学戦都市アスタリスク ~六花の星野七瀬~   作:ムッティ

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まだ六月だというのに、どうしてこんなに暑いのか・・・


夜吹憮塵斎

 「《雷帝》・・・星野七瀬か」

 

 俺を見据える老人。

 

 こうして対峙してみると、凄まじい威圧感だな・・・

 

 「アンタが夜吹英士朗の父親か?」

 

 「うむ、夜吹憮塵斎じゃ。いつも愚息が迷惑をかけておるの」

 

 「全くだよ。一から教育し直してくんない?」

 

 「かかっ!言いおるわ!」

 

 愉快そうに笑う憮塵斎。

 

 「で、一応聞いておくが・・・何の用かの?」

 

 「じゃあ、一応答えておくが・・・クローディアを助けに来た」

 

 憮塵斎と俺の視線がぶつかる。

 

 「無理を承知で頼むけど、引いてくんない?」

 

 「かかっ!その実直さは嫌いではないが、生憎そうもいかんのよ」

 

 手に持っている錫杖を鳴らす憮塵斎。

 

 「こちらも無理を承知で頼むが、引いてはくれぬかの?儂はこう見えても、無駄な殺生は好まんのでな」

 

 「生憎、俺も仲間を見捨てられないんだよ」

 

 お互い引く気はゼロ・・・戦うしかないようだ。

 

 「悪いんだけど、一分だけ待ってくんない?クローディアと話がしたいんだけど」

 

 「・・・まぁ良かろう」

 

 憮塵斎が頷く。

 

 俺はクローディアの方を振り返った。全身ボロボロで、あちこちから出血している。

 

 「・・・酷い有り様だなオイ」

 

 「フフッ・・・流石に疲れました・・・」

 

 足元がふらついてバランスを崩すクローディアを、そっと受け止めて地面に座らせる。

 

 「大人しく座って待ってろ。すぐに終わらせるから」

 

 俺はそこでレティシアの言葉を思い出し、ポケットからお守りを取り出した。

 

 「これ、レティシアから預かった。お前に渡してほしいんだってさ」

 

 「え・・・?」

 

 戸惑っているクローディア。俺はお守りを、クローディアの内ポケットへと入れた。

 

 「幸運が巡ってくるお守りなんだって?お前もこういうプレゼントを、人に贈ったりするんだな」

 

 「え、えぇ・・・でも、こんなの私は・・・」

 

 「何で戸惑ってるんだよ・・・じゃ、行ってくるわ」

 

 「あっ・・・」

 

 俺がクローディアに背を向けると、クローディアが俺の制服の袖を掴んできた。

 

 「七瀬・・・どうかご無事で・・・」

 

 「おう」

 

 短く返答し、憮塵斎と向き合う俺。

 

 「悪い、待たせた」

 

 「儂の方こそすまんのう。最期の逢瀬くらいゆっくりさせてやりたかったが、これ以上時間をかけるわけにもいかんのよ」

 

 「最期なのはアンタの方だろ。遺書の準備は出来てんのか?」

 

 「かかっ!本当に言いおるわい!」

 

 憮塵斎が笑みを浮かべた瞬間・・・その手元から飛苦無が放たれる。

 

 俺は雷を放出し、飛んでくる飛苦無をなぎ払った。

 

 「悪いが、俺に飛び道具は効かないぞ」

 

 「そのようじゃのう。厄介な能力を持ちよって・・・」

 

 今度は弧を描きながら手裏剣を投げてくる憮塵斎。

 

 再び雷でなぎ払ったものの、一瞬目線を切った隙に憮塵斎が姿を消す。

 

 「ッ!?」

 

 咄嗟にしゃがむと、俺の首があった場所を憮塵斎の錫杖が通過していた。

 

 「はぁっ!」

 

 「ぐっ!?」

 

 憮塵斎の顎に下から拳をぶちかます。よろめいたところに、今度は脇腹へ膝蹴りをお見舞いした。

 

 「がっ!?」

 

 吹き飛んでいく憮塵斎。しかし流石と言うべきか、空中で一回転して着地した。

 

 「ふぅ・・・お主、なかなかやりおるの。あの攻撃は、相手に気配さえ悟らせぬというのに・・・何故かわすことが出来た?」

 

 「さぁな。ボケない為の脳トレだと思って考えてみろや」

 

 相手の星辰力の波動が読めて助かったな・・・

 

 気配がまるで感じられなかったし、能力が無かったら今の攻撃で終わってたわ・・・

 

 「・・・まぁ良い。真正面から刎ねるだけよ」

 

 憮塵斎の身体がゆらりと揺らぎ、次の瞬間には俺の間合いに現れる。

 

