学戦都市アスタリスク ~六花の星野七瀬~   作:ムッティ

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Little Glee Monsterって凄いな・・・


理由

 「まぁこれで、一通りは案内しただろう」

 

 ユリスが満足げに頷く。放課後、俺達は綾斗に学園を案内していた。

 

 「ありがとう、勉強になったよ」

 

 「どういたしまして。ってか紗夜、お前は道を知らなさ過ぎだぞ」

 

 「私、方向音痴だから」

 

 無い胸を張る紗夜。案内する先々で『なるほど』とか『それは初耳』とか・・・綾斗以上に感心してたよなコイツ。

 

 「じゃ、そこのベンチで休憩しよう。飲み物おごるけど、何か希望あるか?」

 

 「良いのか?では、冷たい紅茶を頼む」

 

 「私はりんごジュース。濃縮還元じゃないやつが良い」

 

 「俺は自販機を見て決めたいから、七瀬に付いてくよ」

 

 「了解。じゃ、ユリスと紗夜は座って待っててくれ」

 

 そう言って、綾斗と二人で自販機へ向かう。

 

 「それにしても、この学園は広いね」

 

 「だよなー。俺も入学式の時から迷ったよ。クローディアのおかげで助かったけど」

 

 「そういやクローディアって、かなり強いらしいね。夜吹から聞いたけど、序列二位なんだって?」

 

 「あぁ、二つ名は《千見の盟主》だ。俺も戦ってるところは見たことないけどな」

 

 「公式序列戦とか、誰か挑んだりしないの?」

 

 「公式序列戦でクローディアに挑む奴なんて、ほとんどいないみたいだぞ?それほどアイツの強さが恐れられてるってことだろうな」

 

 そんな話をしているうちに、自販機に着く。

 

 「えーっと、紅茶とりんごジュースだったよな。綾斗も好きなの選べよ」

 

 「うん、ありがとう・・・ねぇ、七瀬」

 

 「ん?」

 

 「聞いてみたかったんだけど・・・どうして煌式武装を使わないんだい?」

 

 おいおい・・・今その話かよ。

 

 「入学してから、一度も使ってないんだろ?レスターとの決闘の時や、公式序列戦でも使ってないって聞いたよ?ユリスとの決闘でも、君は使おうとしなかった」

 

 「・・・俺、煌式武装を使うの苦手なんだよ。素手の方が戦いやすいし」

 

 紅茶とりんごジュースを買いつつ、何気なく答える俺。

 

 「本当にそれだけかい?俺には、他に何か理由があるような気がするんだけど」

 

 「理由ねぇ・・・」

 

 コイツ、なかなか鋭いな。だが・・・

 

 「それなら、俺にも教えてくれないか?」

 

 「何を?」

 

 「お前が・・・本来の力を封印されている理由を、だよ」

 

 「・・・ッ!」

 

 息を呑む綾斗。どうやら図星らしいな。

 

 「お前の身体から感じる星辰力は、明らかに不自然だ。本来溢れ出るはずのものが、何かによって塞き止められているように感じる」

 

 「・・・よく分かるね」

 

 「星辰力の流れに関しては敏感でな。お前の身体からは、鎖で何重にも縛られているような違和感を感じる。こんなことを自分でやるとは思えないし、恐らく《魔術師》か《魔女》の力によるものなんじゃないか?」

 

 考えを述べつつ自販機にお金を入れ、綾斗に勧める俺。

 

 「・・・参ったな。そこまで気付かれたのは初めてだよ」

 

 ため息をつき、ボタンを押す綾斗。取り出し口から緑茶が出てくる。

 

 「・・・俺の力を封印したのは、俺の姉さんだよ。名前は天霧遥。姉さんの能力は、万物を戒める禁獄の力なんだ」

 

 「お前の姉さんは、何でその力をお前に使ったんだ?」

 

 「俺も聞いてみたいんだけどね。いきなり封印を施されて、気を失って・・・気付いたらもう、姉さんはいなくなってた。五年も前のことだよ」

 

 「失踪したってことか・・・?」

 

 「うん。ところが、その失踪した姉さんがこの学園にいたことが分かってね」

 

