学戦都市アスタリスク ~六花の星野七瀬~   作:ムッティ

21 / 149
思っていた以上に投稿間隔が空いてしまった・・・


守りたいもの

「ったく、クローディアめ・・・」

 

 結局、俺が六花園会議で直接《悪辣の王》に聞くことになってしまったのだった。何か憂鬱だなぁ・・・

 

 ため息をつきつつ、女子寮の廊下を歩いていた時だった。

 

 「ななっちー!」

 

 廊下の向こうから、シャノンが駆け寄ってきた。ユリスを先に部屋に帰しといて正解だったな・・・

 

 「おー、シャノン。夜なのにずいぶん元気・・・」

 

 「ななっち大変!お姫様が!」

 

 俺の言葉を遮るシャノン。かなり慌てているようだ。

 

 「ユリスがどうした?」

 

 「寮に戻ってくる時に、お姫様が部屋の窓から飛び降りてくるのが見えたの!で、そのまま走ってどっか行っちゃって・・・」

 

 「ハァッ!?」

 

 ユリスの奴、こんな時間に何処へ行くつもりなんだ!?狙われてんだぞ!?

 

 「で、この手紙を落としていったの!読むつもりは無かったんだけど、お姫様がただならぬ様子だったからつい・・・」

 

 シャノンから手紙を受け取る俺。中を読んでみると・・・

 

 『これからは周囲の人間を狙う。それを望まぬなら、以下の場所へ来られたし』

 

 「脅迫状か・・・!」

 

 あのバカ・・・!一人で勝手な行動しやがって・・・!

 

 と、俺の端末に着信が入る。相手は・・・

 

 「綾斗・・・!」

 

 俺が端末を操作すると、空間ウィンドウに綾斗と夜吹の顔が映った。

 

 『大変だ七瀬!今夜吹が帰ってきたんだけど、ユリスが血相を変えて走っていったのを見たんだって!』

 

 『かなり急いでたぜ。一体何処へ向かったのか・・・』

 

 「ユリスに脅迫状が届いたんだ!一人で犯人のところへ向かってるんだと思う!」

 

 『何だって!?』

 

 驚愕している綾斗と夜吹。

 

 「夜吹、この場所分かるか!?」

 

 空間ウィンドウ越しに、脅迫状に書かれていた地図を見せる俺。

 

 『・・・再開発エリアだな。ちょっと待て、もっと詳細な地図を送る』

 

 「頼む!シャノン、お前はこの脅迫状をクローディアに届けてくれ!」

 

 「分かった!」

 

 急いで走っていくシャノン。と、夜吹から地図が送られてきた。

 

 『今送った地図に、赤い印を付けといた。そこが脅迫状に書かれてた場所だ』

 

 「助かった!俺は今からここに向かう!」

 

 『俺も行くよ!』

 

 綾斗がそう言ってくれる。俺は頷いた。

 

 「じゃあ正門前で落ち合おう。夜吹、お前はこの地図をクローディアにも送ってくれ」

 

 『おいおい、俺が会長の連絡先を知ってる前提かよ?』

 

 「どうせ知ってるだろ。だって夜吹だし」

 

 『・・・信頼されてると受け取って良いのか?』

 

 苦笑する夜吹。

 

 「どうとでも受け取れ。それと、俺と綾斗が先に向かったことも伝えてくれ」

 

 『了解、伝えとく。気をつけろよ』

 

 「おう」

 

 俺はすぐに女子寮を飛び出し、正門へと向かった。

 

 「ユリスの奴、一人で無茶しやがって・・・そんなに俺が頼りないのかよ・・・」

 

 『それは違うと思うよ』

 

 空間ウィンドウに映った綾斗が、苦笑していた。

 

 『ユリスは言ってたよ。守られるだけの存在は嫌だ、自分も七瀬を守りたいって』

 

 「ユリスが・・・?」

 

 『うん。ユリスの守りたいものの中に、七瀬も入ってるんだってさ。孤児院の友達と同じように、七瀬のことも守りたいって。ユリスは七瀬のこと、大切に思ってるんだよ』

 

 やがて正門に着き、綾斗と合流する。

 

 「行こう七瀬、ユリスを守る為に」

 

 「・・・あぁ!」

 

 俺達は走り出したのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 ≪ユリス視点≫

 

 私は、再開発エリアにある廃ビルに来ていた。周囲を警戒しながら奥へと進む。

 

