「えーっと、ユリスが紅茶で綾斗が緑茶・・・って、前もそうじゃなかったっけ?」
自販機で飲み物を買っている俺。綾斗がついてるから大丈夫だとは思うが、あまり長くユリスの側を離れるわけにもいかない。
早く買って戻らないといけないが・・・
「・・・何か用?」
振り向いて尋ねる俺。そこには、ガラの悪い学生達が二十人ほど集まっていた。レヴォルフの生徒達だ。
リーダーと思われる男がニヤリと笑う。
「悪いな、お前に恨みはねぇが・・・依頼はきちんと遂行しねぇといけねぇんだ」
「依頼?」
何者かが、俺を潰せとでも依頼したのか・・・?
「お前から薔薇色の髪の女と離れてくれて助かったぜ。依頼ではお前らを引き離してから、お前を潰してくれって話だったしな」
「・・・ッ!」
つまり依頼したのは、例の襲撃犯・・・ユリス達が危ない!
「さて、まずはたっぷり痛ぶるとしますか」
「・・・そこを退け」
「は?お前さぁ、今の状況が分かって・・・」
リーダーの男が言い終わる前に、間合いを詰めて顔面に拳を叩き込む。男は吹き飛び、近くの建物の壁にめり込んだ。
「え・・・?」
「リ、リーダー!?」
呆然としている不良達。目で追えなかったんだろうな。
「・・・お前ら、同じ目に遭いたいか?」
俺の言葉で、不良達の間に緊張が走った。
「こ、この野郎・・・ッ!」
「よくもリーダーを・・・ッ!」
一斉に襲い掛かってくる。その時、紫色の輝きが不良達を包み込んだ。そして・・・
「ぐあっ!?」
「な、何だ!?」
不良達が地面に倒れこみ、起き上がれずに苦しんでいる。これって・・・
「重力・・・?」
「ご名答」
上から声がする。見上げると、自販機の上で一人の女があぐらをかいていた。レヴォルフの制服を着ており、手には巨大な鎌を持っている。
いつの間にそこに・・・
「《吸血暴姫》!?」
「な、何でこんなところに!?」
倒れている不良達が驚愕している。《吸血暴姫》・・・?
「うるせぇな。何処にいようがあたしの勝手だろ」
不機嫌そうな顔で答える女。不良達が喚く。
「お、俺達の邪魔すんじゃねぇ!」
「そうだ!俺達は依頼で・・・」
「うるせぇ、耳障りだ」
女が鎌を振るうと、紫の光が強くなる。
「うわああああっ!?」
「があああああっ!?」
不良達は苦しそうに叫ぶと、次々と気を失っていった。全員が気を失うと、女は自販機の上から俺の前に飛び降りた。
「いっちょ上がり、だな」
「ありがとう。助かった」
「礼なんざ要らねぇよ。あたしが勝手にやったことだ」
俺をじっと見る女。
「お前、星野七瀬だよな?」
「え、知ってんの?」
「星導館の《覇王》だろ?それなりに有名だぜ?まぁコイツら、バカだから知らなかったみたいだが」
呆れ顔で気絶した不良達を見る女。
「そういやコイツら、アンタのこと《吸血暴姫》って呼んでたな・・・アンタもレヴォルフで《冒頭の十二人》だったりするのか?」
「おいおい、各学園の《冒頭の十二人》くらいは把握しとけよ・・・」
ため息をつく女。
「あたしはイレーネ・ウルサイス。レヴォルフの序列三位だ」
「三位!?」
そんな強いのか・・・
「そんな奴が、何で俺を助けてくれたんだ?同じレヴォルフの生徒を倒してまで」
「けっ、こんな奴らとあたしを一緒にすんな。学校は同じでも、こんな奴らを仲間だと思ったことなんざねぇよ」
吐き捨てるように言うイレーネ。
「何かムカついたから倒しただけだ。それにお前、急いでんだろ?」
「そうだ!早く行かないと!」
早くしないと、ユリス達が危ない!
