この度、【刀藤綺凛の兄の日常記】の作者である綺凛・凛綺さんとコラボさせていただきました!
【刀藤綺凛の兄の日常記】を読んだことがないという方は、まずはそちらを読んでいただくことをオススメします。
それではいってみよー!
【刀藤綺凛の兄の日常記】×【学戦都市アスタリスク ~六花の星野七瀬~】綺優との約束
「七瀬、コーヒーが入りましたよ」
「おぉ、サンキュー」
ソファに座って端末を弄っていると、クローディアがコーヒーの入ったカップを持ってきてくれた。それを受け取り、一口飲む俺。
「うん、美味い。やっぱりクローディアが入れてくれるコーヒーは美味いな」
「フフッ、ありがとうございます」
クローディアは嬉しそうに微笑むと、俺の隣に腰掛けた。
「そういえば七瀬、もう界龍へ行く準備は出来たんですか?」
「あぁ、荷造りは終わってるよ。まぁ大して持っていく物も無いけど」
《鳳凰星武祭》での一件で停学処分になってしまった俺は、星露からの誘いもあり明日から界龍で修行の日々を送ることになっていた。しばらくクローディア達と会えなくなるのは寂しいが、これも強くなる為だ。気を引き締めて頑張らないと。
そんなことを考えていると、クローディアがクスクス笑い始めた。
「ん?どうした?」
「いえ、とても真剣な表情をしていたものですから。よほど彼女を守りたいんだなと思いまして」
「・・・そりゃあ勿論」
少し照れ臭くなり、クローディアから顔を背ける。彼女・・・シルヴィを守りたい。
改めてそう思うキッカケになったのは・・・やっぱり『アイツ』に出会ったからだろうな。
「しかしまぁ、あんなことが起きるとは・・・世の中何があるか分からないもんだ」
「本当にそうですね」
クローディアが頷く。
「本来、私達と『彼』が出会うことは無かったはずです。ですが、運命の悪戯とでも言えば良いのでしょうか・・・私達は『彼』と出会うことになりました」
「あの時はホント、ビックリしたよなぁ・・・」
あの時・・・星露から修行に誘われた日の翌日。俺は『アイツ』と出会った。俺の知らない世界を知った。
そして俺は『アイツ』と・・・一つの約束をした。それはとても大切な約束・・・
俺は窓の外に目を向け、小さく呟いたのだった。
「綺優、今頃何してんだろうな・・・」
*****
「そうそう、その調子その調子」
「ぷはっ・・・はうぅ・・・」
星導館の側にある海にて、俺は綺凛の泳ぎの特訓に付き合っていた。綺凛の両手を引きつつ、ずっとバタ足で泳がせているのだ。
「それにしても、俺達の貸切とはな・・・プライベートビーチみたいなもんじゃん」
「フフッ、そうですね」
浮き輪に寝そべり、プカプカと優雅に浮いているクローディア。布面積の少ないビキニを着ており、正直目のやり場に困る。
「ここは本来、実験等を行なう為に用意された場所ですから。一般生徒は原則として立ち入り禁止なんですよ」
「それを生徒会長権限で遊泳の為に使用していると・・・職権濫用もいいとこだな」
「まぁ良いじゃないか。こうやって楽しんでるんだから」
「その通り。持つべきものは権力を持った友」
海水浴を楽しんでいる綾斗と紗夜。ちなみに紗夜はスクール水着を着ている。
うん、まぁ何と言うか・・・
「安心と信頼の紗夜だな」
「・・・何故かバカにされている気がする」
「ハハハ、何ノコトヤラ」
適当に流して浜辺の方へと目をやると、ユリスがビーチパラソルの下でビーチチェアに寝そべっていた。
「いや、あの道具一式は何処から調達したんだよ」
「生徒会専用のレスティングルームに置いてある物ですよ。役員の皆さんにここまで運んできていただきました」
「お前マジで生徒会を何だと思ってんの?」
コイツをこのまま生徒会長にしておいて良いんだろうか・・・
「っていうかユリスー!泳がないのかー?」
声を掛けてみるも、適当に手をひらひら振ってくるだけだった。『私はいい』ということだろう。
あんにゃろう・・・
「あぁ神よ。あのじゃじゃ馬姫を砂塗れにして、優雅さの欠片も無くして下さい」
「いや、そんなお願い聞いてくれるわけ・・・」
ドオオオオオオオオオオンッ!