 そして一番奥の区画へ足を踏み入れた瞬間、吹き抜け状になっている上階部分から廃材が落下してくる。明らかに私を狙ったものだ。

 

「咲き誇れ、隔絶の赤傘花」

 

 五角形の花弁を出現させ、廃材を全て跳ね除ける。全く・・・

 

 「いい加減、姿を現したらどうだ・・・サイラス」

 

 私が低い声で呼びかけると、物陰からサイラスが姿を現した。

 

 「おや、これは驚きました。よく僕が犯人だと分かりましたね?」

 

 「貴様が自分で口を滑らせたんだろう。一件目と三件目の決闘は公にされていないにも関わらず、貴様は今日『三件の決闘』と言った。気付かない方がおかしい」

 

 「・・・なるほど、僕としたことが迂闊でした。しょうもないミスですね」

 

 ため息をつくサイラス。

 

 「となると・・・七瀬さんや天霧くんも気付いているということですか」

 

 「当然だ。そして既にクローディアにも報告した。特務機関とやらが動くのも、時間の問題だぞ」

 

 「やれやれ、厄介なことになりましたねぇ・・・せっかく人形を使って、あなたの部屋に脅迫状を届けさせたというのに」

 

 「人の部屋に、あんな趣味の悪い人形を侵入させるな」

 

 自分の部屋に帰ってきた途端、黒いフードを被った人形に出くわした時は流石に驚いたぞ・・・

 

 窓から逃げてしまったので仕留められなかったが、すぐに机の上の手紙には気付いた。そして私は要求通り、一人でここへやって来たのだ。

 

 「私がここにやって来たのは、貴様を捕らえる為だ。どうせ何処かから監視していたのだろう?七瀬達を連れて来ると、貴様は逃げるだろうと思ってな」

 

 「なるほど、そういうことでしたか・・・」

 

 この期に及び、まだ冷静な口調のサイラス。そして口元を吊り上げる。

 

 「それは好都合です」

 

 「何・・・?」

 

 「正直、七瀬さんが一番厄介だったんですよ。あなたを狙う上で、彼が一番の障害でしたからね。レヴォルフの奴らも役に立ちませんでしたし・・・」

 

 「レヴォルフ・・・?」

 

 コイツ、何の話をしている・・・?

 

 「おや、聞いていないのですか?あなたと天霧くんが人形に襲われている間、七瀬さんはレヴォルフの不良共に襲われていたんですよ?」

 

 「なっ・・・!?」

 

 「全く・・・金を積んで依頼したというのに、大した時間稼ぎにもなりませんでした。彼の邪魔が無かったら、あなたを仕留められたんですけどねぇ」

 

 やれやれ、といった調子で首を振るサイラス。そんな話、七瀬は一言も口にしなかったぞ・・・

 

 「でも今、その七瀬さんはいない。あなたは一人だ。なら、今ここであなたを潰すことが出来ます」

 

 「・・・大した自信だな」

 

 「事実ですから。そしてその後、僕はバックにいる方々に保護してもらいます。僕のバックに誰がいるか、あの人形を見たなら分かるでしょう?」

 

 「・・・アルルカントか」

 

 「えぇ。いくら特務機関が動こうと、他学園には手を出せませんからね」

 

 「だが、アルルカントが貴様を保護してくれるのか?貴様にそこまでの価値があるとは思えんが」

 

 「舐めないでいただきたいものですね。これでも僕は、様々な実験に協力して差し上げているんですよ?《鳳凰星武祭》に出場予定だった有力学生の闇討ちも、思いのほか成果を上げることが出来ました。あとはユリスさん・・・あなたを潰して、アルルカントへの手土産にさせていただきます」

 

 サイラスが手を挙げると、吹き抜けから人形が続々と飛び降りてくる。

 

 と、そのうちの一体が両手に人を抱えていた。あれは・・・ッ!

 

 「レスター!ランディ!」

 

 ボロボロになったレスターとランディを、人形が無造作に放り投げる。どうやら、二人とも意識を失っているようだ。

 

 「レスターさんも、《鳳凰星武祭》に出場する有力学生の一人ですから。相方のランディさん共々、倒させていただきました」

 

 「貴様・・・ッ!」

 

 コイツ、どこまで外道なのだ・・・!

