「あー、とゆーわけで。こいつが特待転入生の天霧だ。テキトーに仲良くしろよ」
「あ、天霧綾斗です・・・よろしくお願いします・・・」
朝のホームルームにて、谷津崎先生にもの凄くおざなりな紹介をされる綾斗。あまりの素っ気無さに、綾斗が戸惑っているのが窺える。
「・・・先生、もっと転入生に対して温かい対応とか出来ないんですか?」
「そんなもん、あたしに求める方が間違ってるぞ」
「ですよねぇ・・・」
ため息をつく俺。この人に期待した俺がバカだったわ・・・
「改めてよろしくな、綾斗」
「よっ、特待転入生!」
「よろしくねー!」
夜吹やシャノンものってくれる。それを皮切りに、クラスから拍手が沸き起こった。ホッとした様子の綾斗。
「じゃあ席は・・・夜吹の隣だな。ってか星野、沙々宮はどうした?」
「連絡がつかないんで、まだ寝てるんじゃないですか?」
「チッ、アイツ・・・」
お怒りのご様子の谷津崎先生。紗夜、お前マジで殺されるぞ。
「・・・沙々宮?」
「ん?どうした綾斗?」
「あぁ、いや。何でもないよ」
綾斗はそう言うと、夜吹の隣の席に着いた。
「お前らも寝坊とかすんじゃねーぞ。リースフェルトみたいに火遊びもすんなよ」
「ひ、火遊びなんてしてません!」
先生に抗議するユリス。
「今朝してただろうが。《冒頭の十二人》がこんな時期に決闘なんざ吹っ掛けてんじゃねーよ。うちはレヴォルフじゃねーんだぞ」
「レヴォルフにいそうなガラの悪い先生はいますけどね」
「誰のことだゴラァ!」
自分のガラが悪いという自覚のある谷津崎先生なのだった。
*****
「紗夜の奴、大丈夫かなぁ・・・」
ため息をつく俺。結局、紗夜は登校してこなかったのだった。
「連絡は取れたのか?」
「昼休みに連絡が来たよ。案の定、大寝坊したらしい」
「予想通りだな・・・」
呆れているユリス。まぁ紗夜の寝坊癖は、今に始まったことじゃないしな。
「谷津崎先生が激おこぷんぷん丸だって言ったら、怖いから今日は行かないってさ」
「大丈夫なのかアイツ・・・」
「ま、明日は来るだろ。土下座で済むと良いけど・・・」
最悪、明日が紗夜の命日になるかもしれないな・・・合掌する俺。
「いや、まだ死んでないからな?」
ユリスのツッコミ。と、夜吹が声を掛けてくる。
「じゃあ二人とも、俺と天霧は先に帰るぜ」
「あー、そっか。同じ部屋だもんな・・・綾斗、ドンマイ」
「え、何が?」
キョトンとしている綾斗。
「夜吹と同じ部屋=プライバシーの侵害は確定だからな」
「酷い言われようだな!?」
「お前が書いた記事、忘れたわけじゃないよな?」
「うっ・・・」
言葉に詰まる夜吹。
「・・・何か俺、部屋に帰るのが凄く嫌になったよ」
「天霧!?」
「最悪、夜吹を廊下に放り出せ。それで全て解決だ」
「何も解決してなくね!?廊下で寝泊りしろってか!?」
「分かった。じゃあ、帰ったら早速・・・」
「天霧いいいいい!勘弁してくれえええええ!」
泣きながら土下座する夜吹。
「全く・・・相変わらずバカな奴だ」
ユリスはため息をつくと、綾斗の方を向いた。
「おい、天霧」
「綾斗で良いよ」
「・・・じゃあ綾斗、一つ言っておく」
ユリスは綾斗を睨んだ。
「お前と馴れ合うつもりは無いからな」
「悪いな綾斗、ユリスはツンデレなんだ」
「誰がツンデレだ!」
叫ぶユリス。ホントにこのバカ姫は・・・
「助けてもらっておいてそれは無いだろ。綾斗が助けてくれなかったら、お前ヤバかったかもしれないんだぞ」
「そんなもの、着替えを覗かれたのと胸を揉まれたので相殺だ!」
「胸を揉まれた・・・?」
「あっ・・・」
途端に赤面するユリス。
「え、いつの間にそんな関係に?」
「ち、違うんだ!」
綾斗も顔が真っ赤だった。
「ユリスを助ける為に押し倒した時、偶然触っちゃって・・・」
「あー・・・それであの後、ユリスに謝ってたのな」
それにしても、着替えを見ちゃうわ胸を揉んじゃうわ・・・
「・・・どっかのマンガの主人公みたいなラッキースケベっぷりだな」
「そ、そんなつもり全く無かったんだって!」
「うっひょー!こりゃあ特大スクープを掴んじまったぜ!」
嬉々としてメモる夜吹。と、その肩に手が置かれた。
「やーぶーきー?」
「ヒッ!?」
ユリスの迫力に怯える夜吹。
「このことを他言した場合・・・分かっているな?」
「は、はいいいいいっ!」
地面にひれ伏す夜吹。あーあ、調子に乗るから・・・
「でもそれを差し引いても、綾斗には借りがあるだろ」
「乙女の下着姿を見た挙句、胸を揉んだのだぞ!?」
「何が乙女だよ。そう思うなら、もう少し乙女っぽい態度とれや」
「うぐっ・・・」
言葉に詰まるユリス。
「ってか、そもそもユリスに揉めるだけの胸があるのか?」
「なっ・・・!」
ユリスが固まった。あ、今のはマズかったか・・・?
