学戦都市アスタリスク ~六花の星野七瀬~   作:ムッティ

11 / 149
何だか急に寒くなったなー。

もう年末感がします(笑)


襲撃

 転入生がやってくる日となった。クローディアが転入生と待ち合わせをしているらしいので、俺達はいつもより早く寮を出た。

 

 「七瀬まで私に付き合う必要は無いんですよ?いつも通りの時間で十分でしたのに」

 

 「一人で登校すんのもつまんないしな。クローディアと一緒の方が楽しいんだよ」

 

 「そ、そうでしょうか・・・?」

 

 頬を赤らめているクローディア。あ、珍しく照れてるな・・・

 

 「それに、例の転入生にも早く会ってみたいしな」

 

 「七瀬やユリスと同じクラスですからね。七瀬は仲良くできると思いますが、ユリスはどうでしょう・・・」

 

 「・・・確かに」

 

 最近のユリスは、少しずつ変わってきている。クラスメイトからの挨拶も、一応返すようにはなった。

 

 しかし心を開いたわけではなく、未だにクラスで普通の会話が出来るのは俺だけだ。俺がいないと、紗夜や夜吹とでさえほとんど会話しない。

 

 「夜吹みたいに機嫌を損ねるようなことさえしなきゃ、大丈夫だとは思うが・・・」

 

 「あの子は血の気が多いですからね・・・『気に食わない』なんて言って決闘を吹っ掛けたりしないと良いんですが・・・」

 

 「いやいや、流石のユリスもそこまでは・・・」

 

 俺が笑って否定しようとした時、近くで爆発音が聞こえた。

 

 「・・・嫌な予感がする」

 

 「・・・同感です」

 

 冷や汗ダラダラの俺とクローディア。急いで音のした方へ走ると、何やら人だかりができていた。事情を聴く為、近くにいた銀髪の女の子に声をかける。

 

 「ゴメン、ちょっと良いか?」

 

 「え、私ですか?」

 

 「そうそう。これ、一体何の騒ぎ?」

 

 「あぁ、決闘ですよ」

 

 女の子が指差した方を見ると・・・

 

 「咲き誇れ!六弁の爆焔花!」

 

 ユリスが大技を放とうとしていた。対峙しているのは、例の転入生である。

 

 「アイツ何してんだあああああっ!」

 

 「不安的中ですね・・・」

 

 思わず叫ぶ俺と、頭を抱えるクローディア。一方、女の子は焦っていた。

 

 「お二人とも、急がないとマズいですよ!?爆発に巻き込まれる前に逃げないと!」

 

 その瞬間、ユリスの大技が放たれた。爆発する直前、俺はクローディアと女の子の前に立って両手を前に突き出した。

 

 次の瞬間、炎の爆風がやってくる。

 

 「えぇっ!?」

 

 「七瀬ッ!?」

 

 「大丈夫だ」

 

 クローディアの叫びに、一言だけ答える俺。二人とも、すぐに気付いたようだ。

 

 「爆風が・・・来ない?」

 

 そう、爆風は俺の両手で防がれている。その為、俺の後ろには爆風がいかないのだ。

 

 「そんな・・・一体どうやって・・・?」

 

 「・・・星辰力ですね」

 

 クローディアの声が聞こえる。

 

 「七瀬の両手に、大量の星辰力が集まっています。あれで防いでいるのでしょう」

 

 「これだけの爆風を、星辰力だけで防いでいるということですか!?」

 

 驚愕している女の子。

 

 「でも星辰力は、防御に全て回してもダメージを軽減する程度ですよね!?完全なノーダメージで防ぐなんて可能なんですか!?」

 

 「普通は無理でしょう。ですが七瀬の尋常ではない星辰力量が、それを可能にしています。《覇王》という二つ名は、この膨大な星辰力量から付けられたのですよ」

 

 そう言うクローディアの声には、感嘆の意が込められていた。あ、それで《覇王》なんていう仰々しい二つ名が付いたのか。

 

 ってか・・・

 

 「あの転入生、無事かなぁ・・・」

 

 至近距離であの爆発に巻き込まれた以上、いくら《星脈世代》でもただでは済まないだろう。転入生の身を案じていた時だった。

 

 「天霧辰明流剣術初伝・・・貳蛟龍!」

 

 炎が十文字に切り裂かれ、無傷の転入生が現れた。

 

 「マジか・・・やるなぁ」

 

 思わず感心する俺。あれを突破するのは、並大抵の奴じゃ不可能だろう。

 

 転入生は、一息でユリスとの間合いを詰めた。そしてユリスの懐に入った瞬間・・・

 

 「・・・ッ!」

 

 ユリスの横から、光の矢が迫っていた。

 

 「マズい・・・ッ!」

 

