続きが気になるところだぜ・・・
クロエに連れられてやってきたのは、クインヴェール内にある広大なホールだった。
ステージ上では、今まさに演奏が行なわれている最中・・・って、あれ?
「ステージで演奏してるの、ルサールカじゃん。リハーサルでもやってんの?」
「えぇ、もうすぐカウントダウンコンサートだもの」
「そっか、アイツら頑張って・・・ん?」
ステージの中央に立っている人物を見て、俺は一瞬目を疑ってしまった。
見間違うはずもない。あれは・・・
「九美!?」
そう、紛れも無く九美だった。ルサールカの演奏をバックに、マイクを持って歌っている。
え、どういうこと・・・?
「あれ?なーちゃん?」
不意に声をかけられる。振り向くと、四糸乃姉がこっちに近付いてくるところだった。
「何でこんなところに・・・って、クロちゃんが連れてきたんだね」
「えぇ。七瀬が九美の様子を気にしていたから、実際に見せた方が早いと思って」
「あぁ、なるほどね」
納得している四糸乃姉。
「四糸乃姉、どういうこと?何で九美がルサールカと一緒に?」
「実はね、くーちゃんはルサールカに加入することになったんだよ」
「ハァッ!?」
ビックリしてしまう俺。え、ルサールカに加入!?
「ちょっと待って!?何でそんなことになってんの!?」
「んー、色々あってねぇ・・・」
苦笑する四糸乃姉。
「私が抜けると、ルサールカはボーカル不在になっちゃうでしょ?他のメンバーが歌ってカバーするか、それとも新しいボーカルを探すのか・・・色々と話し合ってる時に、くーちゃんが直訴してきたんだよ。『私をルサールカのボーカルにして下さい』って」
「九美が・・・?」
「うん。それでとりあえず、くーちゃんのボーカルとしての実力を見極めようってことになったんだけど・・・くーちゃんの歌唱力は、なーちゃんもよく知ってるでしょ?」
「あぁ、勿論」
頷く俺。
九美の歌唱力は極めて高い。至高の歌姫と呼ばれるシルヴィや、そのシルヴィに匹敵すると評される四糸乃姉には劣るかもしれないが・・・
それでも、人の心を惹きつけるほどの歌声を持っている。
「ミーちゃん達もその実力を認めて、くーちゃんはルサールカの新ボーカルとして加入することになったの。今度のカウントダウンコンサートでは、私のルサールカ卒業とくーちゃんのお披露目を同時にやることになってるんだ」
「・・・そうだったのか」
ステージ上の九美へと視線を向ける俺。
「あの九美がアイドルデビューかぁ・・・俺も歳をとったもんだ」
「私も歳をとったんだねぇ・・・」
「二人とも年寄り臭いわよ」
四糸乃姉と二人でしみじみしていると、クロエに溜め息をつかれた。
「ちなみに、九美は序列三位まで上がったわよ。序列的に言えば、もうクインヴェールの顔と言っても過言では無いわ」
「えっ、序列三位って・・・じゃあ四糸乃姉は・・・?」
「序列外になっちゃった」
「何で!?」
嘘だろ!?あの四糸乃姉が序列外!?
