≪ユリス視点≫
翌朝、私はアラームが鳴るより前に目を覚ました。
(まだアラームは鳴っていない・・・もう少し寝るとしよう)
そう思い目を閉じる。すると、何やら身体が温かいものに包まれているような感覚を覚えた。これはまるで・・・
(誰かに抱き締められているような・・・)
そんなことを考えていると、頭の上から微かな寝息が聞こえてきた。
あぁ、昨夜は七瀬と一緒にベッドで寝たのだったな・・・ん?
(まさかっ!?)
慌てて目を開けると、七瀬の身体がすぐ目の前にあった。というより、私が七瀬の胸に顔を埋めている状態だった。完全に密着した状態で、七瀬の手が私の背中に回されている・・・
つまり、私は七瀬に抱き締められているということだ。
(な、な、な・・・!)
顔が紅潮していくのが、自分でもよく分かる。同い年の男性に抱き締められていると考えただけで、とてつもなく恥ずかしい。だが・・・
(温かい・・・何だか不思議と落ち着くな・・・)
こんな風に誰かに抱き締められたのは、いつ以来だろうか。こんなに温かい温もりを、この場所で感じることができるとは思わなかった。
(私は・・・もう一人では無いのだな)
ここに来てからというもの、私はずっと一人で戦ってきた。しかし今は、七瀬が側にいてくれている・・・何だか安心している自分がいた。
スヤスヤと寝息を立てて、気持ちよさそうに寝ている七瀬を見上げる。
(・・・これが序列五位の《覇王》とは思えんな)
思わず苦笑する。だが、その寝顔がとても愛おしく思えた。
七瀬は昨夜、私を守ってみせると言ってくれたが・・・どうやら私の守りたいものの中に、七瀬も入ってしまったようだ。
再び七瀬の胸に顔を埋める。
(・・・私は昨日、散々お前に胸を揉みしだかれたのだ。これくらいしても、バチは当たるまい・・・)
七瀬に身を委ね、そっと目を閉じる。七瀬の温もりに包まれる中、私は意識を手放したのだった。
*****
「あー、よく寝た・・・」
「寝過ぎだバカ者!時間ギリギリではないか!」
「まぁ良いじゃん。遅刻せずに済みそうだし」
「そ、それはそうだが!」
一緒に登校中の俺とユリス。二人とも寝過ぎてしまい、慌てて準備をして部屋を飛び出したのだった。
「それにしても、ユリスも寝坊とかするんだな」
「お前に言われたくないわ!そもそも誰のせいで・・・」
「ん?何か言った?」
「べ、別に何でもない!」
何故か赤面しているユリス。それにしても、ホント良く寝れたなー。まるで温かいものを抱いて寝てるみたいな心地よさがあったし。
側にユリスがいたから、ユリスの体温を感じたのかな?
「おはよー」
そう言って教室に入った瞬間、クラスメイト達が群がってきた。
「七瀬、序列五位おめでとう!」
「お姫様に勝つなんて凄いな!」
「私も決闘見てたけど、襲撃者を追ったから最後見れなくてさー!」
「どうやって勝ったの!?」
興奮状態のクラスメイト達。いや、どうやって勝ったって・・・
「えーっと、最後は胸をm・・・」
「ふんっ!」
「イタッ!?」
ユリスに足を踏まれた。痛い・・・
「胸を・・・?」
「む、胸の校章を破壊されたのだ!一瞬の隙をつかれてしまってな!」
わざとらしく大声で叫ぶユリス。まぁ間違っちゃいないわな。
「マジか!お姫様の隙をつくとは・・・」
「やっぱ凄いね七瀬くん!」
賞賛してくれる皆。うん、何か心が痛くなったな。
「そういや昨日の襲撃犯を追ってくれた奴、ありがとな」
「いいって。結局逃がしちまったしな」
「ゴメンね。捕まえたかったんだけど・・・」
「いやいや、謝ることないって!ホントありがとな」
コイツら、マジで良い奴らだなぁ・・・
「それにしても、決闘中に襲撃とはなぁ・・・」
「許せないよねー」
「何の話をしている?」
「おわっ!?」
いつの間にか、紗夜が俺の隣にいた。
「紗夜、いつの間に!?」
「今来たところ」
「谷津崎先生、怒ってたぞ?」
「・・・帰る」
「はいストップ」
「うぐっ」
紗夜の首根っこを掴んで引き止める。
「これ以上怒りのボルテージが上がると、マジで殺されるぞ」
「・・・七瀬を生贄に、私を無償降臨させる」
「誰が生贄だコラ」
皆が笑う中、綾斗と夜吹が登校してきた。
「おはよー・・・って、何の騒ぎだい?」
「何かあったんか?」
「あぁ、これはな・・・」
「・・・綾斗?」
紗夜が呟く。え・・・?
