「なるほどな・・・」
ため息をつくユリス。俺とクローディアはユリスの部屋へ赴き、事情を説明したのだった。
俺が一緒に住むなんて言ったら、絶対にブチギレると思ったんだが・・・今のところ落ち着いてるな。
「・・・まぁ仕方あるまい。受け入れよう」
「え、良いの!?」
「面識も無いボディーガードを付けられるくらいなら、お前の方が断然マシだ。それに犯人も姿を見られた以上、なりふり構わず襲ってくる可能性がある。寝込みを襲われる可能性も考慮すると、私一人では気が休まらんからな」
苦笑するユリス。あー、確かにな・・・
「あらユリス、案外満更でもないんですね?」
「し、仕方なくだぞ!?本当に仕方なくだからな!?」
クローディアの言葉に、赤面しながら慌てるユリス。
「ではそういうことで。七瀬、ユリスを頼みましたよ。こちらも犯人の確保に全力を注ぎますので」
「おう。進展があったら教えてくれ」
「了解です。あぁ、それと・・・」
「ん?」
「犯人とは違う意味で、ユリスを襲ってはいけませんよ?」
「何を言ってんの!?」
「良いから早く出て行け!」
「はいはい、お邪魔虫は出ていきますよ」
笑いながら去っていくクローディア。ユリスを見ると、顔を真っ赤にしていた。
「・・・まぁそんなわけで、当面の間お世話になります」
「う、うむ。よろしく頼むぞ」
「おう。ってか、広いなこの部屋」
クローディアの言っていた通り、一部屋の大きさとしてはこっちの方が広い。鉢植えやプランターが並び、キレイな花を咲かせているものもある。
「ユリスって、花とか好きなのか?」
「あぁ、親友の影響でな」
「ユリスに親友・・・だと・・・」
「おい、何でそんなに驚いている?」
「いや、だってあのユリスだぞ?」
「お前バカにしてるな!?」
頬を膨らませるユリス。
「私にだって友人はいる。もっとも、この学園にはお前しかいないが・・・自分の国には他の友人もいるのだ」
「へぇ・・・ひょっとして、机の上の写真に写ってる子供達?」
「あぁ、そうだ」
懐かしそうに写真を手に取るユリス。シスターらしき女性達と、幅広い年代の子供達が写っている写真だ。
そして写真の真ん中で笑っている、薔薇色の髪をした女の子・・・間違いなく、幼い時のユリスだろう。
「私はこう見えて、子供の頃はお転婆でな」
「こう見えて・・・?」
「何か文句でも?」
「滅相もございません」
「ふん・・・とにかく幼い頃は、よく宮殿を抜け出していたのだ。ところがある日、少し遠出をしたら道に迷ってしまってな。うろうろしているうちに、貧民街に迷い込んでしまったのだ」
「あ、ガラの悪い奴に絡まれるパターンや・・・」
「ご名答だ。その当時の私の力は、せいぜいライター程度の火が出せるくらいだった。そして裏路地に連れ込まれて、泣くだけだった私を助けてくれたのが彼女達・・・孤児院の子供達だったのだ」
「うわ、かっこいいな」
「だろう?彼女達は、私にとってのヒーローだったのだ」
目を輝かせるユリス。
「それ以来、私は宮殿を抜け出しては彼女達に付いて回るようになってな。時間をかけて仲良くなることができた。驚いたことにその孤児院は、亡くなった私の母が創設した基金で作られたものだったのだ」
「え、ユリスのお母さんって亡くなってるのか・・・?」
「あぁ、知らなかったか?今のリーゼルタニアの国王は、私の兄上なのだ。両親は既に他界していて、私も両親についてはよく覚えていない」
「そっか・・・その孤児院の子供達に助けられるなんて、何だか不思議な縁を感じるな」
「あぁ、私も驚いたぞ。だが、その基金も既に無い。孤児の数は毎年増え、資金繰りは年々厳しくなっているのが現状だ・・・と、これは前にも話したか」
「あぁ。だからユリスは、アスタリスクに来たんだよな」
「そうだ。必ず《鳳凰星武祭》で優勝して、孤児院を救えるだけの金を手にする」
なるほどな・・・ユリスが孤児院を救いたい理由が分かったよ。
「おっと、長話になったな。いつの間にかこんな時間だ」
ユリスが時計を見て驚いている。
「そろそろ寝るか・・・あっ」
「ん?どうした?」
「いや、その・・・肝心なことを忘れていた」
「と言うと?」
「・・・ベッドが一つしかない」
「あっ・・・」
