学戦都市アスタリスク ~六花の星野七瀬~   作:ムッティ

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もう八月も終わりかぁ・・・

どうでもいいけど、早く涼しくなってほしい・・・


意思

 辺り一体が静寂に包まれた。綾斗の身体が震えている。

 

 「貴女が・・・姉さんを斬った・・・?」

 

 「えぇ」

 

 頷く零香姉。

 

 「私は《蝕武祭》の選任参加者だったのよ。ちなみに、この男は専任闘技者だったわ」

 

 零香姉が《処刑刀》を指差す。コイツも《蝕武祭》の関係者か・・・

 

 「六年前、私はこの男に命令されたのよ。『天霧遥と試合をしろ』ってね。結果は私の勝ち、彼女は重傷を負ったわ」

 

 「『身体が動かせなくなるくらい痛めつけろ』とも言ったはずなんだがね」

 

 やれやれといった様子の《処刑刀》。

 

 「遥は重傷を負ったものの、まだ余力が残っていた。君がちゃんと私の言うことを聞いてくれていたら、あんなことにはならなかっただろうに・・・」

 

 「そんなこと知らないわよ」

 

 素っ気無く返す零香姉。

 

 「私が斬った時点で、彼女は倒れて動かなくなったんだもの。あれで余力が残ってるなんて・・・」

 

 「はああああああああああっ!」

 

 零香姉のセリフの途中で、綾斗が鬼のような形相で零香姉に斬りかかった。

 

 すかさず《処刑刀》が間に入り、《黒炉の魔剣》を《赤霞の魔剣》で受け止める。

 

 「おっと・・・危ないな」

 

 「お前達が姉さんを・・・詳しく話を聞かせてもらおうか・・・!」

 

 「ははっ、流石だな」

 

 嬉々として綾斗の相手をする《処刑刀》。

 

 あの《処刑刀》とかいう男、何処かで見たことが・・・声も聞き覚えがあるような・・・

 

 「止めておけ」

 

 俺の様子を見て、ヴァルダが静かに語りかけてくる。

 

 「ここは既に私の結界内・・・《処刑刀》に関する認識は阻害されている。《処刑刀》の正体を見破ることはできない」

 

 「・・・そこまでするってことは、間違いなく俺の知ってるヤツだよな」

 

 あんな物騒な男、知り合いにいたか・・・?

 

 「まぁいいや・・・三人まとめて倒す」

 

 「フフッ、貴方達二人にやれるのかしら?」

 

 「誰が二人ですって?」

 

 零香姉の言葉に、聞き覚えのある声が問い返す。俺が後ろを振り返ると・・・

 

 「三咲姉!?」

 

 「七瀬、無事ですか?」

 

 《聖王剣》を構えた三咲姉が立っていた。鋭い目で零香姉を睨んでいる。

 

 「まさかアスタリスクで会えるとは・・・僥倖ですね」

 

 「・・・ヴァルダ、人払いはしていなかったの?」

 

 「認識阻害に力を注いでいる以上、人払いはどうしても疎かになってしまうのだ。常人ならともかく、ソイツのような力強き者を防ぐことはできん」

 

 「・・・あの男のせいってわけね」

 

 溜め息をつく零香姉。と・・・

 

 「ぐあっ!?」

 

 「綾斗!?」

 

 綾斗がこちらへと吹き飛んできた。あの綾斗が圧されている・・・?

 

 「まぁこんなものか」

 

 余裕の表情で歩いてくる《処刑刀》。

 

 「さぁ、どんどんかかってきたまえ。相手になってやろうじゃないか」

 

 「それでは、相手になっていただこうかな」

 

 またしても聞き覚えのある声。綾斗の持つ《黒炉の魔剣》と、《処刑刀》の持つ《赤霞の魔剣》が振動している。

 

 これはもしかしなくても・・・

 

 「大事な試合を明日に控えた選手を、こんなところで闇討ちとは・・・感心しないね」

 

 ガラードワース生徒会長、アーネスト・フェアクロフが悠然と現れた。その手には既に、《白濾の魔剣》を起動させている。

 

 「アーネスト!?」

 

 「やぁ七瀬」

 

 アーネストは俺に挨拶すると、《処刑刀》へと鋭い視線を向けた。

 

 「僕の友人を闇討ちしようとした罪・・・今ここで償ってもらおうか」

 

 「《絶剣》と《聖騎士》が参戦か・・・流石に分が悪いな」

 

 《処刑刀》はそう呟くと、零香姉とヴァルダへ視線を向けた。

 

 「どうやら潮時らしい。撤退だ」

 

