もう年末感がします(笑)
転入生がやってくる日となった。クローディアが転入生と待ち合わせをしているらしいので、俺達はいつもより早く寮を出た。
「七瀬まで私に付き合う必要は無いんですよ?いつも通りの時間で十分でしたのに」
「一人で登校すんのもつまんないしな。クローディアと一緒の方が楽しいんだよ」
「そ、そうでしょうか・・・?」
頬を赤らめているクローディア。あ、珍しく照れてるな・・・
「それに、例の転入生にも早く会ってみたいしな」
「七瀬やユリスと同じクラスですからね。七瀬は仲良くできると思いますが、ユリスはどうでしょう・・・」
「・・・確かに」
最近のユリスは、少しずつ変わってきている。クラスメイトからの挨拶も、一応返すようにはなった。
しかし心を開いたわけではなく、未だにクラスで普通の会話が出来るのは俺だけだ。俺がいないと、紗夜や夜吹とでさえほとんど会話しない。
「夜吹みたいに機嫌を損ねるようなことさえしなきゃ、大丈夫だとは思うが・・・」
「あの子は血の気が多いですからね・・・『気に食わない』なんて言って決闘を吹っ掛けたりしないと良いんですが・・・」
「いやいや、流石のユリスもそこまでは・・・」
俺が笑って否定しようとした時、近くで爆発音が聞こえた。
「・・・嫌な予感がする」
「・・・同感です」
冷や汗ダラダラの俺とクローディア。急いで音のした方へ走ると、何やら人だかりができていた。事情を聴く為、近くにいた銀髪の女の子に声をかける。
「ゴメン、ちょっと良いか?」
「え、私ですか?」
「そうそう。これ、一体何の騒ぎ?」
「あぁ、決闘ですよ」
女の子が指差した方を見ると・・・
「咲き誇れ!六弁の爆焔花!」
ユリスが大技を放とうとしていた。対峙しているのは、例の転入生である。
「アイツ何してんだあああああっ!」
「不安的中ですね・・・」
思わず叫ぶ俺と、頭を抱えるクローディア。一方、女の子は焦っていた。
「お二人とも、急がないとマズいですよ!?爆発に巻き込まれる前に逃げないと!」
その瞬間、ユリスの大技が放たれた。爆発する直前、俺はクローディアと女の子の前に立って両手を前に突き出した。
次の瞬間、炎の爆風がやってくる。
「えぇっ!?」
「七瀬ッ!?」
「大丈夫だ」
クローディアの叫びに、一言だけ答える俺。二人とも、すぐに気付いたようだ。
「爆風が・・・来ない?」
そう、爆風は俺の両手で防がれている。その為、俺の後ろには爆風がいかないのだ。
「そんな・・・一体どうやって・・・?」
「・・・星辰力ですね」
クローディアの声が聞こえる。
「七瀬の両手に、大量の星辰力が集まっています。あれで防いでいるのでしょう」
「これだけの爆風を、星辰力だけで防いでいるということですか!?」
驚愕している女の子。
「でも星辰力は、防御に全て回してもダメージを軽減する程度ですよね!?完全なノーダメージで防ぐなんて可能なんですか!?」
「普通は無理でしょう。ですが七瀬の尋常ではない星辰力量が、それを可能にしています。《覇王》という二つ名は、この膨大な星辰力量から付けられたのですよ」
そう言うクローディアの声には、感嘆の意が込められていた。あ、それで《覇王》なんていう仰々しい二つ名が付いたのか。
ってか・・・
「あの転入生、無事かなぁ・・・」
至近距離であの爆発に巻き込まれた以上、いくら《星脈世代》でもただでは済まないだろう。転入生の身を案じていた時だった。
「天霧辰明流剣術初伝・・・貳蛟龍!」
炎が十文字に切り裂かれ、無傷の転入生が現れた。
「マジか・・・やるなぁ」
思わず感心する俺。あれを突破するのは、並大抵の奴じゃ不可能だろう。
転入生は、一息でユリスとの間合いを詰めた。そしてユリスの懐に入った瞬間・・・
「・・・ッ!」
