「悪い綾斗、遅くなったわ」
「大丈夫だよ。俺もさっき終わったところだし」
笑いながらそう言ってくれる綾斗。
綾斗も遥さんの顔を見ておきたかったらしく、俺達は二人で治療院に来ていた。
俺は四糸乃姉のところにも顔を出してきたので、先に面会を終えた綾斗を待たせてしまったのだ。
「四糸乃さんや赫夜の皆はどうだった?」
「すっかり元気になってたよ。明後日には退院できるってさ」
「良かったね」
そんな会話をしながら、綾斗と星導館への帰り道を歩く。
「遥さんはどうだった?」
「変わらないね。やっぱり封印を解かないと、目覚めさせることは出来ないみたいだ」
「そっか・・・」
遥さんは何を思って綾斗に、そして自らに封印を施したんだろうか・・・
本人に聞いてみなきゃ分からないか・・・
「そういや、綾斗の封印はどうなんだ?最後の封印は解けそうか?」
「んー、もう少しって感じではあるんだけど・・・」
もどかしそうな表情の綾斗。
遥さんは三段階に分けて、綾斗の力を封印しているらしい。その内の二つ目までは解けているそうだが、最後の三つ目が解けないのだそうだ。
何か条件があるんだろうか・・・
「最後の封印が解けたら、もっと七瀬の力になれるのに・・・」
「俺の力・・・?」
首を傾げる俺。どういうことだ?
「・・・俺達がここまで勝ち進んでこれたのは、七瀬のおかげだよ。準々決勝のルサールカ戦に、準決勝の黄龍戦・・・四糸乃さんも《覇軍星君》も、俺達じゃ倒せなかった。七瀬が二人を倒してくれたから、俺達は決勝までこれたんだ。俺達はずっと、七瀬におんぶに抱っこの状態なんだよ」
綾斗が悔しそうな、申し訳なさそうな表情を見せる。
「だからこそ、俺の最後の封印が解けたら・・・もっと七瀬の負担を減らせるんじゃないかって、そう思うんだ」
「・・・バーカ」
綾斗の肩を思いっきり叩く。
「確かに、四糸乃姉と暁彗を倒したのは俺だ。でも二人を倒せたのは、間違いなくお前達のおかげなんだよ」
「えっ・・・?」
「ルサールカも黄龍も、全員手強いメンバーだった。そんな中で、俺がタイマンを張れるようにしてくれたのはお前達だ。俺一人だったら、まず間違いなく負けてるよ」
綾斗、クローディア、ユリス、綺凛、紗夜・・・誰か一人でも欠けていたら、ここまで辿り着くことは有り得なかった。
皆がいたからこそ、決勝まで勝ち進んでこれたのだ。
「俺達は六人で一つだ。だから・・・六人で掴み取ろうぜ、優勝を」
「っ・・・あぁ!」
力強く頷く綾斗。と、その時だった。
「フフッ・・・素敵な友情ね」
突如として響いた声。声のした方を振り向くと・・・
「流石は私の弟、良いこと言うわ」
「零香姉・・・」
長い黒髪をなびかせ、微笑んでいる零香姉が立っていた。
このタイミングで現れるか・・・
「っ・・・この人が・・・」
「初めまして、天霧綾斗くん。いつも七瀬がお世話になってるわね」
「・・・どうも」
警戒している綾斗。それを見て、零香姉が溜め息をついた。
「初対面なのにそんな反応しなくても・・・お姉さん傷付いちゃうわ」
「零香姉がやったことを考えたら、当然の反応だろ」
綾斗の前に出る俺。
「それで?何の用?」
「答えを聞かせてもらおうと思って」
俺を見据える零香姉。
「七瀬、私と来る気は無い?」
「無い」
俺は冷たく返した。
「逆に聞きたいんだけど・・・大人しく自首する気は無いの?」
「無いわ」
即答する零香姉。
「私にはやるべきことがあるの。捕まっている暇なんて無いのよ」
「・・・交渉決裂だな」
雷を迸らせる俺。
「俺は零香姉についていくつもりは無いし、零香姉も自首するつもりは無い・・・これを解決する方法は、たった一つしかない」
「相手に力ずくで言うことを聞かせる・・・分かりやすくて良いわね」
