「《雷帝》・・・星野七瀬か」
俺を見据える老人。
こうして対峙してみると、凄まじい威圧感だな・・・
「アンタが夜吹英士朗の父親か?」
「うむ、夜吹憮塵斎じゃ。いつも愚息が迷惑をかけておるの」
「全くだよ。一から教育し直してくんない?」
「かかっ!言いおるわ!」
愉快そうに笑う憮塵斎。
「で、一応聞いておくが・・・何の用かの?」
「じゃあ、一応答えておくが・・・クローディアを助けに来た」
憮塵斎と俺の視線がぶつかる。
「無理を承知で頼むけど、引いてくんない?」
「かかっ!その実直さは嫌いではないが、生憎そうもいかんのよ」
手に持っている錫杖を鳴らす憮塵斎。
「こちらも無理を承知で頼むが、引いてはくれぬかの?儂はこう見えても、無駄な殺生は好まんのでな」
「生憎、俺も仲間を見捨てられないんだよ」
お互い引く気はゼロ・・・戦うしかないようだ。
「悪いんだけど、一分だけ待ってくんない?クローディアと話がしたいんだけど」
「・・・まぁ良かろう」
憮塵斎が頷く。
俺はクローディアの方を振り返った。全身ボロボロで、あちこちから出血している。
「・・・酷い有り様だなオイ」
「フフッ・・・流石に疲れました・・・」
足元がふらついてバランスを崩すクローディアを、そっと受け止めて地面に座らせる。
「大人しく座って待ってろ。すぐに終わらせるから」
俺はそこでレティシアの言葉を思い出し、ポケットからお守りを取り出した。
「これ、レティシアから預かった。お前に渡してほしいんだってさ」
「え・・・?」
戸惑っているクローディア。俺はお守りを、クローディアの内ポケットへと入れた。
「幸運が巡ってくるお守りなんだって?お前もこういうプレゼントを、人に贈ったりするんだな」
「え、えぇ・・・でも、こんなの私は・・・」
「何で戸惑ってるんだよ・・・じゃ、行ってくるわ」
「あっ・・・」
俺がクローディアに背を向けると、クローディアが俺の制服の袖を掴んできた。
「七瀬・・・どうかご無事で・・・」
「おう」
短く返答し、憮塵斎と向き合う俺。
「悪い、待たせた」
「儂の方こそすまんのう。最期の逢瀬くらいゆっくりさせてやりたかったが、これ以上時間をかけるわけにもいかんのよ」
「最期なのはアンタの方だろ。遺書の準備は出来てんのか?」
「かかっ!本当に言いおるわい!」
憮塵斎が笑みを浮かべた瞬間・・・その手元から飛苦無が放たれる。
俺は雷を放出し、飛んでくる飛苦無をなぎ払った。
「悪いが、俺に飛び道具は効かないぞ」
「そのようじゃのう。厄介な能力を持ちよって・・・」
今度は弧を描きながら手裏剣を投げてくる憮塵斎。
再び雷でなぎ払ったものの、一瞬目線を切った隙に憮塵斎が姿を消す。
「ッ!?」
咄嗟にしゃがむと、俺の首があった場所を憮塵斎の錫杖が通過していた。
「はぁっ!」
「ぐっ!?」
憮塵斎の顎に下から拳をぶちかます。よろめいたところに、今度は脇腹へ膝蹴りをお見舞いした。
「がっ!?」
吹き飛んでいく憮塵斎。しかし流石と言うべきか、空中で一回転して着地した。
「ふぅ・・・お主、なかなかやりおるの。あの攻撃は、相手に気配さえ悟らせぬというのに・・・何故かわすことが出来た?」
「さぁな。ボケない為の脳トレだと思って考えてみろや」
相手の星辰力の波動が読めて助かったな・・・
気配がまるで感じられなかったし、能力が無かったら今の攻撃で終わってたわ・・・
「・・・まぁ良い。真正面から刎ねるだけよ」
憮塵斎の身体がゆらりと揺らぎ、次の瞬間には俺の間合いに現れる。
俺は咄嗟に首筋へ星辰力を集中させた。そこへ憮塵斎の錫杖による攻撃が当たる。
「ぐっ・・・!」
「ぬっ!?」