「え・・・えええええ!?紗夜!?何でここに!?」
ビックリしている綾斗。え、何?
「お前ら知り合いなのか?」
「あぁ、うん・・・幼馴染なんだ」
「マジで!?」
この二人、そんな関係だったのか・・・と、ユリスが首を傾げた。
「幼馴染なら、何故うちの生徒だと知らなかったのだ?」
「紗夜が海外に引っ越してから会ってないんだよ。かれこれ六年ぶりくらいかな」
「その割には、沙々宮の反応が薄いようだが・・・」
「ちょおビックリ」
「いや、そうは見えんが・・・」
ユリスのツッコミ。綾斗が苦笑する。
「昔からこんな感じだからね・・・紗夜、元気だった?」
「うん、ちょお元気」
「そっか。それにしても変わらないなぁ・・・昔のまんまっていうか・・・」
「そんなことはない。ちゃんと背は伸びた」
「そ、そう?」
首を傾げる綾斗。あ、これ絶対変わってないパターンや・・・今度昔の写真見せてもらおうかな。
「綾斗は大きくなりすぎ。でも大丈夫、私も来年の今頃は綾斗くらいの身長になっている予定。綾斗もまだ背は伸びるだろうから、ちょうど釣り合いが取れるはず」
「いや無理だろ。どう見ても三十センチは差があるぞ」
「七瀬、諦めたらそこで試合終了」
「紗夜先生、残念ながら・・・人生終了のお知らせです」
俺は紗夜の背後を指差した。そこには、鬼のような形相の谷津崎先生が・・・
振り向いた紗夜が、恐怖のあまり固まってしまう。
「沙々宮ぁ・・・覚悟は出来てんだろうなぁ・・・」
「じ、事情があって・・・」
「言い訳は生徒指導室でたっぷり聞いてやらぁ!」
紗夜の首根っこを掴み、引きずっていく谷津崎先生。絶望の表情を浮かべている紗夜。
「・・・さよなら紗夜、お前のことは忘れない」
「何で死んだみたいになってんの!?」
綾斗のツッコミ。綾斗以外の皆は、ただ黙って両手を合わせるのだった。
*****
「紗夜ー、生きてるかー?」
「・・・」
机に突っ伏したまま動かない紗夜。生徒指導室から帰ってきた紗夜は、フラフラになりながら机に突っ伏してしまったのだった。谷津崎先生は妙にスッキリした表情で帰ってきたし・・・
一体何があったのか、怖くて聞けないな・・・
「おーい、紗夜ー?」
「・・・返事が無い。ただの屍のようだ」
「あ、谷津崎先生だ」
ガバッと起き上がり、姿勢を正す紗夜。
「嘘だよ。ってか、元気じゃねーか」
「・・・全然元気じゃない。次の休日も補習を言い渡された」
「寝坊したんだから、自業自得だろうよ」
「相変わらず紗夜は朝に弱いんだね・・・」
綾斗も苦笑している。
「あ、そうだ綾斗。放課後ヒマ?」
「え?あぁ、うん。ヒマだけど」
「なら、俺とユリスで学園を案内しようか?案内してほしいって言ってたし」
「良いの?ありがとう、助かるよ」
「し、仕方なくだぞ!七瀬との約束で仕方なくだからな!」
ユリスは相変わらずのツンデレぶりだった。
「紗夜も来るか?」
「うん、行く」
「悪い七瀬、俺ちょっと部活があって行けないわ」
両手を合わせる夜吹を、キョトンとした顔で見る俺。
「え、夜吹も来るつもりだったの?」
「誘われる気満々だったんだが!?」
「安心しろ。誘う気ゼロだったから」
「何でだよおおおおおっ!?」
叫ぶ夜吹なのだった。
こんにちは、ムッティです。
もっと早く投稿する予定だったんですが・・・
体調を崩し、寝込むハメになってしまいましたorz
いやー、ホントしんどかった・・・
やっぱり健康なのが一番ですね。
皆さんも体調にはお気を付け下さい。
それではまた次回!