一、星露の扱いが酷い
二、久々にドラマ『西遊記』が見たい
三、リア充爆発しろ
以上。
「あ、頭が・・・」
呻きながら床に突っ伏す紗夜。開会式終了後、俺達はチームの控え室に来ていた。
「この光景、非常にデジャブを感じるのだが・・・」
引き攣った表情のユリス。
紗夜に渾身の拳骨をお見舞いして叩き起こした時、クロエと柚陽とソフィアも似たような表情してたっけ・・・
「自業自得だろ。紗夜、今度チーム・赫夜の皆によくお礼しとけよ」
「りょ、了解・・・」
「それにしても、柚陽ちゃんがアスタリスクに来てたとはね・・・」
苦笑している綾斗。実家から何も聞かされていなかったらしく、柚陽を見た時はかなり驚いていた。
「あの子の弓の腕は一級品だよ。子供の頃でさえそうだったんだから、今はどうなってるか・・・考えただけでも恐ろしいね」
「チーム・赫夜で注意すべきなのは、七瀬の妹の九美さんとソフィア・フェアクロフだけだと思っていましたが・・・考えを改める必要がありそうですね」
溜め息をつくクローディア。俺はクローディアの頭を撫でた。
「そう難しい顔すんなよ。とりあえず、対戦が決まった相手のことだけを考えて戦っていこうぜ。当たるか分からない相手のことまで警戒してる余裕は無いだろ」
「ですね。目の前の一戦を大事に戦っていきましょう」
頷く綺凛。その言葉に、クローディアも笑顔を見せた。
「・・・そうですね。では、初戦の対戦相手のおさらいでもしましょうか」
俺達はこの後、このシリウスドームで初戦を迎えることになっている。確か相手は、レヴォルフのブラックヴェノムというチームだ。
油断せず、気を引き締めていかないとな・・・
「あ、その前に飲み物でも買ってくるよ。皆の分も買ってくるけど、何が良い?」
「では紅茶を頼む」
「私はコーヒーを」
「俺は緑茶で」
「私はミルクティーをお願いします」
「りんごジュース。濃縮還元じゃないやつ」
「了解。紗夜の飲み物以外は買ってくるわ」
「ガーン・・・」
落ち込んでいる紗夜を尻目に控え室を出る俺。まぁ流石に可哀想だし、買っていってやるかな・・・
そんなことを考えながら歩いていた時だった。
「な~なくんっ♪」
いきなり後ろから抱きつかれる。やれやれ・・・
「変装してるとはいえ、公の場で大胆だなオイ」
「フフッ、大丈夫だよ。開会式も終わって、今は人も少なくなったし」
笑っているシルヴィ。開会式には各学園の生徒会長が出席することになっている為、シルヴィもクインヴェールの生徒会長として来ていたのだ。
まぁ、界龍の生徒会長である星露は来てなかったけど。
「全く、代理も大変だな・・・アレマ」
『ありゃ、気付かれてた?』
物陰から姿を現したのは、背の低い女性だった。猫のように大きな瞳と癖の強い短髪、そしてあらゆる箇所に残る傷跡が特徴的だ。
「アレマ!?いつからそこにいたの!?」
『開会式が終わってから、ずっとシルヴィアちゃんの後をつけてたよ?』
「・・・全然気付かなかった」
呆然としているシルヴィ。まぁ無理もないよな・・・
「人の彼女のストーカーすんなよ。いくらお前が女でも訴えんぞ」
『アハハ、ゴメンゴメン。シルヴィアちゃんの後をついていったら、きっと七瀬に会えると思って』
「そんな回りくどい真似しなくても、普通に控え室を訪ねてくれたら良かったじゃん」
『いやぁ、試合前にお邪魔するのも申し訳ないかなって』
「そういうところは気を遣うのな・・・」
彼女はアレマ・セイヤーン。界龍の特務機関《睚眦》の工作員だ。
星露の前の序列一位で、星露に敗れた後に門下へ誘われるも拒否。その才を惜しんだ星露が取引をして、アレマは《睚眦》の工作員となった。
