「零香お姉ちゃんが・・・《蝕武祭》に・・・?」
驚愕している四糸乃姉。おいおい・・・
「・・・本当なのか?」
「あぁ、間違いない」
ヘルガさんが頷き、手元の書類に目をやる。
「星野零香・・・九年前、星導館学園高等部に入学。公式序列戦への参加は一切無く、《星武祭》にも出場していない。高等部卒業後は進学せず、そのままアスタリスクで就職。その後両親を殺害した容疑で指名手配され、現在に至る・・・合っているか?」
「えぇ、合ってます」
頷く俺。正直、ずっと疑問だったんだよな・・・
あれほど強かった零香姉が、どうして公式序列戦や《星武祭》に参加しなかったのか・・・
「彼女は星導館在籍時から、《蝕武祭》の選任参加者だったようだ。要は先ほど話したリベリオと、同じ立場だったわけだな」
「選任参加者・・・」
零香姉がそんなことをしていたなんて・・・
「この事実が判明したのは、つい最近のことだ。天霧くんの姉を捜索する為、ダニロや《蝕武祭》について調査したことは、七瀬には話しただろう?天霧くんの姉が見つかった後も、我々は調査を続けていてな。その結果、この事実が判明したのだ」
「正直、私も信じられなかったわ」
唇を噛む二葉姉。
「私は星導館で、一年だけ零香姉さんと一緒に過ごしたけど・・・そんな気配は微塵も感じられなかったわ。少なくとも私には、いつもと変わらないように見えた」
「・・・なら、一織姉も同じだろうな」
あの零香姉が《蝕武祭》に・・・信じたくないな・・・
「我々星猟警備隊としても、現在彼女の行方を追っている。君達の故郷に現れたということも、二葉から聞いているが・・・その時の状況を、君達からも詳しく聞かせてもらえないか?特に七瀬と四糸乃くんは、最初に彼女と接触したそうだからな」
「・・・分かりました」
気持ちが整理出来ない中、ヘルガさんに当時の状況を説明する俺と四糸乃姉なのだった。
*****
「・・・ハァ」
俺は自室のベッドに潜り込み、そのまま横たわっていた。
三月に男子寮の増設工事が完了し、俺は四月からそっちへと移っていた。《冒頭の十二人》の特権で個室をもらったものの、ずっとクローディアと二人暮らしだったので少し寂しさもあったりする。
「・・・零香姉」
一番上の姉の名前を呟く。
二葉姉には四糸乃姉を送ってもらい、俺達はヘルガさんに星導館まで送ってもらったが・・・帰りの車の中で、俺はずっと放心状態だった。
綾斗や紗夜は心配そうに視線を向けてくるし、ヘルガさんも何も話すことは無かった。
「《蝕武祭》、か・・・」
零香姉は、どうして《蝕武祭》に参加することになったんだろう・・・《蝕武祭》に参加したから、零香姉は変わってしまったのだろうか・・・
封印されていた《神の拳》を俺に渡したり、父さんと母さんに手をかけたり・・・
「・・・もう訳が分からん」
【マスター、もう休んで下さい】
七海が人型になり、ベッドの横に現れた。
「今日は色々あって、お疲れになったでしょうから。次の試合が明後日に決まったということで、明日はミーティングがあるんでしょう?」
先ほどクローディアからの連絡で、俺達の試合は明後日になったことが告げられた。明日は対戦相手となるチームの情報を共有する為、ミーティングが行なわれることになっている。
いよいよ本戦だし、気を引き締めなきゃいけないんだが・・・
「正直、頭の中がグチャグチャで・・・眠れそうにないわ」
「マスター・・・」
「俺の知ってる零香姉は・・・もういないのかな」
溜め息をつく俺。と、七海がいそいそとベッドに潜り込んできた。
「・・・何してんの?」
「いえ、添い寝しようかと」
あっけらかんと言う七海。
「ほら、マスターはずっとクローディアさんと寝てたじゃないですか。誰かと一緒に寝た方が落ち着くかなと思いまして」
「女の子が簡単にそんなことするんじゃありません」
「大丈夫です。マスターにしかしませんから」
「いや、そういう問題じゃないんだけど」
俺のツッコミも虚しく、俺の隣に寝そべる七海。
コイツ、純星煌式武装なのにスタイル良いんだよな・・・けしからんヤツめ。
「・・・私、少しだけ覚えてるんです。零香さんが私の封印を解いた時のこと」
ポツリポツリと語り出す七海。
「零香さん、ずっと呟いてました。『ゴメンね、七瀬』って」
「零香姉が・・・?」
俺に《神の拳》を渡した時は、確か笑ってたはずだけど・・・
「零香さんが私に触れた時、零香さんの感情が伝わってきたんですが・・・とても悲しんでました。封印が解かれた直後のことなので、記憶がちょっと曖昧ですけど・・・それだけは確かです」
「悲しんでた・・・?」
「えぇ、何と言いますか・・・マスターを刺した時と、同じ表情をしていました」
そういや、あの時の零香姉・・・悲しそうな表情してたっけ・・・
「零香さんが犯した罪は、決して許されないことです。ですが、もし零香さんに何か事情があったなら・・・マスターの知る零香さんは、いなくなってないかもしれません」
「七海・・・」