 そう思った瞬間、転入生がユリスを押し倒した。光の矢はユリスを通過し、脇の地面に突き刺さる。

 

 あの転入生、咄嗟にユリスを庇ってくれたのか・・・

 

 「クローディア!」

 

 「分かっています!」

 

 どうやら、クローディアにも見えていたらしい。二人で辺りを見回すが、怪しい人物は見当たらなかった。

 

 「チッ・・・逃げられたか」

 

 「そのようですね」

 

 「こちらにも見当たりません」

 

 女の子の残念そうな声に、驚く俺。

 

 「・・・もしかして、さっきの見えてたのか?」

 

 「はい。矢が飛んできた方向を見たのですが、怪しい人物は発見できませんでした」

 

 悔しそうな女の子。ギャラリーの連中は、ユリスを押し倒した転入生のことを囃し立てている。ユリスが襲撃されたことなど、全く気付いていない。

 

 「お役に立てず、申し訳ないです・・・」

 

 俯く女の子。

 

 「いや、謝ることないって。ギャラリーの奴らなんて全く気付いてないんだから。あの襲撃に気付けるなんて、かなりの実力者なんだな」

 

 「い、いえ!そんなことは・・・」

 

 「あら七瀬、彼女のことをご存知無いのですか?」

 

 驚いた様子のクローディア。

 

 「え、クローディアは知ってんの?」

 

 「勿論です。彼女は・・・」

 

 クローディアがそこまで言いかけた時、再び炎が燃え上がった。見ると、ユリスが転入生を涙目で睨みつけていた。何故か謝っている転入生・・・何があったんだ?

 

 「あらあら、あれは止めに入った方が良さそうですね」

 

 「頼むクローディア。これ以上ユリスに暴れられるとマズい」

 

 「承知しました」

 

 クローディアがユリスを止めに行く。やれやれ・・・

 

 「これで一安心だな」

 

 「ですね」

 

 女の子と二人で笑い合う。

 

 「あ、そうでした!先程は危ないところを助けていただいて、本当にありがとうございました!」

 

 頭を下げる女の子。爆風を防いだ時のことか・・・

 

 「いやいや、大したことはしてないって。それに元々、俺が声をかけたせいで逃げるのが遅れたんだし・・・何かゴメンな」

 

 「いえ、そんな!とんでもないです!」

 

 首をブンブン振る女の子。仕草が可愛いなオイ。

 

 「あ、そうだ。名前を教えてもらっても良いか?」

 

 「あ、はい!中等部一年の、刀藤綺凛といいます」

 

 「へぇ、綺凛って良い名前だなぁ」

 

 「はうっ!?」

 

 俺の言葉に、顔を真っ赤にしてしまう刀藤さん。いや、マジで良い名前だと思う。

 

 「あ、俺の名前は・・・」

 

 「存じ上げています。《冒頭の十二人》の一人で、序列九位の《覇王》・・・高等部一年の星野七瀬先輩ですよね?」

 

 「・・・よく知ってるなぁ」

 

 苦笑する俺。正直、その覚えられ方はむず痒いものがあるが。

 

 「ま、普通に七瀬って呼んでくれ。先輩とか付けなくて良いから」

 

 「い、良いんですか?私なんかが気安くお名前で呼ぶのは、恐れ多いのですが・・・」

 

 「・・・嫌われてるんだな、俺」

 

 俺が落ち込むフリをすると、刀藤さんが慌て始めた。

 

 「い、いえ!そんなつもりは!」

 

 「・・・プッ」

 

 あまりの慌てように、思わず吹き出してしまう。驚く刀藤さん。

 

 「え・・・?」

 

 「ゴメン、嘘だよ。まさかそんなに慌てるとはなぁ」

 

 「だ、騙しましたね!?酷いじゃないですか、七瀬さん!」

 

 ぷくっと頬を膨らませる刀藤さん。

 

 「あ、七瀬って呼んでくれた」

 

 「あっ・・・」

 

 刀藤さんが顔を赤くする。

 

 「そ、そんなことより!嘘をつくなんて酷いです!」

 

 「あ、露骨に話を逸らした」

 

 「そ、逸らしてません!許しませんからね、私!」

 

 「ゴメンゴメン。どうしたら許してくれる?」

 

 俺がそう聞くと、刀藤さんは赤面しながら俯いた。

 

 「じゃ、じゃあ・・・私のことも・・・名前で・・・呼んで下さい」

 

 余程恥ずかしいのか、今にも消え入りそうな声だ。ってか、そんなことで良いのか?