公式行事では星露の代理を務めることが多く、各学園の生徒会長達とは顔見知りらしい。
俺も界龍で修行していた時に知り合い、何だかんだで仲良くなっていた。
『それにしても、やるじゃん七瀬。ちゃんと気配は消してたつもりだったんだけどな』
「気配なんか感じるわけないだろ。虎峰でさえ、お前の気配を感じ取れないんだから」
『え?じゃあ何で分かったの?』
「どんなに気配を消すことが出来ても、《星脈世代》であるかぎり星辰力の波動は消せないんだよ」
溜め息をつく俺。
「星辰力の波動は指紋と一緒で、人それぞれ異なるからな。俺は雷の能力で知覚能力が上がってるから、それを読み取れるんだよ」
『アハハッ!なるほどね!』
楽しそうな笑みを浮かべるアレマ。
『いやぁ、参った!そんなもの読み取れるの、本当にごく一部の人だけだよ!流石は七瀬、星露ちゃんが気に入るのもよく分かるよ!』
ちなみにこのセリフ、全て空間ウィンドウに表示されているものである。
アレマは首に貼られている呪符により声を出すことが出来ない為、空間ウィンドウの文字による筆談で相手と会話をするのだ。
『あー、ウズウズする!どうだい七瀬?今度また手合わせしない?』
「今のを翻訳すると、『今度またサンドバッグにしていい?』ってことだよな?」
『何でよ!?七瀬も強くなってるし、あの時と違って良い勝負出来るって!』
界龍で修行を始めた頃、俺はアレマと手合わせをしてボコボコにされている。
いやぁ、あの時は地獄だったなぁ・・・
「あの一週間は、俺の人生史上最も過酷な一週間だったわ・・・マジで死ぬと思ったもん。遺書まで用意したもん」
修行初日は暁彗、二日目はアレマ、三日目は冬香、四日目はセシリー、五日目は虎峰、六日目は黎兄妹、そして最後の七日目はラスボス・星露。
一週間毎日行なわれた手合わせは、俺の肉体と精神をボロボロにしてくれたっけなぁ・・・
「俺の心にシルヴィがいなかったら、一体どうなってたことか・・・シルヴィ、ホントありがとな。心から愛してる」
「私もだよ、ななくん」
ひしと抱き合う俺とシルヴィ。あぁ、生きてて良かった・・・
『・・・何かすいませんでした』
ちょっと申し訳なさそうなアレマ。ホントだよチクショウ・・・
「ってか、星露はどうしたよ?去年の《鳳凰星武祭》の開会式は来てたよな?」
『あぁ、星露ちゃんなら今頃・・・泣きながら事務処理やってんじゃない?』
「何があったの!?」
あの星露が事務処理!?嘘だろオイ!?
『ほら、学園祭で白秦と黒胡を界龍の外に出しちゃったじゃん?しかも白秦がシルヴィアちゃんに怪我させちゃったもんだから、シルヴィアちゃんのファンを中心にあちこちから苦情が殺到しちゃったのよ。本来ならそういうのは生徒会が対応するんだけど・・・ほら、虎峰もシルヴィアちゃんの大ファンだからさ』
「あぁ、なるほど・・・職務放棄したのな」
『ご名答。虎峰は星露ちゃんにカンカンで、「もう師父には愛想が尽きました。これからの生徒会の職務は、師父がご自身で全て行なって下さい」って突き放しちゃったわけ。他の生徒会の面々も虎峰に追随しちゃって、それから星露ちゃんは仕事が増えて大忙しよ』
「・・・こんなに『自業自得』って言葉がお似合いのケース、そうそう無いよな」
言われて見るとあの時の虎峰、メッチャキレてたっけ・・・いい加減もう我慢の限界だったんだろうな・・・
『でも八重ちゃんだけは、こっそり星露ちゃんを手伝ってあげてるみたいだよ?「流石に一人でやらせるのは可哀想だから」って。星露ちゃん、嬉し泣きして頭下げてたもん』
「・・・星露のヤツ、相当参ってるみたいだな」
それにしても、八重はホント優しいよな・・・四糸乃姉が《女神》なら、アイツは《聖母》じゃないか?
