《獅鷲星武祭》は続きますが、原作九巻の話に入りたいので。
『どうやら、七瀬選手と四糸乃選手の一騎打ちになる模様です!』
『尋常ではないパワーアップをしている四糸乃選手に、七瀬選手がどう挑むのか・・・これは目が離せませんな』
梁瀬さんと柊さんの声が聞こえる中、俺は四糸乃姉を見つめていた。
既に汗だくとなっており、かなり辛そうだ。
「話は終わったの?」
「あぁ、待たせたな」
四糸乃姉の問いに頷く俺。
「・・・凄いよ、四糸乃姉は」
「え・・・?」
「正直、そこまで勝利への執念が強いとは思わなかった。辛い精神侵食に耐えてまで、最後にルサールカを優勝に導こうとしてるなんて・・・」
「・・・ミーちゃん達、話しちゃったんだね」
苦笑する四糸乃姉。
「最後に、この六人で優勝しようって・・・これからも続いていくルサールカの名を、もっと多くの人に知ってもらおうって・・・そう決めたの。だから・・・」
《ライアポロス=ディーヴァ》を構える四糸乃姉。
次の瞬間、阻害弱体化が俺を襲う。
「ぐっ・・・!」
先ほどのモニカのものとは、比べ物にならないほど強力だ。今にも地面に膝をついてしまいそうになる。
一方、四糸乃姉のオーラは膨れ上がっていった。自身に活性強化を使ったんだろう。
「悪く思わないでね、なーちゃん。こうでもしないと、私は絶対なーちゃんには勝てないから・・・」
「・・・そのセリフ、そっくりそのまま返すよ」
俺は足に力を込めて踏ん張ると、ありったけの雷を迸らせた。
「っ・・・強力な阻害弱体化をくらってるのに、まだこれだけの雷を出せるの・・・?」
「生憎、《魔術師》としての能力は強いみたいでさ・・・産んでくれた万理華さんと、顔も名前も知らない血縁上の父親に感謝だな」
俺は苦笑すると・・・その雷を自分へと向けた。雷に呑み込まれる俺。
「なっ!?なーちゃん!?」
『これはどういうことでしょう!?七瀬選手、まさかの自爆か!?』
『いえ、これは恐らく・・・』
柊さんが言い終える前に、俺の周囲の雷が霧散する。
雷の中から現れた俺は・・・全身が黄金の光に包まれていた。
「ッ!?まさか・・・雷と一体化したっていうの!?」
「ご名答」
四糸乃の問いに、バチバチ雷を迸らせながら頷く俺。
「《雷帝化》・・・界龍での修行で編み出した、俺の奥の手さ。まさかここで使うことになるとはな」
この奥の手は星露しか知らない為、ギリギリまで出し惜しみしたかったが・・・
この際そんなことも言ってられないよな・・・
「悪いけど、この状態の俺に阻害弱体化は効かないぞ。雷が守ってくれてるからな」
「・・・ホント、なーちゃんはつくづく驚かせてくれるよ」
そう言う四糸乃姉は・・・楽しそうに笑っていた。
「じゃあ・・・やろうか」
「あぁ」
お互いに構える。そして・・・
「はああああああああああっ!」
四糸乃姉が破砕衝撃波を繰り出してくる。俺はそれを避け、四糸乃姉の懐へ入った。
「なっ・・・」
「らぁっ!」
ありったけの力で、拳を四糸乃姉の腹部へと叩き込む。フィールドの壁へと叩きつけられる四糸乃姉。
『は、速いなんてもんじゃないッ!?消えたようにしか見えませんでしたッ!』
『自分も全くついていけなかったであります・・・』
動揺している梁瀬さんと、唖然としている柊さん。
並みの相手だったらこれで終わりだが・・・
「ゲホッ・・・ゴホッ・・・!」
苦しそうにしながらも、何とか立ち上がる四糸乃姉。
やっぱりか・・・
「流石に・・・今のは効いたね・・・ゴホッ・・・」
「・・・よく立ち上がれるな。本気で殴ったのに」
「フフッ・・・活性強化のおかげかな・・・ゲホッ・・・」
フラフラになりながらも、《ライアポロス=ディーヴァ》を構える四糸乃姉。
「最後の勝負といこうか・・・いくよ・・・なーちゃん・・・」
「四糸乃姉・・・」
こんな状態の四糸乃姉を、これ以上傷付けたくはない。
でも・・・
「・・・受けて立つ」
拳を構える俺。四糸乃姉が思いっきり息を吸い込んだ。
そして・・・
「ああああああああああああああああああああッ!」
あらんかぎりの声で叫ぶ。今日一番の威力の音波が、瓦礫を撒き散らしながら迫ってきた。
最後にこんな力が出せるなんて・・・
【マスター・・・終わりにしましょう】
「・・・あぁ」
七海の声が響く。俺が頷くと、《神の拳》が光り輝く。
「《断罪の流星》ッ!」
俺が拳を振りぬくと、白い光の線が一直線に突き進んでいく。それは流星のように音波を切り裂き、そして・・・四糸乃姉の校章に、寸分違わずぶち当たった。