驚いている憮塵斎をよそに、俺はありったけの雷を放出した。
「ぐあっ!?」
もろに雷を受け、吹き飛んでいく憮塵斎。
今度は受け身を取れなかったようで、そのまま地面に激突した。
「くっ・・・なるほど・・・」
苦々しい表情で起き上がる憮塵斎。
「その膨大な星辰力量を生かし、防御して耐えてから攻撃とはの・・・しかし防御一辺倒では、いずれお主の星辰力も底が尽きよう」
「そこまで粘る必要もないだろ」
首筋から流れる血を拭う俺。
「明日は《獅鷲星武祭》の準決勝なんだ。こんなところで無駄な体力を使ってる暇はないんだよ・・・《雷帝化》」
雷と一体化し、黄金の光に包まれる俺。
「さぁ・・・終わりにしようか」
「舐めるなよ小僧!」
俺の拳と憮塵斎の錫杖がぶつかり合う。力が拮抗し、攻撃の余波で辺りの地面にヒビが入っていく。
だが・・・
「終わりだと言ったはずだ」
もう片方の手で錫杖を握る俺。そして・・・
「《万雷放電》ッ!」
「がああああああああああッ!?」
憮塵斎の身体に、ありったけの雷を流し込む俺なのだった。
*****
《クローディア視点》
「悪く思うなよ、爺さん」
煙を上げて倒れる憮塵斎殿を見下ろし、七瀬が呟きます。
『ナイトエミット』の当主を、こうもあっさり倒してしまうとは・・・流石は七瀬と言うべきでしょうか。
「さて・・・クローディアを連れて、ユリス達と合流しないとな・・・」
七瀬がこちらへと視線を向けた瞬間・・・憮塵斎殿が素早く立ち上がり、錫杖を七瀬へ向けて放ちました。
「ッ!?」
不意を突かれた七瀬は、防御することが出来ません。
憮塵斎殿の錫杖が、七瀬の胸を貫く瞬間・・・私が間に入り、両手を広げて七瀬を守ります。
(あぁ、ようやく・・・ようやくこの瞬間を迎えられました・・・)
私の心は、幸せで満たされていました。この瞬間を迎える夢を見てから、どれほどこの瞬間を待ち侘びたことか・・・
私はこれから、七瀬を庇って錫杖に胸を貫かれます。そして七瀬の腕に抱かれ、静かに息を引き取る・・・
その夢を現実のものにする為だけに、私はアスタリスクへとやってきたのです。生きる価値を見出せなくなった私にとって、この夢が最後の希望でした。
(七瀬、貴方に出会えて本当に幸せでした・・・ありがとうございます)
笑みを浮かべた私の胸に、憮塵斎殿の錫杖が突き刺さる・・・
「はぁっ!」
「ぬっ!?」
直前で、突如として現れた七海さんが錫杖を叩き折ります。
そして・・・
「くたばれクソジジイッ!」
「がはっ!?」
七瀬の渾身の拳が、憮塵斎殿の顔面にめり込みます。
憮塵斎殿は吹き飛び、コンテナに激突した後ピクリとも動かなくなりました。今度こそ気絶してしまったようです。
「やれやれ、やっぱり狸寝入りだったか」
「往生際の悪い人ですね。マスターの言う通り、スタンバイしておいて正解でした」
「助かったよ。ありがとな、七海」
そんな・・・私が見た夢は、こんな展開では無かったはず・・・
七瀬と七海さんの会話を聞いていた私は、段々と意識が遠くなり・・・その場に倒れてしまうのでした。
どうも~、ムッティです。
シャノン「夜吹くんのお父さんとの戦い、すぐ終わっちゃったんだけど・・・」
それだけ七瀬が強かったってことで。
シャノン「あと、お守りのくだり必要だった?」
それは思ったわ・・・
まぁ後々少し触れる予定でいるから。
ちなみに次の投稿は一週間後くらいになりそうです。
シャノン「あれ、ちょっと空くの?」
ちょっと忙しくなりそうなんだよね。
ストックも無くなったので、また書き溜めないと・・・
それではまた次回!以上、ムッティでした!
シャノン「またね~!」