学戦都市アスタリスク ~六花の星野七瀬~   作:ムッティ

14 / 149
AAAの『涙のない世界』が良い曲すぎるわ・・・


依頼

 「全く・・・ユリスと決闘するなんて聞いてませんよ?」

 

 「スミマセンでした・・・」

 

 手当てしてもらって部屋に帰ると、怖い笑みを浮かべたクローディアが待ち構えており、そのまま説教タイムが始まってしまったのだった。

 

 「それで、ケガは大丈夫なんですか?」

 

 「あぁ、大丈夫だよ。骨にも異常は無いってさ」

 

 とりあえず止血して包帯を巻いてもらったが、すぐに治るだろうって言われたしな。

 

 「それは何よりですが・・・こちらは残念なお知らせです。襲撃犯を取り逃がしてしまいました」

 

 「そうか・・・発見出来なかったのか?」

 

 「えぇ、校内を隈なく捜索したのですが・・・誰かさんが決闘の前に連絡して下さっていたら、私としても迅速な対応が取れたのですが」

 

 「返す言葉もございません・・・」

 

 襲撃の可能性を考えて、ちゃんとクローディアに連絡しとくべきだったな・・・俺としたことが迂闊だったわ・・・

 

 「・・・まぁ、嘆いていても仕方ありません。犯人の姿を目撃できただけでも、十分な収穫ですし。それで、もう一度確認させていただきたいのですが・・・」

 

 クローディアがメモ用紙に目を通す。

 

 「犯人の体格は、背が低くて小太り。黒いフードを被っており、弓型の煌式武装を持っていた。顔は見ておらず、性別も不明・・・間違いありませんか?」

 

 「あぁ、間違いない。でも、あれは・・・」

 

 俺は言葉に詰まった。その特徴に当てはまる奴を、一人だけ知っているからだ。

 

 「ランディ・フックくん、ですか?」

 

 「・・・ッ!」

 

 背が低くて小太りで、弓型の煌式武装を持っている・・・ランディの特徴そのものだ。

 

 俺はあの後ろ姿を見て、ランディに似ていると思ってしまったのだ。

 

 「風紀委員会も、フックくんが怪しいと睨んでいるようです。今回の襲撃犯の特徴にピッタリ当てはまりますし、決闘が行われていた時間のアリバイも無いそうですよ。客観的に見たら、有力な容疑者候補と言わざるを得ません」

 

 「でも、あのランディがこんなことするか?レスターの意に背くことだぞ?」

 

 「・・・意に背く、とは?マクフェイルくんとユリスの因縁は有名ですよ?」

 

 「レスターはユリスを恨んでるわけじゃないんだ。ユリスに勝って、自分の実力を認めさせたいだけなんだよ。こんな卑怯なやり方でユリスを潰したところで、レスターは喜んだりしない。ランディだって、それはよく分かってるはずだ」

 

 「つまり七瀬は、フックくんは襲撃犯ではないとお考えなのですか?」

 

 「あぁ。主観的な考えだけどな」

 

 俺の意見を聞き、微笑むクローディア。

 

 「・・・それを聞いて安心しました。私にも味方がいたようですね」

 

 「味方って・・・クローディアも同じ考えなのか?」

 

 「えぇ。フックくんは、マクフェイルくんをとても慕っていますからね。マクフェイルくんはこんなやり方を望まないでしょうし、それをフックくんも分かっているはずです。七瀬の言う通り、私も襲撃犯は別にいると考えています」

 

 と、クローディアが声を潜めた。

 

 「・・・今から話すことは、他言無用でお願いします」

 

 「・・・了解。何かあったのか?」

 

 俺も声を潜めた。

 

 「実は《鳳凰星武祭》にエントリーしていた生徒の中で、何人かの生徒がケガを負って出場を辞退することになったんですが・・・調べてみたところ、どうにも怪しいところがありまして」

 

 「と言うと?」

 

 「今回の様に、第三者が関与していた可能性が高いんです」

 

 「なっ・・・!?」

 

 思わず声を上げた俺の口を、クローディアが手で塞いだ。

 

 「お静かに。ケガをした原因は様々で、事故や決闘でケガをしたとの報告を受けていたんですが・・・少し気になって調べてみたところ、不自然な点が多々見受けられました」

 

 「・・・つまり襲撃犯の狙いはユリス個人ではなく、《鳳凰星武祭》に出場する予定の生徒ってことか?」

 

 「恐らくそうでしょう。ケガをした生徒達も《冒頭の十二人》ではありませんが、《在名祭祀書》の序列上位者達なんです」

 

 「有力な生徒だけを狙ってる・・・?」

 

 ・・・ちょっと待て。それって・・・

 

 「まさか・・・他の学園の仕業か・・・?」

 

 「えぇ、間違いないでしょうね。もっとも、実行犯は星導館の生徒でしょうけど。犯行場所はほとんど学園内ですし、他の学園に侵入するのはリスクが高すぎます」

 

 「つまり星導館の中に、他の学園に付いた裏切り者がいるってことか?」

 

 「そういうことになります。れっきとした星武憲章違反ですが、過去にも幾度となく事例があります。どの学園も、必要ならその程度のことはやってのけますよ」

 

 なるほど、つまり星導館も同じことに手を染める可能性があると・・・

 

 「・・・生徒会長がそんな発言して良いのか?」

 

 「事実ですから」

 

 笑うクローディア。やっぱり腹黒いなコイツ・・・

 

 「まぁ、どの学園が黒幕なのかはどうでもいいんですが・・・」

 

 「良いんだ!?」

 

 「えぇ。問題はそこではなく、こちらも迂闊に動けないということです」

 

