「ったく、クローディアめ・・・」
結局、俺が六花園会議で直接《悪辣の王》に聞くことになってしまったのだった。何か憂鬱だなぁ・・・
ため息をつきつつ、女子寮の廊下を歩いていた時だった。
「ななっちー!」
廊下の向こうから、シャノンが駆け寄ってきた。ユリスを先に部屋に帰しといて正解だったな・・・
「おー、シャノン。夜なのにずいぶん元気・・・」
「ななっち大変!お姫様が!」
俺の言葉を遮るシャノン。かなり慌てているようだ。
「ユリスがどうした?」
「寮に戻ってくる時に、お姫様が部屋の窓から飛び降りてくるのが見えたの!で、そのまま走ってどっか行っちゃって・・・」
「ハァッ!?」
ユリスの奴、こんな時間に何処へ行くつもりなんだ!?狙われてんだぞ!?
「で、この手紙を落としていったの!読むつもりは無かったんだけど、お姫様がただならぬ様子だったからつい・・・」
シャノンから手紙を受け取る俺。中を読んでみると・・・
『これからは周囲の人間を狙う。それを望まぬなら、以下の場所へ来られたし』
「脅迫状か・・・!」
あのバカ・・・!一人で勝手な行動しやがって・・・!
と、俺の端末に着信が入る。相手は・・・
「綾斗・・・!」
俺が端末を操作すると、空間ウィンドウに綾斗と夜吹の顔が映った。
『大変だ七瀬!今夜吹が帰ってきたんだけど、ユリスが血相を変えて走っていったのを見たんだって!』
『かなり急いでたぜ。一体何処へ向かったのか・・・』
「ユリスに脅迫状が届いたんだ!一人で犯人のところへ向かってるんだと思う!」
『何だって!?』
驚愕している綾斗と夜吹。
「夜吹、この場所分かるか!?」
空間ウィンドウ越しに、脅迫状に書かれていた地図を見せる俺。
『・・・再開発エリアだな。ちょっと待て、もっと詳細な地図を送る』
「頼む!シャノン、お前はこの脅迫状をクローディアに届けてくれ!」
「分かった!」
急いで走っていくシャノン。と、夜吹から地図が送られてきた。
『今送った地図に、赤い印を付けといた。そこが脅迫状に書かれてた場所だ』
「助かった!俺は今からここに向かう!」
『俺も行くよ!』
綾斗がそう言ってくれる。俺は頷いた。
「じゃあ正門前で落ち合おう。夜吹、お前はこの地図をクローディアにも送ってくれ」
『おいおい、俺が会長の連絡先を知ってる前提かよ?』
「どうせ知ってるだろ。だって夜吹だし」
『・・・信頼されてると受け取って良いのか?』
苦笑する夜吹。
「どうとでも受け取れ。それと、俺と綾斗が先に向かったことも伝えてくれ」
『了解、伝えとく。気をつけろよ』
「おう」
俺はすぐに女子寮を飛び出し、正門へと向かった。
「ユリスの奴、一人で無茶しやがって・・・そんなに俺が頼りないのかよ・・・」
『それは違うと思うよ』
空間ウィンドウに映った綾斗が、苦笑していた。
『ユリスは言ってたよ。守られるだけの存在は嫌だ、自分も七瀬を守りたいって』
「ユリスが・・・?」
『うん。ユリスの守りたいものの中に、七瀬も入ってるんだってさ。孤児院の友達と同じように、七瀬のことも守りたいって。ユリスは七瀬のこと、大切に思ってるんだよ』
やがて正門に着き、綾斗と合流する。
「行こう七瀬、ユリスを守る為に」
「・・・あぁ!」
俺達は走り出したのだった。
*****
≪ユリス視点≫
私は、再開発エリアにある廃ビルに来ていた。周囲を警戒しながら奥へと進む。
そして一番奥の区画へ足を踏み入れた瞬間、吹き抜け状になっている上階部分から廃材が落下してくる。明らかに私を狙ったものだ。
「咲き誇れ、隔絶の赤傘花」
