学戦都市アスタリスク ~六花の星野七瀬~   作:ムッティ

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新章突入!

全く関係ない話だけど、よく日本はコロンビアに勝てたな・・・


第九章《悠日戦啾》
交渉


 準々決勝の翌日・・・俺はシルヴィに連れられ、クインヴェール女学園へとやって来ていた。

 

 その目的は・・・

 

 「初めまして、星野七瀬さん」

 

 バイザー型のグラスをかけた女性が、口元に薄い笑みを浮かべながら挨拶してくる。

 

 「クインヴェール女学園理事長、ぺトラ・キヴィレフトです」

 

 そう、この女性こそクインヴェールの理事長だ。

 

 俺は彼女と会って話をする為、シルヴィに頼んでクインヴェールの理事長室に連れてきてもらったのだ。

 

 「初めまして、星野七瀬です」

 

 「貴方とは、一度会って話がしたいと思っていたのです。そちらから会いに来て下さるなんて、思ってもみませんでした」

 

 「お時間を割いていただいて、ありがとうございます」

 

 一礼する俺。

 

 笑顔は浮かべているが、得体の知れない不気味さを感じるな・・・

 

 「そう畏まらなくて大丈夫ですよ。私のことはぺトラと呼んで下さい」

 

 「では、俺のことも七瀬で」

 

 理事長・・・ぺトラさんはニッコリ笑うと、俺達にソファに座るよう勧めてきた。

 

 俺達が座ると、ぺトラさんは向かい側のソファに座る。

 

 「それで、私に話とは・・・一体何でしょうか?」

 

 「まずは、シルヴィとの関係をご報告させていただこうと思います」

 

 ぺトラさんを見つめる俺。

 

 「既にシルヴィから聞いているとは思いますが・・・昨年から俺とシルヴィは、真剣に交際しています。遅くなりましたが、そのことをご報告させていただこうと思いまして」

 

 「あら、律儀ですね。理事長に報告する義務など無いでしょうに」

 

 「シルヴィの場合、立場が立場ですので。それに熱愛報道が出た際、クインヴェールにも多くの問い合わせがあったと聞いています。ご迷惑をおかけしている以上、きちんと報告すべきかと思いまして」

 

 「それはそれは・・・わざわざありがとうございます」

 

 一礼するぺトラさん。

 

 「確かにシルヴィアの熱愛報道は、彼女の立場を考えると好ましくはありません。一部のファンは離れてしまうでしょう」

 

 「・・・承知しています」

 

 「ですが私としては、シルヴィアに対して恋愛を禁止した覚えはありません。誰とどんな恋愛をしようが、基本的には彼女の自由です。よほど相手が不味い場合は別ですが、七瀬さんなら大丈夫でしょう。シルヴィアから惚気話をよく聞きますが、本当にシルヴィアを大切にして下さっているようですし」

 

 「ちょ、ぺトラさん!?」

 

 顔を真っ赤にして慌てるシルヴィ。理事長に惚気話って・・・

 

 「シルヴィ・・・相手を考えようぜ・・・」

 

 「うぅ・・・だって自慢したかったんだもん・・・」

 

 「ブラックコーヒーを『甘い』と感じてしまう、私の身にもなって下さい・・・」

 

 溜め息をつくぺトラさん。何かスイマセンでした・・・

 

 「まぁそれはともかく・・・以上が私の見解です。今後もシルヴィアをお願いしますね」

 

 「えぇ、そのつもりです」

 

 これでシルヴィの話は終わった。問題は次の報告だ。

 

 「実はもう一つ、ぺトラさんにご報告がありまして」

 

 「・・・デキてしまったんですか?」

 

 「そんなわけないでしょ!?」

 

 シルヴィのツッコミ。再び顔が真っ赤になっている。

 

 「何でそういう発想になるの!?」

 

 「年頃の男女ですからね。そうなってもおかしくありませんから」

 

 「大丈夫です。その辺りはしっかり対策してますので」

 

 「ななくん!?余計なこと言わなくていいから!」

 

 「とまぁ、冗談はさておき・・・何のご報告でしょう?」

 

 「冗談だったんだ!?」

 

 シルヴィのツッコミをスルーして、俺を見つめるぺトラさん。俺は二つ目の報告をするべく、口を開いた。

 

 「ご報告というのは・・・俺の望みについてです」

 

 「望み・・・?」

 

