「何で七瀬がその名前を・・・」
呆然としている夜吹。俺は溜め息をついた。
「界龍で修行してる時、冬香が言ってたんだよ。日本で特異な血族を形成している集団は、『梅小路』と『夜吹』の二つしかないってな」
「・・・《神呪の魔女》か」
「あぁ、その時に教えてもらったんだ。『夜吹の一族』・・・通称『ナイトエミット』は、銀河からの依頼を専属で請け負っていると。星導館にいる夜吹英士朗っていう男は、恐らくその一族の一員だろうってさ」
「・・・ったく、余計なことを喋ってくれるなぁ」
溜め息をつく夜吹。
「で、俺が《影星》のエージェントだって分かったのは何でだ?」
「単なる推測だよ。そんな一族の一員であるお前が、銀河の運営する星導館にただの生徒として在籍してるわけがない。それに、お前と似たような立場のヤツも知ってるしな」
クロエも《べネトナーシュ》の一員でありながら、クインヴェールの生徒として在籍している。夜吹もそのパターンだろう。
「やれやれ、お前さんには敵わないわ・・・まさかバレてたとはな」
呆れている夜吹。
「ただ、一つだけ訂正させてもらうぜ。俺は確かに『夜吹の一族』の血を引いてはいるが、既に里を出た身だ。別に縁は切れちゃいないが、銀河からの任務に一族の一員として参加することは無い」
「・・・やっぱり実働部隊ってのは、お前の一族のことか」
「みたいだな。久しぶりに親父殿と会ったが、『任務の邪魔はするな』って釘を刺されたよ。ったく、あれが息子に対する扱いかっての」
「親父殿・・・?」
「あぁ。『ナイトエミット』を率いてんのは、俺の親父さ」
「・・・マジかよ」
つまり夜吹は、一族の長の息子ってことか・・・
「・・・何か俺、お前の親父さんに同情するわ」
「何でだよ!?」
「だって里を出た息子がグレて、マスゴミに成り下がってんだぞ?」
「グレてねーわ!そこそこまともな学生生活を送ってるわ!」
「諜報工作機関にいる時点でまともではないだろ」
「急に正論!?それ言われたら何も言えねぇ!」
「おい、北●康介の名言パクんなよ」
「パクってねぇし、そんなつもりも無かったわ!」
ツッコミの入れ過ぎでゼェゼェ言っている夜吹。
「お前のおふざけに付き合ってる時間は無い。クローディアは何処だ?」
「ふざけてたのはお前だ、っていうツッコミは置いといて・・・素直に教えるとでも?」
夜吹が笑みを浮かべる。
「今回《影星》は、『ナイトエミット』のバックアップに回っている。つまり会長を助けようとしているお前さんと、《影星》のエージェントである俺は・・・敵同士ってわけだ」
「あっそ。じゃあ自分で探すわ」
「ちょっと待てええええええええええ!」
その場を去ろうとする俺を、必死に止めてくる夜吹。
「そこは『力ずくでも吐いてもらう!』っていう展開じゃねーの!?」
「あぁ、あるよなそういう展開。『戦ってる暇があるなら早く探せよ』って思うけど」
「何でそんな冷めた見方してんの!?」
「いや、熱血系主人公ってちょっと苦手なんだよね。特に綺麗事しか言わない主人公とか、マジでイライラするんだよ」
「性格が捻じ曲がりすぎじゃね!?ってか誰のこと言ってんの!?」
「まぁそんなわけで、俺はクローディアを探しに行くから。じゃあな」
「だから待てって!?会長の居場所を教えてやるから!」
「え、教えてくれんの?」
夜吹の方を振り向く俺。
「さっさと教えろマスゴミ。クローディアは何処だ?」
「だからその呼び方は・・・まぁいいや。会長なら、学園の港湾ブロックにいるぞ」
「港湾ブロック・・・あぁ、学園の外縁にある場所か」
港湾ブロックは星導館の敷地ではあるが、普段学生が立ち入ることは無い。
主に物資を貯蔵しているエリアなので、倉庫街みたいなものだからだ。
「ってことは、まだクローディアは星導館の敷地内にいるのか?てっきり学園の外に逃げたと思ってたけど・・・」
「都市部へ逃げられると、いくら銀河といえども証拠隠滅が難しいからな。だからこそ学園の敷地内で、最も人目につかない場所へ追い立てようってわけさ。まぁ会長の部屋で暗殺に失敗した時点で、『ナイトエミット』にとっては失態だけどな」
