学戦都市アスタリスク ~六花の星野七瀬~   作:ムッティ

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ちょっと涼しくなったと思ったら、また暑さが戻ってきやがった・・・

マジで夏なんて滅びてしまえ・・・


想いと願い

 「あー、しんどい・・・」

 

 うつ伏せでソファに寝そべる俺。

 

 クローディア、ユリス、綺凛、綾斗もそれぞれ寝そべったり座り込んだりしている。

 

 「紗夜は大丈夫かな・・・」

 

 「直に目を覚ますだろうって、救護スタッフの人達が言ってたよ」

 

 綾斗が答えてくれる。

 

 「治癒能力者の手当ても必要無いみたいだし、大丈夫じゃないかな」

 

 「なら良いけど・・・問題は俺達のコンディションだな」

 

 「・・・正直キツいな」

 

 溜め息をつくユリス。

 

 「今日が準決勝で、明日が決勝・・・この日程はどうにかならないのか?」

 

 「しかも相手のランスロットは、不戦勝で今日は休養日・・・明日は万全の状態で来るでしょうね」

 

 険しい表情のクローディア。ランスロットか・・・

 

 「まぁ幸いというべきか、ランスロットについては既に研究済みだからな。今さら試合映像を見る必要も無いし、作戦会議は明日で良いだろ。とにかく今日はゆっくり休んで、明日に備えようぜ」

 

 「ですね。出来る限りコンディションを整えないと」

 

 綺凛が頷いてくれる。

 

 と、来訪者を告げるチャイムが鳴り響いた。空間ウィンドウを覗いてみると・・・

 

 「・・・やっぱり来たか」

 

 予想通りの人が映っていたので、ドアのロックを解除する。

 

 険しい表情で控え室に入ってきたのは・・・

 

 「一織さん?」

 

 クローディアが呟く。そう、入ってきたのは一織姉だった。

 

 「・・・来ると思ってたよ」

 

 ソファから立ち上がり、一織姉と向かい合う俺。

 

 一織姉はそんな俺にツカツカと歩み寄ってくると・・・俺の頬に思いっきり平手打ちをかましてきた。

 

 「一織さん!?」

 

 クローディア達が驚く中、一織姉は俺を睨み付けていた。

 

 「・・・何で叩かれたか分かる?」

 

 「・・・《断罪の一撃》を、自分に向けて撃ったからだろ」

 

 溜め息をつく俺。

 

 「あの時・・・俺が死のうとしてやったことだもんな」

 

 それを聞いて、皆の表情が一斉に曇る。

 

 俺がクローディアに話した過去の話・・・それを皆が病室の外で聞いていたことは、最初から気付いていた。

 

 「一織姉には怒られるだろうなって思ったよ。それに・・・傷付けるだろうなとも思った。あの日のことを、思い出させてしまうだろうから」

 

 「だったら何で・・・」

 

 一織姉の目に、みるみる涙が浮かんでくる。

 

 「だったら何であんなことしたのよ!?少しでも加減を間違えたら、死んじゃうかもしれないのよ!?何で七瀬は自分のことを大事にしないの!?」

 

 「一織姉・・・」

 

 「私は・・・お父さんとお母さんを救えなかった・・・!」

 

 一織姉の頬を、とめどなく涙が伝っていく。

 

 「しかも目の前で七瀬が刺されて・・・私は何も出来なくて、七瀬まで失ってしまうのかって・・・だから七瀬を救えた時、本当に嬉しかった・・・!」

 

 俺を抱き締める一織姉。

 

 「お願いだから・・・もっと自分を大切にしてよ・・・私はもう二度と・・・大切な家族を失いたくないの・・・!」

 

 号泣する一織姉。俺は一織姉を抱き締め返した。

 

 「・・・ゴメンね、一織姉」

 

 優しく頭を撫でる。

 

 「一織姉は、ずっと後悔してるんだよね・・・父さんと母さんを救えなかったこと」

 

 もし自分が、もっと早く治癒能力に目覚めていたら・・・

 

 もっと早く、現場に駆け付けることが出来ていたら・・・

 

 そんな思いを、一織姉はずっと抱えてきたんだろう。だからこそ、唯一救えた俺を本当に大切にしてくれている。

 

 父さんと母さんの分まで、俺に愛情を注いでくれているのだ。

 