もろにくらった四糸乃姉は、再びフィールドの壁へと叩きつけられる。
『星野四糸乃、校章破損』
『試合終了!勝者、チーム・エンフィールド!』
機械音声が流れた瞬間、観客席から大歓声が沸き起こった。
倒れている四糸乃姉の元へ歩み寄る俺。そのまま四糸乃姉を抱き起こす。
「大丈夫か?」
「アハハ・・・もうボロボロだよ・・・」
弱々しく笑う四糸乃姉。
「体力も使い果たしちゃったし・・・何だかよく眠れそう・・・」
「・・・お疲れ、四糸乃姉。カッコ良かったよ」
俺の言葉に、四糸乃姉が満足そうに微笑む。
そしてそのまま、俺の腕の中で意識を失うのだった。
*****
「・・・ふぅ」
試合終了後、俺は一人で控え室にいた。
他の皆は勝利者インタビューを終えた後、一足先に星導館へと戻っていった。俺は少し一人になりたかったので、こうして控え室に残っているのだ。
皆も察してくれたのか、俺を気遣いながらも帰っていったのだった。
「これで準決勝進出か・・・」
素直に喜べなかった。頭に浮かぶのは、やっぱり四糸乃姉の顔だった。
「四糸乃姉、大丈夫かな・・・」
あの後、四糸乃姉は治療院へと搬送されていった。俺から受けたダメージに加え、精神侵食は四糸乃姉の身体に相当な負担をかけていたらしい。
治療院にはコルベル先生や一織姉もいるし、ミルシェ達も付き添っているから大丈夫だとは思うが・・・
俺が四糸乃姉の身を案じていると、来訪者を告げるチャイムが鳴った。
「誰だ・・・?」
空間ウィンドウを見た俺は、一瞬固まってしまった。急いでドアのロックを解除する。
開いたドアから入ってきたのは・・・
「ヤッホー、ななくん」
「シルヴィ・・・」
優しく微笑んでいるシルヴィ。俺に歩み寄ってくる。
「どうしてここに・・・仕事は・・・?」
「言ったでしょ?試合に来れるように頑張るって」
悪戯っぽく笑うシルヴィ。
「朝方に仕事を終わらせて、そのままこっちに来たんだ。ななくんとシノンの試合、ちゃんと観たかったから。まぁ、この後また仕事あるんだけどね」
シルヴィは苦笑すると、俺を抱き締めてきた。
「シルヴィ・・・?」
「お疲れ、ななくん・・・頑張ったね」
「っ・・・」
あぁ、ホントにもう・・・シルヴィには敵わないな・・・
「・・・四糸乃姉は凄かったよ」
「・・・そうだね」
「・・・強い覚悟で、今回の大会に臨んでた」
「・・・知ってた」
「・・・でも敗退した。俺が四糸乃姉を倒した」
「・・・そうだね」
「・・・俺が・・・四糸乃姉の願いを潰した・・・!」
「・・・うん」
涙を流しながら呟く俺の言葉を、シルヴィは優しく聞いてくれた。
あやすように頭を撫でながら、ポンポンと背中を叩きながら・・・
「・・・自分の意思を貫くって・・・こんなにしんどいんだな・・・」
「・・・そうだよ」
優しい声で答えるシルヴィ。
「この都市では、色々な人がそれぞれの願いを持って戦ってる。自分の願いを叶える為には、相手を倒さなくちゃいけない。自分の意思を貫くには、相手の意思を退けなきゃいけない。本当に覚悟がいることなんだよ」
分かっていたはずだった。アスタリスクに来た時点で、その覚悟は出来ていたはずだった。
はずだったのに・・・
「本当の意味での覚悟が・・・俺には出来てなかったんだな・・・」
今さら気付くなんて、本当に情けない・・・
「それなら・・・今、しなよ」
シルヴィが俺を見つめる。
「優勝したいんでしょ?仲間達の願いを叶えたいんでしょ?だったら・・・ちゃんと覚悟を決めなきゃ。誰がどんな願いを持って挑んでこようが、最後まで自分の意思を貫き通す覚悟を・・・今、ここでしなよ」
「シルヴィ・・・」
ユリスの為、綺凛の為、綾斗の為、紗夜の為、そして・・・クローディアの為。
俺は絶対に負けられない。
「俺は・・・いや、俺達は絶対に優勝する。たとえ相手が、家族や友達でも・・・勝って仲間達の願いを叶える。それが俺の意思だ」
「・・・うん、よく出来ました。流石は私の彼氏だね」
満足そうに笑うシルヴィなのだった。
どうも~、ムッティです。
ルサールカ戦が終わった・・・
シャノン「お疲れ。ななっち達が勝ったね」
うん。これで次は準決勝だけど・・・
ここでクローディアの話に入ります。
その為、この章は次の話で終わりです。
シャノン「あぁ、ついに会長の話か・・・」
やっと書けるよね・・・
果たしてクローディアの運命や如何に・・・
それではまた次回!以上、ムッティでした!
シャノン「またね~!」