「この間の公式序列戦、私は参加しなかったの。それで私は序列外になって、序列三位の座は空位になったんだよ。で、その空位を巡って激しい戦いが繰り広げられて・・・」
「・・・勝ち取ったのが九美だったと」
「正解」
笑う四糸乃姉。
「私はもう《星武祭》には参加しないつもりだし、あと一年でクインヴェールも卒業する身だからね。だったら《冒頭の十二人》には、これからのクインヴェールを担う子に入ってもらった方が良いと思って」
「全く・・・《ライアポロス=ディーヴァ》は九美に譲ったくせに、序列三位の座は譲らずに競わせるなんて・・・優しいんだか厳しいんだか分からないわ」
呆れているクロエ。マジか・・・
「《ライアポロス=ディーヴァ》、九美に譲ったんだ?」
「あれは他の《ライアポロス》と一緒に使って、初めて真価を発揮するからね。適合率も問題無かったし、くーちゃんが持つべきだと思って」
ステージ上の九美を見つめる四糸乃姉。
「でも序列は別。譲ってもらうものじゃなくて、自分の力で勝ち取るものだから。まぁでも、くーちゃんなら勝ち取ってくれるとは思ってたけどね」
「序列三位かぁ・・・」
学園は違えど、俺と同じ順位まで上がってきたということだ。
三咲姉も俺が序列三位になった時、こんな気持ちだったのかな・・・
「これからは、くーちゃんが新しいルサールカを作ってくれる。クインヴェールのこれからを担ってくれる。だから私は、安心してルサールカを卒業できるよ」
「・・・そっか」
これから四糸乃姉は、一人の歌手として活動していこうとしている。これまで共に歩んできた、ルサールカを卒業して・・・
「・・・今までお疲れ様、四糸乃姉」
「なーちゃん・・・」
「『シノン』から『星野 四糸乃』になっても・・・ずっと応援してるからね」
「・・・うん、ありがとう」
俺に身を寄せてくる四糸乃姉。
「こんな私だけど・・・これからも支えてね」
「勿論」
二人で笑い合っていると・・・
「コラアアアアアッ!」
ホールに大きな声が響き渡った。九美がビシッとこちらを指差している。
「何イチャイチャしてくれちゃってるんですかあああああっ!四糸乃姉さんばかりズルいです!私だって兄さんとイチャイチャしたいんですよおおおおおっ!」
「あ、気付いてたんだ」
「兄さんがこのホールに入ってきた時から気付いてましたよ!私の兄さんセンサーを舐めないで下さい!」
「そんなセンサー今すぐ壊してしまえ」
「こらヴィオラ!リハーサルを止めない!」
「あっ、すいません・・・」
周りに頭を下げる九美。この光景、今日何回見たかな・・・
「っていうか、『ヴィオラ』って何?」
「九美の芸名よ」
パイヴィが説明してくれる。
「流石に一人だけ本名、それも漢字だと浮いてしまうもの。最初は『ヴァイオレット』の予定だったんだけど、長いから『ヴィオラ』になったの」
「あぁ、九美の髪の色から取ったのか」
「ふふん!モニカが考えたんだよ!」
「道理で安直だと思ったわ」
「酷い!?」
涙目のモニカ。何故モニカに考えさせたのか・・・
「でも、悪くない名前だろ?」
「・・・まぁ確かにな」
トゥーリアの言葉に頷く俺。『ヴィオラ』か・・・
「っていうか、何で兄さんがここにいるんですか!後で驚かせようと思ったのに!」
「あぁ、そういうことだったのね」
納得しているクロエ。
「ごめんなさい。七瀬が九美を心配してたから、連れてきちゃったわ」
「兄さんが私を心配・・・えへへ・・・」
「アハハ・・・ヴィオラさんは分かりやすいですね・・・」
苦笑しているマフレナ。と、ミルシェが手を叩く。
「ほら、リハーサル再開するよ。全員準備して」
「「「「「了解!」」」」」
それぞれの位置に戻っていく皆。俺は九美に声をかけた。
「頑張れよ、九美」
「フフッ、任せて下さい!」
満面の笑みで頷く九美。
その姿がいつもより大きく、頼もしく見えて・・・妹の成長した姿を見て、心から嬉しく思う俺なのだった。
*****
「では九美さんは、ルサールカに入ることになったんですね」
「そうなんだよ・・・っていうかシルヴィ、お前絶対知ってただろ」
「アハハ、ゴメンね。ななくんを驚かせようと思って」
クインヴェールを後にした俺は、クローディアやシルヴィと共に夕飯を食べにやってきていた。
ここは芸能人御用達のお店らしく、完全個室制で人目を気にすることなく寛げる点が人気なんだとか。