そういや気付かなかったな・・・
「布団とかは?」
「無い。寮の部屋はどこも、基本的にベッドだからな・・・」
「・・・ま、大丈夫だろ。俺が床で雑魚寝するから」
「いや、それは申し訳ない。私が床で寝るから、七瀬はベッドを使え」
「いやいや、女の子を床で寝かせるわけにはいかないだろ」
「私だって、友人を床で寝かせるのは心苦しいぞ」
参ったなー。どうしよう・・・
「し、仕方ない・・・」
何故か顔を赤くしているユリス。
「い、一緒に・・・ベッドで寝るか・・・?」
「・・・はい?」
ポカーンとしてしまう俺なのだった。
*****
「・・・どうしてこうなった?」
一つのベッドに、ユリスと並んで寝ている俺。
「し、仕方あるまい。ベッドが一つしか無いのだから」
「いや、だから俺は床で・・・」
「そ、それはダメだ。私の良心が痛む」
そうは言いつつ、ユリスの顔は真っ赤だった。
「え、ユリスに良心なんてものがあったの?」
「・・・お前は私に対してどんな評価をしているのだ?」
「無駄にプライドが高い、血の気が多すぎる、無愛想、それから・・・」
「止めてくれ!私のライフはもうゼロだ!」
頭を抱えるユリス。と、俺の右手の包帯に気付いた。
「・・・右手、痛むか?」
「いや、もうほとんど痛くないぞ。別に大したケガでもないし」
「そうか・・・すまなかったな」
「気にすんなよ。決闘でのケガなんて、よくあることだろ?」
「いや、しかし・・・」
「良いの。俺が気にしてないんだから、ユリスも気にする必要なんて無いんだよ」
「・・・優しいな、お前は」
微笑むユリス。
「お前の優しさに、私がどれほど救われていることか」
「大げさだなぁ」
「大げさなものか。私の為に怒ってくれた、私の友になってくれた、私の為に戦ってくれた、私の身を守ってくれた・・・初めて出会ったあの日から、私はお前に何度も救われている。感謝してもしきれないほどにな」
「・・・何か、凄い恥ずかしいんだけど」
「わ、私だって恥ずかしいのだぞ?だが、こういう機会はそう無いからな。きちんと伝えておきたいと思ったのだ」
ユリスが俺を見て、照れ笑いを浮かべた。
「ありがとう、七瀬」
「・・・どういたしまして」
何だか気恥ずかしいが、嬉しいもんだな。まさかユリスにこんなことを言ってもらえる日が来るなんて・・・初めて出会った時は想像も出来なかったわ。
「ユリス・・・」
俺はユリスの頬に手を添えた。
「俺はお前を守ってみせる。お前が無事に《鳳凰星武祭》に出場できるように、絶対に守ってみせるからな」
「あぁ、頼りにしている」
ユリスは微笑み、俺の手を取った。
「私も、あんな卑劣な手を使う奴には絶対に屈しない。私の叶えたい願いを、あんな卑怯者に潰されてたまるものか」
「よしよし、その意気だぞ」
ユリスの頭を撫でる俺。
「さて、もう寝るか。明日も早いし」
「うむ、そうだな。沙々宮のように寝坊してはいけないしな」
「そういや紗夜の奴、明日ちゃんと来るのかなぁ・・・」
「いや、来ないと殺されると思うぞ」
「逆に来ても殺されると思うんだが」
「・・・確かに」
谷津崎先生、怒ってたからなぁ・・・どうなることやら・・・
「あ、そうだ。明日の放課後、綾斗に学園を案内しようか。学園と街を案内してほしいって言ってたし」
「私は構わないが・・・七瀬も来てくれるのか?」
「ユリスのボディーガードだしな。基本的に、ユリスと一緒に行動したいと思ってるんだけど・・・ダメか?」
「ダメなものか。むしろその方が、私としてはありがたい」
「よし、決まりだな。じゃあ、おやすみユリス」
「うむ。おやすみだ、七瀬」
ユリスはそう言って目を閉じた。俺も目を閉じ、すぐに夢の中へと落ちていったのだった。
こんにちは、ムッティです。
ちょっと久しぶりの投稿ですね。
色々とバタバタしていたもので・・・
さて、七瀬はしばらくユリスと同居することになりました。
そして一緒のベッドで、あんなことやこんなことを・・・
ユリス「するかあああああっ!」
え、しないの?
ユリス「しないわ!いい加減にしろダメ作者!」
あ、そういうこと言っちゃう?よし、ユリスの出番を大幅にカット・・・
ユリス「すみませんでしたあああああっ!」
分かればよろしい。それではまた次回!