 「星導館に・・・?」

 

 失踪後、このアスタリスクにやってきたってことか・・・

 

 「ちょうど五年前らしいよ。でも半年後、本人都合により自主退学してるって。しかも姉さんのデータは、何者かによって抹消されていたらしいんだ」

 

 「抹消・・・?そんなこと可能なのか・・・?」

 

 「普通なら無理だって、クローディアが言ってたよ。ただ、上の人達なら可能かもしれないって」

 

 「統合企業財体か・・・」

 

 連中が絡んでるとなると、どうも闇の深そうな話だな・・・

 

 「でも五年前なら、当時のクラスメイトや先生が残ってるんじゃないのか?覚えてる人だっているはずだろ」

 

 「それが・・・誰一人として覚えていないらしいんだ。《星武祭》に出場した記録も無いし、《在名祭祀書》入りしたことも無いみたい。クローディアもお手上げだってさ」

 

 「マジかよ・・・」

 

 あのクローディアがお手上げとなると、よっぽど手がかりが無いんだな・・・それにしても、誰一人覚えてないっておかしくないか・・・?

 

 「ただ・・・一つだけ手がかりっていうか、姉さんに近付けるかもしれないものがあるんだって」

 

 「何だ?」

 

 「姉さんが使ってたかもしれない、純星煌式武装があるんだってさ」

 

 「純星煌式武装?確かなのか?」

 

 「まだ確証が取れてないとは言ってたけど・・・ある純星煌式武装に、貸与記録も無いのに実戦データが蓄積されていたらしいよ」

 

 「つまり何者かが無断で持ち出したか、貸与記録を改竄したってことか・・・?」

 

 「改竄の方が可能性は高いみたい。で、その実戦データが五年前のものなんだって」

 

 「なるほど・・・なら、綾斗の姉さんが使ってた可能性が高いな」

 

 「うん。今度見せてもらうことになってるんだ」

 

 「ちなみに、純星煌式武装の名前は?」

 

 「えーっと・・・確か《黒炉の魔剣》だったかな?」

 

 「《黒炉の魔剣》か・・・」

 

 それにしても、綾斗の姉さんは一体何が目的で動いてたんだ?分からないことだらけだな・・・

 

 考え込んでいると、突然耳をつんざくような爆音が響いた。

 

 「何事!?」

 

 綾斗が身構える。だが、俺はこの音に聞き覚えがあった。この音は・・・

 

 「アイツかあああああっ!?」

 

 「え、七瀬!?」

 

 ダッシュする俺を、綾斗が慌てて追いかけてくる。

 

 「七瀬、一体何事だい!?」

 

 「分からん!でも間違いなく紗夜が絡んでる!」

 

 「え、何で分かるの!?」

 

 「さっきの爆音はアイツの煌式武装・・・三十八式煌型擲弾銃ヘルネクラウムの弾が炸裂した音だ!」

 

 「音で分かるんだ!?」

 

 「前に紗夜がアレを教室でぶっ放して、大問題になったからな!」

 

 「どんだけ問題児なの!?」

 

 そんな会話をしつつ、ユリス達のところに戻ると・・・

 

 「うわぁ・・・」

 

 「これは酷い・・・」

 

 噴水が木っ端微塵に破壊されていた。水が噴き上がり、シャワーのように周囲に降り注いでいる。

 

 「あ、帰ってきた」

 

 「遅いぞ、お前達」

 

 紗夜とユリスが、ずぶ濡れの状態で立っていた。

 

 「・・・おい紗夜、何で噴水を破壊したんだ?」

 

 「・・・どうして私だと分かった?」

 

 「分かるわ!ヘルネクラウムぶっ放しただろ!」

 

 「おー、正解。流石は七瀬」

 

 「感心してる場合か!」

 

 「まぁ待て七瀬、事情があるのだ」

 

 割って入るユリス。

 

 「実は、例の襲撃者に襲われてな」

 

 「何だと!?」

 

 俺はユリスの肩を掴んだ。

 

 「大丈夫か!?ケガしてないか!?」

 