 「・・・ありがとう、一織姉」

 

 背中を優しく叩く。

 

 「一織姉が救ってくれたから、こうして今ここにいられる・・・本当に感謝してる」

 

 「七瀬・・・」

 

 「自分の命がどうなってもいいなんて、今はそんなこと考えてないよ。家族がいて、仲間がいて、恋人がいて・・・俺一人の命じゃないってことは、ちゃんと分かってる」

 

 そう、俺一人の命じゃない・・・それは皆が教えてくれたことだ。

 

 「それでも・・・命がけじゃなきゃ守れないものがある。貫き通せないものがある。それだけは分かってほしい」

 

 「・・・七瀬のバカ」

 

 一織姉の腕に力がこもる。

 

 「そんなこと、ちゃんと分かってるわよ・・・でも家族としては、自分の命を大事にしてほしい・・・だから怒ってるんじゃない・・・」

 

 「・・・ゴメン」

 

 「全く・・・根本的な部分は、昔から全く変わらないわね」

 

 涙を拭う一織姉。

 

 「まぁ、それが七瀬らしいんだけど・・・私を含めて、皆が心配してるってことだけは忘れないでね」

 

 「・・・うん、ありがとう」

 

 「分かってるなら良いの」

 

 一織姉が、そっと俺の頬に触れる。

 

 「叩いちゃってゴメンね。痛かったでしょ?」

 

 「そりゃあもう・・・暁彗の攻撃の比じゃないぐらい痛かったわ」

 

 「そこまで!?」

 

 「うん、主に心が」

 

 「うっ・・・ゴメンなさい・・・」

 

 バツが悪そうな一織姉。俺はひとしきり笑うと、一織姉を抱く腕に力を込めた。

 

 「・・・決勝、頑張るから。絶対勝つよ」

 

 「・・・うん。応援してるわ」

 

 微笑む一織姉。

 

 クローディア達が優しく見守ってくれる中、俺は改めて決意を固めるのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「決勝進出おめでとう、七瀬!」

 

 「次の試合に勝ったら優勝ですね!」

 

 美奈兎と柚陽が笑顔で祝福してくれる。

 

 試合終了後、俺は星導館へ帰る前に治療院へとやってきていた。

 

 「おう、ありがとな。決勝も頑張るよ」

 

 「うん、応援してる」

 

 ニーナが笑顔でそう言ってくれる。と、九美がおずおずと話しかけてきた。

 

 「あの、兄さん・・・八重ちゃんの様子はどうでしたか?」

 

 「スッキリした感じ・・・では無かったかな。やっぱり悔しかったと思う」

 

 「ですよね・・・」

 

 俯く九美の頭に、ポンッと手を置く。

 

 「・・・退院したら、たくさん労ってやってくれ。八重も九美に会いたいだろうし」

 

 「兄さん・・・はいっ」

 

 笑みを浮かべる九美。八重も九美の顔を見たら、きっと元気が出るだろうしな。

 

 「次はいよいよ、お兄様達のチームとの戦いですわね」

 

 険しい表情のソフィア。

 

 「お兄様やレティシアは勿論のこと、他のメンバーも強敵ですわよ。特に七瀬さんのお姉様・・・三咲さんは、お兄様と互角の強さですから」

 

 「だろうな。よく知ってるよ」

 

 『ガラードワースの二大剣王』と称されるアーネストと三咲姉、《魔女》のレティシア、《聖杯》の使い手であるパーシヴァル・・・

 

 反則級の戦力が揃っている以上、苦戦は免れないだろうな・・・

 

 「それでも・・・負けるわけにはいかない」

 

 俺はクロエへ視線を向けた。

 

 「約束したからな・・・必ず自由にしてやるって」

 

 「ありがとう、七瀬」

 

 微笑むクロエ。

 

 「私は貴方を信じてるから」

 

 「おう、任せとけ」

 

 拳を合わせる俺とクロエ。

 

 と、そこで俺の端末に着信が入った。相手は・・・

 

 「シルヴィ?」

 

 俺が端末を操作すると、空間ウィンドウにシルヴィの顔が映った。

 

 『もしもしななくん?試合お疲れ様』

 

 「ありがとう。試合観ててくれたのか?」

 

 『中継で観てたよ。ななくんったら、ホントに無茶するんだから・・・』

 

