「・・・穴があったら入りたい」
控え室の隅っこで、体育座りをしながら両手で顔を覆う俺。
結局二体のガーディアンは倒したものの、俺のルール違反とシルヴィの負傷でイベントは中止となった。
「七瀬、元気出して下さい」
「男らしくてカッコ良かったよ」
虎峰とアーネストが慰めてくれるが・・・
「『俺のシルヴィに・・・何してくれてんだあああああああああああああああッ!』」
「止めてえええええええええええええええッ!」
イレーネが嬉々として俺のモノマネをしてくるので、叫びながら耳を塞ぐ。
大観衆の前であんなことを叫んでしまうとは・・・
「《吸血暴姫》、少し黙りなさい」
「ちょ、分かったから!悪かったって!」
リムシィの左腕の砲身を向けられ、慌てるイレーネ。
その時、控え室の扉が開いた。シルヴィと一織姉が入ってくる。
「シルヴィアさん!」
「怪我は大丈夫なのですか?」
「うん、大丈夫。一織さんに治してもらったから」
虎峰とリムシィに笑みを向けるシルヴィ。そして俺の方に視線を向け・・・
「っ・・・///」
赤面して視線を逸らした。グサッ・・・
「アーネスト、今すぐ《白濾の魔剣》で俺を斬ってくれ」
「落ち着きたまえよ」
呆れているアーネスト。
「今は恥ずかしがっている場合じゃない。今回のことで、七瀬とミス・リューネハイムの熱愛報道が再燃することは目に見えている。対応を考えるべきだろうね」
「ドームの外はマスコミ関係者がうじゃうじゃいるわよ。七瀬とシルヴィが出てくるのを待ち構えてるんでしょうね」
「マジか・・・」
どうやら、覚悟を決める時がきたようだ。シルヴィに視線を向けると、気遣わしげに俺の方を見ている。
「・・・ちょっと行ってくる」
「・・・待って」
控え室を出ようとしたところで、シルヴィが俺の手を掴んだ。
「・・・私も行く」
「・・・良いのか?」
俺の問いに頷くシルヴィ。
「言ったでしょ?ななくんの側にいたいって」
「シルヴィ・・・」
「どんな時でも・・・私はななくんの隣にいるから」
ニッコリ笑うシルヴィ。ホントにコイツは・・・
「・・・分かった。一緒に行こう」
「うんっ」
「七瀬、シルヴィ」
一織姉が俺達の背中を叩く。
「行ってらっしゃい。頑張って」
「君達なら心配ないさ」
「七瀬のこともシルヴィアさんのことも、僕は応援してますから」
「気張れよ二人とも」
「健闘を祈ります」
アーネスト・虎峰・イレーネ・リムシィも声をかけてくれる。みんな・・・
「ありがとう。行ってくる」
「行ってきます」
そう言って控え室を出る俺とシルヴィ。ドームの出口が近付くと、外に多くのマスコミ関係者が集まっているのが見えた。
「・・・緊張するわぁ」
「フフッ、大丈夫。リラックスリラックス」
「・・・流石は世界の歌姫。慣れてんなぁ」
俺は苦笑しつつ、シルヴィと共に出口へ向かうのだった。
*****
「あっ、出てきた!」
「星野さん、リューネハイムさんと交際されているんですか!?」
「先ほど『俺のシルヴィ』という発言がありましたが!?」
「お答え下さい!」
俺達が出た瞬間、あちこちでカメラのフラッシュが焚かれる。
一斉に質問が投げかけられ、全員が俺達に近付こうとするのを警備員さん達が止めてくれる。
「・・・一つずつお答えしますので、順番に質問をお願いします」
俺がそう言うと、一番前にいた記者の人が手を上げた。
「星野さんとリューネハイムさんは、お付き合いされているのでしょうか?」
「はい、お付き合いさせていただいております」
俺の答えに、周りが一斉にざわめく。
「いつ頃からでしょう?」
「昨年の《鳳凰星武祭》が終わってすぐですね」
「星野さんが暴走された際、リューネハイムさんが止めに入りましたよね?あの時はまだ交際していなかったのですか?」
「えぇ、あれが五年ぶりの再会でした」
「それから間もなくして付き合い始めたと?」
「そういうことになります」
次々と投げかけられる質問に答えていく俺。
「リューネハイムさんのファンの方々からは、星野さんがリューネハイムさんに相応しくないとの声も出ています。それについてどうお考えでしょうか?」
「そんなことはありませんッ!」
俺が答える前に、シルヴィが大きな声で反論する。
「私はななくんを・・・星野七瀬を愛していますッ!側にいたいと思っていますッ!私の相手は彼以外有り得ませんッ!」
「シルヴィ、落ち着いて」
優しくシルヴィの背中を擦る。シルヴィが怒った姿を初めて見たのか、マスコミの方々も固まってしまっていた。
「っ・・・怒鳴ってしまってごめんなさい・・・」
気まずそうに謝るシルヴィ。
「・・・確かに俺は、シルヴィに相応しくないのかもしれません」
「ななくん!?」
シルヴィが驚いているが、俺は言葉を続けた。
「何せ幼い頃から、シルヴィにはずっと迷惑をかけてきました。こんな自分が、シルヴィの隣にいる資格は無い・・・そう思い、一度はシルヴィから離れました。でも・・・」
隣のシルヴィを見つめる俺。
「それでもやっぱり、俺はシルヴィが好きで・・・シルヴィのことを考えなかった日なんて、一日たりともなくて・・・だからシルヴィが同じ気持ちでいてくれたって分かった時、本当に嬉しかったんです。もうシルヴィの側を離れたくない・・・そう思いました」
「ななくん・・・」