 「大丈夫だ、かすり傷も負っていない」

 

 「良かった・・ゴメン、側にいれなくて・・・」

 

 「良いのだ、気にするな」

 

 笑うユリス。

 

 「紗夜もケガ無いか?」

 

 「大丈夫だ、問題無い」

 

 親指を立てる紗夜。お前も強いもんなぁ・・・

 

 「ただ、気になることがあってな・・・今回の襲撃者は二人だった」

 

 「二人!?マジか!?」

 

 「あぁ。一人は前回と同じ奴・・・小太りの弓型煌式武装を使う奴だった。そして今回はもう一人・・・大柄で、斧型煌式武装を使う奴が一緒だった」

 

 「・・・ッ!おい、それって・・・!」

 

 「あぁ、似ていた・・・レスターにな」

 

 険しい顔のユリス。

 

 「ただ、やはり黒いフードを被っていてな。顔は見えなかった」

 

 「そうか・・・」

 

 険しい顔で黙り込む俺達に、綾斗がおずおずと声をかけてくる。

 

 「あ、あのさ・・・」

 

 「ん?どうした?」

 

 「いや、その・・・ユリスも紗夜も、そのままの格好はマズいよ・・・」

 

 目を逸らしながら言う綾斗。そして俺とユリスも気付いた。

 

 ずぶ濡れということは、制服が肌に張り付いているということだ。つまり必然的に透けて、下着がくっきりと浮き出てしまうことになる。

 

 目の前のユリスのように。

 

 「な、な、な・・・!」

 

 「ハイハイ、とりあえずこれ羽織っとけ」

 

 制服の上着を脱ぎ、赤面しているユリスに掛けてやる。

 

 「綾斗も紗夜に・・・って紗夜!?お前下着はどうした!?」

 

 紗夜の制服は肌に張り付き、下着を付けていない胸が完全に透けて見えていた。

 

 「・・・悲しいかな、私にはまだ必要無い」

 

 平然と言ってのける紗夜に、頭を抱える俺達なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「二人目の襲撃者ですか・・・」

 

 険しい顔をするクローディア。俺とユリスは事件の報告をする為、クローディアの部屋を訪れているのだった。

 

 「ゴメン・・・安易にユリスの側を離れるべきじゃなかった」

 

 「七瀬は悪くありませんよ。悪いのは、沙々宮さんに決闘を吹っ掛けたユリスです」

 

 ため息をつくクローディア。何でもあの時、二人は決闘しようとしていたらしい。ユリスが紗夜に決闘申請しようとしたところを襲われたそうだ。

 

 「さ、先にケンカを売ってきたのはアイツだぞ!?」

 

 「だからと言って、決闘を吹っ掛けるなんて軽率すぎます。襲撃犯が決闘の隙をついてきていることは、あなたもよく分かっているでしょう。二度も襲われたのに、何故学習しないのですか?」

 

 「うぐっ・・・」

 

 言葉に詰まるユリス。

 

 「あなたは少し血の気が多すぎます。当面の間、決闘は控えること。それと、出来る限り七瀬と一緒に行動して下さい。良いですね?」

 

 「う、うむ・・・」

 

 渋々頷くユリス。と、クローディアが再びため息をつく。

 

 「今回の件で風紀委員会は、マクフェイルくんも有力な容疑者候補として調べることにしたようです。今回の襲撃の時間、彼とフックくんはアリバイが無かったそうですから」

 

 「でもレスターは前回の襲撃の時、綾斗や夜吹と一緒にいたんだぞ?」

 

 「風紀委員会としては、黒幕がマクフェイルくんだと睨んでいるようですよ。自身が疑われないよう、前回まではフックくんに実行犯をやらせていた。しかしフックくんが手こずっているのを見かねて、今回は自身も参戦したと見ているようです」

 

 「・・・風紀委員会は、どうしてもレスターを犯人にしたいのな」

 

 「フックくんが容疑者候補として浮かび上がってから、マクフェイルくんが黒幕という線を考えていたようですね。今回の襲撃で、その線を確信しているようです」

 

 「マジかよ・・・じゃあ、サイラスも疑われてるのか?」

 