五角形の花弁を出現させ、廃材を全て跳ね除ける。全く・・・
「いい加減、姿を現したらどうだ・・・サイラス」
私が低い声で呼びかけると、物陰からサイラスが姿を現した。
「おや、これは驚きました。よく僕が犯人だと分かりましたね?」
「貴様が自分で口を滑らせたんだろう。一件目と三件目の決闘は公にされていないにも関わらず、貴様は今日『三件の決闘』と言った。気付かない方がおかしい」
「・・・なるほど、僕としたことが迂闊でした。しょうもないミスですね」
ため息をつくサイラス。
「となると・・・七瀬さんや天霧くんも気付いているということですか」
「当然だ。そして既にクローディアにも報告した。特務機関とやらが動くのも、時間の問題だぞ」
「やれやれ、厄介なことになりましたねぇ・・・せっかく人形を使って、あなたの部屋に脅迫状を届けさせたというのに」
「人の部屋に、あんな趣味の悪い人形を侵入させるな」
自分の部屋に帰ってきた途端、黒いフードを被った人形に出くわした時は流石に驚いたぞ・・・
窓から逃げてしまったので仕留められなかったが、すぐに机の上の手紙には気付いた。そして私は要求通り、一人でここへやって来たのだ。
「私がここにやって来たのは、貴様を捕らえる為だ。どうせ何処かから監視していたのだろう?七瀬達を連れて来ると、貴様は逃げるだろうと思ってな」
「なるほど、そういうことでしたか・・・」
この期に及び、まだ冷静な口調のサイラス。そして口元を吊り上げる。
「それは好都合です」
「何・・・?」
「正直、七瀬さんが一番厄介だったんですよ。あなたを狙う上で、彼が一番の障害でしたからね。レヴォルフの奴らも役に立ちませんでしたし・・・」
「レヴォルフ・・・?」
コイツ、何の話をしている・・・?
「おや、聞いていないのですか?あなたと天霧くんが人形に襲われている間、七瀬さんはレヴォルフの不良共に襲われていたんですよ?」
「なっ・・・!?」
「全く・・・金を積んで依頼したというのに、大した時間稼ぎにもなりませんでした。彼の邪魔が無かったら、あなたを仕留められたんですけどねぇ」
やれやれ、といった調子で首を振るサイラス。そんな話、七瀬は一言も口にしなかったぞ・・・
「でも今、その七瀬さんはいない。あなたは一人だ。なら、今ここであなたを潰すことが出来ます」
「・・・大した自信だな」
「事実ですから。そしてその後、僕はバックにいる方々に保護してもらいます。僕のバックに誰がいるか、あの人形を見たなら分かるでしょう?」
「・・・アルルカントか」
「えぇ。いくら特務機関が動こうと、他学園には手を出せませんからね」
「だが、アルルカントが貴様を保護してくれるのか?貴様にそこまでの価値があるとは思えんが」
「舐めないでいただきたいものですね。これでも僕は、様々な実験に協力して差し上げているんですよ?《鳳凰星武祭》に出場予定だった有力学生の闇討ちも、思いのほか成果を上げることが出来ました。あとはユリスさん・・・あなたを潰して、アルルカントへの手土産にさせていただきます」
サイラスが手を挙げると、吹き抜けから人形が続々と飛び降りてくる。
と、そのうちの一体が両手に人を抱えていた。あれは・・・ッ!
「レスター!ランディ!」
ボロボロになったレスターとランディを、人形が無造作に放り投げる。どうやら、二人とも意識を失っているようだ。
「レスターさんも、《鳳凰星武祭》に出場する有力学生の一人ですから。相方のランディさん共々、倒させていただきました」
「貴様・・・ッ!」
コイツ、どこまで外道なのだ・・・!
