秋だなぁ・・・
「それにしても、まさかソフィアまでいるとはな」
「私も驚きましたわ。ここで七瀬さんにお会いするなんて」
一緒に夕飯の片付けをしながら会話する俺とソフィア。
正嗣さんに呼ばれて居間へ行ったところ、何と柚陽と一緒にソフィアが座っていたのだ。
何でもソフィアは天霧辰明流に興味があったらしく、柚陽にお願いしてここまで連れて来てもらったらしい。
天霧家に泊めてもらいながら、正嗣さんの手ほどきを受けているそうだ。
「本当は柚陽の家に泊めてもらう予定だったのですが・・・」
「本当にすみません・・・」
肩を落とす柚陽。
何かメッチャ可哀想・・・
「それにしても・・・貴女とお会いするのは久しぶりですわね、クローディア」
「えぇ。お久しぶりです、ソフィア」
挨拶を交わすソフィアとクローディア。
レティシア同様、この二人も顔馴染みらしい。
「・・・貴女、何だか変わりましたわね」
「そうでしょうか?」
「えぇ、表情が柔らかくなったというか・・・以前までの貼り付けたような笑顔と違って、何だか幸せそうな笑顔ですわ」
「フフッ・・・でしたら、七瀬のおかげでしょうね」
俺の腕に抱きつくクローディア。
「好きな殿方と結ばれたんですから、幸せじゃないはずがないでしょう?」
「・・・砂糖を吐きそうですわ」
「「アハハ・・・」」
苦笑する綺凛と柚陽。
そんなに甘いかなぁ?
「それにしても、クインヴェールと星導館の生徒会長を誑し込むなんて・・・流石は七瀬さんというべきでしょうか」
「酷い言い草だなオイ」
「事実でしょうに」
溜め息をつくソフィア。
「全く・・・ちゃんと二人とも幸せにしてあげて下さいな」
「勿論」
そんなこんなで、五人でテキパキと片付けを進めていく。
ちなみに綾斗と正嗣さんは、何か大事な話をしているらしい。
二人が話し合いに集中できるよう、俺達は夕飯の後片付けを買って出たのだった。
「よし、これで終わり・・・って綾斗?」
片付けが終わって顔を上げると、綾斗が玄関で靴を履いているのが見えた。
「どっか行くのか?」
「・・・ゴメン。ちょっと出てくるね」
綾斗はそれだけ言うと、早足で外へと出て行った。
「・・・何かあったのでしょうか?」
「・・・正嗣さんとケンカしたのかもしれません」
クローディアの呟きに、困ったような表情を浮かべる柚陽。
「遥さんがいなくなってから、あまり折り合いが良くないと聞いていますから」
「・・・とりあえず様子見だな。あんまり戻って来ないようなら迎えに行こうぜ」
そんな話をしていると、正嗣さんが廊下を歩いてきた。
「すまないな。後片付けを任せてしまって」
「ご馳走していただいたんですから、これくらいは当然ですよ」
俺の言葉に正嗣さんはフッと笑うと、後ろの綺凛に視線を向けた。
「刀藤さん」
「は、はいっ!」
「綾斗から話は聞いている。何でも、剣の道に迷っているとか」
「・・・はい」
俯く綺凛。
正嗣さんは頷くと、くるりと背を向けた。
「ならば、道場へ来なさい」
「え・・・?」
「剣士たるもの、剣を交えることで会話するとしよう」
そう言って道場へと歩いていく正嗣さん。
どうやら、剣士の先達として綺凛の悩みに付き合ってくれるようだ。
「ほら綺凛、行ってきな」
「は、はいっ!」
俺が背中を押すと、綺凛は慌てて正嗣さんの後を追いかけるのだった。
*****
「ふぅ、さっぱりした」
お風呂から上がり、縁側で涼んでいる俺。
すっかり暗くなった空に浮かぶ、綺麗な月を見上げる。
「・・・何か、ウチの実家と似てるな」
そんなことを思っていると、道場の方から物音が聞こえた。
「綺凛と正嗣さん、まだやってるのかな・・・?」
様子を見に道場へと足を運ぶ俺。中を覗いてみると・・・
「はっ・・・はっ・・・はっ・・・」
竹刀で素振りを繰り返す、正嗣さんの姿があった。
それにしても・・・
「凄いな・・・」
思わず呟いてしまう。
全く無駄の無い洗練された動きは、とても美しいものだった。
「・・・星野くんか」
こちらに気付き、素振りを止める正嗣さん。
「七瀬で良いですよ。お邪魔してすみません」
「構わんさ。少し剣を振りたくなっただけだからな」
汗を拭う正嗣さん。
あ、そういえば・・・
「綺凛はどうでしたか?」
「吹っ切れたような顔をしていた。迷いは消えたようだ」
「良かった・・・ありがとうございます」
「少し手合わせに付き合ってもらっただけだ。私は何もしていない」
綺凛をここに連れて来て良かった・・・
綾斗にも感謝しないとな。
「・・・綾斗は戻ってきたか?」