 「ノーマンくんに関しては、あまり疑われていないようです。いずれの襲撃の際も、彼にはアリバイがあったそうですよ」

 

 「それを言ったら、レスターにだって前回のアリバイがあるんだけどな・・・」

 

 「えぇ。ですから、陰で協力している可能性は捨てていないようです。ですが、ノーマンくんは大人しい生徒ですからね。熱くなりがちなマクフェイルくんやフックくんを、宥める光景もよく目撃されていますから。そういうこともあって、風紀委員会もノーマンくんをあまり疑ってはいないようですよ」

 

 「・・・なるほど」

 

 まぁアイツ、戦闘向きって感じでもないしなぁ・・・

 

 「それにしても、犯人も焦っているようですね。決闘が始まってもいないのに襲撃してくるとは・・・」

 

 「それな。今回も失敗したし、本当になりふり構わずくるかもしれないぞ」

 

 「えぇ。ユリス、気をつけるんですよ?くれぐれも今回のような軽率な行動を取らないで下さいね?」

 

 「わ、分かっている!」

 

 頬を膨らませるユリス。

 

 「七瀬も、今以上に警戒をお願いします」

 

 「了解。犯人探しの方はどうだ?」

 

 「現在調査中ですが、これといって進展はありません。状況が状況ですし、私もお役に立ちたいのですが・・・」

 

 「十分やってもらってるって。引き続き調査を頼む」

 

 「承知しました。全力で当たります」

 

 「・・・さて、話は済んだな。七瀬、部屋に戻るとしよう」

 

 「おう、そうだな」

 

 立ち上がる俺達。と、クローディアが微笑んだ。

 

 「あら、すっかり同棲生活に慣れたようですね。まだ一日しか経っていませんのに」

 

 「な、何が同棲生活だ!」

 

 赤面しながら叫ぶユリス。

 

 「い、行くぞ七瀬!」

 

 「ハイハイ。じゃ、おやすみクローディア」

 

 「えぇ、おやすみなさい」

 

 笑いながら手を振るクローディアなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 翌日、ユリス襲撃事件がネットニュースで報道された。

 

 しかしユリスが謎の襲撃者を撃退したという点のみが取り上げられており、紗夜がその場にいたことすら触れられてはいなかった。

 

 「全く・・・犯人を撃退したのは沙々宮だというのにな・・・」

 

 ため息をつくユリス。一方の紗夜は、興味無しといった感じだった。

 

 「《冒頭の十二人》と序列外では、ずいぶんと扱いが異なる。それは分かっていたこと」

 

 「紗夜はドライだなぁ・・・」

 

 「現実を知っているだけ」

 

 平然と言ってのける紗夜。コイツ、やっぱ大物だわ。

 

 「ところで綾斗は?」

 

 「純星煌式武装の適合率検査を受けるんだってさ。クローディアと一緒に装備局に行ってるはずだ」

 

 「純星煌式武装・・・流石は綾斗」

 

 感心している紗夜。

 

 「あ、そうだユリス」

 

 「ん?どうした?」

 

 「次の休日、綾斗に街を案内しないか?綾斗も空いてるって言ってたし」

 

 「私は構わんぞ。特に予定も無いしな」

 

 「了解。紗夜はどうする?」

 

 「行きたいのは山々・・・でも、補習がある」

 

 「あー・・・」

 

 そういや、谷津崎先生から言われてるんだっけか・・・

 

 「・・・紗夜、生きて帰って来いよ」

 

 「いや、たかが補習だろう?何故戦場に行くみたいな感じになっているのだ?」

 

 「・・・必ず生きて帰る。また会おう、友よ」

 

 「紗夜・・・」

 

 「七瀬・・・」

 

 「いや、だから何で無駄にシリアスな雰囲気なのだ!?」

 

 俺と紗夜が握手を交わす中、一人叫ぶユリスなのだった。

 




二話続けての投稿となります。

あー、カラオケ行きたい(唐突)

映画も行きたいし髪も切りたいし・・・

最近忙しくて全然行けない・・・

誰か私に時間をくれww

それではまた次回!

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