「つーかーれーたー!」
「お前さっきから歩いてないだろうが!」
俺の背中で喚くミルシェ。
途中で『もう歩けない』って駄々をこねるから、仕方なくおぶってやってるのに・・・
「もう一時間ぐらい歩いてるじゃん!何で何処にも出られないわけ!?」
「知らん。ってか自分で歩け」
「『弱音を吐きたくなったら聞いてやる』って言ったの七瀬じゃん!」
「こういう意味で言ったんじゃねーよ!」
ギャーギャー言い争うミルシェと俺。と、先頭を歩いていた七海が立ち止まった。
「七海?どうした?」
「これ、足跡ですよね?」
七海が通路の壁際を指差す。そこには、真新しい足跡がいくつも残っていた。
「ホントだ・・・何でここだけ?」
「・・・埃」
紗夜がしゃがみこみ、地面を指でなぞる。つまり埃が積もったところを、誰かが踏んだわけか・・・
しかも足跡から察するに、一人ではなく複数の人間だな・・・
「何でここだけ埃が溜まってるんだ・・・?」
壁際に近付く俺。何気なく壁を叩いてみると・・・
「うおっ!?」
重い音を響かせ、壁の一部がゆっくりスライドする。その先に新たな道が現れた。
「隠し扉!?」
「・・・ちょおビックリ」
驚いているミルシェと紗夜。
恐らくこの扉は、長い間使われていなかったんだろう。だが最近、誰かがこの扉を開けた。
その時に埃が落ち、それを踏んだってところか・・・
「マスター、奥にも扉があります」
七海の言う通り、奥には銀色の大きな扉があった。横にはボタンがついている。
「ひょっとしてこれ、エレベーターか?」
「そうかもしれない。ただ、どう見ても怪しい」
「そうですね。ここは慎重に・・・」
「えいっ」
ミルシェがボタンを押した。
「何やってんだああああああああああっ!?」
「ぐえっ!?」
おぶっていたミルシェをぶん投げる。地面に激突するミルシェ。
「ちょ、痛いじゃん!?何すんのよ!?」
「そりゃこっちのセリフだバカ!俺達の会話聞いてた!?何でボタンを押した!?」
「そこにボタンがあるから」
「某登山家の名言っぽく言ってんじゃねーよ!」
そんな言い合いをしていると、銀色の扉が開いた。中はこじんまりとした空間で、またしてもボタンが付いている。
「ほら、やっぱりエレベーターじゃん!流石は私!」
「よし、定員は三名って今勝手に決めた。だからミルシェをここに置き去りにしよう」
「「異議なし」」
「異議ありいいいいいっ!軽率なことしてスイマセンでしたあああああっ!」
涙目で土下座するミルシェ。全くコイツは・・・
「で、中にもボタンが一つしかないわけだが・・・」
「ここまできたら押すしかないっしょ!」
「・・・何かお前に言われるとイラッとするわ」
「何でよ!?」
まぁ悩んでいても仕方ないので、全員が乗ったところでボタンを押す。
するとドアが閉まり、エレベーターが動き出したのだが・・・
「・・・これ、下ってません?」
七海の一言。下り専用エレベーターかよ・・・
「隠し扉の先に、下り専用エレベーター・・・しかも長い間使われていない・・・どう考えてもおかしくないか?」
「確かに・・・地下通路の点検用と考えるには、あまりにおかしすぎる」
俺の問いに頷く紗夜。やがてエレベーターが停止し、扉がゆっくり開いた。
その先にあった光景は・・・
「何これ・・・」
絶句しているミルシェ。
俺達の目の前には、地下とは思えないほどの広大な空間が広がっていた。六角形のステージのようなフィールドで、六つの角にそれぞれ柱が立っている。
俺達が乗ってきたエレベーターは、そのうちの一本の内部を通っているようだ。
「アスタリスクの地下に、こんな場所があるなんて・・・」