「な、七瀬・・・」
「今のは地雷を踏んだぞ・・・」
震えている綾斗と夜吹。と、ユリスが身体から炎を迸らせる。
「七瀬・・・お前は今、私を侮辱した・・・あの時のレスター以上にな・・・」
「そこまで!?」
「人が気にしていることをおおおおおっ!」
「気にしてたんだ!?」
そんな素振り全く無かったけど!?と、ユリスが俺をビシッと指差した。
「七瀬!私と決闘しろ!」
「はい!?」
「もしお前が勝ったら、私は綾斗への借りを認めよう。当然その借りは返す。ただし私が勝ったら、今日限りでお前とは絶交だ!」
「ええええええええええ!?」
負けたら絶交!?嘘だろ!?
「マジで言ってんの!?」
「大マジだ!決闘を受けなくても絶交だからな!」
「逃げ道無し!?」
「七瀬、諦めて決闘を受けろ。お姫様の性格は、お前もよく知ってるだろ?」
「何かゴメンね、七瀬・・・」
「マジかあああああっ!?」
こうして俺は、ユリスと決闘することになったのだった。
*****
≪綾斗視点≫
「何だか大変なことになっちゃったなぁ・・・」
俺はため息をついた。ユリスと七瀬が決闘するということで、既に多くのギャラリーが集まっていた。
「注目されてるなぁ・・・」
「そりゃそうさ」
録画用端末を片手にスタンバイしている夜吹は、当然といった表情をしていた。
「何といっても、《冒頭の十二人》同士の決闘だしな」
「え、七瀬も《冒頭の十二人》なの!?」
ユリスは自分で言ってたから知ってたけど、まさか七瀬も《冒頭の十二人》とは・・・
「何だ、知らなかったのか?序列九位の《覇王》星野七瀬といったら、お姫様に負けず劣らずの有名人だぜ?何せ、入学初日に序列九位の座に着いた男だしな」
「嘘だろ!?」
入学初日に、いきなり《冒頭の十二人》になったっていうのか!?