綾斗のセリフの途中で、空から降ってきた何かがビーチパラソルに墜落した。ユリスのいた辺りは、もうもうと砂埃が立ち上がっている。
「「「「「・・・・・・・・・・」」」」」
一斉に無言になる俺達。おいおい、マジか・・・
「・・・神様って本当にいたんだな」
「いやそこじゃないでしょおおおおおおおおおおっ!?」
綺凛のツッコミが響き渡る。
「何が起きたんですかアレ!?ユリスさん生きてますよねぇ!?」
「とりあえず行ってみようぜ。骨は拾ってやらないと」
「何さらっと縁起でもないこと言ってるんですか!」
海から上がり砂浜へ行ってみると、ちょうどユリスが壊れたビーチパラソルの下から這い出してくるところだった。当然のことながら、全身砂塗れである。
「ゴホッ・・・ゴホッ・・・な、何が起きたのだ!?」
「おぉユリス、無事だったか・・・チッ」
「おい!?今舌打ちしたな!?」
「そんなことより、今何が降ってきた?UFO?」
「そんなわけあるか!」
そんなやり取りをしているうちに、砂埃が治まってきた。ユリスのすぐ側に誰かが倒れている。
「男・・・?っておい、ウチの学生じゃね?」
星導館の制服に校章・・・倒れていたのは、紛れも無くウチの男子生徒だった。
「星導館の生徒が、何故空から降ってくる?」
「クローディアが生徒会長権限で、スカイダイビングでもさせたんじゃね?」
「そんなわけないでしょう」
首を傾げる紗夜に、俺の言葉をバッサリ否定するクローディア。
「とりあえず、彼を医務室まで運びましょう。彼が目を覚ましてくれないと、何があったか聞くことも出来ませんから」
「それもそうだな」
空から降ってきた男子生徒を背負い、俺達は医務室へと向かうのだった。
***
医務室に運んでから一時間後・・・男子生徒が目を覚ました。
「あ、起きた。気分はどうだ?」
声をかける俺。男子生徒は俺の方を見て、小さく首を傾げた。
「・・・誰だ?」
「高等部一年の星野七瀬だよ」
「一年・・・?俺も一年だが、お前に見覚えが無いぞ」
「マジで?ってか、同級生で俺のこと知らないヤツとかいるのか・・・《鳳凰星武祭》じゃ、ずいぶんと悪い意味で目立ったんだけど・・・」
どうやらコイツは、そういったことに疎い人間のようだ。
「ところで、お前の名前は?」
「俺の名前は、刀藤綺・・・」
「七瀬さん、例の人は目を覚まされましたか?」
男子生徒の自己紹介の途中で、綺凛が保健室に入ってくる。
「おぉ綺凛、ちょうど今目覚めたとこだぞ。どうやら俺の同級生らしい」
「本当ですか?」
男子生徒を見て、ニッコリと笑う綺凛。
「七瀬さんの同級生ということは、私の先輩ですよね?お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
綺凛がそう言った瞬間、何故か男子生徒がショックを受けたような顔をした。まるで心底傷ついた、と言わんばかりの表情である。
「き、綺凛・・・?」
「あれ?私の名前をご存知なんですか?」
「いや、そりゃ知ってるだろ。この間まで序列一位だったんだから」
笑いながらそう言う俺だったが、そこでふと気付いた。綺凛のことを知っているなら、《鳳凰星武祭》でタッグを組んでいた俺のことを知らないのはおかしくないか・・・?
