明日も雨らしいし、何か憂鬱だわ・・・
「なーちゃんッ!」
勢いよく抱きついてくる四糸乃姉。俺達はヘルガさん達に連れられ、星猟警備隊の本部へとやってきていた。
一通りの事情聴取を終えた俺達は、同じく事情聴取を終えた四糸乃姉達と合流したのだった。
「大丈夫!?怪我してない!?」
「してないよ。心配かけてゴメン」
「・・・良かったぁ」
泣き出す四糸乃姉。俺は四糸乃姉の頭を撫でつつ、後ろの綾斗・トゥーリア・モニカに視線を向ける。
「お前らも無事そうで良かったよ。あの後どうなったんだ?」
「あの混乱に乗じて、傭兵生達は退散しちゃったよ。俺達は何とか崩落から逃れて、駆け付けた二葉さん達に事情を説明したんだ」
「それで救援が来たのか・・・サンキュー、助かったよ」
「マフレナは!?マフレナは何処にいるの!?」
「落ち着けミルシェ」
トゥーリアがミルシェを宥める。
「マフレナなら手当てを受けた後、一足先にクインヴェールへ戻ったよ。星猟警備隊の人が車で送ってくれるっていうから、パイヴィにも付き添いで戻ってもらったんだ。ついでに理事長への報告も頼んどいた」
「・・・そっか」
その場にへたりこむミルシェ。慌ててモニカが支える。
「リーダー!?大丈夫!?」
「ゴメン、安心したら力が抜けちゃって・・・」
「ルサールカの皆さんは、自分がクインヴェールまでお送りしましょう」
柊さんが申し出てくれる。ミルシェはあんな状態だし、その方が有り難いな・・・
「ただ、大変申し訳ないのですが・・・四糸乃さんだけ残っていただけますか?隊長からお話があるそうなので」
「分かりました」
頷く四糸乃姉。話って何だろう・・・?
「んじゃシノン、モニカ達は先に行くね?」
「うん。ミーちゃんのことよろしくね」
「おう、任せとけ」
「・・・七瀬」
不意にミルシェが俺を呼ぶ。
「ん?」
「その・・・色々ありがとね」
恥ずかしそうにそう言うミルシェ。こういうところは素直なんだよな・・・
「おう。頑張れよ・・・リーダー」
「っ・・・うんっ!」
「柊さん、コイツらをよろしくお願いします」
「任されたであります」
笑って頷いてくれる柊さん。
「んじゃ七瀬、またね!」
「《獅鷲星武祭》、お互い頑張ろうぜ!」
「おう、またな。パイヴィとマフレナによろしく」
ミルシェ・モニカ・トゥーリアは、柊さんに連れられて去っていった。俺は四糸乃姉へと視線を移す。
「ヘルガさんから話って、心当たりある?」
「いや、何もないんだよね・・・何だろう?」
首を傾げる四糸乃姉。と・・・
「すまないな、残ってもらって」
背後からヘルガさんと二葉姉がやってくる。
「七瀬・天霧くん・沙々宮くんには、事情を説明しないといけないと思ってな。それから・・・」
俺と四糸乃姉を見るヘルガさん。
「二人には、少し話しておきたいことがある。少々時間をいただきたい」
「えぇ、構いませんけど・・・」
「話しておきたいこと・・・?」
顔を見合わせる俺と四糸乃姉なのだった。
*****
「まず再開発エリアでの私闘の件だが、七瀬・天霧くん・沙々宮くんに関してはお咎め無しということになった」
星猟警備隊本部の一室で、説明してくれるヘルガさん。
「七瀬と沙々宮くんはチーム・へリオンのロヴェリカを攻撃しているが、いずれも仲間を守る為の正当防衛と認められた。よって君達の所属する、チーム・エンフィールドに処罰が下ることは無い」
「良かった・・・」
ホッとする俺。四糸乃姉を守る為だったとはいえ、チームに迷惑をかけたくはなかったからな・・・
「それからチーム・ルサールカについてだが、何らかの処分が下ることになるだろう。四糸乃くんには、先ほど説明したな?」
「はい、皆も受け入れています」
「・・・ルサールカは被害者のはずでは?」
四糸乃姉が頷く一方、紗夜が首を傾げる。
「まぁ確かに、先に攻撃してきたのはロヴェリカなんだが・・・その後、リーダーのミルシェが私怨でやり返してしまっているからな。お咎め無しというわけにもいかないのだ」
溜め息をつくヘルガさん。
「恐らく、大して重い処分にもならないだろう。それはチーム・へリオンにも言えることではあるがな」
「・・・アイツらこそ、重い処分を課すべきだと思いますけど」
「仕方ないのよ」
悔しそうな表情の二葉姉。
「《星武祭》に関連する処分は、運営委員会の領域だから。私達は違反を取り締まることは出来ても、処分に口出しすることは出来ないの」
「まぁそういうわけだ。我々としても大いに不服だが、致し方あるまい」
口ではそう言うものの、ヘルガさんの表情は苦いものだった。
「大体、ああいう危険なチームには厳罰を課すべきなのだ。とはいえ、この都市のルールから逸脱するわけにもいかない・・・もどかしいものだよ」
「そもそも、傭兵生制度なんてものがあるからダメなんだと思いますけどね」
持論を述べる俺。
「いくらポイントを稼ぎたいからって、PMCの力を借りるのは如何なものかと思います。俺達がやってるのは、戦争なんかじゃないんですから」
「おぉ・・・!」
ヘルガさんの目がキラキラしている。
「七瀬もそう思うか!?実は私も全く同じことを思っていたのだ!こんな制度は間違っている!」
「ヘルガさん・・・!」
「七瀬・・・!」
ガシッと握手を交わす俺達。いやぁ、ヘルガさんとは気が合うなぁ!