 

 「二人がユリスさんをここへ呼び出し、戦いの末ユリスさんと相討ちになった・・・僕が犯人だとバレていなかったら、そういうシナリオにしようと思っていました。非常に残念ですよ」

 

 ・・・もう限界だッ!

 

 「咲き誇れ!六弁の爆焔花!」

 

 《アスペラ・スピーナ》を起動し、サイラスに向けて技を放つ。しかし、何体もの人形がサイラスの前に立ちはだかった。

 

 攻撃を受け、吹き飛ぶ人形達。だが・・・

 

 「なっ・・・!?」

 

 次々と人形達が起き上がる。何事も無かったかのように。しかも無傷で。

 

 「こいつらは特別仕様でしてね。あなた用に耐熱限界を上げてあるのですよ」

 

 「・・・なるほどな。今日の襲撃の時、これを食らってよく逃げられたものだと思ったが・・・そういうことだったのか」

 

 「えぇ。あなたの強さはよく知っていますから。何の策略も無しに襲撃するほど、僕もバカではありません」

 

 「なら、これはどうだ!咲き誇れ!呑竜の咬焔花!」

 

 巨大な焔の竜を出現させる。竜は雄叫びをあげると、立ちはだかる人形達をまとめて噛み砕いた。

 

 サイラスが感心したような顔をする。

 

 「これはこれは・・・大したものですね。ですが・・・」

 

 サイラスが指を鳴らすと、突然背後で気配を感じた。振り向くと二体の人形がおり、私は拘束された。

 

 「なっ・・・いつの間に!?」

 

 振りほどこうとした時、私の太ももを何かが抉った。

 

 「ぐぅっ!?」

 

 痛みを堪えながら見ると、アサルトライフルを構えた人形がいた。恐らく、今日の襲撃時にいた奴だろう。

 

 そのまま壁に押さえつけられ、呑竜の咬焔花も消えてしまう。

 

 「こんなこともあろうかと、物陰に待機させておいて正解でした。人形なら、あなたもギリギリまで気配を感じ取れないでしょうし」

 

 愉快そうに笑うサイラス。そのまま、私の太ももの傷を蹴りつける。

 

 「あああああっ!」

 

 苦痛のあまり、思わず悲鳴をあげてしまう。

 

 「くくくっ・・・あの《華焔の魔女》もこのザマですか。情けないですねぇ」

 

 サイラスが手を挙げると、一体の人形がやってきた。斧型煌式武装を持った人形・・・レスター役の人形だ。

 

 「あなたを始末した後、レスターさんとランディさんも始末します。もう利用価値も無いですからね」

 

 冷笑するサイラス。ここまでか・・・

 

 (・・・私は、ここで死ぬのか)

 

 様々なことが思い浮かんだ。リーゼルタニアのこと、孤児院の皆のこと、そして・・・我が友人達のこと・・・

 

 (クローディア・・・)

 

 クローディアは、いつも私の心配をしてくれた。もっと素直になって、感謝すべきだったな・・・

 

 (綾斗・・・)

 

 出会いこそ最悪だったが、良い奴だった。事情を知っても、私から離れないでいてくれた。心の優しい奴だったな・・・

 

 そして・・・

 

 (七瀬・・・)

 

 私の命も心も救ってくれた、大恩人と言っても過言ではない。レヴォルフの奴らに襲われたことも、私が気にすると思って話さなかったのだろう。

 

 本当に優しい奴だ・・・私はお前に出会えて幸せだった・・・ありがとう、七瀬。

 

 「では・・・さようなら、ユリスさん」

 

 サイラスの冷酷な言葉と同時に、人形が斧を振りかざす。目をつむる私。

 

 その時・・・風が疾った。

 

 「・・・ったく、一人で無茶しやがって」

 

 「・・・ッ!」

 

 その声に驚いて目を開けると・・・斧を片手で受け止めている少年がいた。見覚えのあるその姿に、思わず涙が溢れてくる。

 

 「な・・・七瀬っ!」

 

 「言ったろ?お前を守ってみせるって」

 

 笑う七瀬なのだった。

 




こんにちは、ムッティです。

二週間近く投稿出来ないっていう・・・

申し訳ありません。

仕事だったり、勉強だったり、サンムーンだったり←

一応まだストックはあるのですが、最近は続きを書けてないんだよなぁ・・・

何とか頑張ろう・・・

それではまた次回!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。