そういやさっき、コイツが言いかけた名前って・・・
「なぁ、お前の名前・・・さっき何て言った・・・?」
俺の問いかけに、男子生徒は衝撃の答えを返したのだった。
「・・・俺の名前は刀藤綺優。そこに居る刀藤綺凛の・・・実の兄だ」
***
「刀藤さんのお兄さん・・・ですか?」
「本人はそう言ってるんだけど・・・」
医務室にやってきたクローディアに事情を説明する俺。
「刀藤さん、本当なんですか?」
「いえ、私に兄はいません」
「ちょ、綺凛!?」
「あっ!?」
慌てて口を押さえる綺凛。その瞬間、男子生徒が持っていた刀を抜いて自分に突き刺そうとする。そうはさせまいと、必死に男子生徒を押さえ込む俺。
「離せっ!離せえええええっ!これは悪い夢だっ!目が覚めたら、マイパーフェクトシスター綺凛が天使のような笑顔で出迎えてくれるんだっ!」
「落ち着けえええええっ!?そんなことしたら本物の天使が迎えにきちゃうから!あの世に逝っちゃうから!」
「その方が百倍マシだ!」
ギャーギャー喚く俺達を見て、クローディアが呆気にとられていた。
「・・・一体どういうことですか?」
「スミマセン、さっきからずっとこんな調子でして・・・」
申し訳無さそうな綺凛。
「ですが、私に兄がいないのも事実でして・・・一体どうしたらいいのか・・・」
「実はこちらでも、ちょっと衝撃の事実が発覚しまして・・・」
困惑顔のクローディア。
「星導館のデータベースを調べたのですが・・・彼のデータが何一つ無いんです」
「は・・・?」
ポカンとしてしまう俺。
「つまりコイツ・・・ウチの生徒じゃないのか?」
「そうなるのですが、制服だけならともかく校章まで持っていますから・・・調べたところ、本物の校章でした」
「あれ?確か校章って、個人データが記録されてるんじゃなかったっけ?」
「えぇ、それで調べてみたのですが・・・データが破損してしまっているようです」
「破損?」
「えぇ。恐らく、磁場等の影響によるものだと思われます」
「・・・あっ」
何かに気付いた様子の男子生徒。
「どうかされましたか?」
「俺、空間の歪みを通ってきたから・・・多分そのせいだと思う」
「空間の歪み・・・?」
「いきなり空間が歪む→引きずり込まれる→今ここ。理解できたか?」
「・・・スミマセン。訳が分かりません」
「ハァ・・・俺の知っているクローディアは、もっと頭の良いヤツだったのに・・・」
「・・・七瀬、彼を生徒会長権限で処刑して良いですか?」
「いや、生徒会長にそんな権限ないから」
アカン、クローディアの目から光が消えてる・・・マジモードやん。
「えーっと、綺優って言ったっけ?お前の世界では綺凛はお前の妹で、クローディアはもっと頭が良かった・・・間違ってないな?」
「あぁ、間違いない」
「今の私の頭が悪いみたいな言い方止めてもらえます?」
クローディアのツッコミはスルーするとして・・・
「つまり・・・アレだな。お前はパラレルワールドから来たってことか」
「パラレルワールドって・・・いわゆる、平行世界ってやつですか?」
信じられないといった表情の綺凛。
「疑いたくなるのも分かるよ。でも、もし綺優の言ってることが本当なら・・・そうとしか考えられない」
「彼が嘘をついている可能性は?」