「ですからもう少しだけ、零香さんを信じてみませんか?マスターにとって、零香さんは今でも・・・大切な家族なんでしょう?」
「っ・・・」
バカだな、俺は・・・実家に帰った時に、皆と話し合って分かってたはずなのに・・・
大切な家族だから、皆で零香姉を連れ戻そうって決めたんじゃないか・・・
「・・・ありがとな、七海」
七海の頭を撫でる。嬉しそうに笑う七海。
「さぁ、もう休みましょう。明日からまた頑張らないと」
「・・・そうだな。一緒に寝てくれるか?」
「フフッ・・・仰せのままに」
俺の頭を胸に抱く七海。俺は七海の温もりを感じながら、眠りについたのだった。
*****
翌々日・・・俺達は《獅鷲星武祭》四回戦を迎えていた。
「破ッ!」
「やぁっ!」
辮髪の青年の掌打をいなし、三つ編みの少女の肘打ちを避ける。さらに相手の《魔術師》の能力である、獣の顎による攻撃もしゃがむことで回避。
そこに残りの三人がまとめて襲いかかってくるが・・・
「ぐあっ!?」
「がはっ!?」
「きゃあっ!?」
お馴染みの見えない札に引っかかり爆発。後方へと吹き飛んでいく。
『こ、これは何ということだーっ!七瀬選手一人で、相手チームを圧倒していますっ!一対六だというのに、界龍のチーム・饕餐は七瀬選手に傷一つ付けられませんっ!』
『いやはや・・・凄いとしか言いようがありませんな』
梁瀬さんと柊さんの声が聞こえてくる。と、《魔術師》の青年が悔しそうに俺を睨んだ。
「くっ・・・何故だッ!何故貴様に攻撃が当てられんのだッ!」
「お前らの実力不足だろ」
バッサリ切り捨てる俺。
実際、コイツらは決して弱くない。《冒頭の十二人》ではないものの、全員序列二十位以内の実力者達だ。
ただ、俺はコイツらが気に食わなかった。
「お前ら、打倒星露を目指してるらしいな?」
「然り!《万有天羅》の門下だけが界龍ではない!」
三つ編みの少女が叫ぶ。
「我らは打倒《万有天羅》を掲げている!その為にまず、《万有天羅》の教えを受けた貴様を倒す!そして次にチーム・黄龍を倒す!それがこの大会における我々の目標だ!」
「その通り!」
辮髪の青年も声を張り上げる。
「我が学園で大きい顔をしているあの小娘が、そんな小娘に媚びへつらう門下生達が、我らはどうしても気に食わん!我らの誇り高き界龍を、あのような恥知らず共に汚されるなど・・・到底我慢できるものではない!」
「・・・冗談も大概にしとけよ」
「「「「「「ッ!」」」」」」
俺の殺気に、六人が一歩後ずさる。
コイツらが気に食わない理由・・・それは星露と、星露の門下生達を見下しているからだ。
「別にお前らがどんな目標を掲げてようが、俺の知ったことじゃない。ただ、これだけは言っておくが・・・アイツらは、お前らみたいなバカが見下して良いヤツらじゃない」
「貴様、我らを愚弄するのかッ!」
《魔術師》の青年が、怒りに表情を歪める。
「そっちこそアイツらを愚弄してんだろ。大体、お前らがチーム・黄龍に勝てるわけないだろうが。お前らの実力じゃ、あの六人の中の一人も倒せねぇよ」
「貴様ッ!」
「黙れッ!」
辮髪の青年と三つ編みの少女が、同時に攻撃を仕掛けてくるが・・・
「・・・遅いんだよ」
二人の胸倉を掴み、お互いの頭を思いっきりぶつける。その場に崩れ落ちる二人。
「攻撃が生温い。暁彗や虎峰どころか、八重より遅いぞ」
「くっ・・・こうなったら一斉攻撃だッ!」
正面・右・左から三人が、後ろから獣の顎が攻撃してくる。だが・・・
「だからバカだって言ってんだよ」
俺の周囲に雷の剣山が出現する。三人は貫かれ、獣の顎は掻き消えた。
「ひぃっ!?」
その場に倒れた三人を見て、《魔術師》の青年が悲鳴を上げる。
「セシリーや黎兄妹なら、今の攻撃にもきっちり対応してくるぞ。何より・・・ビビッて一斉攻撃なんてバカなマネ、アイツらは絶対にしない」
俺は《魔術師》の青年に向かって歩き出す。恐怖に怯え、一歩一歩後ずさっていく《魔術師》の青年。
そして・・・俺が罠を仕掛けた位置に足を踏み入れてしまった。
「チェックメイト・・・《逆襲の雷蛇》」
足元の魔法陣から現れた雷の大蛇に呑まれる《魔術師》の青年。
『試合終了!勝者、チーム・エンフィールド!』
こうして俺達は、五回戦進出を決めたのだった。
二話連続投稿となります。
シャノン「おぉ、吹っ切れたななっちが無双してる・・・」
原作では、チーム・饕餐はこんなヤツらじゃないんだけどね。
今回は悪役として犠牲になっていただきました。
シャノン「うわぁ・・・ドンマイ」
本当は、シャノンのチームを相手に無双させようとか考えてたんだけどね。
シャノン「嘘でしょ!?鬼!悪魔!」
まぁ止めたけど。その代わり、シャノンの出番が無くなったんだよね。
シャノン「出たかったような、出たくなかったような・・・」
ゴメンね、モブキャラ。
シャノン「その呼び方止めてくれる!?」
それではまた次回!以上、ムッティでした!
シャノン「モブキャラ上等おおおおおっ!」