《ユリス視点》
「アアアアアアアアアアッ!」
四糸乃さんがマイク型の純星煌式武装を通じて、思いっきり叫ぶ。次の瞬間、とてつもない音波がステージを抉りながら七瀬に迫った。
だが・・・
「《断罪の一撃》ッ!」
《神の拳》を装着した七瀬の拳が、音波と激突する。一瞬で音波が霧散した。
「《雷帝の閃槍》ッ!」
続けて七瀬が雷の槍を出現させ、四糸乃さんに向けて放つ。
しかし・・・
「ハァッ!」
今度は音波の壁が出現し、雷の槍が防がれる。
「あれが四糸乃さんの純星煌式武装の能力・・・」
「・・・《ライアポロス=ディーヴァ》」
後衛の紗夜が、私の呟きに反応する。
四糸乃さんの純星煌式武装である《ライアポロス=ディーヴァ》の能力は、ミルシェやトゥーリアと違って衝撃波ではなく音波を放つというものだ。
威力や効果は、四糸乃さんの声量や声を出している時間によって自在に変えられるらしい。
厄介だな・・・
「っていうか、七瀬は何で普通に動けるのよーっ!?」
モニカが悔しそうに叫んでいる。
「何でモニカの阻害弱体化が効いてないの!?」
「いえ、効いていないわけではありませんよ」
答えたのは、ミルシェの相手をしていたクローディアだった。
「現に今の七瀬は、通常時の半分ほどの力ですから」
「はぁっ!?」
驚愕しているモニカ。
「何言ってるの!?だって七瀬、シノンと互角に戦ってるじゃない!」
「ですから、あれで半分なんですよ」
苦笑しているクローディア。
「七瀬はモニカさんの阻害弱体化を受けて、パワーダウンしています。四糸乃さんはマフレナさんの活性強化を受けて、パワーアップしています。しかしその結果は互角・・・この意味が分かりますか?」
「・・・普通に戦ったら、シノンじゃ七瀬の相手にならないってことでしょ」
唖然としているモニカの代わりに、ミルシェが呆れた表情で答える。
「ルサールカの中で一番強いシノンが、あの状態の七瀬と互角にやり合うのが精一杯ってことは・・・アタシ達の力じゃ、あの状態の七瀬にすら勝てない。だから今回、七瀬をリーダーにしたんでしょ?倒される確率が一番低いのは、間違いなく七瀬だからね」
「ご名答です」
拍手するクローディア。そういう意図があったのか・・・
「ハァ・・・仕方ない。こっちも奥の手を使うしかないか」
ミルシェは溜め息をつくと、大声で叫んだ。
「皆ッ!『共鳴』解除ッ!」
「「「「「おぉッ!」」」」」
ルサールカ全員が叫んだ途端、阻害弱体化の能力が消えた。身体が軽くなり、普通に星辰力を練れるようになる。
「・・・勝負を諦めたのか?」
首を傾げる紗夜。これなら私達は、余裕でミルシェ達を倒すことが出来るだろう。
だが、ミルシェは不敵な笑みを浮かべていた。
「アタシ達の純星煌式武装が、元々は《ライア=ポロス》っていう一つの純星煌式武装だってことは知ってるでしょ?」
「・・・らしいな。コアとなるウルム=マナダイトを六分割して、ようやく制御できるほどのものなのだろう?」
クローディアから聞いたが、《ライア=ポロス》も教授によって創られた純星煌式武装なのだそうだ。
その代償は精神侵食・・・六分割する前は、誰も扱える者がいなかったらしい。
「その通り。でもね・・・一時的に《ライア=ポロス》本来の力を引き出すことは可能なんだよ。それぞれの純星煌式武装を『共鳴』させることでね」
そしてミルシェの次の言葉に、私達は戦慄を覚えた。
「そしてその『共鳴』の力を、どれか一つの純星煌式武装に集中させたら・・・それはもう、《ライア=ポロス》そのものだとは思わない?」
「「「「「ッ!?」」」」」
息を呑む私達。まさか・・・
そんな私達を見て、楽しげに笑うミルシェなのだった。
「よく見てなよ。《ライア=ポロス》を使いこなすことに成功した・・・シノンの力を」
*****
俺は目の前の光景に唖然としていた。
四糸乃姉の身体を、尋常ではないオーラが包み込んでいる。四糸乃姉の持つ《ライアポロス=ディーヴァ》も、禍々しく光っていた。
「四糸乃姉・・・」
「フフッ、驚いた?」
不敵な笑みを浮かべる四糸乃姉。
「本来『共鳴』は、それぞれの純星煌式武装で《ライア=ポロス》の力を一時的に引き出すもの・・・トリスタン戦で私達が勝てたのは、『共鳴』を使ったからだよ」
あの試合、途中からルサールカの面々が相当なパワーアップをした。それまでは完全にトリスタン有利だった状況が、一気にひっくり返ってしまったのだ。
ノエルの茨はトゥーリアによって破壊され、他のメンバー達もミルシェに倒されてしまった。
特に四糸乃姉は凄まじく、五和姉・六月姉・エリオを一人で倒してたっけ・・・
「そしてこの『共鳴』には、さらに奥の手があるの。それは『共鳴』の力を、誰か一人に集中させること。他のメンバー達は能力すら使えなくなっちゃうけど、代わりに力が集中した一人は・・・とんでもない程の力を振るうことが出来るんだよ」
そう言うと四糸乃姉は、《ライアポロス=ディーヴァ》に向かってシャウトした。
「あああああああああああああああッ!」
次の瞬間・・・先ほどとは比べ物にならない威力の音波が、ステージの地面を破壊しながらこちらへ迫ってくる。
マズい・・・!