ユリスの横から、光の矢が迫っていた。
「マズい・・・ッ!」
そう思った瞬間、転入生がユリスを押し倒した。光の矢はユリスを通過し、脇の地面に突き刺さる。
あの転入生、咄嗟にユリスを庇ってくれたのか・・・
「クローディア!」
「分かっています!」
どうやら、クローディアにも見えていたらしい。二人で辺りを見回すが、怪しい人物は見当たらなかった。
「チッ・・・逃げられたか」
「そのようですね」
「こちらにも見当たりません」
女の子の残念そうな声に、驚く俺。
「・・・もしかして、さっきの見えてたのか?」
「はい。矢が飛んできた方向を見たのですが、怪しい人物は発見できませんでした」
悔しそうな女の子。ギャラリーの連中は、ユリスを押し倒した転入生のことを囃し立てている。ユリスが襲撃されたことなど、全く気付いていない。
「お役に立てず、申し訳ないです・・・」
俯く女の子。
「いや、謝ることないって。ギャラリーの奴らなんて全く気付いてないんだから。あの襲撃に気付けるなんて、かなりの実力者なんだな」
「い、いえ!そんなことは・・・」
「あら七瀬、彼女のことをご存知無いのですか?」
驚いた様子のクローディア。
「え、クローディアは知ってんの?」
「勿論です。彼女は・・・」
クローディアがそこまで言いかけた時、再び炎が燃え上がった。見ると、ユリスが転入生を涙目で睨みつけていた。何故か謝っている転入生・・・何があったんだ?
「あらあら、あれは止めに入った方が良さそうですね」
「頼むクローディア。これ以上ユリスに暴れられるとマズい」
「承知しました」
クローディアがユリスを止めに行く。やれやれ・・・
「これで一安心だな」
「ですね」
女の子と二人で笑い合う。
「あ、そうでした!先程は危ないところを助けていただいて、本当にありがとうございました!」
頭を下げる女の子。爆風を防いだ時のことか・・・
「いやいや、大したことはしてないって。それに元々、俺が声をかけたせいで逃げるのが遅れたんだし・・・何かゴメンな」
「いえ、そんな!とんでもないです!」
首をブンブン振る女の子。仕草が可愛いなオイ。
「あ、そうだ。名前を教えてもらっても良いか?」
「あ、はい!中等部一年の、刀藤綺凛といいます」
「へぇ、綺凛って良い名前だなぁ」
「はうっ!?」
俺の言葉に、顔を真っ赤にしてしまう刀藤さん。いや、マジで良い名前だと思う。
「あ、俺の名前は・・・」
「存じ上げています。《冒頭の十二人》の一人で、序列九位の《覇王》・・・高等部一年の星野七瀬先輩ですよね?」
「・・・よく知ってるなぁ」
苦笑する俺。正直、その覚えられ方はむず痒いものがあるが。
「ま、普通に七瀬って呼んでくれ。先輩とか付けなくて良いから」
「い、良いんですか?私なんかが気安くお名前で呼ぶのは、恐れ多いのですが・・・」
「・・・嫌われてるんだな、俺」
俺が落ち込むフリをすると、刀藤さんが慌て始めた。
「い、いえ!そんなつもりは!」
「・・・プッ」
あまりの慌てように、思わず吹き出してしまう。驚く刀藤さん。
「え・・・?」
「ゴメン、嘘だよ。まさかそんなに慌てるとはなぁ」
「だ、騙しましたね!?酷いじゃないですか、七瀬さん!」
ぷくっと頬を膨らませる刀藤さん。
「あ、七瀬って呼んでくれた」
「あっ・・・」
刀藤さんが顔を赤くする。
「そ、そんなことより!嘘をつくなんて酷いです!」
「あ、露骨に話を逸らした」
「そ、逸らしてません!許しませんからね、私!」
「ゴメンゴメン。どうしたら許してくれる?」
俺がそう聞くと、刀藤さんは赤面しながら俯いた。
「じゃ、じゃあ・・・私のことも・・・名前で・・・呼んで下さい」
余程恥ずかしいのか、今にも消え入りそうな声だ。ってか、そんなことで良いのか?