「そもそも嘘をつく理由がないだろ。それに校章は本物なのに、データベースには載っていない・・・こんな矛盾が生じる状況、他にどう説明できる?」
「それは・・・」
言葉に詰まるクローディア。俺は綺優へと視線を移した。
「綺優、お前は元の世界に戻りたいか?」
「勿論戻りたい。だが・・・戻り方が分からない」
「・・・そっか」
なら、俺のやるべきことは一つだ。
「俺も手伝うよ。お前が元の世界に戻れる方法を探す」
俺の言葉に、綺優が不思議そうな表情を浮かべる。
「・・・何故だ」
「え?」
「何故お前は俺の言葉を信じられる?普通なら、綺凛やクローディアの反応が正しい。なのにお前は、何故俺の言葉を疑わない?」
「んー・・・勘?」
「は・・・?」
ポカンとした表情の綺優。そんな表情も出来るのな。
「さっきクローディアに言った根拠もあるが・・・一番はやっぱり勘だな。お前は嘘をついていないし、信用できる・・・俺の勘がそう言ってる」
「・・・お前バカか?」
「バカで結構。俺の勘を舐めんなよ?当たる確率は驚異の五十パーセントだ」
「いや、フィフティフィフティじゃないですか」
綺凛の呆れたようなツッコミ。
「全くもう・・・まぁ、七瀬さんらしいですけど」
「・・・確かに。底なしのお人好しですものね」
笑っている綺凛とクローディア。
「では私は、過去にこういった事例が無かったか調べてみますね」
「あ、私もお手伝いします!」
医務室を出て行く二人。それを見ていた綺優が、ポツリと呟いた。
「・・・お前はあの二人に、ずいぶんと信頼されているんだな」
「綺凛もクローディアも、大事な友達だからな。俺もあの二人を心から信頼してるし、あの二人の信頼にいつだって応えたいと思ってるよ」
「・・・そうか」
綺優はそう呟くと、真っ直ぐに俺を見た。
「なら、俺もお前を信じてみるとしよう・・・あの二人が信じているお前を、な」
俺はその時、初めて綺優の笑った顔を見たのだった。
***
「パラレルワールド?馬鹿も休み休み言え」
「空気読めや人間発火装置」
「今日は私に対してやけに辛辣すぎないか!?」
事情を説明した途端、KY発言をするユリス。一方、綾斗も困惑顔だった。
「まぁ、それが全て本当だったとして・・・帰る方法にアテはあるのかい?」
「そこなんだよなぁ・・・でもこっちに来れたってことは、戻る方法もあるはずだろ」
「いや、そもそもパラレルワールドなど空想上の話・・・」
「雨の日は無能なユリスは黙ってろや」
「私は焔の錬金術師かっ!」
ユリスを適当にあしらっていると、綺優が珍しそうな顔でこちらを見ていた。
「綺優?どうした?」
「いや・・・あのユリスがツッコミ役をやっているのが不思議でな・・・」
「こっちじゃいつもこんな感じだけど?そっちのユリスはどんな感じなんだ?」
「・・・無駄にプライドの高い女?」
「何だ、こっちと一緒じゃん」
「おい!?」
ユリスが抗議の声を上げる。と、綺優がユリスに視線を移した。
「ユリス、ヒユリという名前に心当たりはあるか?」
「ヒユリ?いや、知らないが?」
「・・・そうか」
何処となく寂しそうな綺優。そんな綺優を気遣ってか、綾斗が声をかける。
「えーっと・・・綺優くん?」
「呼び捨てにして下さいお願いします」
「急にどうしたの!?」
綾斗を気持ち悪いものを見るような目で見る綺優。どうしたんだろう?