 「させるかっ!」

 

 綾斗が地面を蹴り、《黒炉の魔剣》で斬りかかるが・・・

 

 「零奈」

 

 「あいよ」

 

 光と共に現れた零奈が、《黒炉の魔剣》を受け止めた。

 

 「なっ!?」

 

 「悪いな。アタシも純星煌式武装だから、その剣と打ち合えるのさ」

 

 零奈はニヤッと笑うと、綾斗の腹部へ蹴りを放った。

 

 「がはっ!?」

 

 「天霧くんっ!」

 

 吹き飛ぶ綾斗を、アーネストが咄嗟に受け止める。

 

 「では諸君、明日の決勝を楽しみにしている」

 

 《処刑刀》が大きくジャンプし、その場から離脱しようとする。

 

 「待ちなさいッ!」

 

 三咲姉が後を追おうとするが、その前に零香姉が立ち塞がった。

 

 「悪いわね、三咲。追わせるわけにはいかないのよ」

 

 「っ・・・貴女は何故、あの男の仲間になどなったのですかッ!」

 

 「貴女に教える義理は無いわ」

 

 零香姉は冷たく返すと、ヴァルダへと視線を向けた。

 

 「ヴァルダ、もう認識阻害は良いでしょう?」

 

 「あぁ」

 

 ヴァルダが頷いた途端、強烈な黒い輝きが放たれる。頭を掻き回すかのような苦痛が走り、全員動きが止まってしまった。

 

 「またしても勝負はお預けね・・・残念だわ」

 

 零香姉の声が響いてくる。

 

 「また会いましょう、七瀬。私は貴方を諦めないから」

 

 やがて輝きが収まった頃には、零香姉達の姿は何処にも見当たらなかったのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「悪いな、アーネスト」

 

 「気にしないでくれ」

 

 俺の言葉に笑顔で返すアーネスト。

 

 俺・三咲姉・アーネストの三人は、ガラードワースの送迎用の車で星導館へと向かっていた。

 

 あんなことがあった後では危険だからと、アーネストが星導館まで送ることを申し出てくれたのだ。

 

 「いや、ホント助かったよ。危うく星導館に帰れなくなるところだったし」

 

 溜め息をつく俺。

 

 三咲姉が二葉姉に連絡していたらしく、あの後すぐ星猟警備隊がやってきた。

 

 二葉姉は泣きながら俺を抱き締め、『今日から私の家で暮らしなさい。七瀬には指一本たりとも触れさせないわ』などと言い出したのだ。

 

 最終的にヘルガさんが拳骨で黙らせ、アーネストの申し出もあって二葉姉はしぶしぶ折れた。

 

 「二葉姉様は、七瀬のことになると見境が無くなりますからね」

 

 「分かってるなら二葉姉に連絡するなよ・・・」

 

 面白そうに笑う三咲姉に対し、再び溜め息をつく俺。

 

 ちなみに綾斗は《処刑刀》との戦いで軽い怪我を負ってしまった為、治療院で手当てを受けている。

 

 手当てが終わり次第、星猟警備隊の車で星導館まで送ってもらえるそうだ。

 

 「でも助かったよ。アーネストと三咲姉が来てくれてさ」

 

 「見舞いの為に治療院へ向かう途中で、ただならぬ殺気を感じてね。急いで駆け付けて正解だったよ」

 

 苦笑するアーネスト。

 

 「三咲から話は聞いていたが、あの女性が零香さんか・・・戦いはしなかったが、相当な強さだろうね。彼女から感じるプレッシャーは、尋常ではなかったよ」

 

 「腐っても我が家の長女ですからね」

 

 忌々しそうな表情の三咲姉。いや、腐ってもって・・・

 

 「ところでアーネスト、さっき見舞いって言ってたけど・・・ソフィアのことか?」

 

 「あぁ。時間もできたことだし、兄として顔を見に行こうと思ってね」

 

 「・・・悪い。邪魔しちゃったな」

 

 「七瀬のせいじゃないさ」

 

 アーネストは肩をすくめると、表情を少し曇らせた。

 

 「・・・まぁ、今さら僕が兄だなんて言えた義理ではないんだけどね」

 

 「え・・・?」

 

 「ソフィアがアスタリスクに来たのは・・・僕の為なんだ」

 

 溜め息をつくアーネスト。

 

 「《星武祭》で優勝して、僕の代わりにフェアクロフ家を継ごうとしていたらしい。そうすることで、僕を家のしがらみから自由にしたかったみたいだよ」

 

 「・・・それがソフィアの願いだったのか」

 

