休日・・・俺は綾斗と一緒に、正門前でユリスを待っていた。
ユリスと一緒に来るつもりだったんだが、『乙女の支度には時間が掛かるのだ』とか言われて部屋を追い出されたのだった。
「そういや、七瀬ってクローディアと一緒の部屋で生活してるんだよね?」
「え?あぁ、そうだよ」
今はユリスの部屋で生活していることは、俺・ユリス・クローディアしか知らない秘密事項だ。生徒会長であるクローディアの部屋に住むということで、女子寮での生活を許可されているわけだしな。
「その割には、一緒に登校してないよね?毎朝ユリスと一緒に登校してるし」
「ク、クローディアは生徒会長としての仕事が忙しくてな。朝は早く登校することが多いんだ。一人で登校するのもつまんないから、ユリスと時間を合わせて登校するようにしてるんだよ」
「なるほど、そういうことか」
納得している綾斗。あっぶねー・・・
「待たせたな」
ユリスの声がする。振り向くと、ワンピース姿のユリスが立っていた。日傘を差し、まるでどこぞのお嬢様のよう・・・
「・・・って、そういやお姫様じゃん」
「ん?何か言ったか?」
「メッチャ可愛いじゃんって言ったんだよ」
「なっ・・・!?」
顔を真っ赤にするユリス。
「バ、バカ!何を恥ずかしいことを・・・!」
「いやいや、ホントだって。な、綾斗?」
「うん、凄く似合ってるよ」
「さ、さぁ行くぞ!早く付いて来い!」
「あ、照れてる」
「て、照れてなどいない!」
耳まで真っ赤にしながら先を歩くユリスを、苦笑しながら追う俺と綾斗なのだった。
*****
「んー、ハンバーガー美味いなー!」
「あぁ、これはたまらない!」
「アハハ・・・」
ハンバーガーを夢中で頬張る俺とユリスを、苦笑しながら見つめる綾斗。俺達は昼休憩ということで、ハンバーガーチェーン店にやってきていたのだった。
「お姫様は、ハンバーガーチェーン店なんて利用しないと思ってたよ」
「それは偏見だぞ綾斗。私はジャンクフードが好きだしな」
「そういや、初めてユリスと出掛けた時もハンバーガー食べたよな」
「そうだったな。あの時はクローディアも一緒で、大変だったことを覚えているぞ」
「そうそう、クローディアがハンバーガーチェーン店に入るの初めてだったんだよな。注文するのにメッチャ戸惑ってたっけ」
「アイツは中等部一年からアスタリスクにいるのだから、もっとこういった店も利用すべきだと思うがな」
「それな。でもクローディア、あれから時々利用してるみたいだぞ」
「本当か?まぁアイツ、ハンバーガーの美味しさに感動していたしな」
そんなこともあったなぁ・・・そんな前のことじゃないけど、何だか懐かしい。
またクローディアを誘って、ハンバーガー食べに来るかな。と・・・
「おや、七瀬さんではありませんか」
聞き覚えのある声がする。振り向くと、荷物を抱えたサイラスが立っていた。
「おー、サイラス。買い物か?」
「えぇ、まぁ・・・レスターさんとランディさんにプレゼントでも、と」
顔を曇らせるサイラス。
「お二人とも、今ちょっと元気が無いといいますか・・・風紀委員会にユリスさんを襲った犯人ではないかとしつこく疑われ、精神的に参っているのです」
「マジかよ・・・」
大丈夫か二人とも・・・
「風紀委員会は、やはり二人をだいぶ疑っているようだな」
「えぇ、もう決め付けてしまっているようです」
ユリスの言葉にため息をつくサイラス。
「取り調べが行われたのですが、たいぶキツく尋問されたようでして・・・何せ動機はバッチリ、三件の決闘時のアリバイも無いとなると・・・」
「・・・レスターに関しては、二件目の決闘の時のアリバイはあるけどな」