「お前に『くん』付けされるとかホント無理。生理的に無理」
「そこまで!?君の世界の俺ってどんなヤツなの!?」
「そうだな・・・」
しばし考え込む綺優。そして・・・
「一言で言うと・・・出会って間もない俺に、『君とは仲良くなれそうにない』とか平気で言えるようなヤツだな」
「えぇっ!?」
「綾斗、お前というヤツは・・・」
「マジ引くわー」
綾斗から距離をとるユリスと俺。
「ちょ、ちょっと待ってよ!?本当に俺がそんなこと言ったの!?」
「間違いなく言われたぞ。あとは会う度に毛嫌いされたり、いきなりぶん殴られたり、人の妹の胸を触ったり・・・」
「・・・最低だな。男の風上にも置けんヤツだ」
「・・・マジ引くわー」
「何で俺がそんな目で見られてるの!?俺はそんなことしてないからね!?」
綾斗が必死に叫ぶ様子を見て、綺優がフッと笑みを浮かべる。
「まぁ確かに、今のところ天霧綾斗とは犬猿の仲ではあるが・・・俺は別に、アイツのことが嫌いなわけじゃない。いずれは和解できたら・・・そう思っている」
「綺優くん・・・」
「だから『くん』付けは止めろおおおおおっ!」
「ぐはっ!?」
綺優の飛び膝蹴りが綾斗の顔面に直撃する。そのまま医務室の壁をブチ破り、勢いよく吹き飛んでいく綾斗。
「当然の報い・・・と言いたいところだが、こっちの綾斗は無実だしな。ユリス、綾斗の回収と介抱を頼む」
「了解した。七瀬はどうするのだ?」
「とりあえず、綺優を連れて学園の外に行ってみようかと思う。何かヒントが見つかるかもしれないし。ってか、紗夜は何処行ったんだ?」
「沙々宮なら、銃の専門店に行くと言っていたぞ」
「いや、綺優の心配しろよアイツ・・・そもそも方向音痴のアイツが一人で出かけるとか、迷子になる未来しか見えないんだけど」
「・・・こっちの沙々宮もそんな感じなんだな」
綺優に同情の視線を向けられる俺なのだった。
***
「それにしても、何だか不思議だな・・・」
「ん?何が?」
散歩がてらに色々と歩き回った俺達は、《商業エリア》にあるファストフード店で昼食を食べていた。
「この街の風景は、いつも見ていたものと何も変わらない。景色だけ見れば、違う世界に来たという感じは全然しないくらいだ」
「へぇ・・・そういうもんか?」
「あぁ。だが俺のことを知っているはずの人が、俺のことを知らないと言う・・・俺の知っている人が存在しない・・・何だか不思議な感覚だ」
「綺優・・・」
やっぱり、元の世界が恋しいんだろうな・・・どんな言葉をかけてやるべきか、俺が考えていた時だった。
「だ~れだっ♪」
いきなり背後から目隠しされる。おいおい・・・
「歌姫さんや、気配消して近付くの止めてくんない?」
「えへへ、ビックリした?」
目隠しが外されたので振り向くと、歌姫ことシルヴィア=リューネハイムが悪戯っぽい笑みを浮かべて立っていた。当然のことながら、いつも通りの変装が施されている。
「次のお仕事まで時間空いたから、お昼ご飯でも食べようと思ってお店に入ったんだけど・・・まさかななくんに会えるとは思わなかったなぁ」
そのまま抱きついてくるシルヴィ。と、俺の向かい側に座っている綺優の方を見た。
「あ、こんにちは!ななくんのお友達かな?」
ところが綺優は質問に答えず、驚いたようにシルヴィを見つめていた。
「あれ?おーい?」
「・・・シルヴィ」
「えっ?」
いきなり名前を呼ばれ、ビックリするシルヴィ。
「何で私の名前を・・・何処かで会ったことあったっけ?」
その言葉に、何故か悲しそうな顔で微笑む綺優なのだった。
***
「へぇ・・・じゃあ君は、別の世界から来たんだね?」
「・・・あぁ」