 「え、何で?」

 

 「星導館には、統合企業財体直轄の特務機関があるんです。上の許可が下りない限り動かせない組織ですが、風紀委員会よりはるかに強い権限を持っています。本来ならその組織を動かしたいんですが、そうすると相手に気付かれてしまうんですよ」

 

 「あぁ、なるほど・・・こちらとしては、犯人の背後にいる学園が関与していたという証拠を押さえたい。でも組織を動かしたことに気付かれると、証拠を押さえる前に手を引かれてしまう。動かしたくても動かせないってことか・・・」

 

 「察しが良くて助かります」

 

 苦笑するクローディア。

 

 「確実な証拠、もしくは犯人を押さえられるという確証・・・どちらかが無い限り、組織を動かすことは出来ないんです。ですが逆に言うと、それまでは向こうも襲撃を続行する可能性が高い・・・そして我々は、犯人の次の標的が分かっています」

 

 「ユリスか・・・」

 

 「えぇ。そこで七瀬には当面の間、ユリスのボディーガードを頼みたいんです」

 

 「は・・・?」

 

 え、今何て言った?ボディーガード?

 

 「いや待て、そういうのはプロがやるべきじゃないのか?」

 

 「本来はそうなんですが・・・ご存知の通り、あの子は他人と距離を置きたがる傾向にあります。想像してみて下さい。専用のボディーガードを付けるなんて言ったら、あの子がどんな反応をすると思いますか?」

 

 「・・・拒絶するだろうな。実力行使で追い返しかねないわ」

 

 「ですから、七瀬にお願いしているんです。ユリスは七瀬に心を許していますし、七瀬なら実力も申し分ありません」

 

 「実力ねぇ・・・」

 

 「頼りにしてますよ、序列五位の《覇王》さん♪」

 

 「・・・あ、そっか。ユリスに勝ったから五位に上がったんだな」

 

 「今頃気付いたんですか・・・」

 

 呆れているクローディア。

 

 「まぁそれはともかく、引き受けて下さいませんか?勿論、出来る範囲で構いませんから。自分の身が危ないと思ったら、逃げて下さっても・・・」

 

 「それは絶対しない」

 

 断言する俺。

 

 「ユリスを見捨てて逃げるなんてマネ、死んでもしねぇよ。もし危ないと思ったら、ユリスだけでも逃がすさ」

 

 「・・・では、引き受けて下さるんですね?」

 

 「俺に出来ることはやるよ。友達を守る為だしな」

 

 「ありがとうございます。ですが、個人的に一つ忠告をさせていただきます」

 

 「忠告?」

 

 首を傾げる俺に、クローディアが抱きついてきた。

 

 「え、クローディア!?」

 

 「・・・ユリスのことを大事に思って下さるのは嬉しいですが、自分の身も大事にして下さい。ユリスが無事でも、七瀬に何かあったら私は悲しいです。ユリスだって七瀬に何かあったら、自分が助かったとしても喜べるわけないじゃないですか」

 

 「クローディア・・・」

 

 ぎゅっとしがみついてくるクローディア。

 

 「ですから、自分を犠牲にするようなマネだけは止めて下さい」

 

 「・・・分かった」

 

 俺はクローディアの頭を撫でた。

 

 「心配してくれてありがとな、クローディア」

 

 「・・・七瀬は、私の大切な友人ですから」

 

 微笑むクローディア。

 

 「では早速ですが・・・当面の間、ユリスの部屋で生活して下さい」

 

 「・・・は?」

 

 え、ちょ・・・えええええ!?

 

 「ユリスの部屋で生活!?俺が!?」

 

 「えぇ。寝込みを襲われる可能性も否定できませんからね。ボディーガードたる者、護衛対象からなるべく離れないようにしないと」

 

 「出来る範囲で構わないって言わなかったっけ!?」

 

 「出来る範囲じゃないですか。同じ女子寮の部屋を移動するだけですし」

 

 「はっ!まさか最初からそれが目的で、俺をこの部屋に移動させたのか!?」

 

 「そうですよ。もっとも、男子寮の部屋が足りなかったのは事実ですけどね。一度女子寮に入ったら、後は部屋を移動してもバレませんから。当面の間ユリスの部屋で寝泊りしても、何の問題もありません」

 

 「いやあるだろ!男女が同じ部屋で寝泊りとか、色々マズいだろ!」

 

 「あら、ここ数日は私と同じ部屋で寝泊りしてましたよね?」

 

 「ここは部屋が二つあるじゃん!だから別々の部屋で寝泊り出来たけど・・・ユリスの部屋ってどうなんだ?」

 

 「ワンルームですね」

 

 「絶対マズいだろそれ!?」

 

 「大丈夫ですよ。その分一部屋の大きさとしては、向こうの方が広いですから」

 

 「そういう問題じゃなくね!?」

 

 ダメだ、この子何も分かってない!

 

 「犯人が捕まったら、また二人で熱い夜を過ごしましょうね♪」

 

 「そんな夜を過ごした覚えは無いぞ!?」

 

 結局、クローディアに丸め込まれた俺なのだった。

 




二話続けての投稿となります。

残念ながら、何日か投稿出来ない日が続きそうです・・・

次回投稿日は、来週の水曜日を予定しております。



ここで日頃のお礼を・・・

いつも読んで下さっている皆さん、お気に入りに登録して下さっている皆さん、感想を書いて下さった皆さん、評価して下さった皆さん・・・

本当にありがとうございます。とても嬉しく思っています。

引き続き感想・評価等もお待ちしておりますので、気が向きましたらコメント・評価等していただけるとありがたいです。

それではまた次回!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。