかった場合の保険のつもりだったんだ。でも・・・」
笑う俺。
「ユリスがパートナーを見つけられた以上、保険の俺が出る必要は無くなった。綾斗なら、安心してユリスを任せられるしな」
「では、やはり七瀬は《鳳凰星武祭》には出場しないんですね?」
「あぁ。出る理由も無いしな」
俺の言葉に、ため息をつくクローディア。
「そうですか・・・星導館としては痛いですね・・・」
「悪いな、期待に添えなくて」
「いえ、あくまでも個人の自由ですので。七瀬は《星武祭》に興味は無いのですか?」
「そういうわけじゃないさ。出場したい《星武祭》は、もう決まってるんだ」
「と言うと?」
「再来年の《星武祭》・・・《王竜星武祭》だよ」
「《王竜星武祭》ですか・・・?」
意外そうな顔をするクローディア。
「あれ、そんなに意外か?」
「い、いえ・・・ユリスの目標がグランドスラムである以上、七瀬は《王竜星武祭》には出場しないものだと思っていましたので・・・」
「まぁ確かに、《王竜星武祭》は個人戦だからなぁ・・・」
つまり出場すると、ユリスとは敵同士になってしまう。でも・・・
「・・・どうしても戦いたい奴がいるんだ。アイツは出場する《星武祭》を《王竜星武祭》に絞ってるから、《王竜星武祭》じゃないと戦えないんだよ。もしアイツと当たる前にユリスと当たったら・・・ユリスには悪いが、そこで敗退してもらう」
「七瀬・・・」
驚いているクローディア。今のはちょっと語りすぎたかな・・・
俺は話題を変えることにした。
「そういや・・・今回の件、お前の狙い通りになったな」
「・・・どういう意味でしょう?」
「事件が公表されたら、アルルカントは星武憲章違反で処罰は免れない。学園の評判にだって傷が付く。だが・・・」
俺はクローディアを見つめた。
「事件を公表するつもりなら、特務機関なんて動かす必要は無かった。風紀委員会で十分だったはずだ。だがお前は、最初から特務機関を動かしたがってたよな」
「前にも申し上げましたが、特務機関は風紀委員会より強い権限を・・・」
「サイラスが尻尾を出したあの状況なら、権限なんて関係無かったはずだ。現行犯で捕まえられたんだから」
「・・・」
「つまりお前は、一連の事件を公表する気は無かった。内々に処理することで、アルルカントに貸しを作りたかったんだろ?アルルカントが処罰されて評判を落としても、星導館には何の旨味も無いしな」
俺の推測を聞き、クローディアは大きくため息をついた。
「・・・参りました。七瀬は頭が回りますね」
「普通に考えたら分かることだろ。で、アルルカントに何をさせるつもりなんだ?」
「近いうちに分かりますよ」
楽しげに笑うクローディア。
「・・・この腹黒女め」
「フフッ、自覚しています。ところで七瀬・・・」
「ん?」
「もうすぐ六花園会議の日ですが、心の準備は出来ましたか?」
「準備も何も、クローディアがいてくれるんだろ?心配なんかしてないさ」
「・・・ホント、七瀬はずるいですね」
「え・・・?」
何故か頬を染めているクローディア。俺は首を傾げつつ、窓の外を眺めたのだった。
「六花園会議・・・か」
三話続けての投稿!
これにて、ユリス襲撃編は終了となります。
次の投稿も、間隔が空いてしまうかもしれません・・・
なるべく早く投稿したいと思っていますが・・・
シャノン「ねぇ作者っち、私の次の出番いつ?」
・・・知らない方が幸せだと思うよ?
シャノン「どういう意味!?」
それではまた次回!
シャノン「ねぇどういう意味!?作者っちいいいいいっ!?」