「本当に七瀬一人で勝ってしまうとはな・・・」
呆れているユリス。
俺達は勝利者インタビューを終え、控え室へと戻ってきていた。
「試合映像を観たかぎり、なかなか手強い相手だと思っていたのだが・・・」
「実際手強い相手だったはずですよ。七瀬が強過ぎただけです」
クローディアも溜め息をつく。
「昨日のミーティングで、『一人でやらせてくれ』と言われた時は驚きましたが・・・本当に一人で片付けてしまいましたね」
「悪いな。アイツらが気に食わなかったもんだから」
昨日のミーティングで、試合映像だけじゃなく勝利者インタビューも見たんだが・・・
星露や星露の門下生達を見下す発言を繰り返していて、本当に腹が立ったんだよな・・・
「こういうのは今回だけにするよ。わがまま聞いてくれてありがとな」
「まぁ俺達としては有り難かったよね」
綾斗が苦笑しながら言う。
「体力は温存できたし、連携プレーも見せずに済んだしさ。今後のことを考えると、相当プラスなんじゃないかな」
「確かに。私も新しい銃を見せずに済んだ」
紗夜も頷く。そう言ってもらえると助かるわ・・・
「次の試合は私達が動きますから、七瀬さんはサポートに徹して下さいね?」
「あぁ、分かった」
綺凛の言葉に頷く俺。
俺は基本的には前衛なのだが、雷の力で遊撃や後衛に回ることも出来る。相手チームやその時の状況によって、役割が変わるのだ。
「そういやクローディア、他のチームはどうなってる?」
「有力なチームは、四回戦も順調に突破してきていますね」
空間ウィンドウで、四回戦の結果をチェックしているクローディア。
「ランスロットや黄龍は、既に昨日の試合で勝利して五回戦進出・・・あぁ、今日の試合でトリスタンとルサールカも五回戦進出を決めたようです。となると・・・」
「・・・トリスタンとルサールカが、五回戦で当たるな」
ポツリと呟く俺。
一昨日の抽選会で組み合わせが決まった時、恐らくこのマッチアップになるだろうなとは思ったが・・・
「姉同士が戦うというのは、やはり複雑か?」
「・・・まぁな」
ユリスの問いに苦笑する俺。
「それに四糸乃姉にとっても、五和姉や六月姉にとっても・・・この《獅鷲星武祭》が最後の《星武祭》になるしな」
「あれ?確か四糸乃さんって、これが二回目の《星武祭》出場ですよね?あと一回出場権があるんじゃないですか?」
「今回で最後にするんだってさ」
綺凛の疑問に答える俺。
「四糸乃姉はあくまでも、ルサールカの皆で《星武祭》に出場したいらしいんだ。そうなると、必然的に《獅鷲星武祭》にしか出場できないわけだけど・・・四糸乃姉はもう大学部三年だから、次の《獅鷲星武祭》の時にはとっくに卒業してるんだよ」
「それじゃあ、来年の《王竜星武祭》には・・・」
「出場しないってさ。シルヴィは残念がってたけどな」
つまり今回の《獅鷲星武祭》が、四糸乃姉にとって最後の《星武祭》になるのだ。そして、それは四糸乃姉だけではない。
「五和姉と六月姉も、前回の《獅鷲星武祭》と去年の《鳳凰星武祭》に出場してるからな。三咲姉だって、前々回と前回の《獅鷲星武祭》に出場してるわけだし・・・俺の姉さん達は皆、これが最後の《星武祭》になるんだよ」
今まで俺が背中を追ってきた姉さん達が、揃って《星武祭》を引退する・・・
それは俺にとって、とても寂しいことだった。
「全員が悔いなく終われたら良いんだけど・・・そうはいかないんだろうな・・・」
「七瀬・・・」
気遣わしげな視線を向けてくるクローディア。余計なこと言っちゃったかな・・・
「とはいえ、優勝を譲る気は無い。俺はまだ願いを決めてないけど・・・皆の願いを叶えたいからな」
全員を見回す俺。
「皆・・・絶対優勝しような」
「「「「「あぁ(はい)!」」」」」
改めて心を一つにする俺達なのだった。
*****
四回戦は俺が一人で片付けたが、逆に五回戦は俺の出番が無かった。綾斗と綺凛の剣士コンビが無双し、あっさり勝負がついてしまった為だ。
ベスト八進出を決めた俺達は、控え室の空間ウィンドウを見つめていた。次の試合の、トリスタン対ルサールカ戦を観戦する為である。
