「急急如律令、勅!」
試合開始と同時に、セシリーが刀印を切る。
轟音と共に、無数の雷撃が雨のようにステージへ降り注いだ。
「開幕からド派手だなオイ!?」
雷を避けつつ、暁彗へと向かう俺。
だが、その前に虎峰が立ちはだかった。
「行かせませんよ!」
「それは困るな」
《通天足》の蹴りによる攻撃を、綾斗が間に入り《黒炉の魔剣》で受け止めてくれる。
「《覇軍星君》の相手は七瀬に任せてるんだ。君の相手は俺が務めさせてもらうよ、《天苛武葬》」
「あの《叢雲》に相手をしていただけるとは、光栄ですね」
笑みを浮かべる虎峰。
「しかし残念ながら、貴方の相手は・・・」
「趙師兄ではありません」
「ッ!?」
虎峰の背後から現れた八重が、綾斗へと拳を放つ。
綾斗が後方へと跳んで避けるが、そこへ待ち受けていたのは・・・
「お前の相手は俺だ・・・《叢雲》」
棍を構えた暁彗だった。いつの間にあんなところに!?
「マズい・・・!」
「行かせないと言ったはずです!」
方向転換する俺の前に、虎峰と八重が立ち塞がる。
暁彗が綾斗へと棍を突き出した瞬間・・・
「やぁっ!」
綺凛が棍を刀で受け止めた。何とか体勢を整える綾斗。
危なかった・・・
「貴方の相手は僕達ですよ」
虎峰が構えながら言う。
「二対一というのは少々気が引けますが・・・勝負ですから致し方ありません」
「・・・二対一なら勝てるとでも?」
身体から雷を迸らせる俺。
「いくら《通天足》を使っていても、《雷帝化》した俺にはついてこれないぞ。八重と二人で挑んできたところで、それは変わらない」
「でしょうね」
アッサリと認める八重。
「だからこそウォン師姉には、開幕から派手な雷撃をお願いしたんですよ。目眩ましの意味合いもありますが、何より・・・お兄様の知覚能力対策の為に」
「っ・・・」
まさか八重のヤツ、気付いてたのか・・・?
「お兄様は《魔術師》の能力により、知覚能力が格段に上がっています。相手の星辰力の流れを読み取れるなど、チート能力と言ってもいいでしょう。ですが・・・その能力にも弱点はあります」
淡々と説明する八重。
「お兄様は知覚能力が上がっている影響で、相手の能力による攻撃に意識がいってしまいます。そうすると、攻撃している相手以外の人の星辰力の流れを読み取るのが疎かになってしまう・・・だから私が趙師兄の後ろに潜んでいたことや、大師兄が移動していたことに気付くのが遅れたんでしょう?」
八重の言う通りだった。俺はセシリーの雷撃に意識がいっていたのだ。
虎峰の攻撃は視界に入っていたが、八重と暁彗には気付いていなかった。
「加えて、ウォン師姉が雷撃使いという点も大きかったはずです。あれほど雷撃が降り注いでいたら、同じ雷の能力を持つお兄様は余計に敏感に反応してしまうはずですから」
「・・・そこまで見抜かれてたか」
我が妹ながら、見事な観察眼だ。まるで三咲姉だな・・・
「でもそれが分かったところで、何も変わりはしないだろ。セシリーの雷撃はいずれ止むだろうし、今の俺の意識はお前達に集中している。逃がしはしないぞ」
「いえ、大きく変わりますよ」
答えたのは虎峰だった。
「僕達に意識が集中している・・・それで十分です」
「は・・・?」
その瞬間・・・俺の両脇に、沈雲と沈華が現れた。
「ッ!?」
「「急急如律令、封!」」
俺の右肩に沈雲、左肩に沈華が触れる。突如として鎖が現れ、俺の身体に巻き付いていった。
「がああああああああああっ!?」
「七瀬ッ!」
身体に激痛が走る中、駆けつけたクローディアが双子に攻撃を仕掛ける。
何とか攻撃を避けて距離を取った双子だったが、その顔は疲労困憊といった様子だった。