シルヴィがここの常連らしく、こうして連れてきてもらったのだ。
「メニューが豊富ですね・・・シルヴィのオススメは何ですか?」
「オススメかぁ・・・クローディアって結構食べる人?」
「そうですね。割と食べる方だと思います」
「じゃあこれとかオススメかな。ボリュームあるし、味も文句無しだよ」
「良いですね。是非頼んでみましょう」
仲睦まじく身を寄せ合い、メニュー表を見ている二人。初めて三人揃って顔を合わせて以来、この二人はすっかり意気投合していた。
ギクシャクしないだろうか・・・という俺の心配は、ただの杞憂で終わったようである。
「そうやって並んでると、まるで姉妹みたいだな」
「そうかな?まぁ確かに、すっかり仲良くはなったけどね」
「これまでも生徒会長という立場上、お互い顔を合わせることはありましたが・・・世間話が出来るような間柄でもありませんでしたからね」
「そうそう。生徒会長同士が集まると、基本的に腹の探り合いになっちゃうもんね。アーネストとか星露はまだ良いとして、《悪辣の王》とかホント勘弁してほしいよ・・・」
「彼は本当に面倒なタイプですからね。アルルカントの左近さんも、気弱そうに見えて頭が切れますし・・・嫌なタイプですよね」
「あぁ、あの人ねぇ・・・」
生徒会長同士による愚痴が始まる。こういうところで共感し合えるのも、二人が仲良くなれた要因の一つかもしれない。
「クローディアとは仲良くしたかったんだよねー。女の子同士だし、歳も近いし」
「私もです。生徒会長達の中で、一番仲良くなれそうだと思ってましたよ」
「クローディア・・・!」
「シルヴィ・・・!」
ひしっと抱き合う二人。ホント仲良くなったね、君達・・・
「ところでななくん、今年の冬期休暇も実家に帰るの?」
「あぁ。クローディアとクロエも連れて行くつもりだよ」
正式に恋人になってから、家族にクローディアのことを紹介できてないからな。
クロエもお礼が言いたいとのことだったので、一緒に連れて行くことにしたのだ。
「シルヴィもカウントダウンコンサートが終わったら、四糸乃姉や九美と一緒にこっちに来なよ。皆待ってるから」
「勿論!またお邪魔しちゃうよー!」
テンションの高いシルヴィ。と、クローディアが遠慮がちに手を上げた。
「あの・・・私は本当にお邪魔してよろしいんでしょうか・・・?」
「当たり前じゃん。何で?」
「いえ、その・・・私のことを、七瀬のご家族はどう思っているのかと・・・」
「あぁ、そういうことか」
まぁ普通に考えれば、恋人が二人いるなど有り得ない話だ。国王を務めるヨルベルトさんのような人であれば、公認の愛人が何人もいたりするわけだが・・・
俺は一般人、それも普通の学生だ。普通の家族であれば、『何を考えているんだ』となるところだが・・・
「大丈夫。ウチの家族は普通じゃないから」
「ななくん、その言い方だと誤解を招くよ」
苦笑するシルヴィ。
「大丈夫だよ、クローディア。万理華さん達なら、ちゃんと受け入れてくれるから」
「そうそう。予め事情も説明してあるから、そんなに心配することないって」
クローディアの手を握る俺。
「皆クローディアに会いたがってる。だからクローディアは、堂々と俺の恋人だって名乗ってくれれば良いから」
「こ、恋人・・・」
クローディアが恥ずかしそうに俯く。こ、これは・・・
「クローディア可愛いいいいいっ!」
「俺の彼女が可愛すぎる件について」
「ちょ、シルヴィ!?七瀬!?」
シルヴィと俺に抱きつかれ、顔を赤くしながらあたふたするクローディアなのだった。
どうも~、ムッティです。
前回告知し忘れましたが、富嶽二十二景さんがコラボ作品をリメイクして下さいました!
シャノン「最初にコラボさせてもらったやつだよね?」
そうそう。
最初のものとは別に投稿させていただいたので、読んでいただけると幸いでございます。
富嶽二十二景さんとは『またコラボしましょう』と話しているので、ひょっとするとそのうち新しいコラボをお届けできるかもしれません。
シャノン「その前に失踪しないでね?」
大丈夫。失踪してもコラボはするから。
シャノン「そこは失踪しないって言いなさいよ!?」
恐らく今後も投稿間隔が空くことになるかとは思いますが、皆様どうか温かい目で見守って下さい。
シャノン「よろしくお願いします(ぺこり)」
それではまた次回!以上、ムッティでした!
シャノン「またね~!」