「えぇ。ですがレスターさんが黒幕で、ランディさんが実行犯という考えを変えるつもりは無いようです。困りました・・・」
「安心しろサイラス、私もレスターとランディが犯人だとは思っていない」
ユリスの言葉に、驚いたような顔をするサイラス。
「ほ、本当ですか・・・?」
「あぁ、だから二人にも伝えろ。お前らが犯人だとは思っていないから安心しろ、と」
「あ、ありがとうございます!二人とも喜びます!」
サイラスは一礼すると、急いでその場を去っていった。
「・・・どう思う?」
「・・・恐らく、お前と同じことを考えている」
「・・・俺も」
俺の言葉にユリスが答え、綾斗が同意する。
「でもそうなると、レスターとランディに似てるフードを被った奴って一体・・・」
「そうだな・・・仲間の中に似たような体格の奴がいるのかもしれん」
考え込む綾斗とユリス。そんな中、俺はあの時のことを思い出していた。
「何か違和感あったんだよなぁ・・・」
「違和感?」
首を傾げるユリス。
「ほら、俺とユリスが決闘した時だよ。逃げる犯人の背中を見て、ランディに似てると思ったんだが・・・何か違和感を感じた気がして・・・」
「どういうことだ?」
「分からない・・・あの時はユリスを庇うのに精一杯で、犯人のこともあまり長く見れなかったし・・・」
あー、何かモヤモヤするなー・・・
「とりあえず今のこと、帰ったらクローディアに報告した方が良いんじゃないかな」
「・・・そうだな。証拠は無いが、手がかりになるだろうし」
綾斗の言葉に頷く俺なのだった。
*****
≪綾斗視点≫
七瀬とユリスに街を案内してもらい、気が付くと夕方になっていた。今はユリスと広場のベンチに座り、飲み物を買いに行った七瀬の帰りを待っているところだ。
俺も一緒に行こうとしたんだけど、ユリスを一人にするのはマズいからって七瀬にお願いされたんだ。
「ねぇユリス」
「ん?何だ?」
「ユリスって、七瀬のこと好きなの?」
「ハァッ!?」
顔を真っ赤にするユリス。
「な、何を言い出すのだお前は!」
「だってユリス、七瀬に対しては凄く心を許してるから。ここで初めて出来た友達とは聞いてるけど、それだけじゃないような気がしてさ」
俺の言葉に、口をパクパクさせているユリス。と、やがてため息をついた。
「・・・私が七瀬に心を許しているのは、私の守りたいものの中にアイツが入っているからだ」
「守りたいもの・・・?」
「あぁ」
頷くユリス。
「私は、自分の国にいる友人達を救う為にここへやってきた。《星武祭》で優勝して金を手に入れ、友人達を守りたい・・・その願いを叶える為にやってきたのだ」
「でも、ユリスってお姫様なんでしょ?お金ならあるんじゃ・・・」
「リーゼルタニアは、統合企業財体の傀儡国家だ。あの国には私に使われる金はあっても、私が自由に使える金など無い。金を稼ごうと思ったら、自分で戦って稼ぐしか方法は無いのだ」
ユリスの表情が暗くなる。
「だから、周りと馴れ合ってはいけないと思っていた。戦う以上、ここにいる奴らは全て敵だと・・・そう思っていた。アイツに出会うまではな」
アイツ・・・七瀬のことか。
「七瀬は最初、クローディアに頼まれて私と接触してきた。友人のいない私を見かねたのだろうな・・・全く、余計なことをしてくれる女だ」
ため息をつくユリス。
「だから私は、七瀬に冷たく当たった。私に関わるなと、ハッキリ言ってやった」
「・・・目に浮かぶようだよ」
「ふん・・・だが、アイツは私を庇ってくれた。レスターに侮辱された時、私の為に本気で怒ってくれた。レスターから売られたケンカを私の代わりに買い、そして見事勝った。あの時のことは、今でも忘れない」
そういや、レスターと夜吹が言ってたっけ・・・それがあってから、ユリスは七瀬に心を開くようになったって。