驚いている七海。俺達はエレベーターから出て、フィールドへと足を踏み入れた。
次の瞬間、エレベーターの扉が閉じる。
「あっ、閉まっちゃった!」
「ボタンも無い・・・もう開けられなさそう」
紗夜が扉を叩いてみるが、うんともすんとも言わなかった。
「隠し扉・・・下り専用エレベーター・・・広大なフィールド・・・」
嫌な予感がした。ふと上に視線を向けてみると・・・
「ッ!?」
フィールドを見下ろす高さに、観客席らしきものが設えてある。
おいおい・・・
「そういうことかよ・・・」
「七瀬?何か分かったのか?」
紗夜が尋ねてくる。
「恐らくここは・・・《蝕武祭》が行なわれていた場所だ」
「ッ!?ハル姉も参加してたっていう、非合法の大会・・・?」
息を呑む紗夜。
瓦礫だらけの荒れ果てたフィールドに、崩れかけている柱・・・恐らくヘルガさんに潰されてから、誰もこの場所を使ってはいないんだろう。
と、瓦礫の陰で何かが光った気がした。
「ん・・・?」
近付いてみると、そこにあったのは・・・
「眼鏡・・・?」
レンズは割れ、フレームも折れ曲がっている。ここで戦って、負けてしまった人の物だろうか・・・
手にとって眺めていると、紗夜が凄い勢いで覗き込んできた。
「うおっ!?どうした!?」
「これ・・・ハル姉の眼鏡・・・」
「っ・・・マジか・・・」
俺は少々考え込んだ後、眼鏡をポケットへとしまった。
「・・・このことは内緒な。ここが《蝕武祭》の開催場所なら、ここにある物は全て証拠品ってことになるだろうから。本当なら、勝手に持ち出しちゃマズいだろうし」
「七瀬・・・ありがとう」
頭を下げてくる紗夜。と・・・
「七瀬ッ!」
別の柱のエレベーターから、二葉姉が飛び出してきた。そのまま俺に抱きついてくる。
「二葉姉!?何でここに!?」
「救助の為さ」
エレベーターから、ヘルガさんが出てきた。その後ろには、柊静薙さんもいる。
「こんにちは、七瀬選手。先日の一回戦以来ですね」
「あ、どうも。お世話になってます」
「それよりアンタ大丈夫なの!?怪我してない!?」
「してないよ。大丈夫だって」
俺がそう答えると、二葉姉の目から涙がボロボロ零れる。
「良かった・・・ホントに良かった・・・!」
「・・・ゴメン、心配かけた」
「全くよ・・・四糸乃や綾斗くんから話を聞いて、どれだけ心配したか・・・!」
俺の胸に顔を埋め、泣きじゃくる二葉姉。俺は二葉姉の頭を撫でつつ、ヘルガさんへと視線を向けた。
「四糸乃姉達は無事なんですか?」
「あぁ、無事だ。一人だけ怪我をしていた・・・マフレナといったか?彼女も大した怪我ではなかったが、頭を強く打ったことで意識が朦朧としていたようだ。既に手当ても終わり、意識もハッキリしている」
「っ・・・良かった・・・!」
口元を押さえ、今にも泣き出しそうなミルシェ。
ホント良かったな・・・
「とにかく皆、無事で良かった。だがまさか、本当にここに来ているとはな・・・」
溜め息をつくヘルガさん。この反応、やっぱり・・・
「ヘルガさん、ここ・・・《蝕武祭》の開催場所ですよね?」
「・・・そうだ。どうやってここに入り込んだのか、詳しく聞かせてもらうぞ」
厳しい表情のヘルガさんなのだった。
二話連続投稿となります。
次の投稿は、日曜日あたりになる予定です。
それまでお待ちいただけると幸いです。
シャノン「執筆活動は進んでるの?」
ちょいちょい進めてるよ。
早くクローディアの話にもっていきたいよね。
シャノン「あぁ、原作の九巻の話ね」
そうそう。頑張りたいと思います。
それではまた次回!以上、ムッティでした!
シャノン「またね~!」