『まぁ久しぶりに七瀬にも会えたし、アタイとしては代理で来れて良かったけどね』
アレマはニヤリと笑うと、俺の肩を叩いた。
『応援してるから頑張んなよ?目指せ《獅鷲星武祭》優勝!』
「勿論そのつもりだけど、お前はチーム・黄龍を応援しなくて良いのかよ?」
『当然そっちも応援してるよ。アタイとしては、チーム・エンフィールドとチーム・黄龍が決勝で戦ってくれることを期待してるんだけどね』
「ご期待に沿えるように頑張るよ」
『アハハ、そうこなくちゃ!そんじゃ七瀬、シルヴィアちゃん、またねー!』
アレマは笑いながら手を振り、その場を立ち去った。変わらないな、アイツ・・・
「・・・私もまだまだ修行が足りないね」
溜め息をつくシルヴィ。
「後をつけられてることに気付けないなんて、序列一位の名が泣くよ・・・」
「気にすんな。星露ほどではないにしても、アイツも立派なバケモノだから。星露・暁彗・アレマは、俺の中で界龍三大バケモノに認定されてるし」
「フフッ、酷い言い様だね」
シルヴィがおかしそうに笑う。
「まぁ何と言っても、界龍の序列一位だった人だもんね・・・《醒天大聖》の二つ名は伊達じゃないってことか」
「まぁアイツ猿っぽいし、見方によっては孫●空に見えなくもないよな」
「頭に金色の輪っかを付けて、如●棒とか筋●雲とか使ってたら間違いないよね」
「そしたら俺がお経を唱えて、アレマを懲らしめてやれるんだけどな」
冗談を言いながらシルヴィと笑い合っているうちに、俺は本来の目的を思い出した。
「あ、そろそろ飲み物を買って戻らないと。シルヴィはこの後仕事だっけ?」
「そうなんだよ・・・初戦なのに観戦出来なくてゴメンね・・・」
「気にすんなって。その代わり、心で応援してくれよな」
「勿論だよ。あ、そうだ!」
手に持っていた鞄から、風呂敷包みを取り出すシルヴィ。
「これ、私が作ったお弁当。良かったら食べて」
「え!?わざわざ作ってくれたのか!?」
「うん、少しでもななくんの力になりたくて・・・」
恥ずかしそうに頬を赤く染めるシルヴィ。俺の彼女が可愛すぎる件について。
「ありがとな、シルヴィ。ありがたく頂戴するよ」
「フフッ、喜んでもらえて良かった」
シルヴィはそう言って笑うと、俺の手を握ってきた。
「頑張ってね、ななくん。応援してるから」
「あぁ、絶対優勝してみせる。シルヴィも仕事頑張ってな」
「ありがと。何とか時間を作って、試合に来れるように頑張るから」
「いや、そんな無理しなくても・・・」
「良いのっ。ななくんの試合、ちゃんと生で見たいのっ」
シルヴィはそう言うと顔を近づけ・・・唇を重ねてきた。
「っ・・・」
「・・・これで頑張れそう?」
「・・・もう負ける気がしないわ」
俺はそう言って笑うと、シルヴィを抱き締めるのだった。
二話連続投稿となります。
シャノン「《醒天大聖》さん出てきたね」
アレマね。その二つ名カッコいいよね。
界龍の生徒の二つ名って、基本的に漢字四文字じゃない?
シャノン「あー、確かに。《万有天羅》とか《覇軍星君》とかね」
だから今、八重の二つ名をどうしようか迷ってるのよね・・・
シャノン「んー、何が良いかねぇ・・・」
《解体聖母》とか?
シャノン「物騒だよ!?それ《マリア・ザ・リッパー》って読むやつでしょ!?」
じゃあ《死屍累々》は?
シャノン「だから物騒だって!?八重ちゃんに相応しい二つ名にしてあげなよ!?」
よし、《七瀬兄命》で。
シャノン「あ、それは納得」
七瀬「納得できるかああああああああああっ!」
それではまた次回!以上、ムッティでした!
シャノン「またね~!」
七瀬「ちゃんと考えろおおおおおおおおおおっ!」