 俺は咄嗟に首筋へ星辰力を集中させた。そこへ憮塵斎の錫杖による攻撃が当たる。

 

 「ぐっ・・・!」

 

 「ぬっ!?」

 

 驚いている憮塵斎をよそに、俺はありったけの雷を放出した。

 

 「ぐあっ!?」

 

 もろに雷を受け、吹き飛んでいく憮塵斎。

 

 今度は受け身を取れなかったようで、そのまま地面に激突した。

 

 「くっ・・・なるほど・・・」

 

 苦々しい表情で起き上がる憮塵斎。

 

 「その膨大な星辰力量を生かし、防御して耐えてから攻撃とはの・・・しかし防御一辺倒では、いずれお主の星辰力も底が尽きよう」

 

 「そこまで粘る必要もないだろ」

 

 首筋から流れる血を拭う俺。

 

 「明日は《獅鷲星武祭》の準決勝なんだ。こんなところで無駄な体力を使ってる暇はないんだよ・・・《雷帝化》」

 

 雷と一体化し、黄金の光に包まれる俺。

 

 「さぁ・・・終わりにしようか」

 

 「舐めるなよ小僧!」

 

 俺の拳と憮塵斎の錫杖がぶつかり合う。力が拮抗し、攻撃の余波で辺りの地面にヒビが入っていく。

 

 だが・・・

 

 「終わりだと言ったはずだ」

 

 もう片方の手で錫杖を握る俺。そして・・・

 

 「《万雷放電》ッ!」

 

 「がああああああああああッ!?」

 

 憮塵斎の身体に、ありったけの雷を流し込む俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《クローディア視点》

 

 「悪く思うなよ、爺さん」

 

 煙を上げて倒れる憮塵斎殿を見下ろし、七瀬が呟きます。

 

 『ナイトエミット』の当主を、こうもあっさり倒してしまうとは・・・流石は七瀬と言うべきでしょうか。

 

 「さて・・・クローディアを連れて、ユリス達と合流しないとな・・・」

 

 七瀬がこちらへと視線を向けた瞬間・・・憮塵斎殿が素早く立ち上がり、錫杖を七瀬へ向けて放ちました。

 

 「ッ!?」

 

 不意を突かれた七瀬は、防御することが出来ません。

 

 憮塵斎殿の錫杖が、七瀬の胸を貫く瞬間・・・私が間に入り、両手を広げて七瀬を守ります。

 

 (あぁ、ようやく・・・ようやくこの瞬間を迎えられました・・・)

 

 私の心は、幸せで満たされていました。この瞬間を迎える夢を見てから、どれほどこの瞬間を待ち侘びたことか・・・

 

 私はこれから、七瀬を庇って錫杖に胸を貫かれます。そして七瀬の腕に抱かれ、静かに息を引き取る・・・

 

 その夢を現実のものにする為だけに、私はアスタリスクへとやってきたのです。生きる価値を見出せなくなった私にとって、この夢が最後の希望でした。

 

 (七瀬、貴方に出会えて本当に幸せでした・・・ありがとうございます)

 

 笑みを浮かべた私の胸に、憮塵斎殿の錫杖が突き刺さる・・・

 

 「はぁっ!」

 

 「ぬっ!?」

 

 直前で、突如として現れた七海さんが錫杖を叩き折ります。

 

 そして・・・

 

 「くたばれクソジジイッ!」

 

 「がはっ!?」

 

 七瀬の渾身の拳が、憮塵斎殿の顔面にめり込みます。

 

 憮塵斎殿は吹き飛び、コンテナに激突した後ピクリとも動かなくなりました。今度こそ気絶してしまったようです。

 

 「やれやれ、やっぱり狸寝入りだったか」

 

 「往生際の悪い人ですね。マスターの言う通り、スタンバイしておいて正解でした」

 

 「助かったよ。ありがとな、七海」

 

 そんな・・・私が見た夢は、こんな展開では無かったはず・・・

 

 七瀬と七海さんの会話を聞いていた私は、段々と意識が遠くなり・・・その場に倒れてしまうのでした。




どうも~、ムッティです。

シャノン「夜吹くんのお父さんとの戦い、すぐ終わっちゃったんだけど・・・」

それだけ七瀬が強かったってことで。

シャノン「あと、お守りのくだり必要だった?」

それは思ったわ・・・

まぁ後々少し触れる予定でいるから。

ちなみに次の投稿は一週間後くらいになりそうです。

シャノン「あれ、ちょっと空くの?」

ちょっと忙しくなりそうなんだよね。

ストックも無くなったので、また書き溜めないと・・・

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」

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