学戦都市アスタリスク ~六花の星野七瀬~   作:ムッティ

121 / 149
今年の梅雨は、本当にガッツリ雨が降るなぁ・・・


ナイトエミット

 「何で七瀬がその名前を・・・」

 

 呆然としている夜吹。俺は溜め息をついた。

 

 「界龍で修行してる時、冬香が言ってたんだよ。日本で特異な血族を形成している集団は、『梅小路』と『夜吹』の二つしかないってな」

 

 「・・・《神呪の魔女》か」

 

 「あぁ、その時に教えてもらったんだ。『夜吹の一族』・・・通称『ナイトエミット』は、銀河からの依頼を専属で請け負っていると。星導館にいる夜吹英士朗っていう男は、恐らくその一族の一員だろうってさ」

 

 「・・・ったく、余計なことを喋ってくれるなぁ」

 

 溜め息をつく夜吹。

 

 「で、俺が《影星》のエージェントだって分かったのは何でだ?」

 

 「単なる推測だよ。そんな一族の一員であるお前が、銀河の運営する星導館にただの生徒として在籍してるわけがない。それに、お前と似たような立場のヤツも知ってるしな」

 

 クロエも《べネトナーシュ》の一員でありながら、クインヴェールの生徒として在籍している。夜吹もそのパターンだろう。

 

 「やれやれ、お前さんには敵わないわ・・・まさかバレてたとはな」

 

 呆れている夜吹。

 

 「ただ、一つだけ訂正させてもらうぜ。俺は確かに『夜吹の一族』の血を引いてはいるが、既に里を出た身だ。別に縁は切れちゃいないが、銀河からの任務に一族の一員として参加することは無い」

 

 「・・・やっぱり実働部隊ってのは、お前の一族のことか」

 

 「みたいだな。久しぶりに親父殿と会ったが、『任務の邪魔はするな』って釘を刺されたよ。ったく、あれが息子に対する扱いかっての」

 

 「親父殿・・・?」

 

 「あぁ。『ナイトエミット』を率いてんのは、俺の親父さ」

 

 「・・・マジかよ」

 

 つまり夜吹は、一族の長の息子ってことか・・・

 

 「・・・何か俺、お前の親父さんに同情するわ」

 

 「何でだよ!?」

 

 「だって里を出た息子がグレて、マスゴミに成り下がってんだぞ?」

 

 「グレてねーわ!そこそこまともな学生生活を送ってるわ!」

 

 「諜報工作機関にいる時点でまともではないだろ」

 

 「急に正論!?それ言われたら何も言えねぇ!」

 

 「おい、北●康介の名言パクんなよ」

 

 「パクってねぇし、そんなつもりも無かったわ!」

 

 ツッコミの入れ過ぎでゼェゼェ言っている夜吹。

 

 「お前のおふざけに付き合ってる時間は無い。クローディアは何処だ?」

 

 「ふざけてたのはお前だ、っていうツッコミは置いといて・・・素直に教えるとでも?」

 

 夜吹が笑みを浮かべる。

 

 「今回《影星》は、『ナイトエミット』のバックアップに回っている。つまり会長を助けようとしているお前さんと、《影星》のエージェントである俺は・・・敵同士ってわけだ」

 

 「あっそ。じゃあ自分で探すわ」

 

 「ちょっと待てええええええええええ!」

 

 その場を去ろうとする俺を、必死に止めてくる夜吹。

 

 「そこは『力ずくでも吐いてもらう!』っていう展開じゃねーの!?」

 

 「あぁ、あるよなそういう展開。『戦ってる暇があるなら早く探せよ』って思うけど」

 

 「何でそんな冷めた見方してんの!?」

 

 「いや、熱血系主人公ってちょっと苦手なんだよね。特に綺麗事しか言わない主人公とか、マジでイライラするんだよ」

 

 「性格が捻じ曲がりすぎじゃね!?ってか誰のこと言ってんの!?」

 

 「まぁそんなわけで、俺はクローディアを探しに行くから。じゃあな」

 

 「だから待てって!?会長の居場所を教えてやるから!」

 

 「え、教えてくれんの?」

 

 夜吹の方を振り向く俺。

 

 「さっさと教えろマスゴミ。クローディアは何処だ?」

 

 「だからその呼び方は・・・まぁいいや。会長なら、学園の港湾ブロックにいるぞ」

 

 「港湾ブロック・・・あぁ、学園の外縁にある場所か」

 

 港湾ブロックは星導館の敷地ではあるが、普段学生が立ち入ることは無い。

 

 主に物資を貯蔵しているエリアなので、倉庫街みたいなものだからだ。

 

 「ってことは、まだクローディアは星導館の敷地内にいるのか?てっきり学園の外に逃げたと思ってたけど・・・」

 