「やれやれ・・・この術を使うのはしんどいな・・・」
「全くだわ・・・既に身体がキツいもの・・・」
「よくやってくれたな、二人とも」
虎峰が双子を労う中、鎖が消えて俺の身体の痛みも引いていった。
「七瀬!?大丈夫ですか!?」
「あぁ、何とか・・・」
【マスター、大変です!】
七海の慌てた声が聞こえる。
「七海?どうした?」
【雷の力が使えません!】
「・・・え?」
言われてみると、隣にいるクローディアの星辰力の流れさえ読めない。
雷を迸らせようとするが・・・
「っ・・・使えない・・・?」
「悪いわね、七瀬」
沈華が疲れきった声で言う。
「今アンタに使った術は、相手の能力を一時的に封印する術・・・私と沈雲が編み出した術なのよ。まぁ代償として、二人の体力をごっそり持っていかれるんだけどね」
「最初からこの術を君に使う為に、皆それぞれ動いていたのさ。一番厄介な相手は、間違いなく君だからね」
沈雲も疲れきった様子で説明してくれる。
「今の君は《魔術師》じゃない。星辰力の量が多い、ただの《星脈世代》だよ」
「っ・・・」
全てはこの為に動いてたってことかよ・・・
ここにきて連携プレーとはな・・・
「これで形勢逆転です」
そういう虎峰の表情は、何処か冴えなかった。
「今の七瀬では、《神の拳》を使って僕と同等といったところでしょう。ですが、こちらには八重がいます。二対一なら、今の七瀬に勝つことは容易いはずです」
「申し訳ありません、お兄様」
八重の表情も暗い。
「このような形で勝ったとしても、私は胸を張って『お兄様を超えた』とは言えないでしょう。ですが・・・負けられないのです」
真剣な眼差しで俺を見据える八重。
「私にも叶えたい願いができました。それを叶える為にも、私は勝ちたいのです」
「・・・だったら謝んなよ」
「っ・・・」
俺は八重と虎峰を睨んだ。
「これは真剣勝負だ。そして俺はお前達の作戦にハマった・・・ただそれだけだろ。二人揃って後ろめたそうな顔すんなよ」
「お兄様・・・」
「ったく、ずいぶん舐められたもんだ・・・七海」
【はい、マスター】
俺の両手に《神の拳》が装着される。
「クローディア、お前は予定通り双子の相手を頼む。虎峰と八重は任せろ」
「・・・よろしいのですか?」
「あぁ」
ユリスと紗夜はセシリーと、綾斗と綺凛が暁彗と戦っている。
セシリーの方はともかくとして、暁彗の方はかなりキツいはずだ。
「ここで油を売ってる暇は無い。さっさと終わらせるぞ」
「了解です」
頷くクローディア。
俺は拳を構えると、八重達を見据えるのだった。
「さぁ・・・仕切り直しといこうか」
どうも~、ムッティです。
シャノン「ななっちの能力が封じられるとは・・・」
果たして七瀬はどうするのか・・・
それはさておき、最近感想で色々と意見をいただきます。
主にヒロイン複数化についてですね。
シャノン「結構反対意見もいただいてるよね」
そうそう、『ヒロインはシルヴィアのみにすべきだと思う』っていう意見ね。
中には、『クローディアの恋は実らないでほしい』っていう意見もあったり。
その一方で、『シルヴィアと別れても良いからクローディアの恋が実ってほしい』という意見もありました。
シャノン「まぁ読者さんによって意見は分かれるよね」
人それぞれだからね。
まぁ正直なことを言うと、恐らくヒロインは複数になると思われます。
展開を色々と考えた結果、恐らくそうなるなと・・・
ヒロイン複数化に反対の方々、大変申し訳ありません。
読者の皆様には、今後も温かく見守っていただけると幸いです。
それではまた次回!以上、ムッティでした!
シャノン「またね~!」