「二人がユリスさんをここへ呼び出し、戦いの末ユリスさんと相討ちになった・・・僕が犯人だとバレていなかったら、そういうシナリオにしようと思っていました。非常に残念ですよ」
・・・もう限界だッ!
「咲き誇れ!六弁の爆焔花!」
《アスペラ・スピーナ》を起動し、サイラスに向けて技を放つ。しかし、何体もの人形がサイラスの前に立ちはだかった。
攻撃を受け、吹き飛ぶ人形達。だが・・・
「なっ・・・!?」
次々と人形達が起き上がる。何事も無かったかのように。しかも無傷で。
「こいつらは特別仕様でしてね。あなた用に耐熱限界を上げてあるのですよ」
「・・・なるほどな。今日の襲撃の時、これを食らってよく逃げられたものだと思ったが・・・そういうことだったのか」
「えぇ。あなたの強さはよく知っていますから。何の策略も無しに襲撃するほど、僕もバカではありません」
「なら、これはどうだ!咲き誇れ!呑竜の咬焔花!」
巨大な焔の竜を出現させる。竜は雄叫びをあげると、立ちはだかる人形達をまとめて噛み砕いた。
サイラスが感心したような顔をする。
「これはこれは・・・大したものですね。ですが・・・」
サイラスが指を鳴らすと、突然背後で気配を感じた。振り向くと二体の人形がおり、私は拘束された。
「なっ・・・いつの間に!?」
振りほどこうとした時、私の太ももを何かが抉った。
「ぐぅっ!?」
痛みを堪えながら見ると、アサルトライフルを構えた人形がいた。恐らく、今日の襲撃時にいた奴だろう。
そのまま壁に押さえつけられ、呑竜の咬焔花も消えてしまう。
「こんなこともあろうかと、物陰に待機させておいて正解でした。人形なら、あなたもギリギリまで気配を感じ取れないでしょうし」
愉快そうに笑うサイラス。そのまま、私の太ももの傷を蹴りつける。
「あああああっ!」
苦痛のあまり、思わず悲鳴をあげてしまう。
「くくくっ・・・あの《華焔の魔女》もこのザマですか。情けないですねぇ」
サイラスが手を挙げると、一体の人形がやってきた。斧型煌式武装を持った人形・・・レスター役の人形だ。
「あなたを始末した後、レスターさんとランディさんも始末します。もう利用価値も無いですからね」
冷笑するサイラス。ここまでか・・・
(・・・私は、ここで死ぬのか)
様々なことが思い浮かんだ。リーゼルタニアのこと、孤児院の皆のこと、そして・・・我が友人達のこと・・・
(クローディア・・・)
クローディアは、いつも私の心配をしてくれた。もっと素直になって、感謝すべきだったな・・・
(綾斗・・・)
出会いこそ最悪だったが、良い奴だった。事情を知っても、私から離れないでいてくれた。心の優しい奴だったな・・・
そして・・・
(七瀬・・・)
私の命も心も救ってくれた、大恩人と言っても過言ではない。レヴォルフの奴らに襲われたことも、私が気にすると思って話さなかったのだろう。
本当に優しい奴だ・・・私はお前に出会えて幸せだった・・・ありがとう、七瀬。
「では・・・さようなら、ユリスさん」
サイラスの冷酷な言葉と同時に、人形が斧を振りかざす。目をつむる私。
その時・・・風が疾った。
「・・・ったく、一人で無茶しやがって」
「・・・ッ!」
その声に驚いて目を開けると・・・斧を片手で受け止めている少年がいた。見覚えのあるその姿に、思わず涙が溢れてくる。
「な・・・七瀬っ!」
「言ったろ?お前を守ってみせるって」
笑う七瀬なのだった。
こんにちは、ムッティです。
二週間近く投稿出来ないっていう・・・
申し訳ありません。
仕事だったり、勉強だったり、サンムーンだったり←
一応まだストックはあるのですが、最近は続きを書けてないんだよなぁ・・・
何とか頑張ろう・・・
それではまた次回!