「まぁ傭兵生制度のことは置いといて・・・ここからが本題ね」
二葉姉の表情が真剣なものになる。
「今回七瀬達が迷い込んだあの場所は、かつて《蝕武祭》が開かれていた場所よ」
「っ・・・《蝕武祭》・・・!」
息を呑む綾斗。そういや、綾斗にはまだ説明してなかったな・・・
「あの場所はバラストエリアの底・・・つまり水中にあるの」
「バラストエリア・・・」
そういや、一度綺凛と一緒に落ちたっけ・・・あの水底にあったのか・・・
「七瀬達が乗ったエレベーターは、参加者用のエレベーターね。六つ全てが地下ブロックにあるんだけど、隠し扉とかで偽装されてるわ」
「でもあの隠し扉、最近誰かが開けた形跡があったぞ?そうじゃなきゃ、俺達も隠し扉の存在に気付かなかっただろうし」
「チーム・へリオンの連中さ」
ヘルガさんが答えてくれる。
「ヤツらの所属するPMCは、HRMSというところでな。代表を務めているリベリオ・パレートという男は、かつて《蝕武祭》の選任参加者だったんだ」
「・・・ロクでもないヤツが集まるわけですね」
溜め息をつく俺。そんなヤツがPMCやってんのかよ・・・
「リベリオには妙なカリスマ性があってな。チーム・へリオンの連中も、すっかり信奉者のようだ。事情聴取で問い詰めたら、あの場所へ行ったことをあっさり認めたよ」
「アイツらはどうやって脱出したんですかね?あのエレベーター、下り専用だと思ったんですけど・・・」
「確かに参加者用エレベーターは、原則片道切符だ。だがリベリオのような選任参加者は、特殊なIDカードで自由にエレベーターを利用出来たらしい。どうやら連中は、リベリオからそのIDカードを渡されていたようだ」
マジか・・・最初から来る気満々だったってことじゃん・・・
「でも、《蝕武祭》は無くなったんですよね?だったらどうしてエレベーターが機能していたり、会場が残っていたりするんですか?」
「・・・ダニロ関連の捜査は、統合企業財体の圧力で進められないのが現状なんだ」
悔しげな表情のヘルガさん。
「《蝕武祭》はその最たるもので、会場には一切手をつけるなという命令がきている。未だに証拠の一つも持ち出せないくらいだ」
マジかよ・・・まぁ申し訳ないことに、俺は持ち出しちゃってるんだけどな・・・
「とまぁ、あの場所に関する説明は以上だ。何か他に質問はあるか?」
ヘルガさんの問いに、首を横に振る俺達。それを見て、ヘルガさんが軽く頷いた。
「よし、ではこの話は終えるとしよう。次は七瀬と四糸乃くんへの話だが・・・天霧くんと沙々宮くんには、席を外してもらった方が良いか?」
二葉姉へと視線を向けるヘルガさん。二葉姉は逡巡した後、俺の方を見た。
「七瀬の判断に任せます」
「え、俺?」
驚く俺。二葉姉が苦い顔をする。
「これから話すことはね・・・『あの人』に関することなのよ」
「っ・・・なるほどな・・・」
『あの人』のことは、二人にはまだ話してないからな・・・
「・・・綾斗、紗夜、席を外してもらえるか?」
「・・・分かった」
綾斗と紗夜が部屋から出て行く。二葉姉が俺と四糸乃姉を見つめた。
「・・・このことは、まだ一織姉さんにも話してないんだけどね」
その後に二葉姉が語った事実は、俺達にとって衝撃的なものなのだった。
「かつて零香姉さんは・・・《蝕武祭》に参加していたみたいなの」
どうも~、ムッティです。
シャノン「零香さん、《蝕武祭》に参加してたんだね・・・」
この設定も前々から考えてたのよね。
零香については、これから色々と明らかにしていきたいと思います。
シャノン「ところで作者っち、私の出番は・・・」
それではまた次回!以上、ムッティでした!
シャノン「人の話を聞けえええええ!」