 「・・・ゴメン、心配かけたよな」

 

 『ホントだよ・・・まぁ無事だったし、試合にも勝ったから良かったけどさ』

 

 嘆息するシルヴィだったが、やがて笑みを浮かべた。

 

 『決勝進出おめでとう。あと一勝だね』

 

 「あぁ、絶対に勝つよ」

 

 『フフッ、期待してるよ。明日は応援に行くから』

 

 「マジで?それは余計に負けられないな」

 

 そんなやり取りをしていると、シルヴィの後ろからペトラさんが顔を覗かせた。

 

 『シルヴィ、その辺にしてもらえませんか?』

 

 『えー、仕方ないなぁ・・・ななくん、ペトラさんから話があるんだって』

 

 「話?ひょっとして・・・」

 

 『えぇ、クロエの件です』

 

 ペトラさんの言葉に、赫夜の皆の表情が引き締まる。

 

 どうやら、W&Wから回答があったみたいだな・・・

 

 『W&Wに、七瀬さんからの提案を伝えさせていただきました。その結果、『条件付きで交渉のテーブルに着く』との回答でした』

 

 「条件・・・?」

 

 『《獅鷲星武祭》で優勝すること、だそうです』

 

 淡々と答えるペトラさん。

 

 『そして願いとして、クロエの購入を望むこと・・・それがW&Wの出した条件です。金額等の具体的な交渉は、それから始めようとのことでした』

 

 「なるほど、『解放』ではなく『購入』ですか・・・」

 

 『解放』となると、W&Wはタダでクロエを手放すことになる。損しか無いとはいえ、望みは絶対に叶えないといけない。

 

 だから『購入』を望みとさせて、利益を得ようという判断なんだろうな。

 

 「そんなの律儀に守る必要ないじゃん!」

 

 『購入』という言葉にカチンときたのか、美奈兎が声を荒げる。

 

 「七瀬が優勝したら、クロエが自由になることを望んで・・・」

 

 「それは止めた方が良いな」

 

 首を横に振る俺。

 

 「その場合、自由になった後のクロエの身が危ない。W&Wが、不慮の事故に見せかけてクロエを始末しにくる可能性が高いだろうし」

 

 「そんな・・・」

 

 「それにクロエには、《べネトナーシュ》の一員として得ている情報がある。それを手に入れる為に、他の統合企業財体がクロエを狙う可能性も否定できない。だからこそ、W&Wにはクロエの後ろ盾になってもらわないと困るんだよ」

 

 「まさか七瀬さん、最初からそこまで計算して交渉を・・・」

 

 「まぁな」

 

 唖然としている柚陽の言葉に、苦笑しながら返す俺。

 

 「ペトラさん、W&Wには『承知しました』と返事をしてもらって良いですか?」

 

 『分かりました』

 

 頷くペトラさん。

 

 『では七瀬さん、明日の決勝頑張って下さいね。まぁ私としては、貴方に負けていただいた方が良いのですが』

 

 『もう、ペトラさんったら・・・じゃあななくん、明日応援に行くからね!』

 

 「おう、ありがとな。ペトラさんもありがとうございました」

 

 俺の言葉にシルヴィが笑顔で手を振り、ペトラさんが一礼したところで通信が切れる。

 

 「・・・兄さん」

 

 俺の手を握ってくる九美。

 

 「お願いすることしか出来なくて、本当に申し訳ありませんが・・・クロエ先輩を助けて下さい」

 

 「あぁ、勿論」

 

 九美、美奈兎、柚陽、ニーナ、ソフィア・・・そしてクロエ。

 

 全員を見回した俺は、力強く宣言するのだった。

 

 「必ず優勝して、クロエを自由にしてみせる」




どうも~、ムッティです。

映画が観たいわぁ・・・

シャノン「どうしたの急に」

『コー●ブルー』『七つの●罪』『銀●』・・・

観たい映画が結構あるんだけど、時間が無くて観に行けない・・・

シャノン「作者っちは映画好きなんだね」

勿論ですとも。

アスタリスクも映画やったら良いと思う。

ってか三期やって。

そして『クインヴェールの翼』アニメ化して。

シャノン「おっ、そしたら私の出番も・・・」

あるわけねーだろモブキャラ。

シャノン「辛辣!?」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「出番が欲しいよおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!」

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