何処ぞの人間発火装置と違って、シルヴィはすんなり事情を飲み込んでくれた。
ただ、ちょっと衝撃的だったのは・・・
「そっちの世界では、私と君が婚約してるって・・・ホント?」
「・・・あぁ」
頷く綺優。マジかよ・・・
まぁ綺優のいた世界に俺はいないみたいだから、シルヴィが誰と恋仲にあってもおかしくはないが・・・
「『ちょっと複雑だな・・・俺の女が他の男とデキてるなんて・・・』とか考えてたでしょ!や~ん、ななくんったら~!」
「人の心を読むなアホ」
「あたっ!?」
シルヴィの頭にチョップをお見舞いする。全くコイツは・・・
「ほら、とりあえず何か注文してこいよ。時間無くなるぞ?」
「あ、そうだった!ちょっと行ってくるね!」
慌ててレジへ向かうシルヴィ。それを見届けてから、俺は綺優に視線を移した。
「・・・ゴメンな」
「何故謝る・・・?」
「その・・・自分の婚約者が、他の男と仲良くしてるのを見るのは・・・」
「七瀬」
俺の言葉を遮る綺優。
「この世界のシルヴィと、俺のいた世界のシルヴィは違う。だからそう気を遣うな」
「いや、でも・・・」
「・・・まぁ確かに、少し複雑なのは認める。だが・・・」
俺を見て笑う綺優。
「さっきのシルヴィは、とても楽しそうに笑っていた。七瀬と一緒に過ごせるのが、幸せなんだと思う。それだけアイツは、お前に惚れているということだ」
「綺優・・・」
「・・・ちゃんと幸せにしてやれよ。絶対に泣かせるな」
「・・・あぁ、勿論」
強く頷く俺。
「約束するよ。必ず幸せにする」
「あぁ、それで良い。まぁそんなわけだから、早いうちに婚約しろよ」
「なっ!?いや、それはまだ早くないか!?」
「こういうのは早い方が良い。さっきも言ったが、俺はもう婚約してるぞ」
「そんなこと言ったって・・・ちなみに、どういう流れで?」
「《王竜星武祭》で優勝した時の優勝者インタビューで公開プロポーズした」
「マジで言ってんの!?ってか《王竜星武祭》で優勝!?《孤毒の魔女》は!?」
「ぶっ倒した」
「ええええええええええ!?」
何なのコイツ!?二葉姉やシルヴィでさえ勝てなかった《孤毒の魔女》を倒した!?
「まぁそんなわけだから、お前も《星武祭》で優勝してプロポーズしてしまえ」
「・・・検討しとくよ」
「何を検討するの?」
「うおっ!?」
いつの間にか、シルヴィが戻ってきていた。
「べ、別に何でもないぞ!?」
「あー!怪しいー!ねぇ綺優くん、ななくんと何の話をしてたの!?」
「・・・男同士の話だ。いずれ分かる時がくるさ」
「えー、私だけ除け者ー?」
いじけるシルヴィ。と、綺優が俺をじーっと見つめてくる。何事かと思ったら、今度はシルヴィを顎で指す。
あー、彼女の機嫌を取れってことね・・・
「・・・シルヴィ」
「ふーんだ。除け者に構わないで、綺優くんと男同士で話を・・・」
「・・・愛してる」
「ふぇっ!?ちょ、こんなところで急に何を言い出すの!?」
顔を真っ赤にして慌てるシルヴィ。
今はこれしか言えないけど、いつかは・・・
「・・・やっぱりお似合いのカップルだよ、お前達は」
満足気に笑う綺優なのだった。
***
「クローディア、さっきの話は本当なのか?」
「えぇ、あくまでも可能性ですが」
次の仕事へ向かうシルヴィを見送った後、クローディアから『手がかりを掴んだかもしれない』という連絡があったのだ。
俺と綺優は星導館に戻り、クローディアや綺凛と共に綺優が降ってきた海へとやって来ていた。
「過去の文献を調べた結果、この場所は空間の歪みが何度か確認されていることが判明しました。恐らく綺優は、ここの上空に出来た空間の歪みから降ってきたと推測されます」
「つまりこの場所は、空間の歪みが発生しやすい環境にあるってことか?」