「《断罪の一撃》ッ!」
拳を放つが、全ての音波を相殺出来ない。俺は後ろに吹き飛んだ。
「ぐあっ!?」
「まだまだッ!」
四糸乃姉が《ライアポロス=ディーヴァ》を横に薙ぐと、凄まじい勢いで破砕衝撃波が飛んでくる。
他の純星煌式武装の技も使えるのか!?
「咲き誇れ!大紅の心焔盾・多輪咲!」
ユリスが炎の盾を無数に展開し、俺を守ろうとする。だが破砕衝撃波は、全ての炎の盾を切り裂いた。
「四十一式煌型誘導曲射粒子砲ヴァルデンホルト改・・・《フルバースト》」
紗夜のホーミングレーザーが、破砕衝撃波とぶつかり相殺する。
危なかった・・・
「七瀬、大丈夫か!?」
「助かったよ。ありがとな、二人とも」
「ユリスと私が二人で技をぶつけて、ようやく相殺できるレベル・・・あれはヤバい」
いつになく険しい表情の紗夜。
「相変わらず凄まじいな・・・」
トゥーリアも呆然としている。
「シノンのヤツ、よくあんな力を使いこなせるもんだ・・・」
「使いこなしてるというより、精神侵食に耐えてるんだろ」
指摘する俺。現に四糸乃姉は、相当に苦しそうだ。
「あんなの、そう長くはもたないはずだ」
「ご名答よ」
パイヴィが答える。
「十分が限度ってところね。それ以上は、シノンの精神が壊れてしまうわ」
「それを分かっててこんなことしてるんですか!?」
信じられないといった表情の綺凛。
「シノンさんのことを考えたら、こんな技なんて使うべきじゃないでしょう!?」
「これはシノンさんが望んだことなんです」
マフレナの表情は、とても辛そうだった。
「私達では、あの精神侵食には耐えられませんでした。唯一シノンさんだけが、耐え凌ぐことに成功したんです。だからこそシノンさんは切り札として、この技を使いこなせるように磨いてきたんですよ」
「そんな・・・どうしてそこまで・・・」
「今回の《獅鷲星武祭》で優勝する為だよ」
綾斗の問いに、モニカが答える。
「シノンは今回の《獅鷲星武祭》で、《星武祭》への出場は最後って決めてるからね。それに・・・この大会が終わったら、シノンはルサールカを辞めることになってるから」
「は・・・?」
耳を疑う俺。そんなの初めて聞いたぞ・・・
「元々、大学部を卒業したら辞めるつもりだったみたい。クインヴェールがプロデュースしてるグループに、卒業生がいるのは良くないって言ってたから」
溜め息をつくミルシェ。
「でも卒業するまでいると、ルサールカの新体制への移行が難しくなるからって・・・この大会が終わったら、身を引くつもりなんだよ」
「嘘だろ・・・そんなこと一言も言ってなかったのに・・・」
「・・・シノンは優しいからね」
ミルシェが苦笑する。
「『そんなこと言ったら、皆が戦いづらくなるから言わない』って。最後にシノンは、家族と真剣勝負がしたかったんだと思うよ。五和さんや六月さんと戦ってる時、凄く楽しそうだったもん。まぁ最後は結果的に、罪悪感で泣いちゃってたけどさ」
四糸乃姉・・・こんな時まで俺達に気を遣ったのかよ・・・
「だからさ、七瀬・・・」
真剣な表情で俺を見つめるミルシェ。
「シノンと本気で戦ってあげてよ。アタシ達の命運は、もう全部シノンに託したから。だから・・・全力でぶつかってあげてほしい」
「ミルシェ・・・」
トゥーリア・パイヴィ・モニカ・マフレナも、俺の方を見て頷く。
お前ら・・・
「行ってきなよ、七瀬」
俺の背中を、綾斗がそっと押してくる。
「悔しいけど、今の四糸乃さんに勝てるのは・・・きっと七瀬だけだからさ」
「綾斗・・・」
「今回のリーダーは七瀬だ。お前が決めてこい」
「私達の命運も、全て七瀬に託した」
「頼みましたよ、七瀬さん」
ユリス・紗夜・綺凛が笑顔で頷いてくれる。
「七瀬」
声をかけてくるクローディア。
「後は任せました」
「・・・分かった。ありがとな」
俺は意を決して、四糸乃姉と対峙するのだった。
「今回が最初で最後の勝負だ・・・行くぞ、四糸乃姉」
どうも~、ムッティです。
シャノン「そろそろ決着がつきそうだね」
うん。次回で勝負がつきます。
果たして七瀬は、四糸乃に勝てるのか・・・
シャノン「ななっち強くなったなぁ・・・私も修行しようかな」
じゃあ二年後にシャ●ンディ諸島で会おう。
シャノン「ワン●ース!?っていうか二年後まで出番無し!?」
それではまた次回!以上、ムッティでした!
シャノンの次の出番は二年後です!
シャノン「そんなに待てるかあああああっ!」