「早く行け《覇王》。コイツらの処理は、あたしがやっとくから」
「頼んだ!あ、それと・・・」
「ん?」
「俺、その二つ名あまり好きじゃないんだよ。俺のことは七瀬で良いから」
「・・・わーったよ、七瀬」
「おう、ありがとなイレーネ!今度何かおごるわ!」
「期待しないで待っとくぞー」
イレーネに手を振り、ダッシュでユリス達の下へ向かう俺。
「ユリス!綾斗!」
広場のベンチに戻ると、そこには誰も座っていなかった。ベンチをよく見ると、いくつかの傷が残っている。
まるで、矢が刺さっていたかのような・・・
「くそっ!遅かったか!」
どうやら既に襲撃されたらしい。と、何処かで爆発音が聞こえた。
「何だ!?」
辺りを見渡すと、向こうの路地から煙が上がり、火の粉が散っている。
あれって・・・
「ユリスか・・・!」
急いで駆け出す。ユリスが能力を使っているということは、襲撃者と交戦していると見て間違いない。恐らく、綾斗も一緒のはずだ。
「二人とも、無事でいてくれ・・・!」
必死に走る俺なのだった。
*****
≪ユリス視点≫
「逃がすものか!待て!」
私は襲撃犯を追うため、路地へと駆け出した。
「ダメだユリス!深追いはマズい!」
綾斗の声が聞こえたが、私は足を止めなかった。ここまでされて、何もせずに見逃してやるほど私は甘くない。急いで路地へと入った瞬間だった。
物陰から大柄な奴が現れ、斧を振り下ろしてきた。咄嗟に横へ跳んで回避する。
「チッ、待ち伏せか!」
そこへ先ほどの小太りの奴が、光の矢を連射してくる。地面を転がり、何とかかわす。
「咲き誇れ!六弁の爆焔花!」
襲撃犯達に大技をぶつける。吹き飛ぶ襲撃者達。
「ユリス!」
綾斗が急いでやってくる。
「大丈夫かい!?」
「あぁ、問題無い。襲撃犯達も・・・」
言いかけた時、爆発の煙が晴れた。しかし、そこには誰もいなかった。
「なっ・・・逃げただと!?」
あれを食らって逃げられるとは・・・思ったより手強い連中かもしれん。
「とにかく、戻って七瀬と合流しよう!」
「あ、あぁ・・・」
綾斗と広場へ戻ろうとした時、またしても気配を察知した。
「・・・ッ!上か!」
見上げると、建物の屋根に煌式武装のアサルトライフルを構えた奴がいた。
(マズい、回避できない!)
ダメージを覚悟した時だった。
「おりゃっ!」
気合いの入った声と共に何かが飛んできて、アサルトライフルに直撃した。衝撃で、アサルトライフルを落としてしまう犯人。
私は後ろを振り向いた。そこには・・・
「七瀬!」
「ゴメン、遅くなった!」
私が最も信頼できる友人・・・七瀬がいたのだった。
*****
「二人とも、無事でいてくれ・・・!」
路地に向かって走っていると、建物の屋上に黒いフードを被った奴を見つけた。煌式武装のアサルトライフルを、下に向けて構えている。
恐らく、ユリス達を狙って・・・
「マズい・・・!」
右手に星辰力を集め、左手で持っていた紅茶の缶を空中に放る。そして・・・
「おりゃっ!」
缶を右の拳で殴る。缶は勢いよく飛んでいき、アサルトライフルに直撃した。アサルトライフルを落としてしまう犯人。
と、ユリスと綾斗がこっちを振り向く姿が見えた。
「七瀬!」
「ゴメン、遅くなった!」
俺は二人に謝ると、今度は緑茶の缶を空中に放って殴った。缶は犯人の頭を目掛けて飛んでいく。犯人は避けきれず、缶はローブを掠めた。
その勢いでローブが外れ、犯人の顔が明らかになる。が・・・
「なっ!?」
驚愕する俺。目と思しき窪みがあるだけで、鼻も口も無い・・・人形だったのだ。
そうか、あの時の違和感の正体は・・・星辰力の流れだ。
「そりゃ違和感も感じるよな・・・人間じゃないんだから」
もっと早く気付くべきだったな・・・と、人形が手榴弾のようなものを放った。
「ッ!綻べ!赤壁の断焔華!」
ユリスが急いで炎の壁を出現させる。しかし、それは手榴弾ではなかった。地面に落下し、モクモクと煙を吐き出す。
「煙幕!?」
視界が塞がれる。煙が晴れた頃には、人形はいなくなっていた。
逃げられたか・・・
「ユリス!綾斗!大丈夫か!?」
「あぁ、大丈夫だ」
「俺も平気だよ」
良かった・・・二人ともケガもしてないみたいだ。
だが・・・
「人形か・・・」
俺達は、その場に立ち尽くしたのだった。
こんにちは、ムッティです。
投稿が遅くなって申し訳ありません。
色々バタバタしておりました。
勉強したり・・・仕事したり・・・映画見たり←
暇がある時に、なるべく投稿していきたい思います。
それではまた次回!