「・・・ありがとな、シルヴィ」
「フフッ、どういたしまして」
身体を寄せ合って座る俺とシルヴィ。
シルヴィには、いつも助けられてるな・・・
「何はともあれ、これで準決勝進出だね」
「あぁ。次の相手は黄龍だな」
別会場の第一試合で、黄龍は順当に勝利を収めていた。これで俺達の相手は、正式に黄龍に決まったわけだ。
先ほどこちらの会場でも第二試合が終了し、ランスロットが勝利を収めたところだ。ランスロットの準決勝の相手は、別会場の第二試合・・・
赫夜対へリオンの勝者ということになる。
「そういや、向こうの試合はどうなったのかな・・・」
「中継やってるんじゃない?」
シルヴィに言われ、空間ウィンドウを開こうとした時だった。
俺の端末に着信が入る。相手は・・・
「あれ?八重?」
俺が端末を操作すると、空間ウィンドウに八重の顔が映し出される。
「おっす、八重」
「ヤッホー」
『七瀬お兄様ッ!シルヴィお姉様ッ!』
今にも泣き出しそうな顔で叫ぶ八重。
「おいおい、どうした?」
『お兄様、九美の試合はご覧になりましたか!?』
「いや、今ちょうど観ようとしてたところだけど・・・何かあったのか?」
『大変なんですッ!赫夜がッ!九美がッ!』
「落ち着いて八重ちゃん。何があったの?」
シルヴィが優しく尋ねる。
『チーム・赫夜は、チーム・へリオンに勝利を収めましたッ!』
「マジか!やったな!」
『ですが赫夜のメンバー達は全員が重傷を負い、治療院に搬送されましたッ!』
驚愕に目を見開く俺とシルヴィなのだった。
*****
「八重ッ!」
「お兄様ッ!」
シルヴィと共に急いで治療院に駆けつけると、治療室の前で座っていた八重が俺に抱きついてきた。身体が震えている。
「九美の容態は!?」
「命に別状は無いそうです」
九美の代わりに答えてくれたのは、虎峰だった。
「虎峰・・・何でここに・・・?」
「流石に八重一人を行かせるのは心配だったので、付き添いで来ました」
「そっか・・・ありがとな」
俺としても、虎峰が八重の側にいてくれた方が安心だしな・・・
「他のチーム・赫夜の皆さんも、重傷を負ってはいますが大丈夫とのことでした」
「良かった・・・」
とりあえずホッとする。マジで焦った・・・
「七瀬ッ!八重ッ!」
後ろから俺達を呼ぶ声がする。振り向くと、三咲姉が走ってくるところだった。
「三咲姉?何でここに?」
「チーム・赫夜が、試合で重傷を負ったと聞いて・・・九美は無事なんですか!?」
「怪我は負ってるみたいだけど、命に別状は無いみたい。他のメンバーも同じだって」
「良かった・・・!」
涙を拭う三咲姉。と、その後ろからアーネストとレティシアがやってくる。
「七瀬・・・」
「アーネスト・・・お互い妹が大変なことになったな」
「全くだよ・・・」
アーネストの表情は、見たことがないほど歪んでいた。
「相手が傭兵生チームだから、少し嫌な予感はしていたけど・・・まさかこんなことになるなんてね・・・」
「だから私は傭兵生制度に反対なんですわッ!」
憤っているレティシア。
「これだからレヴォルフは嫌いですのッ!あんな野蛮な連中に頼ってまで、ポイントを稼ごうとするなんてッ!」
「・・・同感だよ」
拳を握り締める俺。アイツら・・・
「趙くん、赫夜の皆は・・・治療を受けてるの?」
「・・・えぇ」
シルヴィの問いに、虎峰が静かに頷く。
「先ほど、治療室に《狂暴治癒師》が入っていきました。恐らく・・・」
「その呼び方は止めてよ。《天苛武葬》の趙虎峰くん」
治療室から一織姉が出てきて、苦笑しながら言う。
「その二つ名、あんまり好きじゃないんだから」
「一織お姉様ッ!九美は大丈夫なんですかッ!?」
「落ち着いて、八重」
八重の頭を撫でる一織姉。
「九美も他の子達も、私と他の治癒能力者達で治療済みよ。全員意識を失ってるけど、直に目を覚ますわ」
「っ・・・良かった・・・!」
泣き出す八重。アーネストが前へ進み出る。
「一織さん、ありがとうございました」
「お礼なんていいわよ、アーネストくん。これが私の仕事なんだから」
笑いながらアーネストの肩を叩く一織姉。
「ただ・・・ゴメンなさい。私達の治療を受けた時点で・・・赫夜は《獅鷲星武祭》を棄権することが確定したわ」
「っ・・・」
《星武祭》参加者は原則として、治癒能力者による治療を受けられない。治療を受けないと危険な場合は、そのかぎりではないのだが・・・
