翌日、俺はクローディアの部屋へと引っ越した。その話はたちまち学校中に広まってしまい、クラスメイト達から質問攻めに遭ったのだった。
「マジで勘弁してくれ・・・」
机に突っ伏す俺。そんな俺を見て、ユリスが苦笑していた。
「男子が女子寮で暮らすなど、前例が無いからな。しかも生徒会長と同居となると、噂されても仕方あるまい」
「もう一つの噂では、七瀬がリースフェルトとエンフィールドに二股をかけていることになっている」
「ハァッ!?」
紗夜の発言に、思わず顔を上げる俺。
「そんな噂になってんの!?」
「この学内新聞を見ると良い」
紗夜が開いた空間ウィンドウには・・・
『《覇王》、女性関係も《覇王》の地位を確立か!?』
「・・・やーぶーきー?」
「ち、違うぞ七瀬!これはだな・・・」
「言い訳無用おおおおおっ!」
「ぐはっ!?」
夜吹の腹をぶん殴る。そのまま、教室のドアごと廊下まで吹っ飛んでいく夜吹。
「お前らー、席つけー・・・って、うおおおおおっ!?」
ちょうどやってきた谷津崎先生が、慌てて避ける。
「誰だ!?教室のドアをぶっ壊した奴は!?」
「夜吹です」
夜吹に罪を擦り付ける俺。
「夜吹いいいいいっ!またテメエかあああああっ!」
「ギャアアアアアッ!?」
夜吹の断末魔の叫びが聞こえてくるが、無視して再び机に突っ伏した。
「・・・七瀬、意外と容赦無い」
「いや、夜吹の自業自得だろう」
唖然としている紗夜と、呆れているユリスなのだった。
*****
「ハァ・・・疲れた」
「お疲れ様でした」
リビングの椅子にぐったりと座る俺を、クローディアが苦笑しながら労わってくれる。
「クローディアは質問攻めに遭わなかったか?」
「遭いましたよ。全部『はい』とお答えしておきました」
「何でだよ!?適当に肯定すんの止めてくんない!?」
「面倒でしたので」
「気持ちは分かるけども!」
マジかよ・・・メッチャ誤解されてそうだな・・・
「まぁ良いじゃないですか、ダーリン」
「誰がダーリンだ!」
「では・・・あなた?」
「だから何で旦那扱いなの!?」
「フフッ、冗談です」
楽しそうに笑うクローディア。ホントにコイツは・・・
「ところで七瀬」
クローディアが急に真面目な表情になる。
「《鳳凰星武祭》に出場するおつもりは無いのですか?」
「・・・ユリス次第だな。ユリスがパートナーを見つけられなかったら、一緒に出るさ」
「ユリス以外と出るおつもりは無いと?」
「あぁ、元々《鳳凰星武祭》に出るつもりも無かったしな。でもユリスが戦う理由を聞いて、俺で力になれるならなりたいと思ったんだよ。だからもしユリスがパートナーを見つけたら、俺に《鳳凰星武祭》に出る理由は無い」
「そうですか・・・星導館としては、《冒頭の十二人》の一人である七瀬には出場していただきたいところですが・・・」
「まぁ、まだどうなるか分からないけどな。期待に添えなかったら悪い」
「いえ、出場はあくまでも本人の自由ですので。お気になさらず」
笑うクローディア。生徒会長としては出てほしいんだろうが、一切強要せずに本人の意思を尊重してくれる・・・
ホント、性悪だけど良い女だよ。
「では生徒会長としてではなく、個人的に七瀬に考えていただきたい話があります」
「と言うと?」
「来年の秋に行われる《獅鷲星武祭》に、私のチームの一員として出場していただきたいのです」
「・・・ずいぶんと気が早いな」
苦笑する俺。
「まだ《鳳凰星武祭》も始まってないのに、もう《獅鷲星武祭》を見据えてるのか?」
「私は出場する《星武祭》を《獅鷲星武祭》に絞っていますので。今のうちからチームメンバーを集め、戦略を練らないといけないんです」
「じゃあ、クローディアは《鳳凰星武祭》に出ないのか?」
「えぇ、《獅鷲星武祭》一本と決めていますので。《獅鷲星武祭》はチーム戦ですから、優勝する為には頼りになるチームメンバーが必要なんです。そこで是非、七瀬に私のチームに加わっていただけないかと思いまして」
珍しく熱を帯びた口調のクローディア。なるほどな・・・
「話は分かったが・・・何で俺なんだ?俺より強い奴なんて、腐るほどいるだろうに」
「私は『強い人』ではなく、『頼りになる人』を探していますので。七瀬のことは、本当に頼りにしているんですよ?」
「俺を・・・?」
「えぇ、勿論」
微笑むクローディア。
「七瀬は、ユリスの心を開いてくれました。私が七瀬を頼りにするには、十分すぎる理由です」
「クローディア・・・」
「それに、あのマクフェイルくんを一撃で倒した実力も買っています。ですから七瀬には、どうしても私のチームに加わっていただきたいのです」
そう言って俺を見つめるクローディアの目は、真剣そのものだった。どうやらクローディアは、本気で《獅鷲星武祭》優勝を狙っているようだ。
「今すぐ結論を出してくれ、とは言いません。検討していただけないでしょうか?」
「・・・分かった、真剣に考えてみる。結論を出すまで、少しだけ時間をもらっても良いか?」
「勿論です。《鳳凰星武祭》が終わってからで結構ですよ。一つ言っておくと、ユリスは勧誘するつもりです」
「マジか」
ユリスの目標は、今シーズンの《星武祭》の全制覇・・・グランドスラムだ。クローディアのチームへの勧誘なら、まず断ることは無いだろう。何せ星導館の序列二位が率いるチームだからな。
「なら、俺も前向きに検討するかな」
「フフッ、よろしくお願いします」
この話はここまでというように、クローディアがパンッと手を打つ。
「さて、そろそろ夕食時ですね。今日は街で外食でもしませんか?この間、良いお店を見つけたんです」
「じゃ、そこに行ってみるか。ってか、クローディアって外食すること多いのか?」
「時々、といった感じですね。最近は街を探索する為に、外食することが多いですが」
「探索?中等部からアスタリスクにいるなら、街のことも詳しいんじゃないのか?」
「勿論ある程度は知っていますが、全ては把握しきれませんよ。特にお店に関しては、入ったことの無いお店の方が多いですし」
「へぇ、そういうもんか?」
「そういうもんです。転入生もやって来ますし、生徒会長として色々と教えて差し上げたいじゃないですか。ですので、最近街を探索しているんです」
「真面目だなぁ」
苦笑する俺。
「そういや、転入生ってどんな奴なんだ?」
「この方です」
クローディアが空間ウィンドウを開く。そこには、一人の男子の顔が映っていた。
「天霧綾斗・・・何か優しそうな奴だな」
「えぇ、私もそう思いました。実家は剣術道場のようですね」
「へぇ・・・クローディアの先見の明が正しいと良いな」
「これで間違っていたら、私の面目は丸つぶれですね」
「ま、大丈夫だろ」
何だかんだで、転入生が来るのを楽しみにしている俺なのだった。
二話続けての投稿です。
明日・明後日は、恐らく投稿できません。
ですので、次回の投稿日は明々後日になる予定です。
次回は綾斗と、あの大人気キャラが登場します。
それではまた次回!