「了解。よろしくな、綺凛」
「は、はい!よろしくお願いします、七瀬さん!」
照れ笑いを浮かべる綺凛。何この子、メッチャ可愛いんだが。
と、不意に綺凛が時計を見て慌てる。
「あ、もうこんな時間ですか!?スミマセン七瀬さん、失礼します!」
「おう。またな、綺凛」
「はい!またお会いしましょう!」
笑顔でそう言って、綺凛は走り去っていった。さて・・・
「・・・お仕置きの時間だな」
俺はユリス達の方へと歩いていった。ギャラリーはいなくなり、ユリス・転入生・クローディアの三人が何やら話し合っている。
と、ユリスが俺に気付いた。
「おぉ、七瀬か。おはよ・・・」
「このバカ姫があああああっ!」
「ぐはっ!?」
ユリスの頭に、思いっきり拳骨を落とす俺なのだった。
*****
「なるほどな・・・」
頭を抑えながら涙目で地面に正座するユリスを前に、ため息をつく俺。
「ユリスのハンカチを拾った転入生が、ユリスにハンカチを届けようとして・・・女子寮と知らずに乗り込んでしまった結果、ユリスの着替えを見てしまったと・・・」
「そ、そうなのだ!だから私は何も・・・」
「・・・あぁん?」
「すいませんでしたあああああっ!」
俺の冷たい視線に、地面に額を擦り付けて土下座するユリス。それを見て、クローディアと転入生が引いていた。
「な、七瀬?もうその辺りで良いのでは?ユリスも反省しているようですし・・・」
「クローディア、思い出すんだ。俺達は死にかけたんだぞ?」
「・・・処罰も止むを得ませんね」
「クローディア!?」
まさかの裏切りにショックを受けるユリス。転入生がおずおずと会話に加わってきた。
「ま、まぁその辺にしてあげてくれませんか?元々、俺が女子寮に入ってしまったのが原因ですから・・・」
「そ、そうだ!全てお前が・・・」
「ユーリースー?」
「全て私が悪かった!すまなかった!」
「も、もう良いって!」
全力で土下座するユリスを見て、転入生が慌てている。
「ま、この辺にしておくか。ただ・・・次は無いと思えよ?」
「ヒィッ!?」
俺の絶対零度の視線に、悲鳴を上げるユリス。俺は転入生に向き直った。
「悪いな、うちのバカ姫が迷惑かけて」
「い、いえ!悪いのは俺ですから!」
「それと・・・ありがとな。ユリスを守ってくれて」
「・・・ッ!」
驚いている転入生。
「もしかして、あなたもさっきの見えてたんですか?」
「あぁ、俺は間に合わなかったからな。ホントに助かったよ」
「いえ、そんな!大したことは・・・」
謙遜する転入生。ってか、少し緊張気味か?
「そんなかしこまらなくて良いぞ?今日からクラスメイトなんだし」
「え、クラスメイト!?じゃあ同級生!?」
ビックリしている転入生。
「おう、俺は星野七瀬。気軽に七瀬って呼んでくれ」
「・・・分かったよ、七瀬。俺は天霧綾斗。俺のことも綾斗で良いよ」
「了解。よろしくな、綾斗」
握手する俺達。
「さて、では綾斗は私と生徒会室へ行きましょう。七瀬、ユリスをお願いします」
「了解。じゃあ綾斗、また後でな」
「うん、また後で」
クローディアと綾斗は、そのまま生徒会室へ向かった。さて・・・
「じゃ、俺達は教室に行くか」
「うむ、そうだな」
そう言って立ち上がろうとしたユリスが、思いっきりよろめく。慌てて抱きとめる俺。
「ユリス!?大丈夫か!?」
「し、痺れる・・・」
どうやら正座していたせいで、足が痺れてしまったようだ。
「やれやれ・・・」
俺は苦笑しつつ、ユリスをお姫様抱っこした。
「なっ、七瀬!?何をするのだ!?」
「いや、だってお前歩けないだろ。まだ時間もあるし、痺れが治まるまでその辺りのベンチで休もうぜ」
「お、降ろせ!こんな格好を誰かに見られたら・・・」
「あ、そんなこと言うんだ・・・えいっ」
「ギャアアアアアッ!?」
痺れている足を叩かれ、悲鳴を上げるユリスなのだった。
こんにちは、ムッティです。
今回の話では、遂に綾斗が登場しましたね。
そして綺凛ちゃんも。
いやー、ホント可愛いわー。
本編でも大活躍の綺凛ちゃんですが、こちらでも活躍させてあげたいところです。
綾斗は・・・うん(笑)
それではまた次回!