「決闘が終わった後、アイツは私に言ったのだ。皆がお前の敵なわけじゃない、もう一人で頑張るな、辛い時は頼ってくれて良い、と」
微笑むユリス。
「今までよく頑張った・・・そう言われた瞬間、今まで入っていた力がフッと抜けたのを感じたのだ。恐らく、ホッとしたのだろうな。私が七瀬に心を許した瞬間だった」
そうだったのか・・・七瀬、カッコいいな。
「七瀬は、私を守ると言ってくれた。だが私も、守られるだけの存在は嫌なのだ。私も七瀬を守りたい・・・自分の国の友人達と同じように、ここで出来た初めての友人を守りたいのだ」
「ユリス・・・」
・・・何か、あんな質問をした自分が恥ずかしいな。ユリスが七瀬を大切に思う気持ちは本物だ。それを邪推しちゃいけないよな。
「・・・ユリスはさ、七瀬と《鳳凰星武祭》に出るのかい?」
「いや、別のパートナーを見つけようと思っている」
「え、だって七瀬を一番信頼してるんじゃ・・・」
「そうなのだが、七瀬に甘えっぱなしというわけにもいかないだろう。もしパートナーが見つからなかったら、一緒に出ようと七瀬は言ってくれているが・・・」
「何だ、じゃあ一緒に出たら良いじゃないか」
俺がそう言うと、ユリスが再びため息をついた。
「・・・綾斗、お前も薄々感じているのではないか?七瀬が戦いを好まないことを」
「・・・」
何も言えなくなる俺。そう、それは薄々感じていたことだ。
「七瀬は《冒頭の十二人》入りしてからというもの、幾度となく決闘を申し込まれてきた。しかし全て断り、戦うのは公式序列戦の時のみにしている。七瀬と決闘をしたことがあるのは、私が知る限りレスターと私の二人だけのはずだ」
決闘を全て断っている・・・か。初めて知ったな・・・
「今の序列を守る為に、リスクを減らしているとも取れるが・・・アイツは序列に関して興味が無い。レスターと私に挑まれた決闘で勝ったから序列五位にいるだけで、アイツ自身が望んで《冒頭の十二人》になったわけではないのだ」
「つまり序列を守る為じゃない・・・となると、やっぱり戦いを好まないってことか」
「好まないというより・・・恐れているような気もするがな」
「恐れている?あれだけ強いのに?」
「あくまで私の勘だ。だが一度も煌式武装を使わず、常に素手で戦っているところを見ると・・・本気を出すことを恐れているように感じるのだ。実際に決闘してみて、より強くそう思った」
「もしかしてユリス、あの時七瀬に決闘を挑んだのは・・・」
「あぁ、実際に戦って確かめたかったからだ。そしてそう思った以上、やはりパートナーは別の者にしようと思った。戦いを望まない七瀬に戦ってもらうなど、友人として絶対にしたくないからな」
強い口調で言うユリス。本当にユリスは、七瀬を大切に思ってるんだな・・・
そんなことを考えていた時、突然殺気を感じた。
『・・・ッ!』
左右へ飛び出す俺とユリス。今まで座っていたベンチに、光の矢が何本も刺さった。
「襲撃!?決闘もしてないのに!?」
警戒して辺りを見渡す俺。と、人影が路地へと逃げ込んでいくのが見えた。黒いフードを被った小太りの奴で間違いない。弓型煌式武装を使う奴だ。
「逃がすものか!待て!」
走り出すユリス。
「ダメだユリス!深追いはマズい!」
声をかけるが、ユリスは足を止めなかった。恐らく、頭に血が上っているんだろう。
「くそっ!」
俺は急いでユリスの後を追ったのだった。
初の三話連続投稿でございます。
次の投稿日は、金曜日になると思われます。
またバタバタしそうなので・・・
投稿が不定期の上に遅くなり、大変申し訳ありません。
温かい目で見守っていただけると幸いです。
それではまた次回!