その代わり、参加している《星武祭》は棄権扱い・・・つまりチーム・赫夜は勝利を収めたものの、ここで今大会から姿を消すことになる。
よって準決勝の対戦相手であるランスロットは、不戦勝で決勝へ進むことが決まったわけだ。
「・・・残念ではありますが、命には代えられませんから」
「本当にありがとうございました」
頭を下げるアーネストとレティシア。
そういやレティシアは、アスタリスクに来る前からフェアクロフ兄妹と知り合いなんだっけ・・・
前にクローディアが、そんなことを話してたっけな・・・
「すいません!通ります!」
治療室の扉が開き、看護師達がストレッチャーを次々と運び出す。
そのストレッチャーに乗せられていたのは・・・
「「九美ッ!」」
三咲姉と八重が、ストレッチャーに乗せられた九美へと駆け寄る。意識を失っているようで、頭や腕などが包帯で巻かれている。
他のストレッチャーへ目をやると・・・
「っ・・・お前ら・・・」
言葉を失う俺。
美奈兎、柚陽、ソフィア、ニーナ、クロエ・・・全員が包帯を巻かれており、痛々しい姿だった。
「ソフィア・・・」
「ソフィアさん・・・!」
ソフィアへ駆け寄り、心配そうな表情で見つめるアーネストとレティシア。
すると・・・
「七瀬・・・」
「っ・・・」
俺のすぐ近くのストレッチャーに乗っていたクロエが、弱々しく俺の袖を掴んだ。
「クロエ!?大丈夫か!?」
「・・・何とかね」
弱々しく微笑むクロエ。
「試合、中継で観てたわよ・・・準決勝進出おめでとう」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!」
クロエの手を握る俺。
「フフッ・・・シルヴィアがいるのに、他の女の手を握ったりして良いの・・・?」
「生憎、そんなに心の狭い女じゃないつもりだよ」
シルヴィがクロエの頬を撫でる。
「お疲れ様。よく勝ったね」
「意地でも負けられなかったから・・・結局棄権になってしまったけどね」
溜め息をつくクロエ。
「でも・・・後悔はしてないわ。やり切ったもの」
「クロエ・・・でもお前は・・・」
「そんな顔しないで」
クロエの手が、俺の頬に添えられる。
「私は満足よ・・・最後に美奈兎達と一緒に戦えて、かつてのチームメンバー達に勝つことが出来た・・・十分だわ」
「クロエ・・・」
「すいません、そろそろ・・・」
看護師の女性が、申し訳なさそうに声を掛けてくる。
「っ・・・いえ、こちらこそスミマセン・・・」
俺達がクロエから離れると、看護師達が順々にストレッチャーを運んでいく。
クロエは俺達に手を振り、そのまま運ばれていった。
「・・・知ってたんだね、あの子の事情」
「・・・大会が始まる前に聞いたんだ。シルヴィも一役買ったんだって?」
「うん、まぁね・・・」
クロエが運ばれていった方向を見ながら、唇を噛むシルヴィ。
これで理事長との交渉は不成立・・・クロエは自由の身になれなくなってしまった。
「美奈兎も、ソフィアも、柚陽も、ニーナも、九美も・・・クロエの為に一生懸命頑張ってたのに・・・」
悔しさが湧き上がってくる。
「こんなの・・・あんまりだろ・・・ッ」
「ななくん・・・」
あんな傭兵生共に邪魔されて、自由への道が閉ざされるなんて・・・
こんなの、クロエも他の皆も報われないじゃないか・・・
「・・・シルヴィ、俺は決めたよ」
「え・・・?」
「絶対に《獅鷲星武祭》で優勝する。そして望みを叶えてもらう」
俺はシルヴィに、自身の望みを告げるのだった。
「俺の望みは・・・クロエが自由の身になること、だ」
どうも~、ムッティです。
これにて第八章《獅鷲乱武》編は終了となります。
次回からは第九章ですね。
シャノン「そういえば、オリキャラ紹介どうするの?新キャラ結構出てるけど」
《獅鷲星武祭》が終わったあたりでやろうかなって。
一織達の紹介も、《鳳凰星武祭》が終わった後でやったし。
シャノン「あ、なるほど」
そんなわけで、次回からは新章突入!
七瀬はクローディアを救えるのか!?
シャノン「そして私の出番はあるのか!?」
無いんじゃね?
シャノン「出してよ!?まだ執筆してないでしょ!?」
それではまた次回!以上、ムッティでした!
シャノン「だから人の話を聞けえええええっ!」