 

 「了解。よろしくな、綺凛」

 

 「は、はい!よろしくお願いします、七瀬さん!」

 

 照れ笑いを浮かべる綺凛。何この子、メッチャ可愛いんだが。

 

 と、不意に綺凛が時計を見て慌てる。

 

 「あ、もうこんな時間ですか!?スミマセン七瀬さん、失礼します!」

 

 「おう。またな、綺凛」

 

 「はい!またお会いしましょう!」

 

 笑顔でそう言って、綺凛は走り去っていった。さて・・・

 

 「・・・お仕置きの時間だな」

 

 俺はユリス達の方へと歩いていった。ギャラリーはいなくなり、ユリス・転入生・クローディアの三人が何やら話し合っている。

 

 と、ユリスが俺に気付いた。

 

 「おぉ、七瀬か。おはよ・・・」

 

 「このバカ姫があああああっ!」

 

 「ぐはっ!?」

 

 ユリスの頭に、思いっきり拳骨を落とす俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「なるほどな・・・」

 

 頭を抑えながら涙目で地面に正座するユリスを前に、ため息をつく俺。

 

 「ユリスのハンカチを拾った転入生が、ユリスにハンカチを届けようとして・・・女子寮と知らずに乗り込んでしまった結果、ユリスの着替えを見てしまったと・・・」

 

 「そ、そうなのだ!だから私は何も・・・」

 

 「・・・あぁん?」

 

 「すいませんでしたあああああっ!」

 

 俺の冷たい視線に、地面に額を擦り付けて土下座するユリス。それを見て、クローディアと転入生が引いていた。

 

 「な、七瀬?もうその辺りで良いのでは?ユリスも反省しているようですし・・・」

 

 「クローディア、思い出すんだ。俺達は死にかけたんだぞ?」

 

 「・・・処罰も止むを得ませんね」

 

 「クローディア!?」

 

 まさかの裏切りにショックを受けるユリス。転入生がおずおずと会話に加わってきた。

 

 「ま、まぁその辺にしてあげてくれませんか?元々、俺が女子寮に入ってしまったのが原因ですから・・・」

 

 「そ、そうだ!全てお前が・・・」

 

 「ユーリースー?」

 

 「全て私が悪かった!すまなかった!」

 

 「も、もう良いって!」

 

 全力で土下座するユリスを見て、転入生が慌てている。

 

 「ま、この辺にしておくか。ただ・・・次は無いと思えよ?」

 

 「ヒィッ!?」

 

 俺の絶対零度の視線に、悲鳴を上げるユリス。俺は転入生に向き直った。

 

 「悪いな、うちのバカ姫が迷惑かけて」

 

 「い、いえ!悪いのは俺ですから!」

 

 「それと・・・ありがとな。ユリスを守ってくれて」

 

 「・・・ッ!」

 

 驚いている転入生。

 

 「もしかして、あなたもさっきの見えてたんですか?」

 

 「あぁ、俺は間に合わなかったからな。ホントに助かったよ」

 

 「いえ、そんな!大したことは・・・」

 

 謙遜する転入生。ってか、少し緊張気味か?

 

 「そんなかしこまらなくて良いぞ?今日からクラスメイトなんだし」

 

 「え、クラスメイト!?じゃあ同級生!?」

 

 ビックリしている転入生。

 

 「おう、俺は星野七瀬。気軽に七瀬って呼んでくれ」

 

 「・・・分かったよ、七瀬。俺は天霧綾斗。俺のことも綾斗で良いよ」

 

 「了解。よろしくな、綾斗」

 

 握手する俺達。

 

 「さて、では綾斗は私と生徒会室へ行きましょう。七瀬、ユリスをお願いします」

 

 「了解。じゃあ綾斗、また後でな」

 

 「うん、また後で」

 

 クローディアと綾斗は、そのまま生徒会室へ向かった。さて・・・

 

 「じゃ、俺達は教室に行くか」

 

 「うむ、そうだな」

 

 そう言って立ち上がろうとしたユリスが、思いっきりよろめく。慌てて抱きとめる俺。

 

 「ユリス!?大丈夫か!?」

 

 「し、痺れる・・・」

 

 どうやら正座していたせいで、足が痺れてしまったようだ。

 

 「やれやれ・・・」

 

 俺は苦笑しつつ、ユリスをお姫様抱っこした。

 

 「なっ、七瀬!?何をするのだ!?」

 

 「いや、だってお前歩けないだろ。まだ時間もあるし、痺れが治まるまでその辺りのベンチで休もうぜ」

 

 「お、降ろせ!こんな格好を誰かに見られたら・・・」

 

 「あ、そんなこと言うんだ・・・えいっ」

 

 「ギャアアアアアッ!?」

 

 痺れている足を叩かれ、悲鳴を上げるユリスなのだった。

 




こんにちは、ムッティです。

今回の話では、遂に綾斗が登場しましたね。

そして綺凛ちゃんも。

いやー、ホント可愛いわー。

本編でも大活躍の綺凛ちゃんですが、こちらでも活躍させてあげたいところです。

綾斗は・・・うん(笑)

それではまた次回!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。