 「えぇ。《獅鷲星武祭》で優勝した暁には、何でも一つ望みを叶えてもらえる権利が与えられます。俺は《獅鷲星武祭》で優勝したら、どうしても叶えたい望みがあるんです」

 

 「・・・それを私に報告することに、何の意味があるのでしょう?」

 

 「ぺトラさんにも関係することなので」

 

 俺は自身の望みを口にした。

 

 「俺の望みは、クロエ・フロックハートが自由の身となることです」

 

 その瞬間、部屋の温度が下がった気がした。ぺトラさんの顔から笑みが消える。

 

 「・・・クロエの事情を知っているのですか?」

 

 「クインヴェールがPMC・・・HRMSからクロエを購入したことは知っています。クロエが《べネトナーシュ》の一員であることや、チーム・赫夜との交渉についても把握しています」

 

 「・・・全て知っているのですね」

 

 溜め息をつくぺトラさん。

 

 「その上で、クロエが自由の身となることを望むのですか?」

 

 「はい」

 

 言い切る俺。

 

 「赫夜は棄権扱いになり、《獅鷲星武祭》で優勝するという条件を満たせなくなってしまいました。このままでは、クロエが自由の身となることはない・・・ですので俺の望みとして、クロエを自由にしていただこうと思いまして」

 

 「・・・貴方がクロエに肩入れする理由は無いと思いますが?」

 

 「俺の大切な友人であり、可愛い妹が慕っている存在・・・それ以外に理由が必要ですか?」

 

 ぺトラさんと俺の視線がぶつかる。申し訳ないが、ここで引くことなど出来ない。

 

 「・・・確かにそれなら、私にも止めることは出来ません」

 

 不服といった表情のぺトラさん。

 

 「ですが、その望みを叶えるのは統合企業財体です。そして我がクインヴェール女学園の運営母体・・・W&Wは、その望みを許さないでしょう」

 

 「・・・クロエが《べネトナーシュ》の一員だからですか?」

 

 「その通りです」

 

 頷くぺトラさん。

 

 「《べネトナーシュ》は諜報工作機関・・・つまり暗部の組織です。クインヴェールやW&Wの、様々な情報を知り得ています。クロエが自由の身となったら、その情報が流出してしまう恐れがある・・・W&Wは、それを許さないでしょうね」

 

 「では、チーム・赫夜との交渉はどうなんですか?優勝したら、クロエを自由にするという約束だったはずですが?」

 

 「《星武祭》での優勝は、クインヴェールやW&Wへの大きな貢献となります。それだけ大きな貢献をしてくれるのなら、クロエを自由にしてあげるだけの価値はあるのです。しかし七瀬さんのチームが優勝したところで、得をするのは星導館と銀河・・・我々に何の得も無い以上、クロエを自由にすることはないでしょうね」

 

 「得、ですか・・・」

 

 やっぱりそうきたか・・・

 

 隣のシルヴィを見ると、案の定苦笑していた。予想通り、といったところだろうか。

 

 「・・・分かりました。では、そちらに得があったら良いんですね?」

 

 「そうなりますが・・・どうするつもりですか?」

 

 怪訝そうな表情のぺトラさん。俺はぺトラさんに、ある提案をした。

 

 「簡単な話です。クインヴェールからクロエを購入します」

 

 「なっ・・・」

 

 「勿論、それなりの金額を積ませていただきます。貴女方がクロエを購入した金額と同じでは、そちらにとって差引きゼロになってしまいますからね。少なくとも、倍の金額はお支払いしますが・・・如何でしょう?」

 

 「・・・正気ですか?我々がいくらでクロエを購入したと思っているのですか?」

 

 「いくらでしょう?参考までにお聞かせ願いたいのですが?」

 

 俺の問いに、ぺトラさんが答えることを躊躇う。しかし諦めたのか、空間ウィンドウにその金額を表示してきた。

 

 まぁ流石に高額ではあるが・・・

 

 「この金額なら二倍・・・いえ、三倍は積めますね」

 

 「ッ!?」

 

 驚愕しているぺトラさん。

 

 「何処にそんなお金が・・・」

 

 「ご存知かとは思いますが、俺の姉には《星武祭》優勝者が三人いましてね。全員が望みとして金銭を要求していて、それを実家に送ってきてるんですよ。三人で合計五回優勝していて、その望みが全て金銭・・・一体どれほどの金額になるか、ぺトラさんなら想像できますよね?」

 

 冷や汗をかいているぺトラさん。シルヴィが必死に笑いを押し殺していた。

 