してやったりな表情の夜吹。
「まさかお前、クローディアに情報を・・・?」
「まぁな。絶賛反抗期中なもんで、親父殿の言うことを聞きたくないんだよ」
愉快そうに笑う夜吹。
「まぁ、俺も会長をそれなりに気に入ってるしな。こんなところで死んでほしくないってのが本音なんだわ」
「夜吹・・・」
「ってなわけで、以上が俺の知っている情報だ。信じる信じないは七瀬の自由だぜ」
そう言っておちゃらける夜吹。
俺の自由、ね・・・
「・・・信じるさ。お前はこういう場面で嘘をつくヤツじゃない」
「お、一応信頼はしてくれてんのか?嬉しいねぇ」
「・・・それなりにな。ってか、こんな簡単に情報を流して大丈夫か?」
「気にすんな。『ナイトエミット』にも《影星》にも、忠誠を誓う義理はねぇよ。俺は俺のやりたいようにやる・・・そんだけだ」
「・・・お前らしいわ」
俺は苦笑すると、夜吹を見つめた。
「クローディアは必ず助ける。後は任せとけ」
「・・・気を付けろよ。親父殿は相当強いぞ」
「生憎、界龍でバケモノとは戦い慣れたんだよ。星露との手合わせに比べたら、こっちの方が遥かにマシだ」
俺の返答に、夜吹が苦笑する。
「ハハッ、どうやら心配は要らないみたいだな」
拳を突き出してくる夜吹に、拳を軽くぶつける俺なのだった。
「後は任せた」
「あぁ、任された」
*****
《クローディア視点》
「はぁっ・・・はぁっ・・・」
何とか追っ手から逃れた私は、コンテナの陰に身を潜めていました。コンテナに背中を預け、ゆっくり呼吸を整えます。
「・・・ふぅ」
少し落ち着いて空を見上げると、分厚い雲からポツポツと雨粒が落ちてきました。
確か予報では、次第に雨脚が強まっていくと言っていましたっけ・・・
「・・・流石に厳しいですね」
自分の身体へと目を向けると、制服があちこち破れて血が滲んでいます。
幸い軽傷で済んでいますが、問題は疲労です。明け方に襲撃されてから、既に半日近い時間が経過しています。
その間ずっと追ってから逃げていたので、正直もう疲労困憊です。
「覚悟はしていましたが・・・しんどいですね」
思わず溜め息をついてしまいます。
まぁ夜吹くんからの情報のおかげで、何とか奇襲に対処することが出来たのは良かったですけどね。
こうなることを見越して、七瀬を男子寮に移しておいて正解でした。
「・・・七瀬」
正直、七瀬には全てを話してしまいたかった。
私がアスタリスクへ来た理由、叶えたい望み・・・出来ることなら、隠すことなく打ち明けてしまいたかった。
でも・・・
「・・・出来るわけないじゃないですか」
七瀬は本当に優しい人です。全てを話したら、七瀬は絶対に私を止めようとしたでしょう。
だからこそ、七瀬だけには話すわけにはいきませんでした。たとえ七瀬が、私に失望したとしても・・・
「・・・七瀬のあんな表情、見たくなかったですね」
自らの願いを叶える為に、世界で一番大切な人を傷付けてしまった・・・本当に私は、どうしようもなく愚かな人間です。
それでも・・・
「スミマセン、七瀬・・・もう引き返せないんです・・・」
生きる価値を見出せなくなった私が、初めて叶えたいと思った望み・・・私は命を賭けて、その望みを叶えてみせます。
「・・・信じてますよ、七瀬」
空を見上げつつ、小さく呟く私なのでした。
どうも~、ムッティです。
シャノン「夜吹くん、ただ者じゃなかったんだね・・・」
そうそう。シャノンは知らないふりしといてね。
シャノン「いや、そもそも物語に出てくる私は何も知らない設定だから」
いや、設定って・・・まぁそうだけども。
シャノン「そして会長・・・やっぱりななっちのことが・・・」
果たしてクローディアはどうなってしまうのか・・・
ヒロイン複数化構想は実現するのか・・・
今、作者の手腕が問われるッ!
シャノン「本音は?」
マジでどうしよう・・・
シャノン「正直でよろしい」
それではまた次回!以上、ムッティでした!
シャノン「またね~!」