「・・・俺はまだまだ未熟な人間です。きっとこの先もシルヴィを、怒らせたり悲しませたりしてしまうこともあると思います。それでも・・・」
真っ直ぐ前を向く。そしてハッキリと宣言した。
「俺はシルヴィア・リューネハイムを愛しています。この先もずっと、シルヴィと一緒に歩んでいきたい・・・それが俺の願いです」
カメラに向かって、深々と頭を下げる。
「どうか温かく見守っていただけると幸いです。よろしくお願い致します」
「お願い致します」
シルヴィも一緒に頭を下げてくれる。すると・・・
「今、『この先もずっと一緒に歩んでいきたい』と仰りましたが・・・ひょっとしてプロポーズですか?」
「・・・えっ」
いや、まだそこまでは・・・答えようとした俺だったが、時既に遅しだった。
「こ、公開プロポーズだーっ!《雷帝》が公開プロポーズしたぞーっ!」
「明日の一面キタアアアアアッ!」
「ちょ、待っ・・・まだ結婚とかそういうのは・・・!」
「な、ななくん・・・大胆すぎるよぉ・・・///」
「人の話を聞けええええええええええっ!」
俺の絶叫が響き渡るのだった。
*****
「ななくん、機嫌直してよ」
「もう嫌だ・・・俺の味方なんていないんだ・・・」
ホテルの部屋のベッドで、頭から布団を被って恨み言を言う俺。本来は学園祭が終わる今日でチェックアウトの予定だったのだが、急遽もう一泊することになったのだ。
どうやら例の交際宣言騒動で、星導館とクインヴェールにマスコミが押し寄せているらしい。先ほどクローディアに連絡したところ、『何とかしておくのでもう一晩外泊して下さい』と言われた。
そこでシルヴィがクインヴェールの理事長に連絡をとり、ホテルにもう一晩泊まれるように口をきいてもらったのだ。
「『《雷帝》が公開プロポーズ!《戦律の魔女》の返事やいかに!?』・・・もうホント勘弁してくれ」
ネットニュースを見ながら溜め息をつく。
「ってか、何でシルヴィはそんな機嫌良いんだよ?」
「だってななくんともう一晩一緒にいられるんだもん♪」
ニコニコしているシルヴィ。
「それに公開プロポーズだなんて・・・キャッ///」
「だからしてないっての」
「えぇっ!?ななくんは私と結婚したくないの!?」
ガーンとショックを受けているシルヴィ。あのなぁ・・・
「俺だってゆくゆくは結婚したいと思ってるよ。でもまだ高校生だし、そういう話をするのは早いと思うんだ。二人でゆっくり将来のことを考えていけたらって思ってたのに、公開プロポーズなんて話が出てみろよ。周りが騒がしくなるに決まってるだろ」
「あ、そういうことか」
シルヴィが納得したように頷く。
「まぁ良いじゃない。どっちみち交際宣言しちゃったんだから、周りが騒がしくなるのは変わらないと思うし」
「それはそうなんだけどさぁ・・・」
「でも安心したよ」
シルヴィは微笑むと、俺に抱きついてきた。
「ななくん、ちゃんと考えてくれてたんだね。私達の今後のこと」
「・・・そりゃ考えるよ」
シルヴィの頭を撫でる俺。
「この先もずっと一緒に歩んでいきたい・・・あの言葉は俺の本心だから。俺は一生、シルヴィと一緒にいたいと思ってる」
「ななくん・・・」
「でも・・・今の俺は社会的に何の地位も無い、ただの高校生だ。序列三位だの《雷帝》だの、そんなものは星導館の中だけの話だしな」
だからこそ、今は結婚について考えるのは早いと思う。今の俺では、シルヴィの人生を背負うことなど出来ないから。
「だから・・・もう少し待っててほしい。その時がきたら、今度はちゃんと・・・シルヴィにプロポーズするから」
「っ・・・ズルいなぁ、ななくんは」
両頬が赤く染まっているシルヴィ。
「全く・・・ななくんに惚れそうだよ・・・」
「え!?惚れてるから付き合ってるんじゃないの!?」
「そうなんだけどっ!惚れてるんだけどっ!でも惚れそうなのっ!」
「・・・意味が分からん」
「あー、もうっ!だから・・・!」
いきなり俺を押し倒してくるシルヴィ。そのまま唇を奪われる。
「んんっ!?」
「んっ・・・ぷはぁっ・・・」
唇を離したシルヴィの顔は真っ赤だった。
「・・・今よりもっと惚れそうってこと。言わなくても分かってよ」
「理不尽だなオイ・・・」
「それが私なのっ!」
「開き直った!?」
「・・・こんな女の子は嫌?」
「・・・バーカ」
俺はシルヴィを抱き寄せ、再び唇を重ねた。
今はただ、この温もりを感じていたい・・・自らの欲求に身を任せる俺なのだった。
二話連続投稿となります。
これにて《祭華繚乱》編は終了です。
シャノン「ついに交際宣言したねぇ」
やっとだよね。公開プロポーズもさせたいところではあるけど。
シャノン「あぁ、『刀藤綺凛の兄の日常記』の綺優くんみたいに?」
そうそう。あ、『刀藤綺凛の兄の日常記』といえば・・・
現在絶賛コラボ中ですので、よろしくお願いします!
シャノン「急に宣伝モード入ったね・・・」
あと作者の綺凛・凛綺さんが、新しい小説を書き始めました!
タイトルは『異世界チート魔導剣士』です!
皆さん、是非チェックしてみて下さい!
シャノン「原作は『異世界チート魔術師』だっけ?」
うん。原作まだ読んだことないんだよね・・・
これを機に読んでみようかな。
それではまた次回!以上、ムッティでした!
シャノン「またね~!」