 「しかもその金銭、大部分はまだ残ってるんですよね。両親の財産だけで、十分食べていけるぐらいだったので」

 

 「・・・そのお金を、七瀬さんが自由に使えるのですか?」

 

 「えぇ、既に許可は得ています。『どうせ大して使わないんだから、人助けに使ってくれるなら有り難い』とのことです」

 

 万理華さん、大爆笑してたっけな・・・

 

 『その話を聞いた時の理事長の顔が見たい』とか言ってたっけ・・・

 

 「クロエを購入した金額の、倍以上のお金が返ってくるんですよ?しかもシルヴィから聞きましたが・・・クロエが卒業までにもたらすであろう利益分の金額は、既にシルヴィが支払い済みなんですよね?でしたら、そちらにとって得しかない条件だと思いますが?」

 

 遂に何も言えなくなったぺトラさん。

 

 「W&Wに、話を通していただけますか?星導館学園の星野七瀬が、クロエ・フロックハートを購入したいと申し出ていると」

 

 「ぺトラさん、ななくんは本気だよ」

 

 シルヴィも後押ししてくれる。ぺトラさんはずっと黙っていたが、観念したように溜め息をついた。

 

 「・・・分かりました。W&Wには、私から話を通しておきます。返答が来たら、七瀬さんの方に連絡しましょう」

 

 「ありがとうございます」

 

 ふぅ・・・何とかぺトラさんの説得に成功したな・・・

 

 「お疲れ、ななくん」

 

 「ありがとな、シルヴィ」

 

 笑い合う俺達。そんな俺達を、ぺトラさんがジト目で見ていた。

 

 「シルヴィア・・・七瀬さんに力を貸し過ぎなのでは?」

 

 「だって私、ななくんの彼女だもん」

 

 俺の腕に抱きついてくるシルヴィ。俺の彼女が頼もしすぎる件について。

 

 「シルヴィ、マジで愛してるわ・・」

 

 「私もだよ、ななくん・・・」

 

 「・・・そういうのは外でやってもらえませんか?」

 

 げんなりしているぺトラさんなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「じゃあ、クロエは自由になれるかもしれないの!?」

 

 「あぁ。後はW&Wの出方次第ってとこだな」

 

 美奈兎の問いに頷く俺。

 

 仕事に向かったシルヴィを見送ってから、俺は治療院へとやって来ていた。チーム・赫夜の皆と、四糸乃姉のお見舞いの為だ。

 

 「まだ可能性があるのですね・・・!」

 

 「良かった・・・!」

 

 涙を拭うソフィアと柚陽。一方、クロエは戸惑いの表情を浮かべていた。

 

 「どうして私の為にそこまで・・・」

 

 「大切な友達だからな」

 

 クロエの頭に手を置く俺。

 

 「それに、あんなヤツらのせいで自由になれないなんて・・・あまりにも理不尽だろ」

 

 「七瀬・・・」

 

 「俺はクロエに、もっと自由に生きてほしいんだ。クロエの人生なんだから、進む道はクロエが決めるべきだと思う。だから自由になって、クロエの生きたいように生きてほしい・・・って、ゴメンな。あくまでも俺の自分勝手な願いなんだけどさ」

 

 「・・・ありがとう、七瀬」

 

 俺の手を握るクロエ。

 

 「私、自由になりたい。皆と一緒に過ごしたい。だから、本当にわがままで申し訳ないのだけれど・・・私に力を貸してもらえるかしら?」

 

 「当たり前だろ」

 

 笑顔で頷く俺。

 

 「後は任せとけ。必ずお前を自由にしてやるから」

 

 「頼んだよ、七瀬」

 

 「任せましたわ」

 

 「よろしくお願いします」

 

 美奈兎、ソフィア、柚陽も手を重ねてくる。これは責任重大だな・・・

 

 「おう・・・って、そういや九美とニーナは?」

 

 俺の問いに、揃って苦笑するクロエ達なのだった。

 

 「あぁ、あの二人なら・・・」

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「納得できません!」

 

 「九美、落ち着いて」

 

 クロエ達に言われた通り、四糸乃姉の病室へとやってくると・・・

 

 九美がベッドの上の四糸乃姉に詰め寄っており、それをニーナが止めていた。

 

 「ゴメンね、くーちゃん・・・でも、もう決めたことだから」

 

 「どうしてですか!?私は反対です!」

 

 「はいはい。落ち着こうな、九美」

 

 後ろから九美の両肩を掴み、そのまま抱き寄せる。何があったか知らないが、怪我人なんだから安静にしてないとな。

 