 フェアクロフ家は、欧州でも有名な名家らしい。名家ともなると、それ相応のしがらみ等も存在するのだろう。

 

 そこからアーネストを自由にすべく、ソフィアは頑張っていたのか・・・心の優しいヤツだな・・・

 

 「昔、ちょっとした事故があってね。ソフィアは僕の大切な友人を傷つけてしまったんだ。それ以来、その友人の家とフェアクロフ家は疎遠になってしまって・・・ソフィアはそのことに対して、未だに責任を感じているらしい。だからせめてもの罪滅ぼしとして、僕を自由にしようとしているんだろうね」

 

 「じゃあ、ソフィアが人を傷付けられないのって・・・」

 

 「あぁ、その事故が原因だよ。トラウマになっているみたいなんだ」

 

 剣の腕前は、アーネストを上回るかもしれないと言われているソフィア。

 

 だがソフィアには、相手を傷付ける攻撃が出来ないという致命的な弱点があるのだ。その弱点がある以上、一人で相手に勝つことはとてつもなく難しい。

 

 だからこそ今回、美奈兎達とチームを組んで《獅鷲星武祭》に参加していたのだ。

 

 「僕は家のしがらみを受け止めているし、不自由さだって飼い馴らしている。それが負担になっているように見えたのなら、僕の至らなさだろうね」

 

 「・・・負担になっているように見えないから、じゃないかな」

 

 「え・・・?」

 

 俺の呟きに、アーネストが驚いたような表情を見せる。

 

 「家のしがらみを受け止めていることも、不自由さを飼い馴らしていることも・・・アーネストにそれだけの才覚があるってことは、ソフィアが一番よく分かってるはずだ。それでも、アーネストをそこから自由にしようとしているのは・・・自分自身を当然の如く犠牲にしようとするのを、見ていられなかったからじゃないのか?」

 

 「っ・・・」

 

 息を呑むアーネスト。

 

 「その事故とやらで、責任を感じているってこともあるんだろうけど・・・一番の理由はそこじゃないのか?多分ソフィアは、アーネストに自分の意思で生きてほしいんだと思う。家や周りの意思じゃなくて、他ならぬアーネスト自身の意思で」

 

 「僕の意思・・・」

 

 「まぁあくまでも推測だ。本当の意図は違うかもしれないけどな」

 

 考え込むアーネストを見て、思わず苦笑する俺。

 

 「だからまぁ、今度ソフィアとゆっくり話してみたらどうだ?お互いの思いをぶつけ合ってみたら良い」

 

 「・・・それだと喧嘩にならないか?」

 

 「喧嘩したって良いだろ。五和姉と六月姉なんてしょっちゅう喧嘩してるけど、お互いの考えを遠慮なくぶつけ合えるからこそ仲が良いんだぞ」

 

 「まぁあの二人の場合、五和が六月に丸めこまれるパターンが多いですけどね」

 

 三咲姉が苦笑している。まぁ確かに・・・

 

 「・・・そうだね。良い機会だし、一度ソフィアと話してみるよ」

 

 「あぁ、その方が良い。ソフィアもきっと喜ぶだろうし」

 

 そんな話をしていると、車がゆっくりと停車した。窓の外を覗いてみると、星導館の正門前に到着していた。

 

 「着いたか・・・じゃ、二人ともありがとな」

 

 「礼を言うのはこっちの方さ。ソフィアの件、助言をくれてありがとう」

 

 笑みを浮かべるアーネスト。

 

 「やはりソフィアには、七瀬のような男性と一緒になってもらいたいものだ」

 

 「止めとけ。俺みたいな男じゃもったいないくらい良い女だよ、アイツは」

 

 苦笑しながらそう返す俺。と、三咲姉が真剣な表情で俺を見つめていた。

 

 「七瀬・・・明日はお互い全力で戦いましょう」

 

 「勿論だよ、三咲姉」

 

 こちらも真剣な表情で、三咲姉の目を見据える。

 

 「優勝は譲れない。絶対に勝つ」

 

 「私だって譲れません。勝つのは私達です」

 

 お互いに勝利を宣言した後、二人でフッと笑みを零す。

 

 何だかんだ言いつつ、明日の決勝を心待ちにしている俺と三咲姉なのだった。




どうも~、ムッティです。

シャノン「いよいよ次回は決勝戦が始まるのかな?」

その予定だよ。

やっとランスロット戦が書けるよね。

シャノン「途中で会長の話を挿んだから、結構長く感じるよね」

それな。

とりあえず、早く《獅鷲星武祭》を終わらせたいところです。

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」

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