それでは今回もよろしくお願いします。
「それで、何であんな事やろうとしてたの?」
京都の街の片隅で正座する俺。かなりシュールだ。
先ほどのほっぺた攻撃から一転、俺は謝る態勢をとっていた。誰も通らないのが幸いである。
「いや、何と言いますか……止むに止まれぬ事情と言いますか……」
「…………」
「ごめんなさい」
「許すわ」
頭を下げると、絵里さんは軽く溜息を吐き、俺の腕を引き上げて、しっかりと立たせた。青い宝石のような瞳は、僅かな灯りに照らされ、儚く輝いていた。
「……早くないですか?」
「まあ、八幡が決めた事だから……条件付きで許すわ」
「条件?」
「キスの件……あと10回に……」
「それはさすがに……てか、いつからこっちにいたんですか?」
「今日来たところよ。たまたま京都に来たら、八幡を見かけたの」
「え?今さらそこを偶然で押し通すんですか?」
「偶然チカ」
「そうですか」
「チカ」
どうやら何を言っても無駄らしい。まあ、今に始まった事ではない。
「告白の時の声は?」
「声真似よ」
「は?」
「好きな人の声真似くらいできて当然でしょ?」
そんなの聞いた事ねーよ。本当に無駄なハイスペックである。
「…………」
「…………」
二人の間にこそばゆい沈黙が訪れる。時間が止まったんじゃないかと錯覚するくらいに物音一つ聞こえなかった。
「ねえ、まだ時間ある?少し歩かない?」
「…………」
時間はそこそこやばいと思うが、今はどうでもよかった。
俺は何も言わず、絵里さんの隣に並ぶ。
今はそれが心地良かった。
「素敵な場所よね」
「……はい」
人の流れに紛れ、改めて街のあちこちを見ていると、確かにそう思えてくる。
「私達は修学旅行で沖縄に行ったのよ」
「へえ」
「陽射しが強くてあなたの苦手そうな場所だけど」
「失礼な。観光地ぐらい見て回りますよ」
「ふふっ」
「今日は誰と来たんですか?」
「亜里沙と希とにこ」
「…………」
「今日の作戦は私の発案だけどね。このライフルも」
「え?まじで?俺、これで狙撃されたの?」
「安心して。コルクよ」
「いや、普通によろめいたんだけど」
「今度の決めゼリフは『狙い撃つぜ!』とかどうかしら?」
「……次があるんですか?」
「あなた次第よ」
「いや、怖い笑みを浮かべないでくださいよ」
「それよりお腹が空いたわね」
「話を逸らした……どっかで食べて行きますか」
「亜里沙達と合流してからにするわ。そっちはそろそろ時間でしょう?もう、行くわね」
「……送りますよ」
「いいわよ。待ち合わせはすぐそこだし」
絵里さんは小さく微笑み、少し早歩きになる。俺は立ち止まり、ぼんやりと眺めていた。
何故かその背中を黙って見送る事はできなかった。
今、言わなければいけない気がした。
そう思った俺は、その背中に自然と言葉をぶつけていた。
「……俺……絵里さんが……好きなんですけど」
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