「えぇ、さっき」
戻ってきた綾斗の表情は、少し明るくなっていた。
綾斗を迎えに行った柚陽の話では、紗夜と電話していたそうだ。
幼馴染との会話が、気を紛らわせてくれたんだろう。
「・・・どうにも私は、言葉が足りないらしい」
「え・・・?」
「伝えたい思いがあっても、上手く伝わらない。言葉にして伝えるというのが、どうにも苦手でな。親として未熟者だ」
淡々と語っているように見えるが、俺には酷く落ち込んでいるように見えた。
正嗣さんは正嗣さんなりに、綾斗のことを想っているんだろう。
「遥がいなくなってから、綾斗の笑顔を見ることはほとんど無かったが・・・久しぶりに見た綾斗は、とても楽しそうに笑っていた。きっと七瀬くん達のおかげだろう。父親として礼を言わせてほしい。ありがとう」
「それなら、一つお願いしても良いですか?」
俺はそう言うと、道場の扉の側に置いてあった竹刀を一本手に取った。
「俺とも是非、手合わせをお願いしたいんですが」
「・・・七瀬くんは剣を使わなかったと思ったが?」
「えぇ、久しく使ってません」
「久しく・・・?」
「昔は使ってたんですけど色々あって使わなくなったんですよ。でも正嗣さんの素振りを見てたら、少し懐かしくなって・・・お手合わせ願えますか?」
竹刀を構える俺。綾斗が紗夜との会話で気が紛れたというなら、正嗣さんだって気が紛れても良いだろう。
それこそ、剣を交えることで。
「・・・良いだろう」
正嗣さんはフッと笑うと、俺に向かって竹刀を構えた。
「では、上段を打ち込んでみなさい」
「了解です」
俺は勢いよく床を蹴ると、竹刀を上段から打ち下ろした。
「はぁっ!」
しかしその瞬間、正嗣さんがそれを巻き取るにして竹刀で受け流した。
えっ・・・
「今度はこちらの番だ」
踏み込んでくる正嗣さん。
使ってきた技は、天霧辰明流剣術初伝“貳蛟龍”だった。
俺はそれを受け止めるが・・・
「っ・・・」
何だこれ・・・
綾斗より鋭くて、まるでそのまま竹刀をすり抜けそうな・・・
「ほう・・・やるな」
感心している正嗣さん。
「久しく使っていないと言っていたが、久々に剣を振るった者の太刀筋では無いぞ?」
「・・・実戦では、久しく使っていませんよ」
竹刀を下ろし、肩をすくめる俺。
「鍛錬はずっとやってます。小さい頃からずっと」
「それであれば、実戦でも使えたのではないか?」
「ずいぶん前になりますけど、一番上の姉が両親を剣で殺すという暴挙に出まして。ついでに俺も腹を刺されて死にかけました」
さらっとしたカミングアウトに、流石の正嗣さんも固まる。
「それ以来、剣を使うことにちょっと抵抗があって・・・怖いわけじゃないんですけど」
「・・・君のお姉さんの何人かは、剣士だったはずだが」
「あの人達は俺と違ってメンタル強いんで、乗り越えたんですよ」
零香姉が剣で父さんと母さんを殺したのなら、その剣で零香姉を超える・・・
それが三咲姉・五和姉・六月姉の結論だった。
俺はどうしてもそんな気持ちになれなかったが。
「でも、いつまでもそれじゃいけないんですよ。あのバカ姉を倒そうと思ったら、俺が使えるものは何でも使わないといけないですから」
「・・・使う気なのか?」
「えぇ」
頷く俺。
「本当は剣を交えることで、正嗣さんの気が少しでも紛れたら良いと思ったんですけど・・・逆に俺が助けられちゃいました」
「・・・それなら、今度は私のワガママに付き合ってもらおう」
「え・・・?」
正嗣さんは口元を緩めると、再び竹刀を構えた。
「もう少し手合わせ願おう。あまり丁寧に手ほどきする時間も無いが、盗める技は盗んでいくと良い」
「・・・良いんですか?」
「構わん。門下生のいない今、人に教えることなど無かったが・・・君や刀藤さんやフェアクロフさんのような若者の力になれるなら、私に教えられることは全て教えよう」
「正嗣さん・・・ありがとうございます」
俺はお礼を述べると、再び竹刀を構えた。
「では・・・お願いします」
その日の俺は夜遅くまで、正嗣さんと手合わせを続けたのだった。
どうも〜、ムッティです。
ヤベェ、全然話が進まねぇ(絶望)
シャノン『まぁ早く竜王星武祭まで行きたいよね』
ホントそれ。
もう間の話は全部ぶった斬っていい?
シャノン『いいわけあるかっ!訳分からなくなるでしょうが!』
ってシャノンが言うので、カットはしません。
苦情はシャノンに言って下さい。
シャノン『まさかの責任転嫁!?』
それではまた次回!以上、ムッティでした!
シャノン『逃げるなあああああ!!!!!』