零香姉も星辰力を練り込んでいく。
「この間みたく、手加減なんてしないわよ?」
「上等だよバカ姉。やれるもんならやってみろ」
一触即発の空気が流れ、俺と零香姉が戦闘を始めようとした時だった。
「落ち着きたまえよ、零香」
何処かで聞いたことのあるような声が響いた。
「・・・貴方が何故ここにいるのかしら?」
零香姉が声のした方を睨み付ける。そこには・・・
「そう怖い顔をしないでくれ。少し用があってね」
仮面をつけた男が立っていた。その後ろに控えている女は、俺にも見覚えがあった。
「っ・・・ヴァルダ・・・」
「久しいな、零香の弟・・・七瀬といったか?」
《ヴァルダ=ヴァオス》・・・シルヴィの恩人である、ウルスラ=スヴェントの身体を乗っ取っている人物・・・いや、純星煌式武装か。
「ってことは、そこの仮面も仲間か・・・」
「こんばんは、星野七瀬くん。そして天霧綾斗くん」
笑みを浮かべる仮面の男。
「私の名前は《処刑刀》・・・零香やヴァルダの同士だ」
仮面の男・・・《処刑刀》はそう名乗ると、懐から煌式武装の発動体を取り出した。それを起動させると、巨大な真紅の刃が形成されていく。
まさかアレって・・・
「《赤霞の魔剣》ッ・・・!」
「ほう、よく知っているね」
感心している《処刑刀》。一方、綾斗は《黒炉の魔剣》の発動体を握り締めていた。
「七瀬、アレは何だい?《黒炉の魔剣》が反応してるみたいなんだけど・・・」
「《赤霞の魔剣》・・・《黒炉の魔剣》と同じ、四色の魔剣の一つだ」
「ッ!?アレが!?」
驚愕している綾斗。俺は《処刑刀》を睨み付けた。
「《赤霞の魔剣》はレヴォルフの学有純星煌式武装で、今は凍結処理が施されているはず・・・何でお前がそれを持っている?」
「色々あってね」
俺の質問をかわす《処刑刀》。俺の脳裏に、あの憎きブタの顔がよぎった。
まさか・・・
「邪魔しないでもらえるかしら?」
不機嫌オーラ全開の零香姉が、《処刑刀》に向けて殺気を放っている。
「私は七瀬に用があるの。姉弟の時間に水を差さないでちょうだい」
「私としてもそうしたいところなんだがね」
溜め息をつく《処刑刀》。
「零香、あまり独断行動は止めてくれないか。七瀬くんをこちら側に勧誘するなんて、何を考えているんだい?」
「私の勝手でしょう?口出ししないでもらえるかしら?」
「そうもいかないんだよ。計画に支障が出かねないからね」
諭すような口ぶりの《処刑刀》。
「勝手に故郷へ帰ったり、七瀬くんをこちら側に勧誘したり・・・あの時だって、君は遥を仕留め損ねただろう?そのせいでどうなったことか・・・」
「ッ!?」
それを聞いた瞬間、俺の頭に最悪のシナリオが浮かんだ。
零香姉は《蝕武祭》の選任参加者だった・・・遥さんは《蝕武祭》に参加していた・・・
そして今の《処刑刀》の言葉・・・零香姉が遥さんを仕留め損ねた・・・?
「まさか・・・《蝕武祭》で遥さんを負かした相手って・・・」
「・・・知っていたのね」
力なく微笑む零香姉。そして綾斗へと視線を向け、驚愕の真実を口にするのだった。
「六年前、貴方のお姉さん・・・天霧遥を斬ったのは、この私よ」
どうも~、ムッティです。
シャノン「天霧くんのお姉さんを斬ったのが、ななっちのお姉さんだったとは・・・」
この設定も前々から決めてました。
零香の過去はどんどん明らかになっていくので、お楽しみに。
シャノン「ねぇ作者っち、私の過去編とか無いの?」
モブキャラの過去編に需要があると思うなよ?
シャノン「酷い!?」
それではまた次回!以上、ムッティでした!
シャノン「きっと私にも涙の過去が・・・」
ありません。
シャノン「チクショオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!!!」