 「な、七瀬兄さん!?」

 

 「あ、なーちゃん。お見舞いに来てくれたの?」

 

 「まぁな。身体の調子はどう?」

 

 「もう大丈夫だよ。一織お姉ちゃんからは、念の為もう少し入院しろって言われてるんだけど・・・ぶっちゃけ退屈だから、早く退院したいんだよね」

 

 溜め息をつく四糸乃姉。元気そうで良かった・・・

 

 「まぁ一織姉がそう言うんだから、もう少し入院しなよ。精神侵食って、自分が思ってるより身体に負担がかかるしな。経験者は語る、じゃないけどさ」

 

 「フフッ・・・それじゃあ諦めて、なーちゃんの進言通り大人しくしてようかな」

 

 微笑む四糸乃姉。と、九美が俺にしがみついてきた。

 

 「七瀬兄さん!四糸乃姉さんに何とか言ってやって下さい!」

 

 「おぉ、珍しく怒ってんな・・・どうした?」

 

 「九美は四糸乃に、ルサールカを辞めてほしくないみたい」

 

 ニーナが説明してくれる。あぁ、その話か・・・

 

 「大学部を卒業したって、ルサールカを続けるべきです!卒業したら辞めなきゃいけないルールなんてありませんし、理事長も引き止めて下さったそうじゃないですか!」

 

 「そうなんだけど・・・やっぱり私の意思は変わらないよ」

 

 苦笑する四糸乃姉。

 

 「ルサールカは、クインヴェールがプロデュースしてくれてるグループだから。卒業生がいるのは、やっぱりちょっと違うと思うんだよね」

 

 「ですが・・・!」

 

 「勿論、それだけが理由じゃないよ」

 

 九美の反論を遮る四糸乃姉。

 

 「ルサールカを辞めるのは・・・私の夢を叶える為でもあるんだ」

 

 「夢・・・?」

 

 首を傾げる俺。四糸乃姉が笑みを浮かべる。

 

 「私の夢はね・・・シーちゃんみたいな存在になることなの」

 

 「シルヴィみたいな・・・?」

 

 「うん。シルヴィア・リューネハイムといったら、世界のトップアイドルでしょ?皆がシーちゃんのことを、『至高の歌姫』と呼ぶ・・・私はそんなシーちゃんと、肩を並べられるような存在になりたいの」

 

 「四糸乃姉・・・」

 

 「ルサールカにいたら、きっと皆に甘えちゃうから・・・だからこそルサールカを辞めて、誰にも甘えられない環境に身を置きたいんだよ」

 

 キッパリと言う四糸乃姉。あの四糸乃姉が、そんなことを考えてたなんて・・・

 

 「だから・・・ゴメンね、くーちゃん。私は自分の意思を曲げられない」

 

 「・・・ズルいです、四糸乃姉さん」

 

 泣いている九美。

 

 「そんな夢を語られたら・・・もう何も言えないじゃないですか・・・!」

 

 「くーちゃん・・・」

 

 四糸乃姉に抱きつく九美。そんな九美をあやすように、頭を撫でる四糸乃姉。

 

 「ひっぐ・・・ぐすっ・・・」

 

 「フフッ・・・よしよし」

 

 ルサールカのボーカルとして歌う四糸乃姉に、九美はずっと憧れてたからな・・・だからこそ、ルサールカを辞めてほしくなかったんだろう。

 

 でも、四糸乃姉の夢を知った今なら・・・きっと応援してくれるだろう。

 

 ここは二人っきりにしておいてやるか・・・

 

 「・・・ニーナ」

 

 「・・・うん」

 

 そっと病室から出る俺達。四糸乃姉の方へ視線を向け、静かに手を振る。

 

 四糸乃姉は微笑み、口パクで『ありがとう』と言いながら手を振り返してくれたのだった。




どうも~、ムッティです。

今回から新章に突入しました。

シャノン「チーム・赫夜のこれからの展開は、オリジナルなんだよね?」

うん。今のところ《獅鷲星武祭》が始まる前までしか描かれてないからね。

準々決勝でチーム・ヘリオンに勝つけど、負傷して棄権っていう結末は明かされてるけど。

その後原作に登場はしたけど、クロエの処遇がどうなったか明かされてないし。

なので勝手にオリジナル展開にしてしまおうと思います。

シャノン「果たしてどうなることやら・・・」

まぁクロエの話は一旦ここまでにして、次回からクローディアの話に入っていきます。

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」

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