ニーナをチーム・赫夜の病室へと送り届けた俺は、ロビーにあるソファに座って一息ついていた。
ニーナから聞いたのだが、チーム・赫夜の皆はもう少し入院が必要らしい。少なくとも、《獅鷲星武祭》が終わるまでは入院するように言われているそうだ。
まぁ、あれだけの重傷を負ったわけだしな・・・と、いきなり後ろから目隠しされる。
「だ~れだっ♪」
「《狂暴治癒師》」
「だからその二つ名は止めてよ!?」
涙目の一織姉。やれやれ・・・
「仕事はどうしたんだ?」
「今は休憩時間中よ」
俺の隣に座る一織姉。
「七瀬こそ、こんな所に来てて良いの?明日は準決勝なのに」
「午後から皆でトレーニングするよ。といっても、今日は軽めにするけどな。明日に疲れを残すわけにもいかないし」
「遂にチーム・黄龍との試合だもんね。勝てそう?」
「勝てるか勝てないかじゃないさ。勝つよ」
「おっ、頼もしいねぇ」
笑っている一織姉。
「でもその為には・・・《万有天羅》の一番弟子をどうにかしないとね」
「・・・暁彗か」
アイツには一回も勝てないまま、界龍での修行は終わったんだよな・・・
最後の手合わせも、良いところまではいったけど負けちゃったし・・・
「まぁそれを言ったら、他のメンバーも強敵だけどな。八重も順調に力をつけてるみたいだし、侮れないよ」
「八重はずっと、七瀬を目標にして頑張ってたからね。七瀬と八重が《星武祭》で戦う日が来るなんて、私も歳をとったなぁ・・・」
「年寄り臭いぞ」
溜め息をつく俺。と、一織姉がポツリと呟いた。
「・・・零香姉さんのこと、二葉から聞いたわ」
「・・・そっか」
二葉姉、やっぱり一織姉に話したんだな・・・
「正直、驚きすぎて声も出なかったわ。まさか零香姉さんが当時、《蝕武祭》に参加してたなんて・・・全く気付かなかった」
悔しそうに唇を噛む一織姉。
「もし私が、少しでも異変に気付いていたら・・・」
「止めろよ」
強い口調で一織姉の言葉を遮る俺。
「一織姉と二葉姉が、何も異変に気付かなかったんだ。だったら他の誰が零香姉と一緒にいたところで、誰も異変に気付けるわけがない。自分を責めるようなマネは止めろ」
「七瀬・・・」
「もしもの話をしたって仕方ないだろ。俺達のすべきことは変わらない。零香姉を連れ戻して、ちゃんと罪を償わせる・・・あの時そう決めただろ」
「・・・うん、そうだね」
微笑む一織姉。
「ゴメン、ちょっと落ち込んじゃってさ・・・七瀬の言う通り、私達のすべきことは変わらないよね。しっかりしなくちゃ」
「・・・まぁ、俺も七海に気付かせてもらったんだけどな」
苦笑する俺。
「だからまぁ、あまり偉そうなことは言えないけど・・・自分を責めないでくれ。誰も一織姉のせいだなんて思ってないし、一織姉が自分を責めるところを見るのは・・・もう見たくないから」
一織姉は責任感が強いから、何かあるとすぐ自分を責めるのだ。前々回の《獅鷲星武祭》の時もそうだった。
『私のせいで負けてしまった』と言って号泣する一織姉を中継で見て、どれほど胸が痛かったか・・・
「一織姉、俺・・・絶対優勝するから」
「・・・うん、期待してる」
笑みを浮かべ、俺に寄りかかってくる一織姉。
「・・・ありがとね、七瀬」
返事の代わりに、そっと一織姉の手を握る俺なのだった。
*****
「う~っす」
集合時間ギリギリにトレーニングルームへ行くと、既にユリス・綺凛・綾斗・紗夜が待っていた。
「遅いぞ七瀬」
「ゴメンゴメン。ちょっと治療院に行ってたもんだから」
ユリスに苦笑しながら謝る俺。
一織姉とまったりお喋りしてたら、いつの間にか時間ギリギリだったんだよな・・・
「四糸乃さんや九美さん達はどうでしたか?」
「もう大丈夫っぽいぞ。すっかり元気になってたし」
「それなら良かった」
綺凛の問いに頷くと、紗夜がホッとしたような表情を見せる。
「色々と心配かけてゴメンな。もう大丈夫だから。とにかく今は、次のチーム・黄龍との戦いに集中しないとな」
暁彗、セシリー、虎峰、沈雲、沈華、八重・・・全員が強敵であり、何の策も無しに勝てるような相手ではない。
しっかり対策を練らないと・・・
「そういや、クローディアはどうした?姿が見えないけど」
「まだ来てない」
「え・・・?」
紗夜の返事にポカンとしてしまう俺。マジか・・・
「いつも一番早く来てるのに・・・珍しいな」