 「都市部へ逃げられると、いくら銀河といえども証拠隠滅が難しいからな。だからこそ学園の敷地内で、最も人目につかない場所へ追い立てようってわけさ。まぁ会長の部屋で暗殺に失敗した時点で、『ナイトエミット』にとっては失態だけどな」

 

 してやったりな表情の夜吹。

 

 「まさかお前、クローディアに情報を・・・?」

 

 「まぁな。絶賛反抗期中なもんで、親父殿の言うことを聞きたくないんだよ」

 

 愉快そうに笑う夜吹。

 

 「まぁ、俺も会長をそれなりに気に入ってるしな。こんなところで死んでほしくないってのが本音なんだわ」

 

 「夜吹・・・」

 

 「ってなわけで、以上が俺の知っている情報だ。信じる信じないは七瀬の自由だぜ」

 

 そう言っておちゃらける夜吹。

 

 俺の自由、ね・・・

 

 「・・・信じるさ。お前はこういう場面で嘘をつくヤツじゃない」

 

 「お、一応信頼はしてくれてんのか?嬉しいねぇ」

 

 「・・・それなりにな。ってか、こんな簡単に情報を流して大丈夫か?」

 

 「気にすんな。『ナイトエミット』にも《影星》にも、忠誠を誓う義理はねぇよ。俺は俺のやりたいようにやる・・・そんだけだ」

 

 「・・・お前らしいわ」

 

 俺は苦笑すると、夜吹を見つめた。

 

 「クローディアは必ず助ける。後は任せとけ」

 

 「・・・気を付けろよ。親父殿は相当強いぞ」

 

 「生憎、界龍でバケモノとは戦い慣れたんだよ。星露との手合わせに比べたら、こっちの方が遥かにマシだ」

 

 俺の返答に、夜吹が苦笑する。

 

 「ハハッ、どうやら心配は要らないみたいだな」

 

 拳を突き出してくる夜吹に、拳を軽くぶつける俺なのだった。

 

 「後は任せた」

 

 「あぁ、任された」

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 《クローディア視点》

 

 「はぁっ・・・はぁっ・・・」

 

 何とか追っ手から逃れた私は、コンテナの陰に身を潜めていました。コンテナに背中を預け、ゆっくり呼吸を整えます。

 

 「・・・ふぅ」

 

 少し落ち着いて空を見上げると、分厚い雲からポツポツと雨粒が落ちてきました。

 

 確か予報では、次第に雨脚が強まっていくと言っていましたっけ・・・

 

 「・・・流石に厳しいですね」

 

 自分の身体へと目を向けると、制服があちこち破れて血が滲んでいます。

 

 幸い軽傷で済んでいますが、問題は疲労です。明け方に襲撃されてから、既に半日近い時間が経過しています。

 

 その間ずっと追ってから逃げていたので、正直もう疲労困憊です。

 

 「覚悟はしていましたが・・・しんどいですね」

 

 思わず溜め息をついてしまいます。

 

 まぁ夜吹くんからの情報のおかげで、何とか奇襲に対処することが出来たのは良かったですけどね。

 

 こうなることを見越して、七瀬を男子寮に移しておいて正解でした。

 

 「・・・七瀬」

 

 正直、七瀬には全てを話してしまいたかった。

 

 私がアスタリスクへ来た理由、叶えたい望み・・・出来ることなら、隠すことなく打ち明けてしまいたかった。

 

 でも・・・

 

 「・・・出来るわけないじゃないですか」

 

 七瀬は本当に優しい人です。全てを話したら、七瀬は絶対に私を止めようとしたでしょう。

 

 だからこそ、七瀬だけには話すわけにはいきませんでした。たとえ七瀬が、私に失望したとしても・・・

 

 「・・・七瀬のあんな表情、見たくなかったですね」

 

 自らの願いを叶える為に、世界で一番大切な人を傷付けてしまった・・・本当に私は、どうしようもなく愚かな人間です。

 

 それでも・・・

 

 「スミマセン、七瀬・・・もう引き返せないんです・・・」

 

 生きる価値を見出せなくなった私が、初めて叶えたいと思った望み・・・私は命を賭けて、その望みを叶えてみせます。

 

 「・・・信じてますよ、七瀬」

 

 空を見上げつつ、小さく呟く私なのでした。

 




どうも~、ムッティです。

シャノン「夜吹くん、ただ者じゃなかったんだね・・・」

そうそう。シャノンは知らないふりしといてね。

シャノン「いや、そもそも物語に出てくる私は何も知らない設定だから」

いや、設定って・・・まぁそうだけども。

シャノン「そして会長・・・やっぱりななっちのことが・・・」

果たしてクローディアはどうなってしまうのか・・・

ヒロイン複数化構想は実現するのか・・・

今、作者の手腕が問われるッ!

シャノン「本音は?」

マジでどうしよう・・・

シャノン「正直でよろしい」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。