「恐らくそうだと思われます。推測に過ぎませんが、ここで行なわれた度重なる実験の影響かもしれません」
「そういやここ、実験用の場所なんだっけか」
「向こうの世界でもそうだったぞ」
綺優がそんなことを言う。なるほど、その影響もあるかもしれないな・・・
「色々と調べた結果なんですが・・・この場所でより大きな力を解放した時、空間の歪みが発生しやすいようです」
「大きな力?」
綺凛の説明に首を傾げる俺。ってことは・・・
「七海、聞こえるか?」
【どうされましたか?マスター?】
「とりあえず、全力の雷を出してみたいんだけど」
【了解です】
「いやダメですよ!?」
慌てて綺凛が止めに入る。
「すぐ側は海ですからね!?魚が大量死しますよ!?」
「あ、そっか・・・しばらく魚料理には困らないな」
「七瀬さんに人の心は無いんですか!?」
「冗談だってばよ」
「何で急にナ●ト!?」
そんなやり取りをしていると、綺優がポンッと手を叩いた。
「・・・そうだ。同じことすれば良いじゃん」
「同じこと?」
「いや、向こうの世界のこの場所で全力を出してみたんだが・・・空間が歪んで引きずり込まれて、気付いたらこっちの世界にいたんだ。だから同じことしたら戻れんじゃね?」
「完っ全に原因お前じゃねーかああああああああああっ!?」
「しかも何でそんな大事なこと今まで言わなかったんですかああああああああああっ!?」
絶叫する俺と綺凛。それが分かってたら悩むこと無かったじゃん!最初からその方法試せたじゃん!
「いやぁ、すっかり忘れてた・・・てへぺろ」
「・・・七瀬、生徒会長権限で彼を処刑して良いですか?」
「許可する。殺れ」
「いや、ツッコミ放棄すんなよ」
綺優のツッコミ。いや、放棄したくもなるわ!
何故なら今の俺はクローディアの気持ちがよく分かるからな!お前に対する怒りが理解できるからな!
「じゃ、とりあえずやってみるわ」
綺優が一歩前に進み、深呼吸をする。次の瞬間、綺優の身体から尋常ではない星辰力が放出された。
「なっ・・・何ですか!?この星辰力の量は!?」
「七瀬さんに匹敵する・・・いや、それより多い!?」
クローディアと綺凛が驚愕している中、俺は見た。綺優の身体を縛る鎖が、無理矢理引きちぎられる瞬間を。
あぁ、やっぱりアイツ・・・
「・・・力を封印されてたんだな」
最初に綺優を見た時から、綾斗と同じような違和感はあった。恐らく綺優も、綾斗のお姉さんに・・・
「綺優!」
俺は綺優に呼びかけた。
「お前の世界では、綾斗のお姉さんは見つかってるのか!?」
「・・・残念ながら行方不明だ」
首を横に振る綺優。
「天霧綾斗に伝えておけ。絶対に遥さんを見つけろとな」
その時、綺優の目の前の空間が歪んだ。それと同時に鎖が出現し、綺優の身体を縛る。綺優の身体が、ジリジリと歪みに引き寄せられていく。
「綺優っ!」
「七瀬」
綺優がこちらを見た。
「約束・・・しっかり守れよ」
「っ!」
どうやら、ここでお別れのようだ。なら、俺もしっかり答えないとな・・・
「あぁ、必ず守る!」
俺の返事に、満足そうに笑う綺優。そして綺凛の方を見る。
「・・・向こうの世界の父さんは、俺が助け出したぞ」
「えっ!?」
「だからこっちの世界の父さんは・・・綺凛、お前が助け出してくれ」
「っ!はいっ!『兄さん』!」
「っ・・・頼んだぞ。『妹』」
綺凛の言葉に一瞬驚いたものの、すぐに笑みを浮かべる綺優。
次の瞬間、綺優は時空の歪みへと吸い込まれていった。そしてすぐ、歪みは消滅してしまった。
「・・・行ったな」
「・・・えぇ、行きましたね」
目の前の空間を見つめるクローディア。
「無事に戻れると良いのですが・・・」