「まぁ大方、生徒会の業務が長引いているのだろう。それより・・・」
俺をジト目で見てくるユリス。
「七瀬、お前・・・クローディアと何があった?」
「エ?何モ無イヨ?」
「相変わらず嘘をつくのが下手だな・・・」
呆れているユリス。
「ここ最近のお前達は、どこかギクシャクしているからな。今までのような距離の近さが無くなっているし、何かあったことはバレバレだぞ」
「・・・別に大したことじゃないさ」
溜め息をつく俺。
「俺がクローディアに信頼されていない・・・それだけの話だ」
「それは無いでしょう」
言い切る綺凛。
「会長が一番信頼しているのは、間違いなく七瀬さんだと思いますよ?」
「・・・その根拠は?」
「信頼もしていない人を、自分の部屋に住まわせるなんて有り得ないでしょう。ましてや異性ですよ?会長は身持ちの堅い方ですし、普通そんなことしないと思います」
「俺も綺凛ちゃんの意見に同感だな」
綾斗までそんなことを言う。
「何か困ったことが起きた時、クローディアはいつも七瀬を頼ってるじゃないか。そのクローディアが、七瀬を信頼してないなんて有り得ないよ」
「・・・どうだろうな」
本当の目的を何も教えてくれず、聞き出そうとしたら拒絶される・・・
それで本当に信頼があると言えるのだろうか・・・?
「力になりたいのに、それを許してくれない。もっと頼ってくれても良いのに、それをしようとしてくれない。俺としては、それが一番悲しいんだけどな・・・」
「七瀬・・・」
その場が重い雰囲気になりかけていた時、俺の端末に着信が入った。
クローディアか・・・?
「・・・って、レティシアじゃん」
端末を操作すると、空間ウィンドウにレティシアの顔が映った。
『もしもし!?七瀬!?』
「レティシア?そんなに慌ててどうした?」
『そこにクローディアはいまして!?』
「クローディア?まだ来てないけど・・・珍しく遅刻みたいだぞ」
『あぁ、やっぱり・・・!』
焦っている様子のレティシア。どうしたんだ・・・?
「クローディアに直接かけたら繋がるんじゃないか?」
『繋がらないから七瀬にかけていますの!事は一刻を争うのですわ!』
「・・・何かあったのか?」
どうやらただ事ではないらしい。ユリス達も真剣な表情で聞いていた。
『七瀬、今すぐクローディアを探し出して下さいまし!このままでは、クローディアが危険ですわ!』
「ッ!?まさか、銀河が動いたのか!?」
『そのまさかですわ!』
苦々しい表情のレティシア。
『先ほどガラードワースの諜報機関・・・《至聖公会議》から連絡が入りましたの!銀河の実働部隊が、アスタリスクに入ったそうですわ!』
「実働部隊って・・・まさか、クローディアを消す為に!?」
『その可能性が極めて高いですわ!』
「ッ!ユリスと綺凛はクローディアの部屋へ向かってくれ!綾斗と紗夜は生徒会室の方を頼む!」
「分かった!」
「了解!」
四人が大急ぎで走っていく。俺はレティシアへと視線を戻した。
「レティシア、もう四の五の言ってる場合じゃない。クローディアの本当の目的を教えてくれ。それが分からないと、クローディアを救えないかもしれない」
『・・・もう隠している場合ではありませんわね』
溜め息をつくレティシア。
『直接会って話しましょう。一応《至聖公会議》用に対策して通信していますが、もう長くはもたないでしょうから』
「分かった。何処で落ち合う?」
『人気の少ない場所が良いですわ。七瀬、密談に向いていそうな場所に心当たりは?』
「いや、そんな心当たりあるわけ・・・あっ」
一つ思い当たる場所があった。空間ウィンドウを操作し、マップをレティシアに送る。
「そこで落ち合おう。すぐに向かう」
『了解ですわ。ではまた後ほど』
通信が切れる。俺はすぐにトレーニングルームを出て、走って現地へと向かう。
「クローディア・・・!」
クローディアの身を案じる俺なのだった。
どうも~、ムッティです。
遂に事態が動き出しました。
シャノン「会長の身に危険が・・・」
ヤバいよね・・・よし、シャノンを影武者にしよう。
シャノン「私に死ねと!?」
あ、そもそも外見が違いすぎて無理か。
特に・・・チラッ。
シャノン「ちょ、今どこを見て言ったの!?」
それではまた次回!以上、ムッティでした!
シャノン「答えろおおおおおっ!」