「七瀬、本当によかったの?」
綾斗が尋ねてくる。
「試合前に、お姉さん達の所に行かなかったけど・・・」
「いいんだよ。勝利者インタビューがあったから、時間もそんなに無かったし」
苦笑しながら答える俺。
「試合直前に邪魔するのも悪いからな。一応メッセージだけ送っといたよ」
「返事は来たの?」
「あぁ、さっきな」
手元に空間ウィンドウを展開する俺。皆が覗き込んでくる。
【四糸乃姉:ありがとう!頑張ってくるね!】
【五和姉:私達の試合、ちゃんと観なさいよ?】
【六月姉:宣誓。全力でぶつかってきます】
「だってさ。後はミルシェ、パイヴィ、トゥーリア、モニカ、マフレナ、エリオ、ノエルからも返信が来てるぞ」
「いや、知り合い多過ぎません?」
綺凛のツッコミ。
「どうしてそんなに多くの人と知り合いになってるんですか?」
「主に家族絡みで」
「納得です」
溜め息をつく綺凛。この答えで納得されるって、ある意味凄いよな・・・
「ちなみに、皆さんはどちらが勝つと思われますか?」
クローディアが質問してくる。
「この試合の勝利チームが、我々の次の相手になりますが」
そう、俺達の次の相手はこの試合の勝利チームだ。
どっちが勝っても家族と対戦することになるから、俺としてはちょっと気が重かったりするんだけどな・・・
「私はトリスタンだと思う」
まず答えたのはユリスだった。
「ルサールカの連携は大したものだと思うが、トリスタンに比べて基礎戦闘力が低いからな。この戦力差は覆せまい」
「俺もトリスタンかな。《鳳凰星武祭》で《輝剣》と戦ったけど、あの剣術は凄まじかったよ。ルサールカで彼の相手が出来るメンバーは、四糸乃さんぐらいじゃないかな?」
「私もトリスタンですね。フォースターさんに加えて、五和さんと六月さんもいらっしゃいますから。正直、圧倒的な戦力差だと思います」
綾斗と綺凛も、トリスタンが勝つと思っているようだ。一方・・・
「私はルサールカが勝つと思う。根拠の無い勘だけど」
紗夜がルサールカに一票を投じる。クローディアが俺に視線を向けた。
「七瀬はどう思いますか?」
「普通に考えたらトリスタンだろうな。五和姉・六月姉・エリオの前衛トリオは、今大会の中でも屈指の強敵だ。それに加えて、後衛にはノエルがいる。あの茨の能力は厄介だし、やっぱり戦力的にはトリスタンの方が上だろうな」
ノエルの《魔女》の能力は、領域型とも言われる希少な能力だ。
展開までに時間はかかるものの、効果範囲を自身の支配下に置くことが出来る。一度あの茨に囲まれてしまったら、脱出するのはなかなか難しいだろう。
ただ・・・
「相手がルサールカじゃなきゃ、トリスタンが勝つって断言できるんだけど・・・」
「どういう意味だ?」
ユリスが尋ねてくる。
「ルサールカはチーム戦に限って、戦力差を覆せる可能性があるんだよ。前回の《獅鷲星武祭》で、ベスト八に入った実力は伊達じゃない。あれから三年が経って、果たしてどこまで進化したのか・・・この試合で、ルサールカの真の実力が見られると思うぞ」
クローディア以外が首を傾げる中、実況の梁瀬さんの声が聞こえてきた。
『さぁ、両チームの選手達が入場してまいりました!注目は何と言っても姉妹対決、四糸乃選手対五和選手&六月選手ですね!』
『姉に軍配が上がるのか、妹達が下克上を果たすのか・・・注目の一戦ですな』
解説の柊さんも興味津々の様子だ。両チームの選手達が出揃い、それぞれの位置へとつく。
そしてブザーが鳴り響き、いよいよ試合が始まるのだった。
どうも~、ムッティです。
いよいよトリスタン対ルサールカの試合が始まりますね。
ただ、先に言っておくと・・・
試合の描写はありません。
シャノン「え、無いの!?」
無いです。次回は結果が明らかになります。
シャノン「そうなんだ・・・」
チーム・エンフィールドとの試合の描写はありますのでご安心を。
シャノン「流石にそれが無かったらダメだよね」
果たしてどちらが勝つのか・・・
それではまた次回!以上、ムッティでした!
シャノン「またね~!」