「アイツなら何とかなるだろ」
俺はそう言うと、綺凛の隣へ歩み寄った。そのまま頭を撫でる。
「・・・《獅鷲星武祭》、優勝するぞ。綺凛のお父さんを助けよう」
「七瀬さん・・・」
涙を浮かべた綺凛が、俺の顔を見上げる。ニッコリと笑う俺。
「俺、強くなるから。今度こそお前の力になってみせるから。だから一緒に頑張ろう」
「っ・・・はいっ!」
涙を拭った綺凛は、清々しい笑顔で返事をするのだった。
*****
「・・・夢みたいな出来事でしたね」
「・・・ホントにな」
しみじみとしてしまうクローディアと俺。きっとあの時のことは、一生忘れることは無いんだろうな・・・
と、クローディアの端末に着信が入った。
「スミマセン、少し席を外しますね」
「おう」
リビングを出て行くクローディアを見届けた後、俺は再び窓の外に視線を移した。
「・・・強くなりたい」
小さく呟く。
「綺凛やユリス、クローディアの力になれるように・・・綾斗や紗夜を助けられるように・・・姉さん達を守れるように・・・そして・・・」
俺は綺優との約束を思い出していた。
「シルヴィを幸せにできるように・・・俺はもっと強くなりたい」
もう絶対に手を離さない。何があっても。
「・・・電話してみるかな」
端末を弄り、シルヴィへと電話をかける。すぐに空間ウィンドウに、大好きな彼女の顔が映った。
『もしもしななくん?電話くれるなんて珍しいね?』
「急にゴメンな。大丈夫だったか?」
『うん。今ちょうど荷造りが終わったところだから』
「あー、明日からツアーだもんな」
俺は界龍で修行、シルヴィはツアー・・・しばらくは会えないだろう。
『ところでどうしたの?何かあった?』
「・・・別に?愛する彼女の顔が見たくなっただけだよ」
『なっ!?またそういう恥ずかしいことをさらっと・・・!』
「事実だから。それとも、シルヴィは俺のこと嫌いか?」
『・・・ななくんのバカ。大好きに決まってるじゃない』
顔を真っ赤にして言うシルヴィ。そんなシルヴィの言葉が嬉しくて、思わず笑ってしまう俺なのだった。
改めましてお久しぶりです。ムッティです。
シャノン「あ、二度目の《七ヶ月の失踪》してる作者っちじゃん」
スイマセン!ホントスイマセン!
シャノン「まぁそれは置いといて。今回はコラボ企画なんだね?」
そうそう、綺凛・凛綺さんとコラボさせていただくことになって。
本当にありがたい話です。
シャノン「何気にコラボって初めてじゃない?」
そうなんだよ!
今回初めて知ったけど、他の作品の主人公との絡みを書くのって楽しいね!
シャノン「なお、上手く描写できているかは別問題な模様」
それは言わないで!?メッチャ不安なんだから!
ホント温かい目で読んでいただけると幸いです。
ここで謝辞を。
綺凛・凛綺さん、この度はコラボさせていただきまして本当にありがとうございます。
初めてのコラボで至らない点も多々あったかと思いますが、何卒ご容赦下さい。
心から感謝しております。
そして読者の皆様、長いこと更新が止まってしまっていて申し訳ありません。
近いうちに投稿を再開できるように頑張りますので、もう少しの間お待ちいただけると幸いです。
何卒宜しくお願い致します。
さて、この後は綺凛・凛綺さんが綺優視点でのお話を書いて下さる予定です!
今回の物語、綺優の心情としてはどうだったのか・・・
是非そちらも読んでいただきたいと思います!
また綺凛・凛綺さんの作品、【刀藤綺凛の兄の日常記】&【刀藤綺凛の兄の日常記~外伝~】もチェックしていただければと思います。
シスk・・・妹思いな綺優くんの活躍ぶり、そして九条くんの日常を是非ご覧あれ!
それでは以上!ムッティでした!