「マジだよ。当時序列九位だった生徒を、一撃で倒したんだ。その時の決闘の記録映像があるから、後で見せてやるよ」
「公式序列戦ならともかく、決闘に記録映像なんてあるんだ?」
「公式のじゃないけどな。俺が録ったんだ」
「じゃあ夜吹は、その時の決闘を見てたのかい?」
「まぁな。あの決闘を見てたのは、決闘の当事者を除くとたったの四人だ。そのうちの二人が、お姫様と俺さ」
「ユリスも?」
「あぁ。ってか、そもそもお姫様が決闘するはずだったんだがな」
「どういうこと?」
「それは俺が説明してやるよ」
後ろから声がした。振り向くと、大柄な男子生徒が立っていた。
「おぉ、レスターか。噂の人物のご登場だな」
「けっ、お前に噂されるなんざ胸糞悪いぜ」
「手厳しいねぇ」
苦笑している夜吹。ひょっとして、この人が・・・
「元序列九位の・・・?」
「レスター・マクフェイルだ。今は序列十二位さ」
「今月の公式序列戦で《冒頭の十二人》に返り咲いたんだっけか。おめでとさん」
「ふん、ありがとよ」
鼻を鳴らすレスター。入学初日の七瀬に負けたってことは、一度は序列外まで落ちたってことか・・・そこから《冒頭の十二人》に返り咲くなんて凄いな。
「お前が特待転入生か?」
「あぁ、天霧綾斗っていうんだ。よろしく」
「あのユリスを相手に善戦したらしいじゃねぇか。やるな」
「いやいや、必死だったよ」
苦笑する俺に、遠い目をするレスター。
「それでもすげぇよ。俺なんざ、ユリスに三度も負けたからな」
「え、三度も!?」
「あぁ。最初に負けた時、俺は《冒頭の十二人》から落ちたんだ」
「レスターは、元は序列五位だったんだよ。今お姫様が五位なのは、レスターに勝ったからなんだ」
夜吹が説明してくれる。じゃあレスターは《冒頭の十二人》から二度落ちて、二度返り咲いてるのか・・・ますます凄いな。
「その後、公式序列戦で二回負けちまってよ。もうユリスを指名できなくなった俺は、ユリスに執拗に決闘を迫った。全て断られたけどな」
苦笑するレスター。
「そんなある日、いつもみたくユリスに決闘を挑んだ。案の定断られて頭にきた俺は、ユリスを侮辱したんだ。友達のいないお前に、ここにいてほしいと思う奴なんざ誰もいねぇってな」
「・・・ユリスはどんな反応を?」
「キレられたよ。あの時のユリスの怒った顔には、悲しそうな感じも見受けられた。傷つけちまったんだろうな。そのまま決闘・・・っていうところで、七瀬が現れた」
「七瀬が?」
「寮に帰る途中で、レスターの怒鳴り声を聞いてな。二人で様子を見に行ったんだよ。で、一部始終を見てたわけだ」
再び夜吹の説明。それで現場にいたわけか・・・
「アイツはこう言ったんだ。『ユリスは俺の友達だ。これ以上、俺の友達を侮辱するな』ってな。で、俺はアイツと決闘することになった。結果は夜吹の言った通り俺の負けさ。文字通り瞬殺されたよ」
「《冒頭の十二人》を瞬殺・・・」
七瀬ってどんだけ強いの・・・?
「逆に清々しかったけどな。今の俺じゃ七瀬には勝てねぇって、自分でも驚くほどあっさり認められた。ユリスに拘ってた自分が小さく思えたし、もっと強くなりてぇって思ったよ。だから今、必死で頑張ってるんだがな」
「まぁそんなことがあって、お姫様は七瀬に心を開くようになったのさ。七瀬はお姫様にとって、この学校で唯一友人と呼べる存在になったんだ。前と比べて雰囲気も柔らかくなったし、お姫様にとって七瀬の存在は大きいと思うぜ?」
「なるほど・・・」
そんなことがあったのか・・・道理で七瀬に対して気を許してると思ったよ。
っていうか、そんな二人が決闘だなんて・・・
「俺のせいで・・・」
「お前のせいじゃねぇよ。七瀬が地雷を踏んだせいだ」
うなだれる俺を、夜吹が慰めてくれる。クエスチョンマークを浮かべているレスター。
「よく分からんが・・・夜吹、お前はどっちが勝つと思う?」
「んー、難しいな。お姫様の強さはよく知ってるが、七瀬も強いからなぁ・・・公式序列戦じゃ、三ヶ月連続で防衛成功してるし。しかも煌式武装を使わずに」
「は・・・?」
思わず顔を上げる俺。
「煌式武装を使ってないの!?」
「あぁ、全部素手で勝ってる。アイツ星辰力の量が尋常じゃないから、普通のパンチやキックでとんでもない威力を出せるんだ。体術も相当なものだしな」
「そういやアイツが煌式武装を使ってるとこ、誰も見たことねぇよな」
「あれで煌式武装を使ったら、マジでヤバいんじゃね?」
「確かにな」
何で煌式武装を使わないのか、疑問に思う俺なのだった。
二話続けての投稿となります。
七瀬がユリスの地雷を踏みました(笑)
まさかの七瀬VSユリスとなりましたが、果たしてどうなるのでしょうか?
次は明日投稿する予定です。
それではまた次回!